1025話 暇な人々

 さっさとトロッコを降りる。

 シルヴァーナのニヤニヤ笑いがムカツク。


「よく来てくれました。

ペルサキス卿は?」


 シルヴァーナは頭をかいた。


「ああ……旦那はロッシさんと打ち合わせをしてから来るってさ。

聞いたんだけど……。

襲われたの?」


 昔ならしつこく擦ってきたのだが……。

 シルヴァーナも成長したということか。

 ただ……とはなんだ。

 初だよ。


「ええ。

ではありませんがね」


 シルヴァーナの白い目にふと思い当たる節があった。

 使徒ユウに襲われたのを数えると2件目か。

 たしかに……だな。


 俺の気づきを知らずかシルヴァーナが真顔で腕組みをする。

 胸がないと、腕組みし易くていいな。

 オフェリーがやりにくいとボヤいていた。


 シルヴァーナの額に青筋が浮かぶ。

 なぜ分かったのだ……。


「一応状況を聞かせてくれる?

ヤンさんがいて怪我をするって……ちょっと信じられないから」


 触れたら負けと思ったようだ。

 ヤンは渋い顔で頭をかく。


「面目ねぇ」


 ヤンが状況を説明するとシルヴァーナは、怪訝な顔をする。


「うーん。

なんか変じゃない?

怪しいヤツを見かけて飛びかかる必要なかったでしょ」


 言われてみればそうだ。

 まず俺の周囲を固めるのが先決だよな。


 ヤンは腕組みして首をひねっている。


「それなんだよなぁ……。

ラヴェンナさまは大丈夫だってなぜか思ってしまってなぁ」


「まあ……、実際一応は無事だったわけだしね。

別にいいけどさ。

普通なら、怪しいヤツを見つけたら部下に対応させるでしょ?」


 『別にいいけど』と言って納得したヤツを見たことがない。

 個人的には、無駄な言葉と思って使わないが……。

 これも角の立たない言い方なのだろうか。


 ヤンは渋い顔で頭をかく。


「なんにせよ俺っちの判断ミスだよ。

ただ……猫の鳴き声が聞こえた気はしたんだよなぁ」


 すべて合点がいった。

 介入しないと、最悪ヤンが俺の盾として死んでいた可能性があるってことだ。

 そうなる位なら、矢を一発食らうほうがマシと判断したのだろう。

 ラヴェンナの入れ知恵だな……。


 俺の表情を見たシルヴァーナは微妙な顔だ。


「気にしなくていいと思うわ。

それでアル。

ご自慢の殺人光線は撃てた?」


 気にいらない言い草だ。

 そもそも数年使っていないぞ。


「自慢した覚えはないですが……。

使える状況ではありませんでしたね」


 昔呪文詠唱について話したことがあったなぁ。

 俺の無詠唱をシルヴァーナは鼻で笑った。


 素朴な疑問として聞いたのだが……。

 こうやって根に持つほどシルヴァーナには自慢に聞こえたのか。

 シルヴァーナが満足気に胸を張る。


「でしょ。

これで詠唱を馬鹿に出来ないって分かったわね?」


 あのときもシルヴァーナに説教された。


 冒険者にとって、呪文とは詠唱したら必ず発動しなくてはならない。

 訓練するとすれば、呪文の詠唱速度を速めること。

 呪文の詠唱の利点は唱えきれば必ず発動する。

 どのような魔法を発動させるか体に叩き込むからだ。


 無詠唱は違う。

 すべて自前で意識しなければいけない。

 激しい痛みを感じるとか……気を逸らされると発動が極めて困難になる。


 俺の無詠唱は、貴人のお遊びと言われたわけだ。

 『どれだけ切れ味の鋭い剣でも、鞘から抜けない剣に命を預けられない』と。

 なんとなく理解したつもりだったが、今回の件で骨身に染みた。

 詠唱など不便で手間がかかると思ったが……不便でも使われるのは確実性という利点があるからだ。


「痛感しましたよ。

なぜ遅い呪文詠唱が廃れないかをね」


 そういえば、キアラも俺直伝で覚えたが……。

 咄嗟に使うなら投げナイフと言っていたなぁ……。

 ナイフがないときの非常用にとっておくと言っていたが。

 我が妹ながら物騒だ。


 シルヴァーナは、俺が認めたことで満足したらしい。

 根に持たないタイプのはずだが根に持つこともあるようだ。


「さすが物わかりがいいわねぇ」


「そのあたりで勘弁してください。

他に難問山積ですから」


「そうなの?

見たところサロモン討伐は時間の問題でしょ」


 それはチャールズに丸投げしているから問題ではない。

 俺が担当する問題の話だ。


「ヴィガーノ殿が襲われて意識不明の重体ですよ。

冒険者の取り次ぎを誰にするかも問題ですし」


「ならアタシがやろうか?

元大臣だったからね」


 それは無理だ。

 能力的な話ではない。

 政治的な話になる。


「いえいえ。

ペルサキス夫人に、そのようなことをさせるわけにはいきません」


 シルヴァーナは大袈裟に身震いする。


「うわぁ……。

いつもの政治的配慮ってヤツ。

ヤダヤダ。

そもそもアタシ以外に適任がいるの?」


「シルヴァーナさんになにかあれば大問題です。

有り難い話ですがね。


ルルーシュ殿にでもやってもらいます」


 黙って話を聞いていたモルガンが嫌そうな顔をする。

 シルヴァーナは、モルガンを一瞥して手をふった。


「ダメダメ。

いかにもお上品ですってタイプだと話がこじれるわよ。

それに貸しが作れるでしょ?だから旦那も喜んで認めるわよ。

まさか……アタシがラヴェンナを離れたから……なんて言わないわよね?

合同でサロモン討伐に当たっているのよ。

つまりは仲間じゃない」


 シルヴァーナも成長したものだなぁ。


「問題は違うのです」


「なにを気にしてるのよ」


「シルヴァーナさんは貴族出身ではありません。

それが上流階級に入っている。

異端視されていますが順応すべく努力しているでしょう?」


「ま……まあ。

それはね」


「冒険者と直接あって折衝などしようものならどうなりますか?

今までの努力が水の泡になりますよ。

シケリア王国内での評判が悪くなります。

それこそ政争の具にされかねません」


「ひたすら面倒臭いわね……」


「貴族階級は閉鎖性によって貴種性を維持していますからね。

身分の低い人と付き合うと嫌われますよ」


 陣幕に誰かが入ってきた。


「心配無用だ。

政争の具にはならないさ」


 フォブス・ペルサキスか。

 趣味の悪い立ち聞きをしていたようだ。


「ペルサキス卿。

貴人らしく立ち聞きが趣味ですか?」


「人並みにはな。

だが悲しいかな……私は目立つし人気者だ。

立ち聞きなど、このような場でしか出来ない」


「政争を甘く見ないほうがいいですよ。

するかしないかは相手次第です。

ガヴラス卿がいくら有能でも……政争に巻き込まれたら怒り狂いますよ」


 フォブスは優雅に髪をかきあげる。


「大丈夫さ。

ゼウクシスならなんとかするだろう」


「あとで夫婦共々説教されても知りませんよ」


 シルヴァーナが途端に慌てだす。


「ちょっと待って!!

アタシは無罪よ」


 フォブスがフンと鼻を鳴らす。


「冷たいことをいうな。

苦しいことは分かち合うものだ。

結婚式で誓ったろう」


 シルヴァーナがなにか言いそうになった。

 ここで痴話喧嘩をされても困る。


「痴話喧嘩は他の場所でやってください」


 フォブスは渋い顔で肩をすくめる。


「まあいい。

実はゼウクシスも賛同している。

冒険者対応にシルヴァーナを関わらせてはどうかと。

しかも今回は非常事態だ。

文句を言うヤツのほうがどうかしている」


「ガヴラス卿が?

政争でも仕掛けるつもりですか……。

あの人も暇ですねぇ」


 フォブスの顔が引きる。


「暇って言葉は禁句だぞ。

ブチ切れて説教コースだ」


 ゼウクシスは多忙を極めているわけだ。

 あの手のタイプは、暇になると勝手に悩んで余計なことを考える。

 忙しいほうが本人にとっても幸せだろう。

 でも忙しいとボヤく……実に面倒臭い奴だ。


「その要請だけで私が首を縦にふるとでも?」


「これは内密だが……」


 フォブスと顔を見合わせたシルヴァーナが、なにかつぶやいて指をふる。

 この感覚はあれか。


 シルヴァーナはフンスと胸を張る。


「ミル直伝の音声遮断よ」


 どうやら真面目な話のようだ。


「伺いましょう」


 シルヴァーナになにかさせるのか?

 想像出来ない。

 フォブスは、唇の端を釣りあげる。


「新冒険者ギルドの設立に、大元帥さまが関わっているのは誰もが知っている。

それはいいんだ。

だがな……そのまま放置してはギルドの中立性が疑われる……と懸念がでたのさ」


「それだとシルヴァーナさんはラヴェンナ出身ですよ。

別人を宛てるべきではありませんか?」


「そこで無関係なヤツをねじ込むと大元帥さまの不興を買うことになる。

我が国に好き好んで大元帥さまを刺激したがる奴はいない。

だからまず刺激しない人選ならば……というヤツだ。

当然、後任の育成も進めるが。

ここまでは表向きだ」


 なるほど。

 筋は通っているな。

 それにしても……俺の機嫌を気にするとは、シケリア王国も暇人ぞろいだ。


「裏は?」


 フォブスは不敵な笑みを浮かべる。


「最近我が国で鼠が残飯を漁っていてね。

つまり……のさ。

だからと政敵を潰している余裕はない。

体制派とて一枚岩ではないからな」


「勝ち馬に慌てて乗った人は多そうですからね。

体制派にも旧リカイオス派は結構いるのですか?」


「根は旧リカイオス派が多い。

つまり……現在の親ラヴェンナ的姿勢には不満なのさ。

そこで新冒険者ギルドが突破口になる。

中立性を疑うのは立派な大義名分だろう?

騒がれると面倒だ。

事前に連中の動きを封じる必要があるのさ」


 そこまで言われては受け入れるしかないな……。


「仕方ありませんね。

そこまで打ち明けられては断れません」


「さすが魔王さまだ。

話が早い。

この話はミツォタキス卿の発案だ。

小細工をするほど体制派は脆弱ぜいじゃくなのさ。

体制派と言っても……手のひらを風車のように回転させる連中のほうが多いからな。

だからこそ、これ以上を増やしたくないのさ」


 俺の呼び名くらい統一してくれ。

 弱点か……。

 そうなると魔物牧場あたりだろう。

 魔物牧場で一儲けしているヤツがいたなら攻撃対象になる。


「弱点までは問いません。

とりあえず私の任期が終わるまでは大人しくしてほしいですね。

背後で火遊びなんてされてはたまりませんから」


 フォブスは舌打ちする。


「言われるまでもない。

まったく……味方のフリをしたヤツほどタチの悪いものはないぞ。

政略の天才と名高い魔王さまでも手を焼いているだろう?」


「私は天才ではありませんよ。

ただ可能性を組み合わせただけです」


「なんだ……天才と呼ばれることが不服なのか?

よく使っているだろうに」


「分かり易い表現をしただけです。

ペルサキス卿は、天才と簡単に片付けられて不服ではないのですか?」


 フォブスは意外そうな顔をする。


「不服などないぞ。

私の才能は、私と同じ高みにいないと正しく理解出来ない。

地面にいる連中が、空を見上げて私を天才と称賛しているだけだろう?

理解出来ないものを理解しろ……というほうが傲慢ごうまんだと思うね。

だから私への称賛は有り難く受け取っておく。

ただ……より私に近い高さの者からの称賛は嬉しい。

残念なことに私と同じ高みにいる者など……そういないが」


 フォブスが、意味ありげな笑みをヤンに向ける。

 ヤンは破顔大笑した。


「まあ俺っちも天才だからな。

褒めてくれるならそれでいいぜ。

でも戦い以外はダメだけどな。

ラヴェンナさまは難しく考えすぎなんだよ」


 フォブスは真顔で身を乗りだした。


「シルヴァーナの安全は此方こちらで配慮する。

それでいいだろう?」


「分かりました。

ヴィガーノ殿の容体は予断を許しませんし……放置は出来ません。

冒険者への報酬条件などは書面に記してあります。

細かい説明をしましょう」


 契約条件の書類をシルヴァーナに差しだす。

 シルヴァーナはそれを一読してすぐ理解したようだ。

 さすがは元冒険者担当大臣。


「昔と変わらないね。

これなら大丈夫よ」


 フォブスが満足気に腕組みをする。


「この件はこれでいいな。

で……肝心のサロモンはどうだ?」


「冒険者が突入しています。

結果待ちですよ」


 ヤンがニヤリと笑う。


「多分もう終わっているぜ」


 フォブスもニヤリと笑い返す。


「ほう……奇遇だな。

私の勘もそう言っている。

ならば間違いないだろう」


「ペの兄ちゃんの勘もなかなかだからなぁ」


だ。

いい加減覚えてくれないか?

私の名前を覚えないのは……君くらいだ。

私も勘に自信はあるが……ロンデックスは別格だよ」


「へっへっへっ。

ペの兄ちゃんは頭がいいし、大軍の指揮がうめぇ。

オマケに美男子だ。

いいじゃねぇか」


だ。

まったく……君でなければ殴り倒しているところだぞ」


 ヤンは破顔大笑する。


「まあまあ。

俺っちは簡単に殴り倒されないぜ」


 ペルサキスが天を仰いで嘆息する。

 それを見たシルヴァーナは、大きなため息をついて肩をすくめる。


「ホント、このふたり仲が良いのよね」


 文明人と野人のようなふたりだが、才能を認め合っているからこその仲か。


                  ◆◇◆◇◆


 皆で雑談していると伝令が陣幕に入ってきた。

 バルダッサーレ兄さんが到着したとのこと。

 ここに通してもらうよう指示する。

 程なくしてバルダッサーレ兄さんがやって来た。


「ペルサキス卿に先を越されたか。

帰ったら兄上に怒られるな」


 フォブスは優雅に一礼する。


「これはスカラ卿。

シルヴァーナの意見で、街道敷設は放置して急行したのです。

ズルをしたようなものですから。

スカラ卿は街道敷設しながらでしょう。

それなら驚異的ですよ」


 バルダッサーレ兄さんは小さく肩をすくめる。


「遅かったことには変わりない。

それはいいとしよう。

現在の状況は?」


 魔物の撃退と、俺が襲われたことを説明する。

 マウリツィオが意識不明の重体であることも。

 バルダッサーレ兄さんは渋い顔をする。


「ヴィガーノが襲われたか……。

だが冒険者を選んだ責任者なのは事実だ。

目を覚まさないほうがいいかもしれないぞ。

この不始末の責任を問われるからな。

死ねばある程度は有耶無耶うやむやに出来るだろう。

名誉だって守られるからな」


 フォブスも微妙な顔でうなずく。


「大元帥の暗殺が実行に移されてしまったからなぁ……。

結果責任は免れ得ないだろう。

慣習的に考えれば死罪だろうな」


 余程の怠慢がない限り、死罪にする気なんてないが……。

 現時点で決め付けるのは危険だろう。


「まずはヴィガーノ殿の回復を待って事情を聞きましょう。

話はそれからです」


 シルヴァーナが安堵あんどした顔でため息をつく。

 マウリツィオの処刑には反対のようだ。


「そうね。

アタシも話を聞いてからでいいと思うわ」


 フォブスが厳しい顔でなにか言いかける。

 俺は手でそれを制した。


「この件に関しては私に一任してください。


 そもそも俺の暗殺未遂なんて些細なことで悩んでいる暇なんてないだろうに。

 そう考えていると、陣幕に伝令が駆け込んできた。

 魔物がプロバンから散っていると。

 迎撃する必要があるので、バルダッサーレ兄さんとフォブスは指揮のためでていった。

 一瞬陣幕が静寂に包まれる。


 モルガンが厳しい表情でせき払いをした。


「ラヴェンナ卿。

ヴィガーノの件、軽い処分で済ませる前提に聞こえましたが……。

暗殺を防げなかった点において罪は明白です。

しかもラヴェンナ卿は、極めて異例な重責を担っており……」


 俺は欠伸をしながら、モルガンの諫言を手で制する。


「過度に重い罪を問うては今後、リスクを伴う協力が得られません。

それこそ、明白な怠慢があれば話は別ですがね。

処罰なしとはいきませんが……。

挽回の機会は残すべきでしょう。

殺してしまってはそれこそ未来につながりません」


「ヴィガーノは老人ですぞ。

未来もなにもないでしょう?」


「年齢など関係ありませんよ。

若くても一度の挫折で人生を諦める人だっています。

なにより死罪にしては、陰謀の糸を辿る手がかりを失ってしまいますよ」


 取り返しのつかない罪であれば話は違ってくるが……。

 常に責任を問うて死罪に処するのは、ただ人材を捨てる愚行にしか思えないからだ。

 人道的観点からではない。

 勿体ないだろう。

 失敗という経験ごと捨て去るのは。


                  ◆◇◆◇◆


 魔物はプロバンから逃げ散っただけなので撃退は難なく完了する。

 ドサクサに紛れて冒険者たちが、サロモン殿下の首を持って戻ってきた。

 対応は、護衛付きでシルヴァーナに任せるとしよう。

 念のためモルガンを同席させる。


 かくして陣幕では、ヤンとふたりきり……のはずだった。

 なにか人の気配がする。

 誰も入ってきていないのにだ。

 気配の方向を見ると……いた。

 ヤンはギョっとした顔になる。


 サロモン殿下がいた。

 人間の頃の姿だが……。

 生きている感じがまったくしない。

 ただ映像が浮かんでいる感じとも違う。

 石像があるわけでもない。

 この違和感は気持ち悪いな……。

 なにやら寒気までする。


 これはあれか……幽霊ってヤツだ。

 サロモン殿下は虚ろな目で俺を見ていたが……しばらくしてスッと姿が消える。

 ヤンが我に返った。


「ラヴェンナさま。

ありゃなんだったんだ……?」


「サロモン殿下ですよ。

多分幽霊だと思います」


「へぇ……。

はじめて見たぜ。

なんででてきたんだ……?

ラヴェンナさまに恨みでもあったのか」


 俺に聞かれてもなぁ。

 恨み言でもあったのか、負けを認めたと伝えたかったのか……。

 アラン王国民を頼むと言いたかったのか……分からないな。


「分かりません。

さして親しくもないですからね」


「呆れるくらい平然としているなぁ……。

切れない存在はどうも気味が悪くて仕方ねぇよ」


 仮に切れても俺の腕ならどうにも出来ん。

 しばらくヤンと幽霊話で時間を潰す。


 そうこうしている間にモルガンとシルヴァーナが戻ってきた。

 シルヴァーナは微妙な顔だ。


「どうしました?」


「サロモンの首は本物よ。

ただ……冒険者たちがねぇ。

ヴィガーノさんの罪を問わないでほしいって嘆願してきたのよ。

なんのかんので信頼されているみたいね」


 モルガンは無表情に首をふる。


「それはいいのですが……。

代わりに報酬を辞退するわけでもない。

ムシのいい要求でしかありません。

聞き入れる必要はないでしょう」


 ヴィガーノは暑苦しいが、冒険者を大事にするのは本心だからな。

 それなりに人望はあるのだろう。


「繰り返しますが……。

ヴィガーノ殿の処分は意識が回復してから考えますよ」


「ヴィガーノは高齢です。

果たして目を覚ましますかな?」


 それは分からない。

 あれこれ考えても仕方ないだろう。


「さあ?

それよりシルヴァーナさん。

報酬の話はどうなりましたか?」


 シルヴァーナが紙を差しだしてきた。


「話どおりね。

確認して頂戴。

あとエベールだっけ?

そいつの首を持ってきた冒険者もいたわ」


 モルガンを見ると重々しくうなずいた。


「冒険者が突入したときには殺されていたようです。

住民が厳しい食糧統制で痩せていましたが、奴だけは丸々太っていたとか。

さもありなんですな。

首実検をされますか?」


「いいえ。

ルルーシュ殿が確認したならそれで結構です」


 突然外が騒がしくなる。

 見張りの兵士が、陣幕に顔をだして『外を見てほしい』と言ってきた。

 皆で陣幕の外にでる。

 兵士の指さす先は上空だ。


 満足気なクレシダが映っている。

 いよいよ来たか……。


 映像のクレシダが口を開く。


『まずは、前座の公演が終わったことをお祝いするわ。

可哀想なサロモンは死んだ。

でもここからよ。

そこで私から改めてラヴェンナ卿に申し入れるわ。

私と、最後の踊りをしましょう。

そうそう……後方にいる皆々さま。

これで終わったと思わないほうがいいわ。

引き続きラヴェンナ卿に指揮権を委ねること。

そうしないともっと酷いことになるわよ』


 オベリスクなしで各地に映像をだしているのか?

 なにか手段を隠していたのだろう。

 しかもあの口ぶりだ。

 各地でなにか騒乱を巻き起こしているな。


 多分待ちくたびれて暇を持て余していたはずだ。

 かなり派手にやってそうだよ。

 知らんけど。

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