第21話 謝罪
ハチャメチャだった三連休から、2週間。
俺は燃え尽きていた。
期末テスト。
夏休み前の気分をどん底まで下げたこいつは、俺の貴重な睡眠時間をも奪っていった。
田中が死んだ顔で部活へ向かい、みんながテストの採点休みというプチ夏休みに胸を踊らせる中。
「和臣」
「すいません、今日パスで.......」
人の居ない放課後の教室で、葉月が俺の机の前に立っていた。
「出来るわけがないでしょう? 電車が出ちゃうから、急ぎなさいよ」
「無理、本当に無理」
「無理でも行くのよ」
葉月に引きずられながら駅へ。
前回の土蜘蛛騒動で中止になった葉月の実技試験が、今日行われるのだ。
一方俺は土蜘蛛を倒したことで実技試験は合格となり、無事に免許更新。
しかし、この間の書類に記入漏れがあったので今日再提出。
「なんで.......?」
「あなたがサインを忘れたんでしょう? なぜ1番大事なところを忘れるのよ」
「なんで.......」
「それでも免許更新は出来たんだからいいじゃない」
「家に帰りたい.......寝たい……」
葉月は、はあっと息を吐いた。
「弟子の試験ぐらい見ていきなさいよ」
「ここまで来たら見るけどさ.......。どうせ葉月の無双じゃん。想像つくよ」
「あら、期待してくれてるのね」
「期待じゃなくて事実だろ。1日目の実技試験、相当すごかったらしいな」
「ちょっと力が入りすぎちゃったみたいね」
「ちょっとで試験官気絶させるなよな.......」
支部にて、書類に自分の名前を書く。
これで本日の仕事終了。なぜこんな事のために暑い中歩いてきたのか。しかもやっぱりここは冷房がついていなかった。散々だ。
それでも一応は葉月の試験が行われる運動場を見に行こうと、カンカン照りの外へ出た。運動場にはほとんど日陰がなかったので、ヤケになって1番日が当たるところで試験を見ることにする。太陽光で身長が伸びるとかネットで見たからでは断じてない。
目を向ければ、実技試験の参加者は、葉月を含めだいたい40人。
試験の内容は雑魚の妖怪を倒すこと。
こんなにも太陽が照ったの真昼間に、夜の住人である妖怪が活動しているのには訳がある。
妖怪に人の名前を教えるのだ。
そうすることで、本来太陽の下では活動できないはずの妖怪が、こちら側との繋がりを頼りに昼間も活動できるようになる。
また、位が上がった妖怪は、繋がりなどなくてもある程度太陽の下で活動できるらしい。理不尽なこともあるもんだ。
「始めてください!」
試験開始の合図と共に、受験者達がそれぞれ色々な術で妖怪を倒す。
葉月は札を投げる前に出た霊力と気力だけで妖怪を退治していた。
試験官はドン引き。俺もドン引き。他の受験者もドン引き。
「あら、少し気合いが入りすぎちゃったみたいね」
俺の弟子は、恐ろしい天才だった。
もちろん葉月は試験に合格し、見事免許を獲得した。
「これで妖怪を退治してもいいのね」
「.......あの、ちゃんと総能からの依頼を受けた方がいいと思いますよ。それに、その免許は能力使用免許であって、道端の雑魚とかを片っ端から退治していくのは、ちょっと.......」
「あら、出会った時だけよ。妖怪を見つけたら退治してもいい免許なのよね」
「.......違う.......」
弟子の思考に頭を抱える。この子はいつからこんなバトルジャンキーになってしまったんだ。戦略的撤退という言葉を教えてあげたい。
「これでやっと胸を張って退治できるわ」
きらりと目を輝かせた弟子は、たぶん初めから危険思考の持ち主だ。
「ねえ、明日から試験休みだけど。和臣は何か予定はあるの?」
「昼まで寝て、好きなだけテレビ見て寝る」
「暇ね。おばあちゃんの所で術を見てもらうから、あなたも来て」
「それ、俺行く意味あるのか?」
「多少失敗しても大丈夫な
「酷い.......もうお嫁に行けない.......」
せめて言葉上だけでも師匠と呼んでくれ。師匠に人権を。
「明日の朝からだから、よろしくね」
「本気で行かなきゃダメ?」
「当たり前でしょう?」
葉月と別れて家に帰ると、直ぐに布団に飛び込んで寝た。
それはもう泥のように寝た。
目が覚めたのは、セミの声が響く昼。
「……ん?」
「あ、和兄起きた。お風呂入ってよ、臭いから」
「.......もうお嫁に行けない.......」
妹の指示通りとりあえずシャワーを浴びてから、昨日の葉月の言葉を考える。
朝からと言っていたが、朝とはどの程度の時間の事だろうか。午前中は朝であることは確実だが、現在あと30分ほどで午後になる。
午後と言っても2時ぐらいまでは朝なのではないか。
というか俺は今目覚めたのだから4時ぐらいまでは朝に違いない。
恐る恐る携帯を見れば、大量の不在着信。
俺は、大きく息を吸ってから電話をかけた。
「もしもし? おはよう。朝って事だけどいつぐらいに行けばいいかな?」
「.......」
「あ、和臣ですけど。水瀬葉月さんの携帯ですよね?」
「.......」
「そろそろ行こうかな、なんて思ってたんですよ。でも、葉月さんが明確な時間を仰らなかったので! こうして確認の電話を」
ぶつんっと電話が切れた。
冷や汗が止まらない。
急いで玄関に向かった。
「和兄、ご飯はー?」
「後で!」
大急ぎでバスに飛び乗り、言い訳を考える。
電話でも言ったが、葉月が明確に時間を伝えていなかった感じで行こう。俺は行く気があったけど、何時に行けばいいのか分からなかった風で行こう。
バスから飛び降りて、婆さんの家へ走る。
じりじりと暑い日差しの中、全力で走った。
そして、門をくぐり抜けそのまま庭へと向かう。
「いやー!おはよう葉月!」
バチンっと顔面に衝撃が襲う。
庭の中央に仁王立ちした、葉月のクズを見るような目が俺の心を砕いた。
「ごめんなさい! 寝坊しました!」
正直に白状して頭を下げた。ごめんなさい俺がクズです。
「.......せめて、連絡は入れなさいよ。不安になるじゃない」
「ごめんなさい! 爆睡していて気づかなかったんです!」
「.......もうお昼よ」
「ごめんなさい」
そして、お詫びに俺はテスト休み中、朝からずっと葉月の失敗してもいい
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