899話 正直な男
思いも寄らぬ事態が連発するとは……。
思わず苦笑してしまう。
キアラは表情に困っている。
「ガヴラス卿からの要請ですけど……。
どうしますの?」
モルガン・ルルーシュなる人物が、ゼウクシスに協力する条件として提示したのが、俺への取り次ぎ。
それはラヴェンナ市民権を希望するため。
キアラでも困惑するだろうな。
よりにもよって、世界主義のメンバーが。
だがゼウクシスが愚かと思っていない。
慎重に計算した上での取り次ぎだろう。
「まあ……。
断る理由もないでしょう。
それにしても市民権を欲しいとはねぇ」
キアラが微妙な表情で、ため息をつく。
あまりいい感情を持っていないようだ。
「世界主義からの寝返りですものね。
ラヴェンナにくれば、身の安全は保証されるわけですもの。
我が身可愛さに裏切るなら、
俺に協力するからには、無私の精神を求めてしまうらしい。
これは問題だな。
この話が終わったら注意しよう。
それではいけない。
俺が信仰の対象になってしまう。
それを受け入れるわけにはいかない。
なんのために、ラヴェンナを作ったのか。
そもそも俺は、度し難い捻くれ者だ。
自分への信仰的称賛など背筋が寒くなる。
一言で言えば気持ち悪いのだ。
俺自身、信仰的称賛を求められたら、内心で唾を吐く。
だが周囲は、そう考えない。
モデストも今は
とにかく無私を求めるのは、悪い兆候だ。
信仰とは思考停止に他ならない。
するのも……されるのも御免だよ。
「まあ……。
話を聞くだけ聞いてみましょう」
受諾の返事をして2週間後。
早いなぁ……。
窓からモルガンを見たプリュタニスが、厳しい顔になる。
「アルフレードさま。
あの男に見覚えがあります。
サロモン殿下の屋敷に出入りしていた特徴のない男です。
ならばエベールに近い。
注意したほうがいいかと」
ああ……。
特徴のないことが特徴と言っていたな。
つまり、エベールの意を受けた暗殺の可能性を考えたのだろう。
たしかに正否に問わず、成果は大きい。
実行者が我が身を捨てて、大義をなしたいタイプなら有り得る。
モデストが小さく、肩をすくめる。
「では私も同席しましょう。
そこは譲れません。
ラヴェンナ卿は私の娯楽ですからね」
この期に及んで、俺を害することはないと思うが……。
断る理由もない。
それにしても……娯楽ってなんだよ。
「わかりました。
それでお願いします」
応接室にキアラとプリュタニス、モデストを連れて入る。
待っていた人物が起立する。
たしかにこれといった特徴はない。
ただ……外見が無個性なほど、内面は個性が強いのではないか?
人の熱意に限度がある。
その総量に大差はない。
だからこそ内面より、外見に力を注げば、内面は後回しになる。
いずれにせよ……。
決め付けは危険だな。
挨拶を済ませ、お互い着席する。
「さて……。
ガヴラス卿の紹介状には、私の役に立てるとか。
私が敵視する組織の所属とありますが……。
ルルーシュ殿はどこに所属していたのですか?」
モルガンは表情ひとつ変えずにうなずく。
「警察大臣モローと同じだった……と言えば伝わりますか?」
まあ……それしかないな。
世界主義とだけ言わなかったのは、ジャン=ポールを知っている程度の地位にいると説明したのか。
すくなくとも機転の利かないタイプではないな。
「ふむ……。
私に協力する意味は明白でしょう。
世界主義を見捨てるので?」
モルガンは静かにうなずく。
力みもせず、不要なものを捨てるかのような自然さだ。
「はい。
指導者サン=サーンスを見限りました。
ただ見限っては、命がありませなん。
ですからラヴェンナ卿に使っていただけないかと」
初耳だな。
サン=サーンスが指導者なのか。
「サン=サーンス?」
モルガンは僅かに目を細める。
俺が世界主義の情報をどこまで知っているのか、探りを入れてきたな。
これはなかなか面白い。
「これは失礼。
サロモン殿下の顧問、エベール・プレヴァンと呼べばおわかりかと。
本名はヴィルジール・サン=サーンスと言います」
有力者だと思っていたが指導者だったとは……。
これが真実なら、計略に多少手直しが必要だな。
思わず苦笑が漏れる。
「なるほど。
指導者自ら出馬していたとは」
モルガンは俺の苦笑に合わせるように苦笑する。
手慣れているな。
相手に行動をなぞると、自然と好感を持たれる。
「拍子抜けしましたか?」
指導者とはあの程度の人物だったか。
もうすこし神秘的なカリスマ性があると思っていたが……。
モルガンがどのような人物か、ある程度はわかった。
では
「多少は。
それにしても世界主義に入って長いのでしょう。
そう簡単に見捨てられるものですかね?」
モルガンは平然としている。
この程度は想定内だろう。
「組織に入ったのは、生きるためです。
おめおめと組織に殺されるのがよい……と考えません。
殺されるとわかっていても殉じる生き方を、否定はしませんが……。
ですが私は、それを称賛出来ないのです」
キアラは、やや嫌悪の表情を見せる。
プリュタニスは微妙な顔だ。
好感ではないことだけは共通しているな。
俺の感想は違う。
「わかりました。
これは契約であって、忠誠心が問われる話ではない。
組織が契約を破棄したから、契約そのものがなくなった、と考えたわけですね」
モルガンの目が丸くなる。
「これは驚きました。
契約の概念をお持ちとは。
貴人にとって忠誠は捧げられるもの。
契約ではないのが常識ですよ」
この回答は予想外だったようだ。
たしかに、貴族が家臣の裏切りを嫌うのは、契約ではなく家臣が忠誠を捧げていると思うからだ。
そもそも俺は、忠誠に重きを置かない。
「生憎私は、忠誠を捧げられるに足るほど立派ではありませんからね。
無邪気に思い込むほど、自信がありませんよ。
つまりルルーシュ殿にとって、組織に所属するとは、双方が条件を満たすことである。
決して無条件の服従ではない。
その認識であっていますか?」
モルガンは妙に驚いた顔で、俺をしげしげと眺める。
すぐ我に返って、軽く頭を下げた。
「度々失礼。
これではサン=サーンスやアクイタニア……。
ましてやクララック如きでは、相手になりませんね。
やはり勝ち馬に乗り換えて正解でした」
ゼウクシスの書状では、アルカディアと教会の連絡役を務めていた……とあったな。
面識があるどころか、操縦していたと見るべきか。
「そう驚くことはないでしょう。
人は感情の生き物です。
貴族や平民問わず、誰にも感情はあります。
それを無視しては、何事もなし得ませんよ
組織から切り捨てられてまで、義理を果たせる人がどれだけいますかね。
納得ですよ」
キアラが頰を膨らませる。
「お兄さま……。
妙に感心されては困りますわ。
世界主義に入るときは、無私の奉仕を求めるでしょう?
それをあとから、条件が破棄された、と判断するのは勝手だと思いますわ。
これではいつ裏切るかわかりません」
気に入らないが、先に立つか。
まだ若いからな……。
冷徹な判断は難しいか。
「そうしなければ入れなかったのでしょう。
しかも接触された時点で断ったら死ですよ。
脅迫による契約は、正当な契約たり得ません。
自主的な意志による契約のみが、正当な拘束力を持つ。
ラヴェンナ法の基本でしょう?」
キアラは頰を膨らませる。
「それはそうですけど……」
「裏切るかもだけでは、反対の理由として弱いですよ。
基準が曖昧なので、いくらでも
キアラは大きなため息をつく。
「わかりましたわ。
お兄さまなら問題なく対処出来ますものね」
モルガンは小さく苦笑する。
「なかなか新鮮な光景です。
ラヴェンナ卿に
しかも却下するときに理由を説明するのが驚きですよ。
私の見てきた光景では、
それは無意味かつ無益だ。
個人ならそれで勝手に自滅すればいいが……。
統治者が、それではいけない。
「同じ考え方の人ばかり集まっても、なんら益はありません。
だからこそ意見を否定するときは、根拠を明確にする必要がある。
いい加減な否定をして、率直な意見を求めるなど、人間性に対する無い物ねだりに過ぎません。
当たり前のことですよ」
「そこまで考えることは容易でしょう。
ただし実践するのは困難です。
なるほど……。
ラヴェンナ卿の強さは、当たり前を実践することにあるわけですか」
この男はゼウクシスの書状にあったとおり癖者だよ。
これだけ頭が切れるなら、偽装投降の可能性は低い。
ただし俺がヘマをすれば、考えが変わるだろう。
「当たり前だからこそ実践しなくてはいけないのですよ。
口で言うだけならやらないほうがマシです」
「理屈ではそうなります。
でも感情が、理屈を飲み下さないでしょう。
だから口先で理想を語り、現実では安逸に流れる。
そうではありませんか?」
そのようなことはないと言えるほど、俺はサロモン殿下ではない。
「違う……と言いたいところですが。
自分の信じていないことを否定しても無意味でしょう」
モルガンは満足気にうなずいた。
「なるほど。
如何でしょうか?
私はなにかと、お役に立てると思います」
たしかに、使い道を誤らなければ有用だろう。
だが最終決定を下したわけではない。
「ルルーシュ殿の見識はわかりました。
ただひとつ、不確かなことがあります」
モルガンが怪訝な表情になる。
今までの問答で、確定だと思い込んだようだ。
「なんでしょうか?」
「まだ勝ち馬と決まっていないし、乗れたとも決まっていませんよ」
モルガンは苦笑して頭をかいた。
「
先走りました。
ラヴェンナ卿があまりに頭脳
ついつい好感触だ、と決め付けてしまいましたよ」
軽くお世辞を混ぜてくるあたり、手慣れているな。
相手を見て即座に最善手を選べるようだ。
俺ではなく、周囲の反発を和らげるためだろう。
一瞬だけキアラとプリュタニスを見たからな。
能力的に問題はない。
契約と考えるなら、条件を詳細に確認する必要がある。
「そこでひとつ質問です。
仮にラヴェンナ市民になったとして、いつまで乗り続けるつもりですか?」
「それは簡単です。
ラヴェンナ卿が勝ち続ける限りは」
即答だ。
キアラとプリュタニスは、眉をひそめる。
ここまで正直だと笑うしかない。
「呆れるほど正直ですね」
「ラヴェンナ卿は私などが及びもつかない才知の持ち主です。
それは周囲の人を見れば一目瞭然。
凡夫は個性的な人材を
ではラヴェンナ卿が今亡くなったとして……。
ラヴェンナは今まで通りの力を発揮出来ますか?
出来ないでしょう」
なるほど。
俺が死んだときを考えるか。
これを口に出来るのは、貴重な視点だ。
ただ……ひとつ訂正をしておくか。
「すぐには難しいでしょう。
でも時間が解決しますよ。
皆さんはそこまでヤワではありません。
自分たちの居場所を守るために、力を尽くしてくれますから」
モルガンの目が細くなる。
俺の反応を注意深く観察したようだ。
普通なら自分が死ぬかもしれないと言われると、不快感が湧きあがる。
俺は、その可能性もあるなと考えるだけだ。
「ラヴェンナ卿は私のことを、正直と
ラヴェンナ卿のほうが、よほど正直ですよ。
ラヴェンナ卿の意志を継ぐのではなく、自分たちのためにと言い切ったのですから。
否定する余地はありませんね。
正直にお話したのは……。
私如きが、ラヴェンナ卿に策を
それなら率直に語って、私の利用価値を認めていただくのが最善かと。
私とて利用価値がなくなれば、勝ち馬から振り落とされるのですから」
そこまで覚悟しているなら、問題ない。
一度、ラヴェンナ市民となれば消されることはないが……。
重用されることはなくなる。
ここで俺が独断で決めてしまうわけにはいかない。
皆を連れてきた意味がないのだ。
「そこまで考えているなら結構。
キアラは、なにかルルーシュ殿に聞きたいことはありますか?」
キアラは困惑顔になる。
ここで意見を求められるとは思わなかったようだ。
「正直なのは結構ですけど……。
忠誠心は持っていないのですか?
ラヴェンナ市民はお兄さまに、絶対の忠誠を誓っていますわ。
それを嘲笑うようでは、どれだけ使える道具でも有害ですもの」
モルガンは機嫌を損ねた様子もなく、肩をすくめる。
「私にとって忠誠心は、生きるための方便ですよ。
服であって肉体ではありません。
季節にあった服に着替える。
それだけのこと。
ラヴェンナで流行の服が、ラヴェンナ卿に対する忠誠を誓うものなら、私もそれを着るだけのことです。
それなら問題はないでしょう。
誰しもが内心を知ることなど出来ないのですから」
抜け抜けという男だ。
キアラは絶句して首をふる。
これ以上キアラが質問することはないだろう。
あまりに堂々とした返事だからな。
「なるほど。
プリュタニスはなにかありますか?」
プリュタニスは渋い顔をする。
「条件次第で簡単に裏切るのでしょう。
信用するのは難しいですよ」
モルガンは相も変わらず、涼しい顔だ。
「私はどう取り繕っても裏切り者です。
律義な人を軽蔑はしませんが、私には出来ません。
それでも自分を偽ることが出来ない。
根っからの正直者です。
ラヴェンナが条件を満たす限り、私も条件を満たすため尽力する。
他所から好条件で誘われても裏切る理由にはなりません。
契約が有効な限り、破棄など出来ないのですから。
私が裏切るのは、仕える対象が破滅寸前になるか……。
相手が裏切ったときです。
どちらも契約自体が消滅するのですからね」
プリュタニスは小さなため息をつく。
「心情的には納得出来ませんが……。
理屈の上では否定出来ません」
モデストにも聞いておこう。
違う視点での話があるだろうからな。
「シャロン卿はどうですか?」
モデストは小さく肩をすくめる。
「左様で御座いますなぁ……。
私も最初は疑われていましたからね。
面白いと思いますよ。
ラヴェンナ卿なら、迂闊な使い方をしないでしょう」
モデストならそう考えるか。
モデストも先王との契約を反故にされた、と判断して俺に守秘義務を無視して情報を漏らしたからな。
「なるほど……。
ルルーシュ殿に確認します。
なぜラヴェンナ市民権を?」
モルガンは真顔で居住まいを正した。
「私には夢があります。
能力に応じた栄達をして、老衰で死ぬこと。
それを達成するのに、ラヴェンナは最適だと思いました。
ただしそれだけで裏切っては受け入れられない。
それに契約は有効だったので破棄出来ません。
私が粛正されそうになったのなら、契約はご破算です。
それに多少は説得力も増すでしょう」
夢と来たか。
嘘偽りで夢を語るようには思えない。
自称するとおり正直者なのだろう。
信じ込むことは危険だが……。
最適と思うのは結構だが、現実を知らせる必要がある。
「なるほど。
ただひとつ注意点を。
ラヴェンナは楽園ではありません。
人々が生きやすいよう心がけていますけどね。
それでも完全に、能力だけで評価されるとは限りません」
人が人を評価する以上、完全に能力だけで評価出来ない。
この現実を見ないで、楽園だと思われては困る。
「それは重々承知しております。
ただ他所と比べてどうでしょうか?
もし評価されなくても、根拠が提示されるでしょう。
つまり基準が、多少なりとも明確になります。
それならやりようはある。
他所での判断基準は、コネと人間関係がすべて。
このような不確かなもので評価されたくはないのです。
不確かなことから得た宝は、不確かなことで奪われるでしょう?」
随分醒めた男だな。
これなら周囲が口にしないことでも、平気で口にしてくれそうだ。
使い方次第では面白くなるか。
「そこまで考えているならいいでしょう。
あとラヴェンナの決まりとして、いきなり市民権は得られません。
準市民権を得て、時期が来たら市民となります。
功績が大きければ、その期間は短くなりますが……。
そこは誤解なきように」
モルガンは、当然といった感じでうなずく。
「不公平感を抑えるためですね。
それも明確なら文句はありません」
そこまで知っているとは。
ただ……ラヴェンナに、どのような利益をもたらしてくれるのか。
それが、最も大切だ。
「それで私に、なにを提供出来るのですか?
ラヴェンナ市民権は安くありませんよ」
モルガンは自信ありげに薄く笑った。
「世界主義について私の知る情報すべてを。
ただしサン=サーンスの内心まではお答え出来ません。
語れるのは私の知っている言動のみですから。
それ以外でも、なにかとお役に立てるかと」
「では自分が得意だと思うことは?
「私は外見的に目立ちません。
密使としてお役に立てるかと。
プリュタニス殿のように気がつく人は稀ですから」
プリュタニスがため息をつく。
「まさか気がついていたとは……」
「わざわざ振り返ってはいけません。
気がついたと言わんばかりでしょう。
役目柄そのような気配には敏感なのですよ」
なるほど。
あえて見逃したのか。
もしかしたら……。
そのときから、ラヴェンナに寝返ることを考えていたのかもしれないな。
契約の破棄を認識してから寝返る準備をするタイプではない。
準備だけは常に怠らないが、決定的な行動は破棄されてからか。
たしかに自分に正直だ。
正直すぎて、周囲からは噓つきに思われそうだが……。
やはり……上層部以外は、優秀な人材が埋もれていそうだ。
「そうなると……。
世界主義が存在する限り、密使として使うには、危険が伴いますね」
使い捨てのような役目には、敏感な男だ。
そのような役目を任せるのは得策ではない。
「
ですが世界主義を壊滅させる過程において、有用な助言役になると自認しています。
またラヴェンナ法は複雑になりつつあるでしょう。
世界主義内で培った知識を活かすことも出来ます。
世界主義は、理屈と理想倒れですが、使える要素もあるでしょう。
平和が訪れたら、是非とも法の世界に関わりたいと思います。
如何ですか?
私は悪くない買い物だと思います」
たしかにラヴェンナ法は、前法と新法に矛盾があれば、新法を優先する。
法の制定に馴染みがないから、導入にはそれしかなかったが……。
法が増えてくることで複雑化している。
つまり覚えることが増えすぎて難解になりつつあった。
まだ簡素だが、10年後はどうなる?
定期的に再編する必要は感じていた。
そこまで見通しているなら、たしかに悪くない買い物だな。
条件を満たす限り裏切らない。
無条件の信頼は出来ないが、それも問題ないだろう。
「わかりました。
ルルーシュ殿をラヴェンナ準市民として迎え入れましょう。
移民省に書類を提出する必要があるので、あとで記載をお願いします」
モルガンは目を細めた。
「書類として残されるのは、大変結構です。
では契約成立したので、ひとつ手土産を」
決まったからだす情報か。
それなりのものだろう。
まずは聞いてみるか。
「それは一体?」
「ラヴェンナ卿がお探しのマントノン傭兵団の参謀、ボドワン・バロー。
最近までアンフィポリスのビュトス商会にいました。
ただ……もう姿を眩ませている可能性もあります。
ガヴラス卿がビュトス商会の壊滅に動いていますから」
キアラが厳しい顔で腰を浮かせる。
「まさか……。
お兄さまが受け入れる、と言わなければ黙っているつもりだったの?」
モルガンは涼しい顔だ。
「当然です。
ラヴェンナ卿に受け入れられないとなれば、ガヴラス卿の庇護を頼りにするしかありません。
そこでバローの情報だけ教えては、私の身が危うくなります。
クレシダは、ラヴェンナ卿以外の動きについて無頓着ですが……。
私の情報がラヴェンナ卿の介入を招いたらどうなりますか?
私は、クレシダの見えない場所で
これでは退治されるのが明白でしょう。
シケリア王国はクレシダの影響力が強いのです。
安易に目立つわけにはいきません」
思わず笑ってしまった。
クレシダへの分析は概ね正確だ。
違うのは邪魔なハエだから消されるのではない。
情報だけ渡して捨てられる下手な役者を、舞台から蹴落とすだけだ。
キアラが白い目で俺を睨む。
「お兄さま!!」
俺は笑って手をふる。
「ルルーシュ殿の夢を聞いたでしょう。
生き残ることが最優先なのですよ。
市民として受け入れないのに、誠意を示して危険な情報を渡せ……など虫が良すぎます。
それよりルルーシュ殿。
バローは世界主義より、クレシダ嬢に仕えているかのような口ぶりですね。
もし世界主義に仕えるただの伝言役なら、私の介入を招いても気にしないはずです。
私に突きだせばいいだけですからね。
代わりの伝言役を世界主義に用意させれば終わり。
私もそれ以上の追求が出来なくなります。
自分の配下なら、話は変わってくるでしょう?」
キアラは頰を膨らませて、モルガンを睨む。
モルガンは苦笑しただけだ。
「さすが……と感嘆すべきですか。
些細なことも見逃さないとは。
私がアンフィポリスに赴任したのは、サン=サーンスの指示です。
バローの忠誠が疑わしいから消せと。
そしてバローは、クレシダに乗り換えています。
表向きは世界主義に属した顔をしながら」
クレシダと世界主義の協力関係は、単純なものではなさそうだな。
それにしても……正直すぎて、逆に面白い男だ。
エベールには、モルガンを使いこなす器量がなかったわけか。
世界主義を潰すのは簡単だが……。
まだ知らない、優秀な人材に建て直されては困るな。
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