ー第三章幕間ー
「センパイ。軍はどんな反応でした? 爆撃、伸ばせそうですか?」
「あぁ。あっちは迫った隕石をどうにかしないとで大騒ぎだ。NASAや空軍が今対策を話し合ってる。こっちのことは結構投げやりで、あと3時間は稼げたよ」
「3時間ですか……時間ギリギリだと助けが間に合わなくなる。アーモンドを迎えに行かなければならないし、ザックが助けた人たちも回収しなくてはいけません。ボクたちに残された時間は2時間30分程度」
ジェイソンはモニターでハリウッドの様子を眺めながら深くため息を吐く。
政府と交渉し、少し疲れたのかマイクもため息をつき、椅子にどっかり腰を下ろしてコーヒーをすすった。
今日何杯目のコーヒーだろうか、とマイクは思う。
ここにいれば常に緊張で、それをごまかすためにコーヒーを飲み続けていた。
「あと2時間半であいつら、元凶を叩けるのか?」
「それはわかりません。未来から来たっていうスタローン似のアンドロイド、彼がゾンビウイルスのワクチンのつくり方を知っていると言っていましたが、元凶についてのことは言ってませんでした」
「と言うと未来でもこのパニックがどうして起こったかわからない、と?」
「いえ、ボクのもとに送られてきた予告状。それが表してるのは必ずこれを起こした黒幕がいるということ……」
「あぁ、確かにそうだったな……いろいろあってこんがらがってるな」
ジェイソンもコーヒーに口をつけ、なら、と言葉を発した。
「ここまでの状況を整理しましょうか。ボクもいったん情報をまとめておきたいです」
「あぁ、そうだな」
こうして二人は今までの状況を整理する。
「まず初めに、ボクのもとに匿名の脅迫状が送られてきた」
ジェイソンは机の上に一通の手紙を置いた。
「ハリウッドで大惨劇を起こすって書かれてたんだよな」
「えぇ。ボクはそれを上に話したけれど、信じてくれなかった。だから武装させたアーモンドとザックをハリウッドで待機させた」
「で、ゾンビパニックが起こった。しかもハリウッドだけで」
「はい。ゾンビもハリウッドから出ていません。そこでボクはアーモンドにはパニックの元凶と生存者を見つける任務を、ザックには俳優の護衛と生存者の保護の任務を与えました」
「生存者。確か学生だったな。うち一人は日本人」
「えぇ。コースケとマリナとボブ。アーモンドと違って映画好きで話が合う子たちです。もし違う場面で会ってたらいい友達になれたはずです」
はは、とジェイソンは笑い、いったんコーヒーを挟んだ。
「彼らは『ダイ・ハード』のブルース・ウィリスにのゾンビに襲われていた。アーモンドと合流した後にも俳優ゾンビが数多く現れて襲ってきた」
「俺たちがハリウッドに送った救助隊もアン・ハサウェイの怪獣にやられちまったな。しかもエアロスミスゾンビのせいで隕石まで降ってくる始末だ」
「上はハリウッドに巣食うゾンビを一掃するために爆撃をすると宣言した」
「そうそう。都合悪いものを爆破するって映画だけの話じゃなかったんだなぁ……」
「多くのゾンビと戦うアーモンドのもとに未来からやってきたアンドロイド、ナッツ。彼はゾンビウイルスのワクチンを作るためにアーノルド・シュワルツェネッガーの血を求めていた」
「どうしてシュワルツェネッガーの血が必要なんだっけ? 何か特別な力があった気が……」
「そもそもゾンビ化は、ゾンビウイルスのもとになった血液に含まれていた俳優やアーティストのDNAが暴走し、脳を乗っ取ったせいです。シュワルツェネッガーの血にはどんなウイルスでも破壊する力があるらしいです」
「そうだそうだ、ウイルスとシュワルツェネッガーをぶつけるんだな。って言葉にするとすげぇな、これ」
マイクの言葉に、確かに、とジェイソンも笑って見せた。
「で、今です。アーモンドたちはシュワルツェネッガーを助けに向かっています。爆撃まであと3時間……」
ジェイソンたちは今までのことをまとめて、同じことを思った。
「センパイ。これまでのことまとめても、黒幕の情報がありませんね……」
「あぁ……いったい誰が黒幕なのか……」
うんうんとデスクで唸っても答えを求めることはできない。
黒幕を追い込むことができるのはきっと、現地で動いているアーモンドたちだけなのだろうから。
「そうですよ、センパイ。黒幕を考えるよりもまずアーモンドたちをどう助けに行くかですよ!」
「お、そうだったな……う~ん……思ったんだけど別々の場所から侵入するってどうだ? 怪獣も二方向、三方向からの侵入には対処できないだろ。軍のコネを使えば」
「いえ、怪獣がまだ一体だと決まったわけではありません。あの様子だと他にもハリウッドを守る何かがいると思います。戦っても相手はゾンビです、並のミサイルじゃ太刀打ちできないでしょう。優秀な空軍を無駄死にさせる趣味はありません」
「ならどうする……」
ジェイソンは深く考えて、これしかないか、と小さくつぶやいた。
「センパイ。ボクのこと、信頼してますか?」
「は? いまさら何言ってるんだよ。信頼してなくちゃそもそもこんなところにいないって」
「ですよね」
ジェイソンはにっこり微笑むと、部屋を出る扉に手をかけた。
「センパイ、行きましょう」
「え? 俺も行かなくちゃいけないのか? つかこの部屋は? モニタリングは?」
「音声は拾ってますし、無線で指示を送ることもできます。映像もスマホにつなげばわかります。別にここじゃなくても大丈夫です」
「あぁ、そうか……で、何するんだ?」
「今まで隠してきた最終兵器、出します」
そういったジェイソンの顔は、子供のようにキラキラと輝いていた。
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