中国は前漢の時代。その中期において数々の事業を起こした武帝には数人の男色相手がおりましたが、その中でも際立った存在と言えるのがこの韓嫣でしょう。彼は容色のみならず夷狄の戦術に詳しく騎射の名人であったということで当然武将として期待されていたのでしょうし、もしやすればかの衛青や霍去病のようにゴビ砂漠を疾駆し匈奴と矢を交えていたのかも知れません。その韓嫣が武帝に寵幸されてから非業の死を遂げるまでの経緯が故事を交えながら筆致を尽くして書かれており、逃れられぬ運命の糸に絡めとられた美貌の男子が自ら命を絶つという場面は涙を禁じ得ませんでした。臨終の際の辞世の句も作者のオリジナリテイを感じて好感が持てます。