1032話 忠誠心と身内文化
モルガンが、キアラからの急報を持ってきた。
クレシダ討伐指令が来ると思ったのだが……。
思わず頭をかく。
「
しかも
おまけに、王都に内通者がいて城門を開ける始末。
これは一悶着ありそうですね」
ところがこれはクレシダの揺さぶりだな。
これだけで済めばいいが……。
こればかりは分からない。
だが……俺は知らん。
ニコデモ陛下に働いてもらおう。
モルガンが、無表情のままうなずく。
「勅令隊が待機していたので事なきを得たそうですが……。
少々問題ですね」
クレシダの花火第2弾を危惧しているのだろう。
対価に問題とも言えるが俺にとっては、どうでもいい話だ。
「まあ……今更流れは変わらないでしょう。
それにしてもクレシダ嬢がまだ手札を持っていたとは。
存外出し惜しみするようです」
「そのわりにまったく驚いていませんね。
予測していたのでは?」
大袈裟だな。
俺の認識では予測的中とならない。
「予測と言っても、幾つかの予測に入っていただけです。
喜んでいいのは、一点賭けで的中したときだけでは?」
「
予測されていたとなれば対応策もお考えではありませんか?」
俺がなんでもすると思っているのか?
違うな。
俺が下手に対応すると言えば『待っていました』とばかりに諫言が飛んでくるパターンだ。
新手の諫言方法を考えだしたな。
暇なヤツだ。
まあ……俺も気が抜けないから有り難いが。
実際モルガンの仕事は少ない。
多数を占めるのは手紙魔モーリスからの私信に対応することだ。
「いいえ。
不確定要素が大きすぎるので下手に対応策を考えると……その考えに囚われてしまいます。
それに私が対処すべき問題ではありませんからね」
「なるほど。
それにしても、可愛げのない主君です。
普通は、幾つかの予測でもあたれば有頂天になるでしょうに」
これまた罠を仕込んできたな。
非礼を咎めたら、モルガンから『主君らしく家臣と距離を置け』と言われるに決まっている。
ここは無視が賢明だろう。
本当に暇なようだ。
「その点において、私が普通ではないと認めますよ。
ただ……有頂天になれるほどの贅沢は私に許されていません」
モルガンが
罠を2連属で回避されて面白くないらしい。
「『身分の高さに比例して自由が制限される』と常々
この件は王都にお任せすると」
「いちいち構っていられませんよ。
大体、私のところに届く苦情は多いのですから」
モルガンが嫌らしい笑みを浮かべる。
嫌らしい笑みくらい個性をだせ……と言いたい。
「昨日は、デッロレフィチェ嬢の態度が馴れ馴れしいとの苦情でしたな。
相手はディミトゥラ王女で身分差を
キアラさまはラヴェンナ卿の妹君なので問題ありません。
オフェリー夫人も前教皇の姪ですし釣り合いが取れます。
やはり……ひとりだけ見劣りしますな」
ディミトゥラ王女からの苦情ではない。
カルメンが気に食わないと思っている連中いる。
遠回しにゼウクシス・ガヴラスを通じて苦情を申し入れてきたようだ。
ゼウクシスは握りつぶすわけにもいかず渋々俺に面会を求めてきた。
俺が鼻であしらって終わりだ。
「まあ……適当に流しました。
下手に注意すればカルメンさんに毒を盛られますよ」
「あまり冗談に聞こえないのがなんとも……。
身分差に対して鈍感なのはラヴェンナ卿が貴族たちから嫌われる理由です」
「返す言葉がありません。
私のやることなすこと……彼らの秩序文化の否定ですからね」
「たしかに……新興の成り上がりを嫌うにしては過剰です。
それで秩序文化とは?
また変な造語を捻りだしましたね」
変な造語はたしかだが……。
考えると根源的なものから来ている。
こう表現するしかなかった。
「少し長くなりますが……」
「これから忙しくなって、このような会話をする暇はなくなると思います。
私は構いません」
モルガンにとっての娯楽みたいなものか。
仕方ない。
付き合うか。
しかし……これまたキアラに詰められるぞ。
俺だけが。
納得いかん。
「まあ……表現する言葉がなかっただけです。
人の集団は、文化や歴史を持っており、秩序はそれなしに成り立ちません。
ただ文化や歴史において、秩序と密接に関わるものを秩序文化と称しました。
使徒教徒は、忠誠という文化を以てして秩序を形成しているのです。
ところがラヴェンナでは忠誠に価値を見いだしません」
モルガンが片方の眉をつり上げる。
かなり頭脳を働かせたらしい。
それでも結論には至らなかったか。
「はて……ラヴェンナ卿は忠誠を表立って否定していないでしょう?」
「別の言葉で明確に否定したのですよ。
ラヴェンナにおいて内心は詮索しない。
結果をだせばいい。
これは、使徒教徒にすれば忠誠の否定です」
モルガンが無個性に冷笑した。
珍しく感情がこもっている。
良くない方向だが。
機嫌と愛想の良いモルガンなど気持ち悪いので一向に構わないが。
「言われてみれば……。
使徒教徒の世界は、結果がでなくても、忠誠心さえ見せれば評価されますな。
逆にどれだけ結果をだしても、忠誠心がないと見なされれば排除される。
たしかにラヴェンナは忠誠を否定しませんが……。
考慮に入れていませんね」
「これでラヴェンナが彼らより劣っていればなんら問題ないのですがね。
私の予想以上にラヴェンナは発展してしまいました」
モルガンが珍しく驚いた顔をする。
「おや……想定内だと思っていました。
なにせ打つ手打つ手が、危機を予期しているようにしか見えませんからな」
思わず苦笑してしまった。
発展の速度に関しては、俺の予想……違うな。
願望は木っ端微塵に砕かれた。
「私の予想より5倍程度早い発展ですよ。
打つ手は、将来的なものとして考えていましたが……。
対策の貯金を、すごい速度で食いつぶされています。
しかも早いが故の問題もでてきている。
私の想定通りなら、ここまで敵視されずに済んだのですがね」
「なるほど。
痛し
「1番の問題は内乱です。
これによって、ラヴェンナの存在を誰しもが無視出来なくなりましたからね。
発展を隠しきれなくなりましたよ。
まあ……愚痴を言っても仕方ありません。
そうなると当然、ラヴェンナの内情に皆関心を持ちます。
知って
自分たちの秩序文化と相容れないのですから。
敵視するのはむべなるかなです」
モルガンが、怪訝な顔で眉をひそめる。
俺の見解に異議があるようだ。
「それが忠誠であると?
だからと言って、使徒教徒の忠誠心とて怪しいものです。
ニコデモ陛下に忠誠を口では誓っていても……行動はどうですか?
所詮建前に過ぎないでしょう。
陛下に忠誠を誓うのは貴族のみ。
それより下位の者は、自分のひとつ上位の存在にのみ忠誠を誓える。
貴族とて、陛下への忠誠より、家の権益拡大と存続を優先します。
だからこそ内乱が激しくなったのでしょう。
建前に過ぎない忠誠など……秩序文化の添え物に過ぎないでしょう」
なるほどな。
一般に使われる忠誠を軸に考えたのか。
まさに、建前として使われる忠誠だ。
だが建前の忠誠で留まっているのは、別の忠誠が重すぎて建前にしか出来ないからでもある。
王家がどれだけ努力しても、建前による忠誠しか得られない。
「ルルーシュ殿の言は正しいです。
陛下への忠誠は儀礼的忠誠。
まさに建前に過ぎません。
ですが……本音の忠誠が存在するのですよ」
「ほう……。
つまり、本当の意味での忠誠を求められると」
「ええ。
使徒教徒における集団は、身内と呼んで差し支えない疑似家族によって構成されます。
契約などによる対等の関係では決してありません。
親分子分の関係に近いでしょうか。
そこでは、親分か身内への忠誠がなければ身内を維持出来ません。
凄まじいまでの拘束力で息苦しささえ感じるでしょうね。
それだけでは長持ちしないので情が欠かせません。
あとは、身内以外を人扱いしないような区別も加わります」
モルガンが小さなため息をつく。
珍しく実感がこもっている。
「なんとも息苦しい話ですな。
昔はその中で生活していた。
自分でも信じられないほどです」
その点において俺も同意見だ。
ただ……使徒教徒は、順応している人たちが大多数である。
その息苦しくても順応している。
これは伝統と歴史に裏打ちされていることの証左だ。
まさに時を止める文化だな。
これからどう変わっていくのやら。
「使徒教徒にとって、ラヴェンナ式の契約や法による規定はどう感じますか?
事務的で薄情に感じるでしょうね。
だから今回も現場で都度、小さな摩擦が起きているのです」
仕事にしても使徒教徒は、身内への絶対忠誠が軸となる。
計画通りだから今日は終わり……といったラヴェンナ式は怠慢に見えるのだろう。
もしくは仕事仲間に対して酷薄に思えるのかもしれない。
使徒教徒にすれば正当な言い分なのだ。
異文化と共存する意識はまだないからな……。
「たしかにそうですな。
ラヴェンナ式は、やる気がないと思われているくらいです。
早く終わったなら他人を手伝え。
終わるときは皆で一緒に終われ……とね」
「非効率に見えますが……稲作になら適しています。
稲作をするならラヴェンナ式では上手くいかないでしょうね。
ラヴェンナで稲作をやるなら、使徒教徒の方式を真似ろと言います。
それほどまでに適しすぎているからこそ、他の用途に転用しては非効率になるでしょう」
「ひとつ疑問が。
使徒教徒の文化は、使徒に追従したものとのご見解ですな?
では文化背景は稲作文化であると?」
記憶がないので断言出来ないが多分そうだろう。
文化とは、環境と民族的性向に適した形でしか発展しない。
稲作文化でないこの世界において広まるほど、使徒の奇跡とは強烈なのだろう。
「多分そうだと思いますよ。
稲作が伝統的文化として根付いているもの……と考えるのが正しいでしょう。
この世界に、そのような文化を持ち込んでも、なんとかしてしまうあたりが文化的柔軟性の強み……とでも言いましょうか」
「少し脱線しますが……。
ラヴェンナが先行しても、じき使徒教徒に追いつかれると
これだけ根源が違っていても模倣出来るのですか?」
「既に正解が示されているのです。
試験の解答を丸暗記するように、自分たちの文化を変えないまま……答えにたどり着くでしょう。
それこそ機能しなければ、しない部分を試行錯誤すればいいのです。
正解のみ模倣して、使徒教徒に適した形に変えてしまうだけですから」
モルガンは苦笑しながら肩をすくめる。
「何故間違ったかには興味がないようですな。
それより、次の正解を探すのが効率的だから……でしょうか?」
「理解が早いですねぇ。
何故そうなったのかを気にする人はいるでしょうが……極少数です。
しかも、余程の幸運に恵まれなければ出世出来ません。
むしろ、そのような人はラヴェンナに来たがるかもしれませんね。
大変結構です」
「かくして創造的頭脳はラヴェンナに集まる……ですか。
ただし秀才であれば、使徒教徒のほうが多いでしょうな」
「だと思いますよ。
本題に戻りましょう。
稲作文化の特徴は結果の平等です。
ラヴェンナは、機会の平等を志向しますから……。
忠誠と結果の平等ふたつの根底が違うのです。
摩擦が起こって当然でしょう。
小さな摩擦程度なら可愛いものかもしれませんがね。
だからとラヴェンナ市民は使徒教徒と共同作業をさせてはいけません。
大きな摩擦になりかねません」
「ラヴェンナ卿は、今回の遠征で、その点に意を尽くされていましたな。
作業分担を明確にしてお互い干渉しないと。
必要に応じて
なにか問題を予期されていたのですか?」
使徒教徒の特性は数多あるが……。
そのなかでもふたつ。
自己犠牲的な忠誠心を求める同調圧力。
そして身内以外は人扱いしない。
これが極めて危険なのだ。
「使徒教徒同士でも、子分を奴隷のように扱う親分が現れるでしょう。
忠誠を軸とした文化では忠誠を奴隷化と勘違いしやすいのです。
このような行為になんら正当性はありません。
おまけに他人なのです。
抑制など働かないでしょうね」
「なるほど。
使徒教徒にとってラヴェンナ市民は忠誠心がなく身内ではない。
酷い扱いをしかねないわけですか」
「そうです。
立派な使徒教徒に主導されれば、素晴らしい成果をだしますが……。
サイコロを振って、6の出目を期待するようなものです。
5なら普通の扱い。
それ以外の数値は、不当の扱いを受ける。
雑な確率ですがね」
モルガンが唇の端を歪めて冷笑する。
奴隷のような扱いを器用に回避してきたのがモルガンという男だ。
「これでは共同作業など出来ませんな。
もし使徒教徒が総責任者なら、数の多い使徒教徒を基準に考える。
ラヴェンナ市民は使い捨てていい他人となります。
使徒教徒同士の団結心を高めるために生贄にされる可能性すらある。
身内への忠誠心を高めるのに、誰か生贄を吊し上げるのは常套手段ですから。
ただし、ラヴェンナ卿の立場でそれは認められないわけですな」
「悪い結果が分かっていて部下を放り出すのは責任放棄ですからね。
しかも、遠征で不慣れな土地なのです。
精神的余裕がありません。
平時より問題が起こりやすいでしょう」
「仮に
すくなくとも使徒教徒側は事実を
なにかあれば
火傷をすれば過敏に反応するがそれまでは、危険と知りつつも止めようとしない。
「ご名答。
身内の違法行為すら
なにせ、社会の法より、身内への忠誠が優先されますから。
無茶な擁護すら、忠誠の証しとして示すことが出来るのです。
まあ……擁護しすぎると身内から切り捨てられますがね。
身内にとって最大の目的は存在することですから。
仮に生き残れば、身内での序列は大きく高まるでしょう。
切り捨てられたとしても、身内に忠誠心あり……として誰かに拾ってもらえる可能性すらあります。
告発者とは逆にね」
これだけ、強固な背景があるのだ。
使徒教徒がなにかやらかしても追求は難しい。
力で圧倒すれば解決は可能だが……確実に敵対心が高まる。
「使徒教徒にとっての大罪は、内部告発か親分への反逆でしたな。
これを許しては、構成員にとって安心出来ない状況に陥りますから。
なるほど……なるほど。
すべての組織が身内なので、大罪を犯した者はどこにも行き場がない。
擁護か
かくして、身内の不祥事は無事
「そう。
不正の告発など不可能です。
仮にしようものなら、告発者の人生が終わるでしょう。
不正が明るみにでるのは既に手遅れになってからです。
『父は子の為に隠し子は、父の為に隠す。
これが、肉親以外の他人でも成立するから困ったものですよ。
だからと、社会の法を無視しない。
身内以外を叩くときは、社会の法で殴るから……極めてたちが悪いのです」
モルガンが妙に感心したようにうなずく。
「逆に、ラヴェンナでの大罪は
あれは不思議だったのですが……。
そこまで、使徒教徒の問題を考えて決めたわけですか」
「そうです。
ラヴェンナは多民族ですしね。
疑似家族による情実が
だからこそ、忠誠を軸とした社会は成立し得ないのです。
ですが、使徒教徒の世界では単一民族であることが前提でしてね。
疑似家族が構成しやすいのです」
「情実は身内にたいする潤滑油ですが、ワリを食う者が納得し難い理由で我慢を強いられる。
情実が重要なのは奇っ怪だ……と思っていましたが……。
家族なら、情実ですべて決まって当然です。
逆に、明確な法がある家族は家族と呼べないでしょうからね。
元々ラヴェンナは多民族が争い合っていた。
過去の遺恨が容易に蘇りやすいわけですか」
「ラヴェンナ市民が過去を忘れて協力しているなど幻想ですよ。
上手くいっているから一時的に忘れているだけです。
本当に忘れるのは2~3世代後でしょう。
それも、一時的に忘れた状態を続けられれば……の話ですけどね」
突然モルガンが笑いだす。
ヤンも驚く程普通の笑い方だ。
モルガンは表情を改めて一礼した。
「失礼。
正直申し上げて笑うしかない。
ここまで考えて、新たな社会を作った人など見たことがありません。
逆に、ここまで考えたからこと成功したわけですな。
当然、運の要素は大きいと思いますが」
「そうですね。
私は人に恵まれすぎました。
優秀すぎたが故に、発展の速度が予想を外れたわけですけどね。
だからと彼らになにも言いません。
早すぎたことによるマイナスは、私が責任を持って対処すべき問題ですからね」
「急に手を抜けなど言われても困りますからね。
ようやく、ラヴェンナ卿の
ラヴェンナに対する忠誠のみ求めますからな。
集団を構成するに必要最低限の忠誠を。
社会や組織において求められるのは能力だけと。
ある意味で単純ですな。
だからこそ、化外の民と蔑視されたラヴェンナ市民でも受け入れられたわけですか」
「ラヴェンナ市民は反骨心旺盛ですからね。
その反骨心を、建設的な方向に向くように条件を提示したのですよ。
反骨心は曖昧で不公平に思えることに刺激されます。
逆にすべてを単純明快にして、彼らの考えを尊重すれば下手に反抗なんて出来ませんよ」
モルガンは妙に感心した顔でうなずいた。
「流石の私ですら、素直に働くしかないと思ったくらいですからね。
ラヴェンナ法が秩序の頂点であって建前でないのは驚くばかりですよ」
「法治を徹底したければ、それより上位の秩序を作らせないことが肝心です。
だから身内意識が危険な要素となる。
社会の法より、身内の決まりが優先されますからね。
散々見てきたでしょう?」
身内の決まりより法を優先したら、使徒教徒の世界では薄情と敬遠されてしまう。
ただ無関係な第三者からは称賛されるかもしれない。
まあ……無責任な称賛止まりだ。
近くにいる者はこぞって背を向けるだろう。
こうなれば法治は徹底せず、数多ある身内の論理だけで世の中が動く。
モルガンが、微妙な表情で肩をすくめる。
「反論出来ないところが悔しいですな」
「身内の決まりは、法のように明文化されません。
それこそ、身内の不祥事や違法行為は
こうなってはお仕舞いですよ。
秩序を守るべき法は、他人を叩く娯楽道具になってしまいますから」
欠伸をしていたヤンが笑いだす。
「他人を叩くヤツってやたらと偉そうだよな。
一度も悪いことをしたことのないようなツラをしていやがる。
もっと腹が立つのは、そうやって、誰かを吊し上げて叩かせるヤツだ。
都合が悪くなると逃げやがる」
学がないと自嘲するが……。
ヤンは物事の本質を捕らえる。
だからこそ子供たちにも人気があるのだろう。
子供を騙すのは難事だからな。
大人は、下手に経験があると過信して、しがらみや欲で騙されやすい。
「私も同感ですよ。
処刑が娯楽になるように、他人の不祥事を叩くのは気持ちが良いですからね。
そのときに、我が身を振り返れる人は少数ですよ。
なので、扇動によって利益を得る輩があとを絶ちません」
「いるなぁ……。
飢えた野良犬のように悪事を嗅ぎ回る。
脅して金を貰う奴もいた。
それより広めてチヤホヤされたいヤツのほうがたちは悪い。
自分は良いことをしていると信じているからな。
どうも好きになれねぇ」
「好きになれないのは正しいと思いますよ。
なにせ彼らにとって社会とは不祥事という金の卵を産む鶏でなくては困ります。
彼らは他人の不幸を食い物にしているだけですからね。
不祥事が娯楽になることを認めざるを得ませんが。
他人を扇動する輩は、卑しい職業に就いていると思いますよ。
彼らが社会的地位を認められたら、その社会は末期です」
俺がマンリオを登用したのは、マンリオが自分はクズだと自覚しているからだ。
マンリオが誰かを叩いて金を稼いでいてもなにも言わなかった。
それはマンリオの勝手だからな。
俺との関係を仄めかして信憑性を持たせたときはキツく締め上げたが。
ただまあ……不祥事があまりにエグすぎると笑うしかない。
社会の敵かのような存在が叩かれるのは、社会という人体が異物を排除する自然な行動だからだ。
しかも大体は
それこと腐敗して破裂寸前の死体のような不祥事だ。
モルガンが
「ひとつ疑問が。
そこまで、根源的禁忌に触れる忠を否定しているのに、ラヴェンナ周辺の領主は、
それは何故ですか?」
「無視するにはラヴェンナが近すぎます。
まず探りを入れて、
なぜなら、忠の否定は、ラヴェンナ独自の論理として、この思想を輸出する気が毛頭ないと知ったからです。
彼らを安心させるために陛下から、ラヴェンナの特殊性の言質を頂いた。
ではラヴェンナから、遠い貴族が何故敵視するか。
離れていて実情を知る必要性も薄い。
彼らには、ラヴェンナを敵視する贅沢が許されているのです」
「なるほど……。
ついつい長話になってしまいました。
ところで、討伐命令が下ると確信しているのに事前準備をさせないのですか?」
これは、俺が準備させようとしたら制止するつもりだったな。
念のために釘を刺すつもりなのだろう。
「事前に準備していたら外野がうるさいですからね。
ですから軍に命令はしていませんよ」
「たしかに……、安全な場所から難癖を付けようと皆が、手ぐすね引いて待っています。
まったく以て度し難い。
ところで……。
先日ゼロなるホムンクルスと通信されておりましたな。
しない理由などないだろう。
表立って準備をしないだけだ。
「していますよ。
数日以内に報告が届くはずです」
モルガンは満足気にうなずいた。
「それなら結構です」
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