908話 違和感と根回し

 アルカディアの情報が、頻繁に入ってくる。

 聞かなくても、放送でしつこいのだが……。


『魔物の襲撃を撃退した』


『過去の些細な行き違いは忘れて、今は助け合うべし』


 この連呼だ。

 さすがに皆は辟易している。

 モルガンですら、渋面を隠しきれない。

 まあ……トマと個人的な関わりがあって思い出すからだろう。


 視線に気が付くと、プリュタニスが、俺を見ていた。


「どうしましたか?

放送を消す方法は知りません」


 プリュタニスの目が鋭くなる。


「違います。

アルフレードさまは連日の放送で、なにか気になることがあるのでは?」


 よく気が付いたな。

 あの放送に、違和感があったのだ。

 連中が噓をついているかではない。


 たしかに信用出来ない連中だが……。

 すべてにおいて、噓を言うわけではない。


 ふと嫌なことを思いだす。

 渋々パーティに招待されて出席する機会が増えた。

 人類連合主催のパーティには出席しないが……。


 それ以外の貴族主催。

 しかもシスター・セラフィーヌ含めての招待では断り切れない。


 そこで自分は賢いと勘違いした人たちが、俺に突っかかってくる。


『噓を指摘したのに、そいつの言葉を信じて話をするのか』


 勝ち誇ったような醜い顔に、つい呆れてしまったが……。

 相手にするのも馬鹿らしいので放置したなぁ。

 それも結構な数の馬鹿がいるから辟易する。


 無理もない。

 普段は疑ってかかるのに、自分にとって都合のいい話題だけは、真実とする人が多いからな。


 それでもすべてを噓とする人は、彼らの自己評価ほど頭がいいとは思えない。

 すべてを白か黒でしか考えないのは、思慮の浅さを自分で広めるようなものだ。

 まあ……指摘しても逆恨みされるので、相手にしなくなるだけだが。


 噓が混じる相手の情報は、すべて使わないのがベストだ。

 ところが世の中、そう簡単にはいかない。

 それだけでは情報が足りないのだ。


 ではどうするか。

 噓をつく必要がない言葉は使えるだろう。

 その吟味を慎重に行えばいい。

 仮に嘘だとしても、どのような目的かを知れば、ある程度の推測はできる。


 アルカディアの嘘は、妄想と願望が入り交じるから、難易度は高い。

 それでも嘘をつく必要がないものは、拍子抜けするくらい正直だ。


 プリュタニスはどうかな。

 すべてを噓とした違和感かそうでないのか……。

 まず確認しよう。


「質問を質問で返しますが……。

なぜそう思うのですか?」


 プリュタニスが一瞬考え込む。

 俺が採点をする気だと理解したようだ。


違和感があるからです」


 俺と同じ違和感か。

 それは本当かな?


「興味深いですね。

是非プリュタニスの見解を聞かせてください」


 プリュタニスは苦笑して、頭をかく。


「試験ですね。

わかりました。

ひつの使用は、ホムンクルスに、負担をかけるのでしょう。

いくら二つ持っているからとて、連日の使用に耐えられるものでしょうか?」


 ほう。

 すべて噓と決め付けなかったようだな。

 大変結構だ。

 

「連日の使用は噓だと思わなかったのですか?」


「多少は盛っているかもしれません。

それでも予測されたより、頻度は多いでしょう」


 合格だ。

 思わず、笑みがこぼれる。


「いい視点ですね。

ほかには?」


 半分までは完璧だ。

 プリュタニスが渋い顔になる。


「まだあるのですか?」


 惜しいなぁ……。

 これはゴールでない。

 スタートなのだ。

 それでも大きな成長が実感出来て嬉しいのだが。


 話を聞いていたモルガンが、笑みを浮かべる。


「では私も、試験に参加しましょう。

新参者ですからね」


 モルガンの見識は、十分わかったが……。

 本人が示したいと思っているなら止める必要はない。


「どうぞ」


「プリュタニス殿の回答を聞いて、私も違和感に気付きました。

アルカディアの連中は、人間未満トマの複製品です。

仮に連日の使用に耐えられる方法があるとして……。

なぜ協調と団結を求めるのか。

圧倒的な優位となれば、傲慢ごうまんな態度で、服従を要求してきます。

過去の悪事など悪いことだとは思っていません。

狂人に似ていますが、その場の損得計算は出来る。

使用するには、相当の負担があるのでは?

だから協調を求めてきたかと」


 これまた見事だ。

 俺の考えと完璧に一致する。


「ふたりの回答を合わせれば、私の疑問と完全に一致します。

お見事ですよ。

残念ながら具体的な方法はわかりませんけどね。

恐ろしく悪趣味で、理性を削る方法でしょう。

アルカディアだから出来ていると言えますが……」


 プリュタニスは苦笑して、頭をかく。

 一歩足りなかったことが悔しいようだ。

 そこをモルガンにさらわれてしまったからな。


 モルガンは腕組みをして、渋い顔をする。


「奴らの悪行は、私の想像を超えますね。

それだけのヒントでは、推測すら出来ません。

ラヴェンナ卿ならどのようなをされますか?」


 俺の予防線をつぶしに来たか。

 仕方がないな。


「そうですねぇ。

たとえば『人の心臓を、生きたままえぐりだし、ホムンクルスに食わせる』とかでしょうか。

その顔はなんです?」


 モルガンは呆れ顔をしている。

 まあ……皆もドン引きしているな。


「いえ……。

飲み物を頼むような、軽い調子でおっしゃったので、さすがに度肝を抜かれました。

たしかに悪趣味で理性を削られます。

ただ……アルカディアの連中なら、喜々としてやるでしょう。

身内以外は人だと思いませんからね。

もしそれが事実なら、アルカディア近辺の人間はいなくなります。

僻地に押し込めて、距離はあるようですが。

もしや近隣から誘拐する人間がいなくなったのでは?」


 古代人が動力源を求め、心臓をえぐりだしていた……と知っていただけだ。

 それなら可能性のひとつとして考えてもいいだろう。


「これが事実かはわかりませんよ。

さらに悪趣味を極めるなら、子供である条件をつけますね。

ただ事実の確認は難しい。

現時点で妄想にすぎません」


 モルガンは強く首をふった。

 結構衝撃的だったらしい。

 存外モラリストなのか?


「その妄想を否定する材料がありません。

それにしても……。

現在最高の名君が、このようなことを平気で口にするとは。

世の中皮肉なものですな」


 善人ほど悪意を軽視する。

 だから統治に失敗するだけだ。

 そもそも最高の名君など課題表現だろう。


「最高か名君かなど定まっていませんよ。

皆が頑張ってくれたお陰で、及第点は貰えるかと思いますがね。

善政にたどり着きたければ、地獄への近道を知るのが早道ですよ。

これが問題なのは、他の所持者が知ったときです。

じきに知ると思いますが」


 モルガンは慇懃無礼に一礼する。


「これは失礼。

たしかに自分を名君だの最高だの言っては、家臣は過ちがあっても認められませんね。

ラヴェンナ卿のようなタイプは珍しいですが……。

自己評価で及第点とは、他の統治者に比べれば、相当高いのでしょう。

ですが家臣の努力まで卑下するような表現は頂けません。

今は愚者の足場に飛んでいますぞ」


 そこまで諫言してくるか……。

 本当に遠慮のないヤツだ。


 キアラが大きなため息をつく。


「お兄さまの悪癖は、いくら言っても治りませんわ」


 カルメンまで苦笑する。


「そのたびに、キアラの愚痴を聞かされるほうの身にもなってください。

『またかよ』って心の中で思った数は、今まで食べたパンの数より多いです」


 絶対盛っているだろ……。

 俺をいじり倒すときは全員結託しやがる。

 解せぬ。


 モルガンは教師然とした態度でうなずく。


「私の知るかぎり、最高の善政を実現しているのです。

家臣もそれを、誇りにしている。

家臣に無力感を味わわせるとは……賢者のやることではありません。

私の老後が、ラヴェンナ卿の自虐発言で揺らぐのは許容出来ませんからね。

自虐発言は奥さまの前で、存分になさってください」


 アーデルヘイトは驚いた顔をする。


「旦那さまはふたりきりのときは、とっても意地悪で……。

なんでもありません!!」


 キアラに睨まれたアーデルヘイトが身震いする。

 懲りないな。


 どうも形勢が悪い。

 抵抗は無益のようだ。


「降参です。

では言い換えます。

『この成果が、最後まで続くようにしたいですね』

これならいいでしょう?」


 モルガンが微妙な顔で、ため息をつく。


「それこそ及第点ギリギリですが……。

よしとしましょう。

話を戻します。

ラヴェンナ卿の妄想が的中していた場合、他の所持者が知ると、大変なことになるのでは?」


 ようやく終わってくれたか。

 諫言とは耳に痛いものだ。


 気持ちを切り替えよう。

 

 どうせクレシダが知らせるさ。

 勿体ぶってな。

 

「でしょうね。

他の所持者は、選択を迫られる。

自領の子供の心臓をえぐり出すか、他領の子供を犠牲にするか。

一度他領に手をだすと、敵対は決定的となります。

他領も守るなら、落とし所はあるでしょう。

ですがそれはない。

全面戦争に結びつきかねません」


 恐らく、最初は下層民を誘拐する。

 足りなくなったら?

 他所から奪うしかない。

 自領でそのようなことをすれば、大変なことになる。

 生贄を差しだすように、同調圧力をかけるケースもあるだろうが……。

 際限がないのだ。


 モルガンは天を仰いで嘆息する。


「これは面倒な話ですね。

ひつの対処方法はあるのですか?」


 ぶっつけ本番だが……効くだろう。

 準備はしているが……。


「一応は。

すべてのホムンクルスが、一度に停止します。

ただ……」


 モルガンは眉をひそめる。

 俺の言い淀みが、気になったようだ。


「ただなにか?」


「もし起動中にホムンクルスを停止した場合、どのような結末が待っているか。

ことと次第によっては、大惨事を招くと思います」


 これが読めない。

 軽々に止めることは出来ないのだ。

 もしそれによって、大惨事が巻き起これば?

 八つ当たりに近い怒りは、俺に向けられる。

 余所者だからな。


 モルガンは静かに首をふる。


「それでラヴェンナに、非難が集中しては厄介と。

ある意味で厄介ですが、あまり意味はないでしょう」


 そう言うと思ったよ。

 モルガンの言いたいことはわかる。


「言いたいことはわかります」


「理解するだけと実行することには、トカゲとドラゴンほどの違いがあります。

他家の非難など聞く必要はありません。

『ではそのまま、子供を生贄にだし続けるのか』と突っぱねればよいのです。

結果は知らなかったと言えば宜しい。

事実知らないのです。

そしてどれだけ、反感を持とうと、ラヴェンナ卿に歯向かうことなど出来ません。

精々結託して陰口を叩くのが関の山かと」


 理屈の上では正しいな。

 どうもモルガンは、俺を誘導しようとしている気がする。


「仮に大爆発が起こって、周辺が悪魔の地になっても?」


 モルガンは即座にうなずいた。

 やはりか。

 どうなろうと知ったことではないわけだ。


「そうです。

強欲さが招いた自滅にすぎません。

本来ならラヴェンナが、尻拭いをする必要などないのです。

なにを思い悩まれるのですか?

なんとかしてくれと、要請を受けてからにすれば宜しい。

『どのような副作用があるかわからない』と言えば『構わないからやってくれ』と言われる。

当然終わってから文句を言う輩はいますが、そのようなれ言は、無視すれば宜しいのです」


 その結果は、対立が深刻化する。

 そうなれば、俺の選べる選択肢はひとつになる。


「ルルーシュ殿は私に独立せよと使嗾しそうするわけですか。

これで抗議が起これば、ラヴェンナ市民は憤慨します。

『恩知らずな社会などと関わる必要がない』とね」


 このような選択をした場合、ラヴェンナ市民が激高する。

 今ですら、俺への扱いに不満なのだ。

 それでも俺が残る選択をしているから従っている。

 だが次大きな非難にさらされたら、ミルたちでも抑えきれないだろう。

 そもそもミルたちですら憤慨しているからな。


「道理をわきまえない子供は、痛い目を見なければ理解しません。

そもそもラヴェンナ卿は、他家に気を使いすぎています。

強者が弱者に配慮するのは美徳ですが、度をすぎれば……奴隷根性にしか見えません。

そうまでして、世界の一員となる必要があるのですか?」


 その選択肢を捨ててはいない。

 だがなぁ……。


「関係を断ち切るのは早計でしょう。

最終的なカードとしては持ちますけどね」


  モルガンはいぶかしげに眉をひそめる。


「理由をお聞かせ願いますか?」


 一時の爽快感はあるだろう。

 旧ギルドのサボタージュでもあった『暗雲が晴れて、晴天が見える』ってやつだ。

 だが長い目で考えると、そちらのほうが流れる血は多い。


「たしかに関係を切れば、その場はスッキリするでしょう。

拍手喝采で祭りすら始まる。

ですがそれは、責務の放棄です。

交渉の糸を切ってはいけません」


 モルガンは、あっさりとうなずいた。

 俺に、考えがあるなら従うのだろう。

 考えがなければ、執拗しつように説得してきたろうが……。


「ではなにか対応する手があるのですか?」


 

 当然、手は打ってある。


「ありますよ。

先方にも利益があるので乗ってくるでしょう」


 モルガンが首をかしげる。


「先方とは?」


「教皇聖下せいかです。

思い出してください。

あそこは悪魔の地と呼ばれています。

教会が立ち入りを禁じていた土地ですよ」


 聖ひつ騒動のときは、消極的黙認の立場だった。

 それでも表向き禁じていたのだ。

 すくなくとも、公式の撤回などしていない。


「なるほど。

自業自得と教会から宣言してもらうわけですか。

しかし現時点の教会に、世俗を敵に回す余裕がありますかね?」


 俺が黙っていたら乗ってこない。

 だが大きな貸しがあり、教会にとっても、利益がある。

 余裕云々より象徴的な意味で教会の助力は必要だ。


「あるとは言えませんが、民衆はいまだ教会を頼りにしています。

そして教会権威の回復にも役立ちます。

賭けですが、教皇聖下せいかは乗ってきますよ」


「教皇を随分、高く評価されておいでだ。

あまり教会の力が強くなるのも考え物ですぞ。

ほかに神なしの正典を重視するでしょう。

今はラヴェンナが強いから、均衡が成立しています。

教皇がラヴェンナと協力関係にあるのは、それが教会のためだからでしょう。

つまりラヴェンナと対立して平気と思えば、手を切ってくる。

違いますか?」


 モルガンの冷徹さは傑出したものがある。

 これで教会の権威が高まれば、ラヴェンナとの協力は不要と見なす可能性があると。

 これだけで押さえ込めば、教会の権威は大きく回復するだろう。


「でしょうね。

聖下せいかは教会のことを、第一に考える。

だからこそ信頼関係が成立するのです」


 モルガンの目が鋭くなる。


「まだなにか隠しておられるので?」


 人聞きが悪いな……。


「隠してなどいません。

ルルーシュ殿が来る前に打った手ですからね」


 キアラはフンスと胸を張った。

 これはキアラにだけ打ち明けて、指示をしたからな。

 単純に皆に聞かせたことが知られると面倒だからだ。


「キアラさまだけはご存じだったと。

ではお聞かせ願いますか?」


 説明しないと納得しないだろう。

 根回しが終わったあとなので説明しても構わない。

 当然部外秘だが。


「実はアルカディアの蛮行が明白になったとき、陛下から質問されました。

『聖ひつをなんとかする手はあるのか』と。

そこでこう、返事をしました。

『ありますが……。

副作用が予想出来ません。

どのような惨事が巻き起こるか……。

私個人で判断するには、あまりに重いので迷っております』

とね」


 モルガンの目が細くなる。

 ニコデモ陛下を意志決定に巻き込んだことで、状況がかわると理解したのだろう。


「ほう……。

それで返事はありましたか?」


「ええ。

陛下が責任を持つので、私の判断に任せると」


「それだけだと、シラを切る可能性がありますぞ。

王ともなれば、舌が5枚は必要でしょう」


 陛下は食わせ物だからな。

 油断すれば、梯子を外される。

 だからもう一手必要なのさ。


「そこで陛下直筆の命令書を希望しました。

無事届きましたよ。

宰相殿から恨み言もセットでしたが」


 国王が直筆で、書状をだすことは滅多にない。

 それだけ重たいのだ。

 陛下は可能ならだしたくなかったろう。

 ラヴェンナを見捨てるつもりはないが、貸しを作る形で助けに入る。

 とびきり高い貸しとなるだろう。

 それでは面白くない。


 陛下はかなり渋ったが、俺が再度念押したことで折れたようだ。

 当然、書状のやりとりはティベリオを通じて。

 陛下にかなりの嫌味を言われたろうな。


 恨み言は1枚に記されていた。

 思わず笑ってしまったのだが……。

 最後は入りきらないと思ったのか、文字が段々小さくなっていた。


 モルガンは満足気にうなずく。

 直筆の許可証となれば、重みが違う。

 これで共犯者が増えるのだ。


「それはそれは。

シケリア王国はいかに?」


 当然手を打ったさ。

 内密ではあるが……

 そもそも王家と公式な連絡手段はないのだ。


 ゼウクシスに脅し半分の手紙を送って、頑張ってもらった。

 ディミトゥラ王女も助力してくれたのだろう。

 なんとか手に入れることが出来た。


「ガヴラス卿経由で、ヘラニコス陛下直筆の許可証を頂きました。

これも大量の恨み言と一緒ですよ」


 こちらは恨み言5枚。

 進むにつれて、字体が荒々しくなっていた。

 さすがに吹きだしてしまったよ。


 色々ドラマはあったが……。

 既存社会の最高権威に、足並みを揃えてもらった。

 これなら教会だけが突出しない。

 そもそも俺だけ貧乏くじを引くのは面白くない。


「恐れ入りました。

共犯を増やしたわけですか。

ではなぜ、ときを待っているのですか?」


 当然、ダメ押しが必要だからだ。

 俺が決めたのではない形式をとる必要があるからな。


「催促の指示書がくるのを待っているのです。

いかにも私が、まだ迷っているかのように見せてね」


「なるほど。

たしかにラヴェンナ卿の評判は悪いが、王権には敬意を忘れなかった。

そしてランゴバルド王国の代表として、犠牲を看過しなかったことも生きてくるわけですか」


「ええ。

許可証があっても、私の判断に、文句を言う人たちはでてきます。

なので再度の催促があって動いたほうがいいでしょう?」


 モルガンは突然首をかしげる。

 なにか引っかかったのだろうか。


「ひとつ疑問が」


「なんでしょうか?」


「そこまで他家との関係に配慮される理由はなんでしょうか?

どう見ても、気を使いすぎです。

それでいて悪評は収まらない。

無意味な努力ではありませんか?」


 ああ……それか。


「無意味ではありませんよ」


 モルガンの目が鋭くなる。

 一見すると、既存社会にしがみついているように見えるだろう。

 それでいて、俺を嫌う連中の態度がかわることはない。

 無意味に見えるのはたしかだ。


「はて……。

見当もつきませんね」


 これは、ほぼ確実にやってくる未来だ。

 クレシダがヘマをしないかぎりは。

 するとも思えないが。


「魔物の討伐は、どこかでやる必要がありますからね。

どうせそのときは、私に、責任者の椅子が押しつけられるのですよ。

ランゴバルド王国、シケリア王国そして教会。

あとは冒険者ギルド。

4者が納得出来る人は、他にいませんから」


 モルガンが、唇の端を歪める。


「なるほど。

これだけ気を使っていれば、不服従で処断しても、文句はでないと。

ところで冒険者ギルドとは、新ギルドのことですかね?」


 この期に及んで不服従なら処断しても、文句は言われない。

 すくなくとも三大権威からは。

 ギルドは口を挟む立場にない。

 だから数えないだけだ。


「当然でしょう。

なくなっている組織を、頭数に入れますか?」


「旧ギルドの壊滅に、手を打っておいでですか?」


 当然だ。

 世界主義もろとも消えてもらうつもりだ。

 そのための手は打ってある。


「そこは見てからのお楽しみです」


 これは、信義上教えられない。

 モルガンは、なにか悟ったのか聞いてこなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る