童話「蟻の憂鬱」
あん
童話「蟻の憂鬱」
「相手にするな。どうせ大した事は言わない」
兵隊アリの肩を叩きながら、働きアリが話しかけてきた。
先ほど一匹のミミズが兵隊アリに言ったことを彼がまだ気にしていたからである。
「だってよう。ミミズの野郎、俺が天道虫を 追い散らしていたら、
『お前さんは牙の使い方を知らないな。牙ってのはもっと広げて
天道虫なんぞ一撃で食い殺すほどでなけりゃあ意味がない』とか言いやがるんだ」
兵隊アリの不満は収まらない。
働きアリは仕様がないと重い荷物を地面に置いてこう言ったものである。
「なあに、奴さんは目がないんだよ。穴の中に居すぎて退化しちまったんだ。
その癖まるで何もかもわかっているかのように何にでも口を挟むワケさ。
つい先日もな、俺に向かって『お前さんは荷物の持ち方がなっていない。
もっと腰を入れて四肢を使え』と抜かしやがるわけさ。
手足のない奴に手足の使い方を教わる気にはなれんね。」
なるほど、働きアリの言葉で兵隊アリも少し気が楽になったようだ。
「それで、手の使い方について、アンタは何か言ってやったのかい?」
兵隊アリが面白げに聞くと、働きアリはこう言った。
「馬鹿言っちゃいけねえよ。ミミズには口はあっても耳がねえんだ。
いくら反論しても聞こえねえんだよ。だからアイツには
誰も返事をしねえのさ。さあて、またボチボチ仕事に戻るかな」
働きアリはそう言ってまた重い荷物を持ち上げた。
童話「蟻の憂鬱」 あん @josuian
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