書いてから20年後に似た事件が起きた話。
西山香葉子
第1話
12月22日午後6時、アリスとリンダと僕の3人でTVを観ていたら、ジュディさんが「手伝って」と言ったので全員が立ち上がった時、ドアチャイムが鳴った。
僕が玄関に出てみると、そこにいたのは身体のあちこちに雪をつけた宅配便の配達員さんだった、
僕が、彼のつまらない冗談を聞きながら、受け取りのサインをすると、彼は頭をちょこっと下げてまた雪道に出て行った。ちなみに、うちがあるあたりは雪がたくさん降る所だ。
差出人は「T・S」。「生もの」と「割れ物注意」のところに〇がついてる。
……きっと食べ物だ!
ジュディさんの許可を待たずに包みを開けた、ら、何か書いてある紙が1枚落ちた。荷物を置いて、拾って読む。なんだなんだ……。
『メリークリスマス! この中には12月25日午前零時にセットしてある時限爆弾が入っている』
……?
「うわーっ! ジュディさーん!」
僕はパニック状態で台所のジュディさんのところへ行った。
きっと許可なしに中を開けたからだ。
ごめんなさい。
とんでもないことが起きてるんだけど、うちの家族の紹介をさせてもらっちゃう。
僕の名前はジョン・スミス。10歳で、姉さんのリンダ、友達のアリスに、アリスの母親のジュディさんと、最近ジュディさんと結婚した僕らの叔父のトムの5人家族です。トムは仕事で隣の州へ行ってて、明日にならなきゃ帰ってこないんだけど。
手紙を読んだジュディさんはこう言った。
「とにかく落ち着こう。朝にはトムが帰るからそれまで待とうね」
そして、夕飯を食べて更にテレビを見て、ひとりひとりお風呂に入って、みんなベッドに入った。
朝、トムは帰ってきた。
ジュディさんから昨日のことを全部聞くと、
「何か心当たりはないのか?」
と訊いた。これには、女性3人が口をそろえて、
「ないわよ」
「ないわよ」
「ないよ」
それからしばらく議論になったが、解決に結びつきそうな意見は何も出てこず、最後にトムがこう言った。
「ジョン、おまえ、ここから少し遠いところへ行って、この箱を埋めておいで」
「なんで僕が行くんだよ」
「差出人の確認もせずに受け取って、ジュディに断りなく勝手に開けた罰だ」
はーい、わっかりましたっ。
それから僕は、問題の箱を使ってないビニール製ゴミ袋に入れて、トイレに行ってからすぐ外に出た。
たくさん時間かけて、雪を掘って土を掘って、ビニールにくるまった箱を入れた。歩く中重かった。
家に帰ってくると、みんな忙しく立ち働いていた。
クリスマス・パーティの準備だ!
あっという間に24日の夜になった。もうすぐ手紙に書かれた時間だ。
それぞれに怖がるリンダとアリスに、トムは言う。
「大丈夫だよ。絶対死なせない」
やがて、時間が来た。いつもなら寝てる時間だけど、クリスマスは毎年サンタさんが来るまで粘るとお母さんに言ってたし、今年はあの箱のことがあるから余計に眠れない。
でも何の音もしない。
何も起こらない。
ホッとした気持ちと、まだ油断できないという気持ちと、なにがなんだかわけわかんないのと。飾り付けられた居間で頭がぐちゃぐちゃな僕に、またトムが言った。
「ジョン、あの箱を取りに行こう。つきあってくれ」
「なんで。やだよ、寒いし、真っ暗だし……」
「そうよ、やけどするかもしれないじゃない」
リンダ、やっぱり僕の姉ちゃんだなあ。味方してくれてる。
でもトムの次のひとことで行くことになった。
「埋めたところおまえしか知らないだろ。行くぞ」
ちぇっ。
掘る作業を大人と2人でやったけど、わかりにくい目印しかない所に埋めた上に深夜だから、行った時と同じくらい時間がかかった。
箱が冷たいし、破れてもない。
そこで僕は聞いた。
「これ、爆弾じゃないのかな?」
「話は家に帰ってから。行くぞ」
ちぇっ。
でも、今すごく遅い時間なのに、眠くないから不思議。
帰ってくるとジュディさんはもちろん、リンダもアリスも蒼い顔で起きていた……きっと怖くて眠れないんだね。リンダなんて玄関に出迎えて「やけどしなかった?」と大声出してた。
そして、ビニールから出した箱は今テーブルの上だ。それを家族全員で取り囲んでいる。
「開けるぞ」
「やめて!」
トムの声にアリスだけが、変わらず蒼い顔で叫んだ。リンダとジュディさんは、僕と同じように、箱の中が爆弾じゃないと思っているのかも。
「開けた方がスッキリしていいぞ」
トムはそう言って包みに手を伸ばした。
緊張の一瞬……。
やがて、現れた中身は、爆弾じゃなかった!
それは、「MERRY CHRISTMAS!」と書かれた大きなブッシュ・ド・ノエルというクリスマスケーキと、綺麗な5色のシャンパングラスだったんだ!
女たち、特にアリスの顔は、力が抜けた? って言うの? 何とも言えない顔だった。
トムは、
「すまん! おどかして悪かった。これを送ったの俺だ」
と言ったもんだから……
「ええっ?」
声に出した僕に。
「本当だ」
誰も何も言わない。
彼は自白を続ける。
「なあ、3人とも、ハロウィンに比べてクリスマスはつまらなそうにしてないか?」
「そう言えばそうねえ」
と言ったのはジュディさん。
「だってほんとにハロウィンのがおもしろいもん」
リンダは途中で気付いたけど、騙すのは嫌だというのか、少し怒った口調で言い返してる。トムはそれに、
「そうだろ。だからクリスマスを盛り上げようとしたんだが……すまなかった」
そして彼は頭を下げた。その頭が元に戻る瞬間、バチン! とすごい音がした。
「あまり大掛かりな嘘つかないで! 怖かったんだから……」
アリスはそう叫ぶと、腰が抜けたか床に直接座って泣き出した。
トムの左頬が赤い、
リンダは、
「トムは、明日出かけて、全員にもう1個何か買ってきて」
と冷たく言った。
今年のクリスマスは一生の思い出になりそうだ。
一番身体使ったの僕だぞ! ということでもあるし、ね。
FIN
書いてから20年後に似た事件が起きた話。 西山香葉子 @piaf7688
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