ATM

「生け贄.......?」


「総能の規約違反だ。生け贄を使って力を抑えること、恩恵を得ること。これは総能発足時に完全に禁止された」


「あの部屋では何人も殺されています。おそらくですが.......何十人ではきかないでしょうね」


 2人が息を飲んだ。


「山自体に捧げた生け贄なのか、別物へのものかは分からない。ただ、この山の家が潰れたのは生け贄を出せなくなったからだろうな」


「い、生け贄なんて.......なんで? 和臣の家だって、山を管理してるのよね?」


「み、三条だって! この山より強い霊山だけど、生け贄なんて聞いたことない!」


「当たり前だ。日本でもトップの管理者だぞ。生け贄なんて出さなくても管理できるから、任されてるんだ」


 バタンっと花田さんがドアを開けた。


「隊長、雪が降ってきました。私は外に出ます」


「寒いので1時間交代にしましょう」


「了解しました」


 花田さんが出ていった。


「生け贄を使うとな、管理が楽なんだよ。ご機嫌取りの細かい管理もいらないし、簡単に恩恵が得られる。生きた人を捧げてるんだ、豊作だってなんだって手に入るだろうよ」


「「.......どうするの?」」


「2人は絶対に外に出ちゃダメだ。少なくとも1年は生け贄を貰っていないはずだから.......若い女がいたら、連れてかれる」


「「.......」」


「絶対に守るよ。大丈夫、花田さんも俺も、結構強いんだぞ?」


「「.......うん」」


 それから花田さんと俺で交代で外を見張って、総能の迎えを待った。ただ、待っても待っても来なくて、何度か電話をかけても繋がらず、式神も何体も出し直した。


「隊長」


 もう真夜中になって、当たりは暗すぎて何も見えない。花田さんが出てきて、2人で車のボンネットに腰掛けた。


「.......本格的に雪になってきましたね。はは、ホワイトクリスマスだ!」


「なんとロマンチックな! すいませんねぇ、私が居てはお邪魔でしょう!」


「そう言えば花田さんって、彼女いるんですか?」


「.......一応妻が」


「おお! 既婚!」


「娘もいるんですが、最近私の部屋が2人のクローゼットに変わりました」


「.......」


「お父さんと同じお風呂のお湯は嫌らしいんですよね。妻などこの間私の事をATMだと言い切りましたよ」


 暗すぎる声で言われて、もうどうしていいか分からない。


「いやぁ! しかし隊長はお熱い! 水瀬さんとお付き合いなさってるんですよね? 町田さんとはどういう関係で?」


 いきなり明るい声に変わっても、こっちは中々切り替えられない。


「.......お、俺も結構殴られますし.......ゆかりんはただのファンなんです.......」


「殴られるのも愛情ですよ! .......ATMは叩いてもお金を出しませんから」


「俺花田さんの事めっちゃ尊敬してます!! 将来は花田さんみたいになりたいなぁ!」


「.......ATMにですか?」


 また急にトーンが下がる。


「違う!! 違いますよ! 落ち着いてて仕事ができる大人です!」


「.......仕事ばかりやって、家庭を顧みないATMですか.......」


「花田さんどうしたんですか!? すいません俺が変なこと聞いたから!」


「.......クリスマス、妻をディナーに誘ったのは.......何年前でしたかね.......あの頃は裕二さん、春子さん、なんて呼んで.......」


「花田さーん! 戻ってきてー!!」


 ぎゃあぎゃあ騒げば、車内の2人が俺達を溶けた雪だるまを見る目で見ていた。


「.......少しは緊張もほぐれましたかね?」


「ああ、流石花田さん.......2人への気遣いか.......」


「まあ、ATMなりの気遣いですね! いやぁ、お役に立てましたようで!」


「花田さん! 俺花田さんの事は好きですから! 大事な副隊長ですから!」


「ははは、なんと部下思いな隊長殿でしょう! 」


 札を張っても、動かず外にいるので冷えてくる。

 花田さんと交代で車内に戻ろうとした時。


「隊長!!」


「【三壁・守護さんぺき・しゅご六歌ろっか】!!」



 ばりんっと壁が割れて、花田さんが俺の前に出る。

 ぱっと赤が舞った。


「花田さん!!」


「問題ありません! それより、明かりつけますよ!」


 花田さんが肩を押さえながら札を撒いた。当たりが照らされて、色々なものが見えてくる。


「隊長、これは我々もまずいですよ.......」


「花田さん、車入っててください。俺がやります」


「まさか。この程度すぐ塞げますよ。お手伝いさせていただきます!」


「あ、そうじゃなくて.......」


 ひゅっと音がして、地面がえぐれる。


「和臣!!」


 ばんばんと車の中から2人が窓を叩く。


「あの2人見ておいてください。出来れば車を守ってもらえると嬉しいです」


「それはもちろんですが.......隊長?」


「やだなぁ、花田さん! 2人でやるほどでも無いってことですよ!」


 俺の糸が周りに張られて、雑魚は消し飛ぶ。


「俺の討伐記録を言ってみろ! 花田副隊長!」


「はっ! 九尾討伐、悪魔討伐の2つです!」


「ふふ、あははは!それに比べれば、こんなもの! 余裕過ぎてサンタも国に帰るわ!! 任せろ副隊長! すぐ片付ける!」


「.......頼みますよ! 隊長殿!」


「おうよ! 流石にハルが倒したレベルは1人じゃ嫌だが、この程度! 葉月、ゆかりん! 時間でも計って待ってろ!」


 足は肩幅に。相手からは目をそらさず胸を張って。


「ふはは! おいクソ天狗! 鼻が高い親分に言っとけ! くちばし付けてて可愛いのは河童だけだってな!」


 烏天狗。悪いが俺の敵ではない。

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