900話 反復横跳び
モルガンは、準市民権取得手続きのため、応接室にとどまっている。
俺はホールに戻ってから、モルガンの起用法を説明したのだが……。
キアラは、目を丸くした。
「お兄さま! 正気ですか!?」
少しムキになっているなぁ。
このようなキアラを
思わず頭をかいて、ため息をつく。
「私がいつ狂いましたか?」
キアラはため息をついて
「ごめんなさい。
でもルルーシュを、いきなり、お兄さまの顧問にするなんて……。
周囲は納得しませんわ。
ファビオ先生の後任ですわよ」
モルガンを、先生の代わりと見なしているように映ったのか。
それは、大きな間違いなのだが……。
「先生は顧問でしたが、あくまで肩書です。
私のなかで、先生は先生ですよ。
別の先生を迎えることはありませんが、顧問は別です。
それにルルーシュ殿を他に配属して、誰が使えるのですか?」
モデストが納得した顔でうなずく。
モルガンの登用に、口を挟む立場ではないがもっとも好意的だ。
「なるほど……。
近くに置いたほうが、監視もしやすいと。
しかも顧問なので実権は与えずに、助言役とする。
もし裏切らないなら、実績を積ませてから、どこかに配属するわけですか。
相変わらず繊細な配慮ですね」
そこまで理解してくれたなら、話は早い。
「用いる人材に見合った配慮をするのは、使う側として当然です。
狭い通路なら、どれほど強力な大剣でも、用途は限られるでしょう?
それを武器のせいにするのは馬鹿なのです」
プリュタニスは呆れ顔だ。
「人を武器に例えるのはどうかと思いますよ」
内心では反対なのだろう。
普段なら、このような例えでも納得するのだから。
「
変えられる人とそうでない人がいる。
それだけのことですよ」
いまひとつ状況をつかめないアーデルヘイトは感心した顔でうなずく。
「なるほど……。
人を使う側も大変ですねぇ」
アーデルヘイトも使う側だろうに。
「使う側が考えなしだと……。
使われる側の被害は、より深刻ですよ」
カルメンが突然立ちあがる。
「アルフレードさま。
キアラとふたりで話しをしていいですか?」
キアラはションボリしている。
俺から叱られたと思ったのか。
ここは、カルメンに任せたほうがいいな。
最近、キアラは俺への肯定が強くなってきている。
それを注意しようと思ったが……。
カルメンが意味ありげな顔でウインクしてきた。
ちょうどいい機会なので、注意もしてくれるようだ。
実に有り難い。
「ええ。
是非お願いします」
カルメンは悪戯っぽく笑って、キアラの手をとる。
「貸しにしておきますよ。
さ、いきましょ」
カルメンの貸しは、怖い気がするなぁ……。
「利子がつかないうちに返済させてくださいよ」
カルメンは真面目腐った顔で一礼する。
「善処します」
どうやら、利子が大きくなるまで待つ気らしい……。
◆◇◆◇◆
手続きが終わって、モルガンがやって来た。
そこでモルガンに与える役目の説明をした。
モルガンは
「私を顧問ですか?」
予想外のようだ。
醒めた男だ。
最初は相談相手くらいと思っていたかもしれないな。
「不服ですか?」
モルガンは真顔になって一礼する。
「いえ。
謹んでお引き受けいたします。
顧問とは助言役の認識でよろしいですか?」
「ええ。
助言や諫言など。
まだルルーシュ殿の能力を測れていませんからね。
あえて曖昧な役職にしました」
モルガンは納得した顔でうなずいた。
筋の通った説明に反対する理由がないからだろう。
「なるほど……。
では早速ひとつよろしいですか?」
これは面白いな。
なにか考えていたことがあるようだ。
「ええ」
「巷で救世主扱いされている話。
これは大変危険です」
そこに気が付くか。
思ったより掘り出し物かもしれないな。
「それは認識しています。
あえて言及されたのは、私の知らない危険があるのですか?」
「はい。
サン=サーンスが救世主論をムキになって否定しています。
アルカディアも同様。
彼らの破滅……いえ、自滅は決定的です。
否定していた者たちが自滅したら、どうなりますか?」
なるほどなぁ……。
そこの段階まで考える時間がなかった。
どう否定したものか思案していたからな。
この問題について考えていたのなら、回答も用意しているはずだ。
「たしかに問題ですね。
より救世主説が補強されてしまいます。
どうすべきと思いますか?」
「あくまでラヴェンナ卿は、ラヴェンナ市民を庇護するものである。
他領の民は、その領主が庇護するものと、原則を強調すべきかと」
それは、当然考えた。
デメリットがあるので決めかねていたのだが……。
「そうですね。
他領主にすれば面白くないでしょうが……」
モルガンは小さく首をふった。
「たしかに指図されているようで面白くはないでしょう。
ですが他領主の反感も、民衆の勝手な思い込みに比べれば、軽いものかと。
時間が経てば経つほど、状況は悪化します。
どうぞご決断ください」
そうだな。
他領主の反感は利害の調整で、折り合いがつけられるからな。
「わかりました。
その方向でいきましょう。
放送責任者にその旨を、今日中に伝えます」
モルガンは、少し驚いた顔になる。
「熟考すると聞いていましたが……。
即断即決ですね。
これなら、強めに決断を迫る必要はありませんでした」
なかなか動かない印象が強いか。
だがこれは、モルガンの提示したデメリットと比べたら考えるまでもないのだ。
「ケース・バイ・ケースですよ。
時間が悪化させるのなら即時行動すべきでしょう」
モルガンは、目を細めた。
どうやら満足したようだ。
「これは仕え甲斐のあるお方ですね。
ではもうひとつ。
仮に世界主義やアルカディアを潰したとしても、問題が残ります」
「メディアですね」
「そこまで見通されていましたか。
今彼らの報道は稚拙そのもの。
ラヴェンナ卿の指導を得たランゴバルド王国のそれとは雲泥の差です。
ただ……ラヴェンナ卿は、きっとご存じないでしょう。
クレシダから訓練を受けた者たちが、準備をしています」
やはり来たか……。
ランゴバルド王国のメディアのみ残るのはよしとしない。
代わりが要求されるだろう。
そもそもメディアを全廃するのは現状悪手だ。
「やはりそうですか……」
モルガンは、探るような顔をする。
「ひとつ確認したいのですが……。
ラヴェンナ卿はクレシダを警戒されていますか?」
クレシダを、甘く見ていないか。
これは大事な視点となる。
甘く見ると、手痛いどころでは済まない目に遭う。
「私と同等か、それ以上の才知があると考えています」
モルガンはアゴに手を当てて、少し考えるような仕草をする。
さて……どのような返答をしてくるか。
モルガンも初手から評価を落とさないように、回答は慎重にするだろう。
「私も認識を変える必要がありそうですね。
底が見えない、不気味な破滅願望の持ち主と思っていました。
同等かそれ以上とは……。
たしかにある面では、ラヴェンナ卿を超えますね。
それ以外では、同等がいいところではありませんか?」
これはなんとも……。
思わず楽しくなってしまった。
「それは興味深いですね。
クレシダ嬢はどこが勝っていると思いますか?」
「後先を考えずに、破滅の選択肢を取れる点です。
将来を見据えた選択はどうしても劣ってしまいます」
つい笑いを堪えきれなくなった。
俺が追従を嫌うと知って、筋の通った考えを述べたからだ。
今まで俺の周囲になかった視点は助かるよ。
「ぐうの音もでませんね。
ところでどのような訓練をしているか知っていますか?」
「詳細までは知りませんが、クレシダの言葉は知っています。
『人は腹が膨れると、次は味をえり好みする。
情報も同じ。
健康によい料理より、どれだけ体に悪るくても好みの食事ばかりを食べたがる。
それを取り上げられると怒りだすだろう。
こうなればもう好物に依存した状態となる。
情報の洪水に溺れさせて、あとは見たいと思う真実を見せ続ければいい。
人は自ら望んで隷属への道を歩む。
支配とは剣で恐怖させるだけが方法ではない』
ラヴェンナ卿はこの言葉を聞いて、どうお考えになりますか?」
まるで、俺が言ったかのような言葉だな。
大多数はクレシダの言葉通りとなるだろう。
「まさに見たくない真実ですね。
人の愚かさを、的確に表現しています。
そしてこれを避けることは難しいでしょう。
多少なりとも被害を抑えるしかありません」
「私はこれを聞いて、クレシダは化け物だと、背筋が寒くなりました。
情報の洪水に溺れるのは、今まで支配階級だけでした。
民を溺れさせる発想までは至りません。
王が溺れても、民が素面なら立て直しも出来ます。
ですが民まで溺れては、滅亡しか道はありません。
手の込んだ破滅願望ですよ」
クレシダは禁断の扉を開いたわけだ。
そのための放送なのだろう。
部下に教えたのは、支配の方法論だが……。
これで支配した気になるメディアも破滅する。
民が破滅しては、メディアは生き残れないのだから。
クレシダらしい悪意と配慮に満ちた手だよ。
しかもクレシダが手を下す必要はない。
欲に駆られた連中が、せっせと実践してくれるだろう。
「一度この方法が儲かると知られては広まる一方ですね。
感情に訴えかけるほうが効率的です。
悪用すれば楽に稼げると知れば?
踏みとどまれる者は少ないでしょう。
意志決定の場に、隷属の道を歩む者しかいなければ……理性的な人はいないも同然ですからね」
モルガンは苦笑して肩をすくめる。
「楽に稼げる。
人を欲望の獣に
所詮は獣なので、狡猾な猟師の獲物になるだけですが。
この場合の猟師はクレシダ。
破滅願望でも、大勢を巻き込みたいようですね」
クレシダに破滅願望はあるが、今は俺への求愛行動に夢中だ。
そこの認識は、あとで教えるとしよう。
説明すると長くなるからな。
「人は非効率的な生き物なので、生きやすくするために効率を求めます。
ところが、おおよその悪とは効率に潜むのです。
目先の狭い利益に限れば……ですけどね」
モルガンは眉をひそめた。
「これがラヴェンナ卿の格言ですか。
キアラさまの書籍は、旧同志のなかでも評価するものがいます。
表だってはサン=サーンスが怒り狂うので言えませんが……。
『魔王の英知』と評していましたよ。
そもそもの話ですが、悪が効率に潜むとは?
効率的に欲望を満たそうと、詐欺や殺人……盗みが行われます。
それだけではないでしょう?」
それはもっともわかりやすい効率に潜む悪だな。
「当然ですよ。
物事の効率をあげたい場合、物事を細分化します。
全体では漠然とした目標にしかなりませんからね。
細分化して、もっとも容易で影響の大きな部分を効率化しようとする。
そこで効率を追求しすぎると、隠れていた悪を掘り起こしてしまう。
一度出会ったが最後、破滅するまで取り憑かれます」
部分的な効率化の追求を、善としてしまったのだ。
追求した効率化の弊害を認めることなど出来ない。
大問題に発展して破滅するか、外部の力で引き戻されない限りは。
モルガンは思案顔になる。
これはモルガンの見識を測る意味もある。
回答次第では、不得手な部分が浮かび上がってくるだろう。
「部分的な効率ですか。
全体はかけ声で、部分的に効率……。
旧同志が搾取と呼んだ低賃金での労働でしょうか。
利益追求のかけ声自体は、当然のことですからね。
細分化して利益効率を重視すれば、賃金がもっとも削りやすい。
商品の値上げか、元の材料を粗悪なものにすれば……。
商品が売れなくなりますからね」
合格点だな。
世界主義内で議論していたなら、このような理屈はありふれたものとなる。
それでも即座に結びつけられるのだ。
モルガンは機転が利くのだろう。
「そうですね。
元世界主義の視点だと、それがもっとも近いでしょう。
重税なども同じです。
全体としては真っ当な目的で、財政を健全化したいのでしょう」
イポリートも言っていた。
盗作をして富と名声を欲しがるヤツは、効率の信奉者だと。
芸術とは非効率の果てに生まれる奇跡なのに……とも言っていた。
本人にとって効率が善なので、効率を否定するような行為……つまり盗作を指摘されるなど……敵意としか認識できない。
自分にとっての善……効率を守るためなら、どのような悪辣なことも平気でする。
どうやら本人は正当防衛のつもりらしい。
その心中は被害者意識そのものだ。
『自分は不当に攻撃されている。
成功に嫉妬しているのだ』
他人から見れば理解不能だが……。
宿主に取り憑いた悪が、除霊を拒否させるかのように、決して自分の非を認めることはしない。
そして最後は破滅する。
あらゆる効率に悪は潜んでいるのだが……。
これを知る者は少ない。
モルガンは笑みを浮かべる。
どことなくなにかを嘲笑するような笑みだ。
「つまり……どれだけ過酷な重税や搾取をしても、その真っ当な目的のため正当化されてしまう。
論点のすり替えではありますが……。
サン=サーンスが得意とした手法ですね」
なるほど元指導者を、小馬鹿にしたのか。
論破することの効率を追求すれば、自分は抽象的なことしか言わず、相手の揚げ足をとって論点をすり替えればいい。
そのうち慣れきって、それ以外使えなくなるのだが……。
これも効率化に隠れ潜む悪に飲み込まれた例だ。
「効率化を考えると……取りやすいところから取るのが最善です。
しかも誰の目にもわかりやすい効果が現れる。
その結果、隠れていた悪を掘りだしてしまい、取り憑かれるわけです。
その悪は過剰な搾取や重税へと姿を変えるでしょう。
ただし
「愚行とされる行為は、効率化を極めた末ですか。
よくわかりました。
サン=サーンスは、取り憑かれたことに気が付かず自信満々だったとは……。
なんとも滑稽な話ですよ」
「サン=サーンス殿の目的は、誰よりも優れた指導者になることだったと思います。
そして効率を極めようとした。
恐らく相手を論破する世界においては、私より優秀でしょう。
ですがサン=サーンス殿が限定された範囲からノコノコとでてきたら?
結果は御覧の通りです」
モルガンは唇の端を釣り上げた。
「なるほど……。
あれは愕然としました。
分が悪いとは思っていましたけどね。
あそこまで一方的とは」
「効率化に囚われてしまったのですよ。
効率的に相手を論破し続けて、自分は常に正しいと思い込んでしまった。
だからこそ非効率は悪という考えに囚われる。
サン=サーンス殿は相手を、
「まるで見てきたかのようですね。
たしかに
ラヴェンナ卿に惨敗してから、ヴィスコンティ博士に勝ったことを、やたらと強調しはじめました。
あれには興醒めです。
しかもラヴェンナ卿のお話を聞いたあとでは……。
ヴィスコンティ博士より優れていたとしても、ごく一部だったのではないかと」
「比べては先生に失礼ですよ。
私はそう確信しています。
まあ……相手を下げて、比較で自分を高く見せるのは効率的ですからね。
自分も気持ちよくなり、周囲も一目置いてくれるように思えます。
実際は、自分が標的になりたくないから、そうしただけかもしれないのに……です」
モルガンは、笑って首をふった。
しかし……笑い方にまで、個性がない。
生まれ持ってのことなのか訓練したのかは謎だが……。
「まるで見透かされているようで怖くなりますよ。
ラヴェンナ卿はそこまで、効率化の悪を知っておられる。
それでいて効率的な統治を心がけているでしょう。
効率に隠れ潜む悪と、どのように付き合っておられるのですか?」
何も言わないと、俺が知っていると判断する。
意味を質問されることは避けたか。
正直かつ、計算高いな。
「簡単ですよ。
効率化をするにあたり、最初の動機はなんだと。
それを忘れないことです。
効率化のみを善とすれば、効率化の追求が一人歩きして……潜んでいる悪に飲み込まれる。
全体を忘れない効率化の追求であれば、一人歩きは抑えられるでしょう。
そのぶん派手さに欠けるので、目立った功績にはなりませんがね」
「お見それしました。
なんともそら恐ろしい人です。
諫言するのも一苦労しそうですね。
並の主人なら必要なのは勇気でしょうが……。
ラヴェンナ卿相手なら高度な見識が問われそうです。
それにしてもラヴェンナが成功した理由を痛感しました」
偉そうに長々と語ったが、実は一言で片付く話だ。
「結局はバランス感覚に行き着く話です。
それ以上でも以下でもありません。
人は感情の生き物で、元々不安定な存在ですからね。
これを忘れると、容易に転げ落ちるわけです。
そして不安定な存在だから、バランスを欠いたものに惹かれるのでしょう」
モルガンは苦笑して、肩をすくめる。
こうやって話したのは自慢したいからではない。
俺のレベルを知らせて、助言の基準を教えたかったからだ。
皆と違って根掘り葉掘り聞くタイプには思えないからな。
「どうやら反論の余地がなさそうです。
思うのは、だだの領主に収まる器ではないことですね」
それはウンザリするほど言われた話だな。
俺に野心はないのだが……。
ただただ面倒なだけだ。
「私はただの領主でありたいですよ」
モルガンが、突然大きなため息をつく。
ホールにいる皆は、俺たちの会話に聞き耳を立てていたが、驚いた顔でモルガンに注目する。
モルガンは周囲の視線を気にする素振りもなく、首をふる。
「本気でそう
将来の独立を志向されている、と思っていましたよ。
と言っても10年後位でしょうか」
そのような、面倒なことを考えていない。
最悪の選択肢として捨てていないが……。
「10年後に独立なんてしたら大変ですよ」
モルガンは真顔になる。
「まず特殊な政治形態である……。
これはいいでしょう。
内乱では大きな活躍をされ、その知謀は他家から畏怖の対象とされている。
デステ家討伐時に、いきなり総司令官を拝命したでしょう。
そしてフロケ商会の後ろ盾。
当初は弱小の商会ですが、今は中堅の上位です。
フロケ商会の力が皆無とは言いませんが、ラヴェンナ卿の援助あってのことです。
ラヴェンナ中心の経済圏を形成し、近隣の領主に影響を与えているでしょう。
しかも経済圏は、かなりの規模を占めています。
ランゴバルド王国貴族の弱みを握っているシャロン卿と親しい。
しかも少数ではなく、大多数です。
最大勢力のスカラ家の関係も良好。
これだけでも王家をしのぎます」
指折り数えて指摘されている。
なんだろう。
事実という棍棒で殴打されている気分になる。
これは不味い。
一気に、劣勢になった。
「まあ……そうですね」
モルガンの目が鋭くなる。
「本当におわかりですか?
軍事面でも異常です。
リカイオス卿との戦争も、大きな損失なしに勝利したでしょう。
ガリンド卿の戦死は痛手でしょうが、致命傷ではなかった。
前代未聞となる獣人の将軍を派遣して、見事な手腕を見せたのです。
加えてリカイオス卿は、周囲から名将と思われていました。
その名将がなす術もなく敗れ去った。
おまけに天才と名高いペルサキス卿を完璧に封殺して。
さらには恨まれておかしくないはずのシケリア王国と交流を持っている。
ここまでで経済力と軍事力、政治力すべてが突出しているでしょう。
極めつけがペルサキス卿とラヴェンナ市民が婚約をしています。
貴族と冒険者あがりの平民の婚約など、狂気の沙汰でしょう」
列挙されると……まあ異常だな。
「被害の少ない方策を考えただけなのですがね……」
「まだまだあります。
アラン王国のサロモン殿下とも、つながりがあり……。
大部分が没落したとはいえ、芸術家として名高いウードンを召し抱えている。
この名声は軽視できません。
いまだ隠然たる影響力を名家に及ぼせるのです。
ウードンは気難しくて召し抱えられることを嫌うと評判ですが……。
自ら召し抱えられることを望んだ。
この報告を食事中に聞いた多くの貴族が、スプーンを床に落としたと聞きます。
芸術に通じた名家は、ラヴェンナ卿に一目置いているのです。
さらにはルグラン一族の女性を、側室に置いているでしょう。
傍流の末席の養女なら、さほど問題はありません。
ですがオフェリー夫人は、使徒ハーレム候補だけあって、ルグラン一族の本流です。
教会では名門中の名門ですよ。
それだけに飽き足らず……教皇
これのどこが、ただの領主なのですか? どこからどう見ても世界の支配者ですよ」
指折りを何周したんだよ……。
事実の棍棒が多すぎないか!?
ちょっと……いや、かなり痛いぞ。
「仕方がなかったのですよ。
相手のほうから、アプローチをかけてきたのですから」
「これだけ巨大な存在なら、
これでいて猜疑心に囚われていないニコデモ陛下も異常です。
だからと……その後継者も異常である保証はありません。
ラヴェンナの政体があるので、
であれば独立を志向していると考えるのが筋です。
世界主義の離間工作も、この事実を利用しているのですよ。
なぜ知恵者として並ぶ者のないラヴェンナ卿が、自己評価になるとここまで愚者になるのですか?
知恵者と愚者の間を反復横跳びされては、私が困るのです。
ラヴェンナ卿がプライベートで、愚行をどれだけやろうと、私の知ったことではありません。
ですが愚行はプライベートにとどめていただきたい。
そうでなくては私の夢が危うくなるのです」
しょ……正直すきる……。
しかも事実で殴打されると反論できない。
おまけに皆が笑いだしやがった。
「わかりました。
ルルーシュ殿の忠告は心します。
今後は余計な特権を背負い込まないように留意しますよ。
当面はそれでいいですか?」
モルガンは真面目腐った顔でうなずく。
「結構です。
いきなり特権を手放しては問題になりますし、かえって野心を疑われるでしょう」
「それにしても……。
これだけ正直であけすけなのに、よく世界主義で生き残れましたね」
モルガンは意味ありげな笑みを浮かべる。
「世界主義では波風立てないことを、旨としていました。
私は主人の望むようにするだけです。
ラヴェンナ卿は取り繕わない直言を好まれると考えました。
むしろ称賛ばかりで辟易しておられたでしょう。
このくらいがちょうどいい……と考えました。
ラヴェンナ卿はこの程度で処断などされないでしょう。
普通なら首が飛びますけど……。
そもそも私が
なにより私がここで波風を立てなかったら、どうなりますか?
目立つ要素は、元裏切り者のレッテルだけ。
それでは夢が遠のきます。
ですから強い諫言で、皆さんに認識を改めていただく必要がありましたからね」
顧問にしたのは早まったかなぁ……。
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