物語の終わり。

BlackAbyss

全てが嘘でも構わなかった。

全て嘘でも構わなかった

気づきたくはなかった

気づいてしまってはもう遅かった

何に気づいたのか

それは自分の心の奥深くに仕舞いこんで消し去った

「ねぇ、ラジアータどうかしたの?」

「んぁ…?あー…なんでもねぇ」

そんな顔で見ないでくれ

こっちをそんな目で見つめないでくれ

もう、その愛を注がないで

零れてしまうから

これ以上は必要が無い

全部嘘だと分かっているから

この間見てしまった

こいつが他と会ってイチャついていたのを

殺してやりたいとも思った

自分のものにできるのなら足を切り落として拘束してしまえたらどんなにいいか

でもそれがこいつの幸せじゃないのならどうしたらいいのか

そうだ…いい方法があるじゃないか

自分にとってとても苦しいこと

だがこいつにとってはきっと幸せだろう

自分が消えてしまえばいいのだ

自分が消えてしまえばこいつはその他の奴と幸せになれる

自分はきっと苦しむだろう

でもそれがこいつの幸せならそちらを選ぶべきだ

「なぁ…お前はいつまでここにいるつもりなんだ?」

「ずっとだよ、死ぬまでずっとここにいるよ」

嘘だ

きっとこのお世辞を他にも言っているに違いない

肌を重ねお互いの奥深くまで触れてもきっともう何も残らないのだろう

全てがいつか終わることは分かっていた

それでもその終わりを遅らせることは出来た

自分も満たされこいつも満たされる

お互いの奥深くまで触れ合いどれだけ求めてもきっと何も与えられない貰えない

「…そうか」

「素っ気なくされると寂しくなるよ…」

「なら抱いてやるよ、今晩だけな」

「今晩だけって…」

少し困りながら笑うこいつの服をぬがしながらいっその事傷つけてしまえばいいのにと思った

いっその事傷つけて離れてくれたならそれでいい

「んっ…そんながっつかなくても…」

「今は俺の好きにさせろ、お前は大人しくしてさえいれば気持ちよくしてやるから」

「ラジアータ…君そんな寂しそうな顔してたっけ…?」

「…うるさい、黙ってろ」

深く噛み付くようにキスをして肌を重ねる

奥深くまで相手を蹂躙していく

白い花園を踏み荒らしその細く白い体を貪っていく

噛み跡をどれだけ付けても

理性が飛びそうな程体を重ね好きだと呟いても

きっと後戻りはできない

もう、分かっていた

後戻りは出来ない、先に進むしか無いのだ

────────────

あの日から数日が経ってあいつは俺の元から去った

最後に“愛していた”と嘘を残して

「ごめんなさい…僕は君の事もうよく分からなくなってきたの…」

「そうか、なら好きなとこいけよ。俺は大丈夫だし元からお前になんて興味ないし」

心が締め付けられる

心なんてとうに捨てていたはずなのに

「…最後に言わせて欲しいの」

「あ…?言うことなんてないだろ」

「んーん、ちゃんとこれだけは言っておかないと…」

「なら早く言えよ…」

「ありがとう、今まで幸せだったよ…愛してた」

「そうか…まぁ、もう仕方ないさ。さっさと行けよ」

愛し“ていた”

過去形か…そう思いながらそいつの背中を見送った

自分は平気だ

相手の幸せを願えるのならそれでいい

「そういうの…早く言えよ…」

見えなくなった、もう見ることの無い見るはずのないあの華奢な背中に向かって震えた声で呟いた

「…好きじゃあないさお前のことなんて」

こんな嘘を自分に吐いてまでしなければ耐えられそうもなかった

視界が歪んでいく

頬を何かが伝って地面に落ちて弾けて消えた

「すべてが嘘でも構わなかった…」

涙で滲む視界を感じながら呟いた

「…こんな事になるならお前なんて好きにならなきゃよかった、お前になんて深く関わらなければよかった」

誰も知りやしない自分の存在を慰めるかのような夜の風は冷たかった

冷たい夜風は自分の頬を撫でるように掠めて消えていく

事実を物語るように現実を突き付けるような冷たい風はどこ吹く風で過ぎ去っていく

いつかこの心の傷も消え去っていく

あいつを愛して自分も愛されて幸せになれるのならそれで良かった

ほかなんて要らなかった

でももう遅い

だってもう、仕方がないだろう?

…全てが嘘でも構わなかった

物語りの終わり 終

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