1022話 闇鍋

 予想通りアラン王国民から先制攻撃があった。

 当然町は破壊していく。


 だからと俺はなにもしない。

 俺の仕事はまた別にある。

 ベンジャミンが到着したので、石版の民に関する聞き取りをしなければいけない。

 

 ベンジャミンはいつになく緊張した面持ちだ。


「ベンジャミン殿。

わざわざ呼び出して済みませんね」


「恐れ多いお言葉です。

ご用向きは同胞についてでしょう」


「ええ。

彼らは、戦意が高く大変有能です。

ただ……その戦意が過剰になっているようでしてね。

戦意か敵意か復讐ふくしゅう心かは分かりませんが……。

強い感情がアラン王国民に向けられているのは知っていますか?」


 ベンジャミンは気持ち小さくなったようだ。

 把握済みで悪戦苦闘中……といったところか。


「お恥ずかしながら……」


 俺の意向を伝えたほうがなにかとやりやすいだろう。

 ここは明確な意図を伝えたほうがいい。


「戦意が高いのは結構ですが、私の目的はアラン王国民の虐殺ではありません。

そこで、石版の民を抑えることが出来るかが問題となります。

出来ないならば討伐任務からは外さざるを得ません」


「なんとか同胞を説得してみせます」


 これだけだと、ベンジャミンの立場がなくなる。

 政治的な配慮が必要になるな。


「ただひとつ。

仮に討伐任務から外れても、約束を違えるつもりはない。

それだけは言い添えておきます」


 この手の配慮はモルガンにとって不服なようだ。

 権力者としての権威を欠くと。


 だが地位権力を盾に原則論だけを振りかざしてもいいことはない。

 とくに支配欲を満たすことに価値を見いださない俺にとっては。

 無茶な要求をしておいて、と思うような思考に価値を見いだせない。

 それでは、要求を突きつけられた側が、さらに下を痛めつけて結果をだそうとしてしまう。


 俺が欲しいのは成果であって、成果じみたものではない。

 真っ当な成果を望むなら、相応の配慮が必要になる。

 成果じみたものは、目先だけ利益となるが、後々毒が回って自分を苦しめるものだ。

 だから何事であれ……要求する側にも、相応の資格が必要だと思っている。

 要求する側が資格を欠くと、鏡で映したように歪な成果しか得られない。

 これがまかり通る世界は、出世するほど馬鹿になる世界だ。


 この考えが少数派なのは自覚しているが……。

 だからと多数派に従う気はない。

 俺の考えを押し通すために権力を得たのだから。


 ベンジャミンの目が細くなった。

 緊張が和らいだらしい。

 どうやら俺の配慮が伝わったようだ。

 ベンジャミンは深々と頭を下げる。


「感謝いたします。

ただ……ひとつ大元帥には、身辺の安全をご留意いただきたく」


 そこまで俺って無防備だったかなぁ……。

 必要な用心はしているぞ。

 それでも避けられないなら? 俺の持ち時間がそれまでということだ。


「分かっていますよ。

石版の民に警戒を向けさせて私を狙うなんて古典的ですが……。

古典的だからこそ、成功率の高い方法です」


「そこまでお分かりでも……。

あえて念押しさせていただきます。

ロンデックス殿が如何に天才であろうとも……。

防ぎきれないときはあるでしょう」


 隣に控えていたヤンが、渋い顔で頭をかく。

 不快になったのではなく渋々認めたらしい。

 まあ……心配してくれたのだ。

 有り難く受け取っておこう。


「そうですね。

過信しすぎないようにしますよ」


「大元帥のご健在こそ、我々石版の民にとっての命綱です。

なにより……。

私はラヴェンナ卿と長くお付き合いをさせていただいています。

そのような御方を失うのは個人的に痛ましい次第でして……」


 リップサービスではなさそうだ。

 勿論、俺以外の交渉では安心出来ない……という問題もあるだろうが。


 本心から俺の身を案じているのだろう。


 有り難い話だが……誰も彼も俺の心配をする。

 早く問題を片付けてラヴェンナに戻りたいよ。


                  ◆◇◆◇◆


 チャールズが報告にやって来た。

 アラン王国民は噓に飲み込まれて……此方こちらに攻撃を仕掛けてきている。

 淡々と対処しているものの……町五つを破壊したのだ。

 そろそろ学んでほしい。

 幸いなのは石版の民が過剰な戦意を露わにしなくなったことくらいか。

 時折漏れるときはあるものの……内心までは変えられないし、分かりようがない。

 望みうる限界だろうな。


 チャールズが辟易した様子で肩をすくめる。


「馬鹿につける薬がありませんな」


 少々予想が外れたなぁ……。

 食不足も響いて、俺たちから奪うことしか考えられなくなっているようだ。


「もうすこし理性的かと思いましたけどね」


 モルガンは唇の端を歪める。


「近くの町すべてが襲ってくるとは期待通り過ぎて欠伸がでます」


 期待通りねぇ……。

 全員がそうではないだろう。

 冷静な者がいても同調圧力で潰されるはずだ。

 人数が多くなるほど知的水準は、最低のものより落ちる。

 自制心など不要で同調することのみが必要。

 攻撃など無謀と考えた者は逃げるしかない。


 しかも食の不足が加わる。

 逃げる選択肢すらなくなるわけか。


 ここまで犠牲者がでるとまで想定していなかったが……。

 最悪皆殺しでも成立する計画だ。


 兵士たちの精神状態が心配だな。

 野盗と違って兵士たちには規律を求めるからなぁ……。

 規律を守るが故に、武器を持たない民の殺害は躊躇ためらってしまうだろう。

 

 幸いチャールズが、まだなにも言ってこない。

 うまく統制しているのだろう。


「とはいえ……これでかなりの数がプロバンに逃げ込んでくれたでしょう。

これからが仕上げです。

あと2週間もすればプロバン包囲に移行するでしょう」


 チャールズはやや疲れた様子で肩をすくめる。


「軍事的には計画通りです。

本番はこれから。

兵士たちも切り替えるでしょう」


「それなら結構。

兵士たちには、多少無理を強いてでも頑張ってもらいます。

実際の地形を見てからでしょうが」


 ヤンが小指に息を吹きかける。

 なにかが飛び散った。

 耳の穴に小指を突っ込んでいたようだ。


「どうもスッキリしねぇなぁ……。

ムズムズしやがる。

ラヴェンナさまは気をつけてくれよ」


 皆心配性だなぁ。

 ここまで心配されるとどうも落ち着かない。


「分かりました。

可能な限り注意しますよ」


 何故皆してため息をつくのだ。

 注意すると言っているのに……。


                  ◆◇◆◇◆


 1週間ほど進軍した。

 街道整備をしながらなのでゆっくりしている。

 馬車が停止したのでなにかあったようだ。

 すぐ騎乗した伝令が俺のところにやって来た。

 馬車の窓を開けると伝令が敬礼する。


「ご主君。

斥候から報告がありました。

魔物の大軍が待ち構えているとのことです。

およそ数は1万弱かと。

ロッシ卿は迎撃態勢に入るとのことです」


 そう来たか……まあそれしかないよな。

 馬車の外にいるヤンを見た。


「ロンデックス殿。

引き返したほうがいいですか?」


 ヤンは渋い顔で首をかしげる。


「いやぁ。

このまま向かったほうがいいな。

ねぇとは思うが……ラヴェンナさまを引き返させて道中を狙う可能性がある。

どうも、死臭が酷くて勘がうまく働かねぇ。

滅茶苦茶集中すれば出来るけどよぉ……。

そうすると、他への注意がお留守になっちまう」


 窓を開けた途端、死臭が風に乗って漂ってくる。

 かなりの死体が風上にあるのだろう。

 1000どころの騒ぎではないな。

 恐らく、街道敷設の邪魔になるから脇にどけたのだろう。

 数が多すぎて埋葬すらままならないはずだ。


 ゾンビにでもなると厄介だが……。

 たしかホムンクルスが率いる魔物にアンデッド系はいなかった。

 当面は問題ないだろう。

 いっそパトリックに教えるか。

 

「ではロンデックス殿の助言に従いましょう。

ロッシ卿に、私が向かうべき場所を確認してください」


 伝令が敬礼して戻っていった。

 馬車に同乗しているモルガンが、渋い顔をする。

 モルガンも死臭はお気に召さないようだ。


「サロモンは、本気で戦う気なのですか?

あの手の優柔不断は、誰もが賛成する条件でないと行動に移さないでしょう」


「誰もが賛成する条件だとしたら?」


「ほう……。

ホムンクルスの助力を待たずに戦うことに誰もが賛成すると?」


「魔物の大軍でも雑魚ばかり揃えている可能性があります。

つまり簡単に補充出来る程度のね。

これで分かりますか?」


 モルガンの目が鋭くなった。


「サロモンに本気で戦うつもりはないと」


「むしろ、その可能性が高いと思いますよ」


「戦うのはあくまでフリだと?

我々が攻撃したらどうする気ですか?」


「それは迎え撃ちますよ。

ただ魔物であるが故に……使い捨てではありませんか?」


 モルガンは唇の端を歪める。

 使い捨ててから、どうするか気付いたようだ。


「そこで大戦果だと適当に吹聴するわけですか。

捨て駒なので損害に数えない。

つまり損害ゼロで敵に打撃を与えたと。

なんとも涙ぐましいですな」


「そこまで追い込まれた……と考えるべきでしょうね」


「アラン王国民の被害は、この死臭から考えても膨大でしょうな。

恐らく万は超えているかと。

このまま黙っているとアラン王国民が暴動を起こしかねない。

だから戦う姿勢を見せたところですな。

もしくは、元同志が焦った余り焚き付けたか……。

まあラヴェンナ卿のおっしゃっていた通り……敵の動機を探るのは意味がありませんな」


 両方かもしれないしな。

 ただ戦略上動機の考慮を不要にしている。

 選択肢を縛っているのだ。

 結果のみ考えれば良い。


「敵が出陣してきた現実から、ひとつの疑問が生まれませんか?

私が引き返すことを考えないのか……と」


 ヤンが力強くうなずいた。


「それだよ。

普通は、戻るところを奇襲してラヴェンナさまを討ち取ろうと考えるぜ?

魔物なんだ。

空から急襲なり手はあるからな」


 モルガンはしかめっ面で腕組みをする。

 どうしても匂いが気になるようだ。


「それをサロモンが選択出来るのでしょうか?

ゼロなる存在まで知らずとも、ホムンクルスを倒される危険があるでしょう。

確実に戻ると思うほどサロモンは馬鹿だと思えません」


 サロモン殿下単独ならそうだろう。

 だが……。

 

「背後にクレシダ嬢がいることをお忘れなく。

ホムンクルスが倒されていることを知らないまま放置しますかね?

しないでしょう。

これでゼロが動けば……クレシダ嬢はかなりのヒントを得られますよ」


 ホムンクルスが減れば、サロモン殿下の力が弱くなる。

 その代わり手の内がバレて、クレシダとの戦いが困難になってしまう。

 それでもゼロに動いてもらうしかない。

 動かさないときの代償が大きすぎる。

 

 モルガンが腕組みをしてため息をつく。


「ここでクレシダですか……。

引き返さなくてもホムンクルスは動かしてみる。

サロモンに、クレシダの提案を断ることは出来ない。

厄介極まりないですな」


 ヤンが渋い顔で頭をかく。


「サロモンまではいいけどその先かぁ……。

クレシダってのは頭がいいのか?」


 ヤンはクレシダを強い弱いでしか見ていないようだ。


「クレシダ嬢は極めて頭脳明晰めいせきですよ」


「ラヴェンナさまほどじゃねぇだろ?」


「どうでしょうね。

私は、クレシダ嬢のほうが上だと思いますが」


 モルガンが唇の端を歪める。


「ラヴェンナ卿はご自身を過小評価しすぎです。

知力のみに限れば甲乙つけ難いと思いますね。

何方どちらも、我々凡人にとっては雲の上の存在です。

ただし人に対する有益さでは論ずるに値しません。

ラヴェンナ卿は、皆に現在と未来をもたらしました。

クレシダは? 他者に対して現在しかもたらさない。

未来をもたらすほうが余程困難ですよ」


 思わず頭をかいてしまう。


「比較はいいでしょう」


「ラヴェンナ卿のお世辞や称賛嫌いは筋金入りですが……。

それが目立つと却って鼻につきます。

適度に受け取られるほうがよろしいかと」


 ヤンが突然大笑いする。


「そうそう。

人の好意は素直に受け取っておくべきだぜ」


「分かりましたよ。

どうも最近お説教ばかりですね」


 モルガンがわざとらしいせき払いをする。


「諫言される隙を作るほうが悪いのです。

それより……アラン王国民の犠牲によってひとつ懸念が」


 前々から懸念していたが、犠牲がある程度確定してから諫言するつもりだったようだ。

 ここは聞いておくか。


「なんですか?」


「犠牲の噂が広まるとラヴェンナ卿は、冷酷非情な虐殺者という評判が広がります。

つまり人類の敵と思い込む輩が増えるでしょう。

普通であれば……評判など、さしたる力を持ちません。

ただし、その評判が粗忽そこつ者を刺激してしまいます」


「私を、悪の権化として嫌うのなら織り込み済みです」


「それでは甘いのです。

私刑を世直しと吹聴する無法者たちをお忘れですか?」


 ああ……いたなぁ。

 俺が対処する問題ではないから忘れていた。


「思いだしました。

私を殺すことが世直しになると信じるのですか?」


 モルガンはわざとらしくせき払いをする。


「御意。

たしかにひとり殺しても解決しませんが、それを理解出来ないし……したくもない馬鹿は常に存在します。

むしろ馬鹿であるほど、世直しになると信じるでしょう。

しかも対象が大物であるほど殺した自分も対等であると錯覚出来る。

実態は卑劣な殺人でしかありませんが……。

名誉欲や自尊心を満たすからこそ、昔から権力者の暗殺は尽きないのです。

それを義人やらと持ち上げる輩は多い。

馬鹿が生きていれば制御出来ない危険な存在です。

ですが……死んでさえいれば便利な神輿になるでしょう」


「そのような人が私に近寄れるとは思えませんね。

不可能でしょう」


「残念ながら……不可能ではありません。

そのような馬鹿げた行為は、冒険者との親和性が高いのです。

利で動くだけの無法者なら恐れるに足りません。

ですが、滅私の精神で本当に世直しをする……と思い込む馬鹿にはご注意を。

その手の馬鹿は、権力者は全員が民から搾取して私腹を肥やす悪人、と思い込んでおりますから。

しかも冒険者とは目立ちたがりとお人好し……そして、社会に適応出来ない屑の混じった闇鍋です。

だからこそ承認欲求は凡人より遙かに強い。

ラヴェンナ卿を殺せば名をあげる好機……と考える輩は多く存在するでしょう」


 ヤンが渋い顔で頭をかく。


「古巣を悪く言われているようだが……反論出来ねぇ。

良いヤツもいるけど、悪いヤツのほうが多いからなぁ……」


 冒険者が世直しと称して俺を狙う?

 実感が湧かないなぁ。

 俺が反論する前にモルガンは首をふった。


「否定は無駄です。

偽使徒という先例をお忘れですか?

しかも狙われたのがラヴェンナ卿ご本人です。

狙った動機が安易極まりない決め付けだったではありませんか。

それが表向きだとしても馬鹿にとっては、立派な理由たり得るのです」


 痛いところをつかれた。

 苦笑しか出来ない。


「如何なる理由でも冒険者と会うべきではないと」


 ヤンが苦笑してうなずく。


「俺っちも元冒険者だから、昔の仲間を悪く言いたくはないけどよぉ……。

暫く冒険者と会わないほうがいいぜ」


 そうするしかなさそうだ。

 それにしても世直しねぇ……。

 俺を殺して万事解決するほど世の中単純ではないのだが……。

 単純に考えたがる馬鹿ほど飛びつくわけだ。

 単純であるほど純粋に思えるからな。


「分かりました。

十分警戒しましょう」


 モルガンは満足気にうなずく。

 ようやく納得してくれたようだ。


「そうしてください。

もしラヴェンナ卿が殺されたとなれば殉死者が多数でかねないのですから」


 殉死? コイツはなにを言っているのだ。


「なんですか……その重たすぎる自慰行為は。

殉死なんて非効率極まりない……」


 モルガンはやや得意気に胸を張る。


「人は効率のみで生きるに非ずです。

生きることが不安定なら効率のみ追求するでしょうがね。

どれだけラヴェンナ卿が厳命しても止めるのは難しいでしょう。

これが、ラヴェンナ卿の積み上げてきた実績です」


 なんだか頭が痛くなってきた。

 頼むから殉死なんて止めてくれ……。


                  ◆◇◆◇◆


 チャールズに指定された待機場所は後方の宿営地だ。

 陣幕に入っておとなしく待つとしよう。

 ここまでくると流石に死臭はしない。

 

 待つ間に通信機でパトリックに連絡しよう。

 すぐに、映像のパトリックが浮かびあがる。


『ラヴェンナ卿は我々のことが見えているのですか?

第1世代2体に動きがあったので、現在向かっているところです』


 やはり複数か。

 クレシダの差し金だろう。

 サロモン殿下個人であれば、貴重なホムンクルスを小出しにはしない。


 となれば……サロモン殿下を徹底的に前座として使い倒すようだ。

 そして、背後にいる自分を忘れるな……という俺宛てのサインでもあるだろうな。

 分かる自分が嫌になる。


此方こちらが敷設した街道を目指しているはずでしょう」


 髑髏どくろのマスク越しだが、パトリックの目が鋭くなった。


『たしかにそのようですが……。

何故街道を?』


此方こちらの軍が、魔物の大軍と遭遇しました。

これから交戦しますが……。

安全を期して私が引き返すところを狙うつもりでしょう」


 パトリックは腕組みする。


『なるほど。

それで2体は念のために?

普通なら一体で事足りるでしょう』


「いえ。

クレシダ嬢が、ゼロの情報を探ろうとして2体動かしたのでしょう」


 パトリックは小さなため息をつく。


『手の内を明かさないように今回は見逃しますか?』


 それは悪手だろう。

 俺がクレシダならスルー出来ないよう手を打つからだ。

 クレシダからの問いかけは回答を間違うと大火傷するものばかり。

 面倒臭いことこの上ない。


「倒してください。

我々が動かなければ、そのまま居座って兵站を断ち切りに掛かるでしょう」


『……つまり選択の余地はないと。

ゼロにも伝えておきます』


「それともうひとつ。

街道の横に、多数の死体があると思います。

行き倒れたアラン王国民の死体が数え切れないほど」


 パトリックは声を立てずに笑いだす。


『それは助かります。

手頃な兵隊がいなかったもので』


「ではあとは任せます。

無理に2体仕留める必要はありません。

恐らく背後にクレシダがいます。

深追いしすぎると危険ですよ」


『ふと疑問に思いましたが……。

サロモンに第1世代は最後まで付き従わないのですか?』


 サロモン殿下は悉く選択肢を間違っている。

 生まれる時代を間違ったと言えば簡単だが……。

 自分では選べないからな。

 ただ不憫だとしか言いようがない。


 そんなサロモン殿下に対して、クレシダはギリギリで梯子を外すつもりだろう。


「恐らくは。

何体かは途中で引き上げると思いますよ。

基準が強弱か使いやすさ……なのかまでは分かりませんが」


 パトリックは小さく首をかしげる。


『個体の能力差があるとは聞いていませんが……。

ただ隠蔽いんぺいなどは過去にない機能です。

言われてみれば気になりますね。

ゼロに確認してみましょう』


 たしかに個体差があるとは聞いていない。

 だがクレシダは隠蔽いんぺいなどを施せるのだ。

 なにかあるのかもしれない。

 ただ考えすぎで無作為なのかもしれないが。


 どのみちゼロならなんとかするだろう。

 もし昔の学習結果しか参照出来ないとなれば……。

 異世界人も、大したことがないってことだ。


 あの様子だと自己学習機能はありそうだが。

 通信を切るとヤンが興味深そうに見ていた。

 俺の視線に気が付くと照れたように頭をかく。


「いやぁ……。

それがあるとゾエと話せるなぁと。

手紙はどうにも思ったことを書けねぇ」


 オニーシムが通信機を実用化したらした大変だ。

 俺は一体、何人と通話しなければいけないのだ?

 順番だの彼是あれこれ考えるのが大変だよ。


「アレンスキー殿の頑張りに期待しましょう」


 モルガンが突然咳せき払いをする。


「それは結構ですが、奥さま方へのお手紙をお忘れなく」


 不味い……忘れていた。

 クレシダとの対決ばかり考えていたからなぁ。


「分かっていますよ。

それにしても、ルルーシュ殿が、このようなことに口を挟むとは珍しい」


 モルガンがやや辟易した様子で肩をすくめる。


「キアラさまから強く依頼されていますから。

無視しても良いのですが……。

女性からの恨みは可能であれば避けておきたい。

ラヴェンナ卿の無精のせいで私がとばっちりを受けるのは馬鹿馬鹿しいですからな」


 どうもミルたちに甘えてしまっているな。

 合間を見て手紙を書こう。

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