948話 閑話 極めて無駄な買い物

 ランゴバルド王ニコデモは極めて不機嫌であった。

 表情にこそ表さないが……。


 ラヴェンナがすべて支援すると表明した書状を、宰相ティベリオ・ディ・ロッリが読み上げたとき、思わず舌打ちをしたほどだ。

 至急、廷臣たちが招集される。


 ティベリオは新代表の行為に、渋面を隠せない。

 警察大臣ジャン=ポール・モローは涼しい顔で、廷臣たちを侮蔑の目で見ている。


 廷臣たちはニコデモの様子を窺うも、ニコデモの表情は分からない。

 ニコデモは気怠けだるげに、首をかしげる。


「卿らに集まってもらったのは、この件についてだ。

突然のことで、余は驚いているが……」


 ティベリオが新代表の書状を読み上げる。

 廷臣たちの反応は様々。


 ある者は大袈裟に驚く。

 ある者は意地悪な笑みを浮かべている。

 知らないはずはない。


 新代表は廷臣たちの仲間だ。

 共謀していないほうがおかしいのだから。


 ニコデモは廷臣たちを見渡す。


「そもそも我が友に、これがあたうのか?

卿らの意見を聞きたい」


 廷臣のひとりが身を乗りだす。


「恐れながら申し上げます。

ラヴェンナ卿が陛下に忠節を尽くすなら、まず懸命にやるべきでしょう。

あたうもあたわざるも無関係です。

ラヴェンナ卿が忠臣であれば、まずは最善を尽くすでしょう。

最善を尽くした上で力及ばず……となれば、陛下が慈悲として、手を差し伸べられるが宜しいかと」


 別の廷臣がうなずく。


「まさにその通り。

ラヴェンナ卿は商人が如く利益ばかりを計算する。

揚げ句の果てには利便性を建前に、実体のない取引まで公認しています。

これは由々しき事態でありましょう。

利にばかり走る性根を矯正するべきです。

高貴な身分であれば、相応の品格が求められるのを忘れているようですからな。

そもそも……あたわざるとすれば、それはラヴェンナ卿の努力が足りないからではありませんか?」


 ニコデモは表情を変えない。

 ティベリオも同様。

 だが廷臣たちの動機が嫉妬と恐怖であることは改めて認識したようだ。


 アルフレードが経済圏で実施している実体のない取引。

 これが莫大ばくだいな利益を生みだしていた。

 詳しい運用実態を調べるために、経済圏に深く食い込む決定を下しているが……。

 否定的ではない。

 まずは知るところから始めるのがニコデモである。


 ところが廷臣たちは理解を拒み、恐怖と憎悪を募らせているのであった。

 投機を煽って経済を壊すというのでは……との恐怖。

 破滅せずに利益をだしていることに対する嫉妬が、憎悪に変わる。


 ジャン=ポールはフンと鼻を鳴らす。

 『出来ないのは、努力が足りないからだ』如き精神論は、軽侮に値するものだった。

 勝算なき努力は愚行と考える。

 極めて現実的な男であった。


「ラヴェンナ領のみで、アラン王国を支えられるとお考えですか?

臣には不可能としか思えませぬ。

それを忠誠の踏み絵とするのは、如何なものかと」


 ニコデモたちは、ラヴェンナの収益を完璧に把握していない。

 それでも大まかな収益は、内乱時にアルフレードから聞いていた。

 廷臣たちもそれは知っている。

 廷臣のひとりが唇の端を歪めた。


「成り上がり者はこれだから困る。

それはラヴェンナ卿の言葉であろう。

ラヴェンナ卿の申告を信じるようでは、大臣として如何なものかな?

我らの計算では可能と見ている。

自領の利益を第一とするラヴェンナ卿と、陛下に仕える我らの言葉と何方どちらを信じるのかね?」


 新代表と廷臣らの書簡の往復は活発だ。

 その中で一応の計算をしたのだろう。


 ニコデモは、その計算なるものが楽観に楽観を積み重ねた妄想に等しいと考える。

 同時にアルフレードから聞いた言葉を思いだしていた。

 

『心理的な解決を現実的な解決と混同する人は多いですね』


 まさに廷臣たちは心理的解決を目指して、それで満足しているかのようであった。

 

 別の廷臣が諭すような笑みを浮かべる。


「ランゴバルド王国が世界で指導的立場を担うための礎だよ。

どうもラヴェンナ卿は、自領が安全なせいか、世界の危機に他人事だ。

そうではなくランゴバルド王国の一員として、自覚を持ってくれ……。

そのような発破だ。

このような意思を表明することで、『本腰を入れて支援するゾ』という空気が、他家にも伝わるだろう。

そこにこそ意味があるのだよ」


 この人物は廷臣たちの中で、比較的中心的人物だった。

 意気込みなどの空論を多用する。

 昔ならそれでもよかったが……。

 ジャン=ポールは空論を『無能者の自慰行為』と軽蔑していた。

  

 流石に耐えかねたのか、ティベリオがせき払いをする。

 

「仮に卿らの計算が合っていたとしてもだ……。

ラヴェンナだけに義務を負わせるのは、筋が通らない。

スカラ家が黙っているとは思えないな。

卿らはスカラ家が黙認するとでも思っているのかね?

ラヴェンナの治安が乱れたら、スカラ家にも影響が及ぶのだ」


 先ほどの廷臣が苦笑する。


「スカラ家は、我々上流階級に借りがありましょう。

此度こたびの婚姻話で、結婚相手の家格があがりました。

スカラ家の面子を立てるため、我々も同意しましたが……。

ランゴバルド王国のために働くことで借りを返す。

そうでなくては魔物の被害に遭っている家は承知しないでしょう。

今でも不公平だとの声があがっているのです。

スカラ家こそ率先して、ラヴェンナに支援するように求める義務があるかと思いますな」


 ランゴバルド王国は不滅であり、ラヴェンナが反旗を翻しても、簡単に討伐出来ると信じているらしい。


 ニコデモは珍しく笑みを浮かべる。

 ティベリオとジャン=ポールは顔を見合わせる。

 アルフレードほどではないが、ニコデモの笑みは危険なのだ。

 すぐにふたりは嫌そうな顔をして、顔を背ける。


 廷臣たちはニコデモの笑みに驚愕きょうがくした。

 ニコデモは穏やかな笑みを浮かべたまま、椅子にもたれかかる。


「卿らはひとつ大事なことを忘れていないか?」


 別の廷臣が怪訝な顔をする。


「恐れながら陛下。

それは一体?」


「余を含めて、卿らがここに座っていられるのは、誰のお陰かな?

我が友が余との友誼に、疑念を持つようなことがあっては困るな。

卿らと我が友。

仮に対立したとき……余が何方どちらを重視するか考えたことはあるかね?」


 ニコデモの口調は、かつてないほど優しい。

 ティベリオとジャン=ポールは、背筋を伸ばす。

 思わず鳥肌が立ったからだ。

 ニコデモに問いかけた廷臣は気がつかないらしい。


「恐れながら……。

陛下は大変義理堅くあらせられます。

その真心が、果たしてラヴェンナ卿に伝わっているのか……。

増長すらしているのでは……と臣は、懸念する次第であります」


 廷臣たちはまだアルフレードの怖さを知らない。

 腹黒3人衆は、アルフレードが話の通じない相手と判断すれば? 取り付く島もない態度になると知っている。

 そのときは一切の慈悲なく徹底的にやるだろう。


 ニコデモは、目を細めた。


「我が友が増長して、余をないがしろにしていると?」


「そこまでは申しませんが、そのような気配があるのではと。

ここはひとつ陛下の威光を知らしめるべきではありませんか」


 ニコデモは唇の端を歪める。


「気配と言われてもなぁ。

なにか思い当たる節があるなら申してみよ」


「シケリア王国のペルサキス卿の婚姻です。

一家臣の分際で、他国の要人と婚姻関係を結ぶなど……。

甚だ不遜ではありませんか」


 ニコデモは、小さく笑いだした。

 ティベリオとジャン=ポールは、かすかに身震いする。

 天変地異の前触れのような気がしたのだ。


「その件であれば、余が許可した話だ。

それを忘れたのか?」


 あの結婚は、アルフレードの独断だけで決定していない。

 スカラ家とニコデモの承諾は得ているのだ。

 だが廷臣は、正当な許可だと思わないらしい。

 慇懃無礼に一礼する。

 モルガンほど堂々としたものではなく言い逃れ可能な程度だが……。


「忘れてなどおりません。

ただ当時の陛下は、即位されて間もなく、ラヴェンナの援助が必要でしたから。

『陛下の弱みにつけ込んだ、卑劣な要求である』と、臣は内心義憤に駆られておりました。

本来なら空気を読んで、ラヴェンナ卿から辞退すべきではと」


 ニコデモはたまらず吹き出した。

 ある人物の言動を想起したからだ。


「状況が変わったら、当時の約束は無効だと。

卿は余を、ロマンにしたいようだ。

これでは話にならないな」


 ロマンと言えば、暗君の代名詞となっている。

 つまり国王にとっては最大の侮辱で、下手をすれば首が飛ぶ。

 廷臣の顔が青くなる。


「ですが陛下……。

他国の前で『ランゴバルド王国が、主体となって援助する』と表明してしまいました。

ここで前言を翻しては、陛下の名誉に傷がつきます。

まずは宣言通り、ラヴェンナ卿にご下命すべきかと」


 状況が悪くなったので、論点をすり替えて逃げを打つ。

 アルフレードなら許さないが、ニコデモは違う。

 内心での評価を下げるだけ。

 その結果として封土されていない家臣は、飼い殺しとなる。

 表向きはなんらかの役職を与えるなどして、体裁だけは整えるが……。


 ティベリオとジャン=ポールは、その怖さを知っているだけに、ニコデモへの進言は慎重になる。

 内心の評価なので、知りようがないからだ。

 分かるのは確定してから。

 しかも挽回の余地は与えられない。


 ニコデモはティベリオを一瞥する。


「宰相はどう思うか?」


 ティベリオは生真面目な顔で一礼する。


「たしかに人類連合で約束してしまったのであれば、軽々に破棄することは難しいでしょう。

ですがなど、他国は意に介さないでしょう。

支援自体は国としての問題ですが、誰が負担を負うかは、国内の問題なのですから。

それにラヴェンナ卿に、過失があるわけでもない。

却って国内の不和を知らせてやるようなものかと」


 廷臣たちの表情が曇る。

 にニコデモは、楽しそうにジャン=ポールを一瞥する。


「警察大臣はどうか?」


 ジャン=ポールは廷臣たちの予想に反し、渋面を作る。


「宰相殿の言は道理ですが、我が国で最も富んでいるのはラヴェンナ卿でしょう。

たしかにラヴェンナ卿のみに負わせる必要を感じません。

ですから富んでいる者のみを、対象とすべきではありませんか。

ラヴェンナ卿を除外しては、皆が納得しないかと」


 廷臣は意外そうな顔をする。

 普段のジャン=ポールであれば、ティベリオに乗っかって自分たちを責め立てる。

 まさかの援護射撃に、戸惑いを禁じ得なかったのだ。


 ティベリオの目が、かすかに鋭くなる。


 ジャン=ポールの真意を察したようだ。

 この男は吝嗇とは無縁。

 必要であれば金に糸目は付けない。

 ただしそれは、自分のためになることに限る。

 慈善事業などには見向きもせず『施しなど見栄のための自慰行為だ』と軽蔑していた。

 表だって口にすることはないが、部下には漏らしている。

 それを隠さず流させた。

 

 そうすれば、慈善事業への参加は求められない。

 当然評判は落ちるが、これ以上落ちる評判などなかった。

 

 ニコデモは、優しい眼差しでうなずく。

 その場にいる全員が、悪い予感に襲われる。

 鈍感な廷臣たちですら、身構えるほど気味悪い優しい顔であった。


「警察大臣の言には、一理ある。

たしかに我が友のみ負わせるわけにはいくまい。

だから……と富んでいる者のみとしてはが現れて、国内に亀裂を生んでしまうな」


 廷臣のひとりが、ニコデモの真意を悟り、顔面蒼白そうはくになる。


「陛下……お待ちを。

まさかとは思いますが、全員で背負うのですか?」


 ニコデモは不思議そうな顔をする。

 白々しい演技だが、焦る廷臣たちは気がつかなかったようだ。


「よく分かっているではないか。

『本腰を入れて支援するゾ』と、他家にも知らしめたいのであろう?

それなら面倒なことをせずとも……が負担すればいいではないか」


「お言葉ですが……。

商人の如く、利益に貪婪どんらんなラヴェンナ卿にのみ吐きださせるべきかと。

陛下のご友人でありながら利に走るとは、極めて品性が疑われます。

『ひとりだけ富むなど許さない』と警告にもなりましょう。

こうも不公平では国内の和が保てませんから」


 ジャン=ポールは唇の端を歪めた。

 自分が巻き添えになる嫌悪感より、廷臣たちへの軽侮が勝ったらしい。


 アルフレードが、自分たちに付け届けをしないことに腹を立てている……と本音を漏らしたのだ。

 付け届けをしても、讒言されない程度の効果しかない。

 だからアルフレードは付け届けなどしないのだ。


 ニコデモは、わざとらしく苦笑する。


「仮に我が友のみ背負わせた場合、……と対外的に公表するようなものになるぞ。

少なくとも余に話をするより、我が友に話を通したほうが早い……となるだろう。

そもそも我が友ひとりに国の名誉を背負わせたら、余自身が道理をわきまえない国王と見なされる。

仮に懲罰なら、国外には分からぬようにするものだ。

罰を与えることに酔いたいなら、話は異なるが……。

卿らの期待通りにならないのは残念だったな」


 廷臣たちは絶句する。

 ティベリオはそれを見て、皮肉な笑みを浮かべた。

 元から結果は見えていたのだ。

 ただ形式を整えただけ。

 そして新代表の暴走は、当然連帯責任となる。

 新代表は廷臣たちに推挙させたからだ。


「恐れながら陛下。

彼らは陛下の御為おんためなら、喜んで行うでしょう。

ラヴェンナ卿を貪婪どんらんだ……と指弾するほどなのです。

期待されて宜しいかと」


 言いだした者が、重い負担を背負え。

 ティベリオにすれば、この位は当然の報復なのだ。

 ティベリオも、財をある程度吐きだすことになるが……。

 どうせ賄賂で取り戻せる。

 それ自体大きな問題ではない。


 アルフレードの態度がどうなるか心配であった。

 黙って殴られるタイプではない。

 取り次ぎ役として胃の痛い思いをするのはティベリオなのだ。

 廷臣たちは今後冷遇されるが、それだけでは物足りなかった。


 廷臣のひとりが驚いた顔をする。

 これだけ言われて、気がつかない程馬鹿ではない。


「宰相殿。

我らは俸禄ほうろくのみで、領地を持っておりません。

意あれど、力及ばず。

誠に残念ですが、我々は支援出来ません」


 ジャン=ポールが思わず失笑する。

 あれだけ『出来ないのは、努力が足りないからだ』と言っていた人物が出来ないと言いだす。

 笑わずにはいられなかった。

 廷臣たちはジャン=ポールを睨みつけるが、やや腰砕け気味だ。


「つまり自分の懐からは僅かでもだしたくないが、ラヴェンナ卿には支えきれない支援をさせると。

いやはや……。

高貴な身分の方々とは、恐ろしいほど面の皮が厚いですなぁ」


 廷臣たちの顔が赤くなる。

 文句でも言おうとしたのだろう。

 それをニコデモが、手で制する。


「そのくらいにしておけ。

そうだな……。

代表の意向に、卿らは賛同しているのであろう。

ならば額の多寡は関係あるまい。

卿らの俸禄ほうろくを削って、支援に回すとしよう。

だ。

卿らの和を乱すのは、余の本意ではないからな」


 廷臣たちが項垂うなだれた。

 それを見たティベリオは、皮肉な笑みを浮かべる。


「それでは如何ほど、支援に回しますか?」


俸禄ほうろくを与えている貴族、大臣は収入の1割でよかろう。

ただしこれを主導した代表及び、推挙した卿らは連帯責任で……3割だ。

卿らが自ら率先して身を切る姿勢こそ必要だろう?

当然……これは卿らの熱意に、余が折れたからだ。

本来であれば、支援などする義務はない。

だが……他国に支援を表明した手前、撤回しては余の名誉に関わると聞いたからな」


 廷臣たちの顔が、今度は青くなる。

 これでは、貴族たちの憎悪と反感が、自分たちに集中することは明白なのだ。

 3割の収入減と引き換えに数え切れない憎悪。

 憎悪ならタダで買えるのに、金を払うとは……極めて無駄な買い物である。


 ジャン=ポールは微妙な表情になる。

 廷臣たちが、地獄を見るのは心地よい。

 だが自分の懐が痛むとなれば、素直に喜べないのである。


「陛下。

役人たちは負担せずとも宜しいので?」


「当然だろう。

役人たちにこれを決定する権利はない。

ましてや庶民に臨時課税もまかりならぬ。

アラン王国を支援した結果、治安が悪化しては困るからな。

また商人も対象になるまい。

下手をすれば、付き合いがある貴族たちから無心されるのだ。

余が追い打ちを掛けるべきではないだろう」


 商人に負担を押しつけると、物価に反映されてしまう。

 それでは結局治安の悪化を招くのである。

 経済にそこまで詳しくないが、このような茶番劇を演じた揚げ句、苦労が増えるのは避けたかった。


 ジャン=ポールは不承不承といった体で一礼する。

 せめて道連れを増やしたかったらしい。


「それにしても……。

陛下のご下命とは言え、他の者たちが納得するでしょうか。

今少し対象を広げられては?」


 ニコデモは楽しげに笑いだす。

 全員が身構える。


「警察大臣は心配性だな。

その心配はない。

新代表を推挙した者たちが、説得してくれる。

卿ら……忙しくなるぞ」


 廷臣たちの顔が、青を通り越して蒼白になった。

 ニコデモに対して支援するように押し切った形になっただけでなく、説得までせよ。

 これは死刑宣告に等しかった。

 恨まれるどころの騒ぎではない。

 しかも説得に失敗したら、自分たちの責任なのだ。


 もしニコデモが主導したなどと漏らせば、自分たちが処罰される。

 進むも地獄、引くも地獄。

 逃げるも地獄であった。

 

 ティベリオとジャン=ポールは、ニコデモがどれだけ腹を立てたのか痛感した。

 だがティベリオは痛感しているだけで済まない。

 ニコデモに確認すべきことがあった。


「土地持ちは如何様に?」


 ニコデモはアゴに手を当てる。


「流石に1割など取れまい。

領地への影響が大きすぎる。

収入の100分の2程度が限度だろうな。

領地で問題があれば、自力で対処が必要になるだろう。

予備を奪って乱が起きたら、余が後始末をする羽目になる。

そのようなときに再び変事が起こっては如何ともし難い。

領地持ちの額は必然的に大きくなるが……。

発案者が3割負担であれば飲むだろう?」


 ジャン=ポールは半ばやけくそ気味に一礼する。


「なるほど。

恨まれると知りつつ、陛下の名声を高めるために我が身を切る。

臣は高貴な身分の方々に感服いたしました」


 自分が損をするなら、少しでも愉快な気分になれるほうを選択したらしい。


 ニコデモは満足気にうなずいて、軽く手をあげる。


「詳しい沙汰は追ってするとしよう。

大義であった。

卿らは下がって宜しい。

ただし宰相と警察大臣は残るように。

我が友を説き伏せる知恵を借りねばならぬからな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る