@魔司法省休憩室

「候、貧乏籤を引きましたね。やつら民族レベルが低く翻訳機がないと我々の言葉すら解さないそうじゃないないですか」

サドエルは直属の部下から差し出された馥郁たる薬草茶を、透き通る青紫の触手(て)でそっと受け取った。

「意外とかわいいものだよ、少なくともうちで引き取ったリュミはいい子だ。それと就業時間外に敬語は止めてくれ」

少モン学校からの腐れ縁の悪友はさっそく敬語を崩した。

「切りかかってきたりしないのか?」

「はじめはきたな。でもたわいもないさ、彼らが殺して喜んでいたのは正規兵じゃない。オマケに魔力封じの紋も施してある」

「いい子ねえ」

「騙されていたんだよ、王と『宗教』とやらに。我々が悪で、これは聖戦だと」

「あーなんかMHK(魔法送協会) で言ってたなあ。でも『宗教』ってもんが結局分からなかったんだよな」

「うーん、難しいね。知的レベルの低い国では世界は自然にできたものではなく神という存在が作ったものだとされているんだよ。それを信じるのが宗教らしいよ。

彼らは欲ではなく自己の正義のために命を奪った。モンスター相手だけじゃない、ニンゲン同士でも宗教で戦争するそうだよ」

「うーんよく分からんが、宗教と命は天秤にかけるようなものか? 何のために宗教があるんだ?」

「彼ら曰く愛と平和のためだそうだよ」

「さっきニンゲン同士でも宗教を理由に争い合うと言わなかったか?」

「ああ、ニンゲンはおかしな生き物だろう」

心底分からないと言いたげな真っ直ぐな朋輩の瞳を眩しそうに見つめて、サドエルは莞爾と笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聖戦 @yugam1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ