910話 酷く雑な筋書き
ピエロ・ポンピドゥの目撃情報は
情報が落ち着くのは、しばらくかかりそうだ。
ジャン=クリストフ・ラ・サールの新教団は、急激に勢力を拡大している。
人は目に見える奇跡に弱いのだ。
信じたい事実に
教皇庁はどうだろうか。
ジャンヌが体調を崩し、静養しているとの報告が届いた。
教皇庁からの急使が、直接俺に伝えてきたのだ。
シスター・セラフィーヌにはあとで伝えると。
内容自体は平凡なものだった。
『最近の寒さで体調を崩してしまい、指揮が困難になっている。
直前に迫った問題の対処は避けられない。
指揮が出来る高位の騎士を派遣してほしい』
なるほど……。
額面通りに受け取ってはいけない話だな。
俺は『前向きに検討する』と急使に回答する。
急使は感謝しつつ『くれぐれもご内密に』と言い残し、去っていった。
ホールに戻ってから、キアラがお茶を煎れてくれる。
すこし困惑顔のようだ。
キアラは同席していたが、あえてなにも言わなかったな。
「お兄さま。
これはどういうことですの?」
全員が集まってきたので、状況の説明をした。
内密には、外部に漏らさないことだ。
身内には問題ない。
そもそも……それすらもメッセージのひとつだろう。
急使の意味を全員が考え込む。
ここで俺の見解を話そう。
「まあ……。
私宛てのメッセージですよ」
キアラは
「お兄さま宛てのメッセージですの?」
「倒れたとしても
本当に倒れたのかも隠し通せるかわからない。
当然演技として、ベッドに伏せるでしょうけど。
騙すことが目的ではありません。
では陰謀を止めるためでしょうか?」
キアラは即座に首をふった。
当然だ。
その程度で思考を止められては困る。
「病気ならそのうち死ぬだろうと?
それこそ、甘い考えですわ。
もし軽微なら待つだけ無意味ですもの。
石版の民が教皇庁に詳しくなったら、計画の難易度があがりますわ。
それなら不慣れな間に決行すべきです」
そう。
だから体調を崩したこと自体に意味はない。
「ではなにが目的か。
私になにか伝えるためですよ」
「それにしては不可解です。
体調を崩しては、健康上の不安を理由に退位を迫られる危険がありますわ。
『病気で判断力が落ちたから、石版の民を引き入れた』とも言われかねません。
それだけの危険を冒す理由はありますの?」
生前退位は大変困難だろう。
だから危険ではない。
発言力は低下するだろうが……。
「疑問に思う人はキアラだけではありません。
旧ギルド首脳陣や世界主義も同じように真意を疑うでしょう。
仮に体調が悪くても、教皇位は基本終身制です。
途中解任が出来るのは使徒だけですよ。
すぐに回復したと言われては、悪戯に時間を稼がれるだけ。
成功率は落ち込み決行すら危ぶむでしょう」
キアラは大きなため息をついた。
「なんだか意味不明ですわ」
「では状況を整理しましょう。
旧ギルド首脳陣は、ポンピドゥ殿が魔物化して困っているのです。
逡巡している状態ですね。
世界主義側は急かすけど、旧ギルドは立ち止まっています」
「ピエロを教皇殺害の首謀者にするはずでしたわね。
いなくなっては責任を押しつけられません。
仮に殺害に成功した場合、誰を生贄にするかでもめていますわ。
世界主義にすれば、ツケを払うのは旧ギルドなので、どうでもいいでしょうけど……。
旧ギルドにとっては一大事ですわね。
体調不良と聞けば、旧ギルドは判断を保留する口実が出来る。
じきに死ぬかもしれないなら、危険を冒す必要はないと。
では……時間を稼ぐためですの?」
「いいえ。
そうなれば最悪中止です。
困るのは教皇
陰謀が中止されては、粛正の口実を失いますからね。
自身の権威にも傷が付きます」
「たしかに……。
石版の民を教皇庁に入れて、なにもないと教皇権威の低下になりますわ。
つまりピエロの魔物化で、教皇
そこまでは理解出来ますけど……。
事態を打開するために、ラヴェンナ騎士の派遣を望むのでしょうか。
意味などないと思いますわ」
なるほど……。
あらゆることに意味を求めてしまっているな。
「騎士の派遣なんてされたら困ると思いますよ」
「え……? それがメッセージですの?」
「私に伝える内容は、必ず敵に漏れます。
反教皇派に黙認レベルで協力する人たちは多いでしょう。
そのような状況下で秘密の維持は困難ですよ」
「立ち位置が怪しい人たちすら……。
近くに置いているのですか?
危うい賭けだと思いますわ」
「完全な味方だけで固めては、粛正後も恐怖が残ります。
『中立派すら信用していない』と示すことになりますから。
教皇としての正当性が弱まりますし、新たな反教皇派を生みだしかねない。
だから漏れることを前提に動きます。
騎士の派遣要請は『直前に迫った問題の対処』のため。
しかも高位の騎士だけ派遣するわけがありません。
当然騎士団もセットです。
これはなにを意味すると思いますか?」
キアラはアゴに指をあて、考えるような顔をする。
「教皇
証拠を提示して、手順通り処置しようとしても……。
親教皇派以外は反対しかねませんもの。
反対を押し切って粛正しては、教皇権威の失墜になるし……敵に準備する時間を与えてしまいます。
それこそ暗殺が失敗しなければ、幾らでも反対出来ますわ」
「もし隠さなければ、ただの脅しだと考える危険性があります。
石版の民に加えて、ラヴェンナ騎士団まで入れようとすれば、使徒騎士団の面目は丸つぶれ。
私がそれを指摘する可能性すらあります」
「実際に派遣しない可能性が高くなるわけですね。
それは状況次第で派遣出来る……脅しにしかならないと」
「敵に静観を選択されては困るのでしょう。
だから内密にと願ったのです。
これは私に対して、証拠をつかんだというサインになるでしょう。
ここまで教皇
しかも私に嘘をついて利用しようとすれば……。
誰に対しても容赦しないことは周知の事実ですからね。
だからこそ口止めしたことで、実力行使が真実味を帯びる。
まあ……ハッタリですよ」
俺もジャンヌの計画が成功してくれないと困る。
だからこそ、俺に助力を頼んできたのだろう。
キアラは驚いた顔になる。
「ハ……ハッタリ?
嘘のために、騎士団の派遣を内密に依頼なんて、お兄さまの機嫌を損ねますわ」
キアラですらそう思うのだ。
だからこそこのハッタリは効果がある。
ジャンヌは教皇にしておくのが勿体ないほどの根っからの勝負師だ。
「ええ。
だからこそ敵も信じるわけです。
つまり陰謀をさっさと実行せよと
私が理解することを期待してね」
「理解したから派遣の姿勢を見せる……と考えたのですか?」
「最低限の期待は。
ですがそれでは芸がなさ過ぎる。
尊敬に値するご老体の期待に、若者としては応えるべきですね。
キアラ。
マンリオ殿に書状を送ってください」
キアラは微妙な顔でうなずく。
「突っ込みませんわよ。
それで……どのような内容ですの?」
いちいち言わなくてよろしい。
「噂を流すように指示してください。
『旧ギルド首脳陣に、教会内の反教皇派と結託して教皇暗殺を企む者がいる。
それを知ったポンピドゥ殿が阻止しようとした。
残念ながら旧ギルド首脳陣に察知され、ポンピドゥ殿は更迭寸前に陥る。
それでもポンピドゥ殿は止めさせようと、放送で暴露を考えた。
暴露されては、旧ギルド首脳陣の身が危うくなる。
だから暴露を阻止すべく、ポンピドゥ殿に毒を盛った。
どうやら悪魔の地に隠されていた、特殊な毒を使ったらしい。
その毒のせいで魔物化してしまった』
このような感じで」
キアラは呆れ顔でため息をつく。
「まあ……。
酷く雑な筋書きですわね。
大噓だらけですし、安い大衆芝居みたいですわ」
たしかに酷い嘘だ。
小物を正義の味方にしてしまうのだから。
モルガンが小さく首をふる。
「この場合、雑なほうがよろしいでしょう。
巧緻では大衆の興味を引きません。
雑で単純な善悪の対比こそ、大衆の好物です。
人は群れるほど、愚かになりますからな。
所詮は利用出来るが、軽蔑に値するだけの存在です」
個人なら様々な考えが出来る。
ふたりになると、ふたりが共有出来る認識で行動することになる。
そのとき、個人なら選択出来る手段を捨てるだろう。
人が増えるごとに共有出来る認識は減っていく。
最後は、怒りか悲しみしかなくなってしまう。
本能的な感情が、最後に残る共通項なのだから。
だからこそ利用する場合は、感情に訴える。
理性に訴えても、群衆たり得ない。
理性に訴えるように見せかけて、感情を揺さぶる。
これが演説であり、扇動の目的だ。
正直過ぎて否定しようがない。
俺は苦笑しか出来なかった。
「そうでなくては群衆たり得ませんからね」
「群衆に埋もれてはラヴェンナ卿とて、凡夫になり下がるでしょう。
まあ……ラヴェンナ卿なら埋もれずに、そっと背を押すだけだと思いますが」
そうだな。
理性的や小難しい話は嫌われる。
関わるなら一瞬だけ。
それも深入りしないことが肝心だ。
プリュタニスは腕組みをして、首をかしげる。
「一見すると雑ですが……。
とんでもなく
プリュタニスは気が付いたか。
「元々旧ギルドの首脳陣は、ポンピドゥ殿に責任をなすり付けるため、下準備をしていたでしょう?
目的をすり替えると楽しいですよ。
ポンピドゥ殿を落とすために掘っていた穴に、自分たちがはまるのですから」
キアラは満面の笑みを浮かべる。
「ああ……。
ピエロは陰謀を知っていたことになっていますものね。
黙認していたとして、責任を取らせるつもりですもの。
それをやっていたのは旧ギルド首脳陣。
今更否定出来ませんものね。
とんでもない大噓でも、自分たちが下地を作ったから信じられてしまうと。
酷い乗っ取りですわ」
「議論でも大義名分の争いでもそうですが……。
相手のだした根拠や行動を逆用するのが鉄板です。
折角彼らが、一生懸命仕込んだのです。
捨てては勿体ないでしょう?」
モデストが声を立てずに笑う。
「ラヴェンナ卿らしいですね。
まさかラヴェンナ卿が、ピエロの肩を持つとは、思いも寄らないでしょう。
ありもしない毒の話をされては、ないことなど証明出来ない。
無理に潔白を証明しようとすると、今度は自分たちの陰謀が露見してしまうと。
いやはや……雑で手抜きに見えますが……実に愉しい陰謀です」
モルガンが感心した顔でうなずく。
「恐れ入りました。
このような噂が広がれば、連中が動かなくても、教皇
ピエロが魔物になったのは事実ですからね。
すこし強引でも調べることは出来ます」
アーデルヘイトが遠慮がちに挙手する。
「あのぅ……旦那さま。
私は賢くないのでわからないのですけど。
くだらない質問をしていいですか?」
卑下し過ぎだなぁ……。
愚かなら、大臣職は務まらないぞ。
「アーデルヘイトは、決して愚かではありませんよ。
ただ陰謀の世界が、肌に合わないだけです。
あまり自分を卑下しないでください」
モルガンが、わざとらしい
形勢が悪い……。
俺の言葉を利用して攻撃されるときつくなる。
不利を悟ったなら逃げるのが懸命だ。
話題を変えよう。
「それにくだらない質問なんてありませんよ。
なにか疑問があるのでしょう?」
「はい。
なぜ教皇
旦那さまの評価通りの人なら、自力で相手を嵌められると思います」
素朴だが、真っ当な疑問だな。
俺が評価するなら出来るだろうと。
「いい質問ですね。
手段を選ばなければ出来ると思います。
ただ教皇庁内の権力闘争になると、有効な手段が限られるのですよ」
「限られる……ですか?」
もし普通の教皇なら選択出来る手段がない。
制約が厳しいのだ。
まだデメリットが、メリットに転化するときではない。
「反教皇派は、退位させる口実を、血眼になって探しています。
すこしでも不正な手段を選択したら、それを口実に退位を迫ってくるでしょう。
嫌な話ですが……。
異例の女教皇なのです。
男教皇より、ずっと教皇らしさを求められてしまうのですよ。
『だから女教皇はダメなのだ』と言えば、一定の説得力が生まれてしまうのですから。
隙を見せない立ち振る舞いが求められます」
アーデルヘイトは納得した顔でうなずく。
「あ~。
なんとなくわかってきました。
たしかに今の社会だと、女性が男性と同等の能力だと文句を言われますね。
しかも完璧ではないと、ケチまでつけられます。
教会はそのような慣習が強いのですね」
「そうです。
それと石版の民への監視も相当強いと思いますよ。
だから言い逃れ出来る手段を考えるより、私を頼ったほうが確実と考えたのです」
アーデルヘイトはなぜか胸を張る。
「困ったとき、偉い人が頼るのは、いつも旦那さまですね。
私も鼻が高いです」
いや……頼ることをなくしてくれ。
今まで黙って考え込んでいたカルメンが、両手を合わせた。
「たしかに
アルフレードさまの策にしては、少々味が薄いと思っていました。
もうひとつ、隠し味があるでしょう?
ようやくわかりましたよ」
俺に、一体どのような印象を持っているのだ。
まあ……今回は合っているが。
「そのような大袈裟な話ではありませんよ。
ただのついでです」
モルガンが渋い顔で頭をかく。
「あまりの
まだなにかあるのですか?」
そこまで注目されると気恥ずかしい。
「単純な話です。
ポンピドゥ殿に近かった人たちは、逃げ道が出来たと思うでしょう?
自分たちもポンピドゥ殿の協力者だと言ってね。
旧ギルドは内部分裂を起こしますよ」
キアラが皮肉な笑みを浮かべる。
「死人ではありませんが、魔物に口なしですわね。
では新ギルドに寝返るつもりですの?」
そうしたいだろうな。
ただしマウリッツオには言い含めてある。
すぐに拒絶しないようにと。
梯子を外して団結されては面倒だからな。
「仲間を売ってでも助かろうとします。
さぞ楽しい内ゲバが見られると思いますよ。
でも逃がすつもりはありません。
分断して各個撃破するための布石ですよ」
戦争でも陰謀でも……敵を分断して各個撃破するのがセオリーだ。
プリュタニスが苦笑しつつ、腕組みをする。
「アルフレードさま。
ひとつ疑問があります」
「なんでしょうか?」
「教皇庁にいる旧ギルド幹部が、逃亡を図ったらどうしますか?
いざとなれば、狂犬の元に転がり込めると考えるはずです」
たしかに、コネはあるからな。
だがそれはない。
「ああ……。
それはご心配なく。
クノー殿から『逃がすつもりはない』と、書状が来ましたよ。
魔力の調査は、旧ギルドを掃除してからと言ってきました。
どのような手を使うかわかりませんが……。
言葉通り逃がさないでしょう」
モルガンは
「もしやこれを見越して、クノー殿に指示をされていたのですか?」
いくつも指示をしていたら、俺の注意が散漫になるだろう。
しかも未来を予測してなど不可能だ。
「いいえ。
独自の判断で動いて構わないと伝えてありますからね。
距離がありますから、いちいち私にお伺いを立てていたら、好機を逃がすでしょう」
モルガンの目が鋭くなる。
なにかあるのか?
「家臣を信じて任せるのは結構ですが、失敗したときのことはお考えですか?」
ただ信じるだけは怠慢だろう。
仮に失敗したときのケースも考えている。
「当然ですよ。
やってはいけない事項だけ伝えています。
言及しないことに関して失敗しても、
「それはそれで、美しい話ですが……。
度が過ぎると、甘えになりますぞ。
ときには厳罰も必要だと思います」
信じ過ぎるように思えたのか。
軽微な過失でも、見せしめで処罰せよと。
だが見せしめは嫌いだ。
手っ取り早く効果を得ることは出来るが、皆の萎縮を招いてしまう。
「必要であればしますよ」
「それは一体、どのような失態を犯したときで?」
ここで処罰の基準を問うてきたか。
賞罰の基準は明確にするのが基本方針だ。
あるときだけ見せしめのため処罰しては、この基本方針を崩すことになる。
「義務を果たさず、上手い言い訳が出来なかったときです」
モルガンの目が点になる。
「聞き間違いかと思いましたが……。
上手い言い訳なら、咎めないと?
言い訳など見苦しいとするのが、一般的な慣習でしょう」
言い訳と聞けば、悪い印象を持つな。
だが言い変えれば弁明だ。
その弁明に正当性があるなら? 指示した側に
それを無視して言い訳と片付けるのは、上位者のやるべきことではない。
たしかにそのほうが楽に思えるし、使徒教徒になら通用する。
ところが多種族が集うラヴェンナで、それはマズイ。
不和の元になる。
「筋の通った言い訳が出来る場合は…
不可抗力か……
それを罰することに理がありません。
ルルーシュ殿の忠告はわかります。
『温和な主君であることに酔って、身を滅ぼすことがないように』と、私の注意を喚起しているのでしょう?」
モルガンは慇懃無礼に一礼する。
「御意にございます」
「私は自分に酔えない性格でしてね。
そもそも失敗を、純粋悪としないのです。
ただ行き過ぎと思ったときは……。
ルルーシュ殿が忠告してくれればよいでしょう」
「結構な心がけですが……。
なぜそこまで家臣に権限を委譲するので?
ラヴェンナ卿ほどの才知なら、ご自身で決めたほうが、効率はいいかと」
モルガンは不思議そうな顔をしている。
よく言われる疑問だな。
「もし私が細かなことまで口出しすると、家臣は信用されていないと思うでしょう。
そうなれば、進んで率直な意見を述べず、従順に従うだけになってしまいませんか?」
「ふむ……。
あくまで権限の委譲は必要と?」
「世の中にはあらゆる問題があり、それが千変万化するでしょう。
それならこちらも変化して対応すべきです。
そこで多くの家臣に、権限を委譲して討論させるべきでしょう。
このように1日の間に、多くの問題が持ちあがる状態で、すべてをひとりで決裁出来ますか?」
モルガンは渋い顔をする。
「難しいでしょうな。
ただしラヴェンナ卿なら出来そうな気がします」
「それは今のところだからです。
将来起こる問題は、より複雑になるでしょう。
そのうち心身が疲れ果てるほど自分を酷使しても、すべて理に適うようにはなりません。
そもそも1日10を決裁すれば、半分は間違っている可能性があります。
間違ったものは積み重なり、数年後は食い違いと矛盾が多くなる。
その結果『滅びて当然』となりませんか?」
モルガンは小さくため息をつく。
権限の委譲を咎めることは諦めた様だ。
「随分先を見ているのですね。
権限の委譲は、将来の破滅を避けるためと」
「ええ。
多くの優秀な人たちに、権限を委譲して、私は一段高いところから見守るのが上策です。
委譲したなら、邪魔をしない配慮は欠かせないでしょう。
甘いように見えますが、それは彼らが非を為さないからです。
一度非を為したら、情で見逃すことは有り得ません」
「権限を委譲されるなら、当然人を見る目が問われるでしょう。
どのような基準で、人物評価をされていますか?」
徹底的に理由を追及して、筋が通らないかチェックする気だな。
「一定の地位にある人は、人材登用と抜擢の仕方を見ます。
豊かな人は、財の使い道と……人への与え方で計ることが出来る。
困窮している人は、そのような状況下でなにを受け取らないか。
身分の低い人は、なにをしないかが重要。
すべての人に共通しますが、余暇でなにを好むかを参考に。
学んでいる人は述べる意見が大切になります。
当然すべてが立派な人などいません。
だから地位権力を与えることで、大きな悪影響を及ぼさないかを考える。
これらを吟味したうえで、能力を調べます。
そうすれば厳格にせずともいい。
モルガンは天を仰いで嘆息する。
「これは参りました。
まったく付け入る隙がない。
恐ろしい統治者ですよ」
どうやら試験に合格したようだ。
偉そうに言ったが……。
実際は面倒臭いから、権限の委譲をしているだけだがな。
俺抜きでも成立する社会を、当初から目指していただけだ。
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