We wish you a merry Christmas

山奥

「すいません、帰っていいですか」


 げっそりしながらダンボールを運ぶ。


「はは! 隊長、ご冗談を!」


「花田さん、今日がなんの日か知ってますか?」


「さぁて、忘れてしまいましたねぇ」


「クリスマスイブですよ! 世の中がいちゃいちゃするために整えられた聖なる日です!」


「ははは、今この場で言うと節操のなさが身に染みますね!」


 山奥の神社。随分前に管理者が居なくなって、荒れてしまった場所。

 そこに、俺達が整理に来た。

 この山は霊山だが、去年管理する家が途絶えたらしい。規模が小さい山なので後回しになっていたが、担当地区がない特別隊に仕事がまわってきた。と言うか掃除を押し付けられた。


「ちょっと葉月!! そんなに力を入れたら窓外れるわよ!」


「.......窓拭きには、自信があるのよ」


「目を見なさいよ! 私の目を見て言いなさいよ!」


 ぎゃいぎゃいと騒がしい。中田さんはまさかの有給休暇。まさかとは思うが優止も今日は非番だと言っていた。まさかな。まさか、な。


「隊長、これは1日では終わりませんよ。なかなか手強い汚れです」


「はあ.......なぜこんな事に.......」


「ちょうど山の麓にいい宿があります。花田サンタからの贈り物ですよ、1番いい部屋を取りましょう」


「ああ.......早く帰りたい」


「年末には隊長と当主の報告会がありますからね! それまでに1度帰りたいものです」


「うげ、それもあった.......」


 運んだダンボールを車に乗せて、また持ってくるを繰り返す。正直限界。へるぷみー。


「七条和臣! お願い、葉月引き取って! 床板ぶち抜いたわよ!」


「「.......」」


「.......ぞ、雑巾がけは、しっかり力を入れた方がいいかしらって.......」


「.......これ一生掃除終わらないな」


「隊長、私もそう思います」


 葉月を荷物運びに移動させて、俺が雑巾がけに移った。初めからこうすればよかった。


「七条和臣、この山霊山なんでしょ? なんでこんなに廃れてるの?」


「元々管理が甘い家だったんだろうな、だから潰れたんだろ」


「.......やっぱり、山って怖い」


 ゆかりんが静かに言った。珍しい、山が苦手なのかもしれない。


「まあ、霊山なんてそんなものだ。力があるからな」


「三条の山ってさ、怖いの。何度か入ったけど、毎回握りつぶされそうな気がする」


「そりゃあ、普通の霊山とは規模も何もかも違うからな」


「でも、あんたと花見に言った時は楽しかった。山が怖くなかったのははじめてだったの」


「ああ.......それは」


 俺がいたからだ。あの山が俺を呼んだからだ。

 ウチの裏山だって、本来なら怖いと感じるはずだ。


「隊長ー! まずいです! この神社まずいですよ!」


 がたーん、と音がして花田さんと葉月が走ってきた。


「どうしました?」


「か、和臣!! 向こうの部屋!」


「隊長、私本部に連絡して来ます!」


「なんだ?」


 花田さんが外に出て電話をかける。ここは電波が悪いので外に出ても電話がかかりにくい。


「ちょっと葉月、落ち着きなさいよ。今度は何? ゴキブリでも出たの?」


「そんな虫ごときに慌てる訳ないでしょ!」


 俺はゴキブリ嫌いだけどな。出たら姉を呼ぶ。


「じゃあ何? 副隊長まで慌てるなんて.......」


「来てちょうだい!!」


 俺とゆかりんを引っ張って、葉月は奥の部屋に向かう。

 スパンっと襖を開けて、中を見せる。


「け、警察かしら!?」


 中の部屋は、凄まじかった。

 元の色がわからないほど何かで汚れている。茶色い所と、赤黒い所。ムワッと鉄の匂いがした。


「こ、これ血!? どういうこと!?」


「.......入ってないな?」


「え、ええ。花田さんが絶対に入ったらダメだって.......」


「山を降りるぞ、2人ともちょっとごめん」


 2人の手首を掴んで、廊下を進む。


「花田さん! 花田さん、車出してください!」


「隊長、まずいです。エンジンがかかりません」


「.......ふー。本部へ連絡は?」


「携帯が繋がりません。式神は飛ばしておきました」


「了解、2人は車に乗って待ってろ。花田さん、いいですか?」


「はい」


 2人を車に乗せて、花田さんと話す。


「隊長、あの部屋もまずいですが、これは我々も.......」


「.......花田さん、手持ちの札どれくらいですか?」


「いつも通りの装備で来ています。ですが.......」


「車に結界を張って、応援を待ちます。夜になったら、俺と交代で見張りを」


「了解」


 花田さんが車に札を張っていって、俺は周りの地面に術を書いていく。


「和臣、どういうこと? ま、まさか猟奇殺人.......」


「やめてよ葉月!」


「2人ともドア開けるな。ガールズトークでもしててくれ」


「「はあ?」」


 中々ドアを閉めない2人に寄って、ゆかりんのサインの為に用意したペンを取り出す。


「手、出して」


「「?」」


 2人が出した手に、ぎっちり術を書いた。


「ちょ、ちょっと! 直接書かないでよ!」


「.......和臣?」


「ほら、ドア閉めて。閉めないなら顔面にも書くぞ」


 ゆかりんがばんっとドアを閉めた。


「隊長、できる限りはやりました」


「なら、俺達も車で待機です。ラジオぐらい入りますかね?」


「たとえ入らなくても、ボーイズトークで乗り切りましょう」


「「ははは!」」


 全く笑っていない花田さんと車に入る。


「七条和臣! どういうことよ!」


「.......あれはな」


 花田さんがラジオを付ける。ざーー、と言う音だけが流れていく。


「.......生け贄が、居たんだろ」


 花田さんがラジオを切った。

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