Ally-21:峻烈なる★ARAI(あるいは、我ぁが/ハバラっそじゃ行くがじ)


 「団訓」ていうのもあまり聞き慣れない言葉ではあったけれど、円いコースターの裏に書かれた箇条書きを見て、誓約みたいなものだねと納得する。先の二人が来るまでの間にこちょこちょ書いていたのはこれだったのね。


 曰く、


<一つ、団員は団長の取りまとめのもと、本活動を速やか且つ的確に遂行すること

 二つ、団員は団長の求めに応じて、持ちうる力(金品など)を惜しみなく供出すること

 三つ、みんなでがんばろう! >


 うん……まあ、民主主義もびっくりの、アライくんが長けている方面の誓約書まがいのものに仕上がってるよね……「金品」という臆面も無い言葉を敢えて前面に出すのはそれもまた詐称術テクニックなのだろうか……それに一つ二つ三つとか数が増えていくと、人の世の生き血をすする的なやつを思い出してしまうよね……すする側の方だしね……三つ目のフォローしきれてない感も大概だしね……


 だ、第一命題はあの二人ばちょから活動給付金を如何にして引き出すかということなのです……という言いたい事が言の葉の裏に隠しきれていない語尾標準語で先ほど説明は為されていたけれど、まあ本人たちが喜んでいるのだからいいのかな、と思うに留める。それより早く本題に移った方がいいかな……


 今週土曜に秋葉原を回って、ブラウン管テレビと、ファミコン本体(つなげるの込み)を手に入れる。メンバーは、アライくん、三ツ輪さん、僕、ほか2名。


 こ、これはグループで遊びに出かけるという、リア充度70くらいの行動なのでは……高校に入ってからも、アライくんと京急久里浜の駅ビルウイング書店くまざわで3~6才向けの知育玩具に本気になって巨大なタワーを作ろうとしたり、文房具店ステーショナリーコセキにて様々な面白文具を買いもせずに見て触って楽しむほかに週末の過ごし方を知らなかった僕が、ひと足跳びに大人の階段へと誘われていく……


 に、しても長沢住民にとって、秋葉原は遥か遠くの、液晶の中の世界である……大都会横浜まで、京急の快特にて45分、そこから調べたところによると、メガロポリスTOKYOの中ほど、秋葉原まではJR鈍行で行っても45分、すなわち、片道90分。かかる時間的には、あ、そんなもんなんだ、との思いに陥るけれど。


 はっきりそれは罠である……かつてどれほどの同胞たちが意気揚々と乗り込み、精神的な障壁カベを感じて敗走してきたことか……オタクの聖地は、割とよそ者には冷たい街なのだと聞く……ましてや今回の目当てのものはファミコン関連はともかく、テレビともなると結構ニッチなのではないだろうか……優しくされてうっかり気を許し、法外な値段で不良品を掴まされたりはしないだろうか、などなど不安は尽きないわけで。


「……本当心配性ほんさばたるな、ジローやんよ……」


 そんな僕の心を読んできたのか、隣の御仁が自分の「メダル」(つくば万博のシンボルマーク。これがいちばん偉いということか……)をペーパータオルを何枚も使って磨き上げながらそう言ってくる。


「ええちょば? 諸君……我ら五人揃って『1Q85団』。て、鉄の絆ぞ。いかな魔窟と呼ばれし秋葉原ハバラじゃにょぅて、お、おそるることば、何もなちょす」


 やっぱり僕の思考は漏れ出始めてるのかな。あまりに自分の言いたいことを胸の内に納め過ぎていたから直接他人の脳に話しかけれるようになっちゃったりしたのかな……と、


「お、でも団長どのッ、俺っちはアキバだったら行ったことありますぜ!! 案内できるかもしれ」


 猿人氏の、ちょっと調子に乗って弾んだ野太い声は、そこで途切れた。アライくんが逆手に掴んだフォークを、テーブルに置かれた指の股にまでごわごわした毛が生えた猿人ハンドの甲の部分目掛けて、遥か高々度より突き刺そうとしてきたからであり。


 じ、人語を解さんとかぁ貴様きさんがわぁぁぁぁッ!! 団訓の一つ目に書いちゃはんがるどぁッ!! 団長の!! 取りまとめのもと!! よぉば見さらかせじょああああああッ!! との、逆鱗が体表を隈なく覆っている人のどれに触れたのかは分からなかったけれど、とにかく猛烈かつ理不尽な怒りを買ってしまった猿人氏は、ぼ、ボクそんなん知りませんもん!! と泣きギレするものの、そこらあたりで流石に店員さんに静かに諭され、僕らは店外へと出されてしまう。


 お、お前とお前は性根から鍛え直したるけぇの、明日から「修行」だにきぃッ!! と怒り冷めやらぬまま、駅の方へと肩を怒らせつつ帰っていく御大。ううん、まだまだ厄介な物事が山積してるなぁ……と、これが全部他人事だったのなら僕も穏やかに今日を終われるんだけどね……とかの諦め境地でその後を追おうとしたら。


「……ジローくん、明日は使い捨ての容器で持ってくるけど、もし、おうちにおべんと箱あったらお願い」


 去り際、ふいに天使に耳元で囁かれたまさにの天啓ラブソングが、僕の右側の側頭葉をがつんと揺さぶる。その天上の鬼宿たまほめが如くの(無限へと開け!ニィハゥマー)言葉の内容にもやっぱりの驚愕かつ狂喜乱舞なのだけれど。こ、これは穏やかになんざ終われませんぞぉぉぉぉぉぉッ……!?


 んんんんん、三つ、みんなでがんばろうッ!!

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