898話 閑話 商品

 世界主義のメンバーであるモルガン・ルルーシュは、外見的特徴がない。

 それ故に、密使として便利使いされる。


 外見に特徴がないからと、内面まで無個性とは限らない。

 だが内面の個性は隠してきた。

 

 モルガンにとって、個性とは余計な軋轢を生む危険要素なのだ。

 これは自分の夢を実現するために必要と考えた。


 夢とは、能力相応の出世をして老衰で死ぬことだ。

 平凡に思えるが、これはかなり特殊な夢となる。

 生まれで人生がほぼ確定するこの世界で、身分に関わらず能力ひとつで出世した人物が、タタミの上で死ねるのは稀なのだ。

 能力による出世だけで軋轢を生むなら、個性でぶつかるのは損だ……と考えていた。


 ある意味で夢想家だが、ある意味で冷徹な男。

 それがモルガンであった。


 低い身分の生まれ故、栄達を求めるなら、冒険者か教会しか選択肢がない。

 だが冒険者としての栄達は、早々に捨てた。

 自分に適正がないことを自覚しているからだ。

 しかも危険が大きく、老衰どころか何年生きられるか怪しい。

 己の頭脳に自信があったので、教会に入る。

 だが教会こそ、身分秩序の権化だった。


 平民では教皇どころか枢機卿になれない。

 枢機卿になるには、教会内で有力な一族に属する必要があった。


 平民出身でも民からの名声が高く、教会内を泳げる政治力があれば、推挙を受けて指導者階層に連なることが出来る。

 だが末席にすぎない。

 そこから数代かけて正式に受け入れられる。

 もしくは有力氏族の養子として迎えられるか。


 聖職者は結婚出来ないことになっている。

 これが守られるケースは稀だ。

 正式に結婚しなければいいとなる。

 妻を友人と言い、生まれた子供を養子と公言する。

 清廉潔白だった者は、徐々に指導者層の論理に染まっていく。

 染まるからこそ受け入れられる。


 だがモルガンに、その選択肢は与えられなかった。

 見た目が優れているわけではないからだ。

 民からの名声は、不確かなものとして重視しなかった。

 これでは養子どころか、推挙されることもない。


 必然的に、世界主義に行き場を求める。

 その世界主義も、理想とほど遠い世界であった。

 実力で出世出来ない。

 コネがすべてだ。


 実力でのし上がれるのは実務層まで。

 指導者層に連なれない。

 さらに危険度は段違い。

 疑われた時点で、死が確定するのだ。

 だからこそモルガンは、言動でも無個性を貫く。

 結果、誰からも恨まれることなく……好かれることもないまま、日々をやり過ごしていた。

 だからこそギャスパル・エベールに見いだされ、重用される。

 使い勝手がいいからだ。


 ギャスパルは指導者ヴィルジール・サン=サーンスの側近。

 つまり大出世だ。

 急速に世界主義内での地位が向上しはじめた。


 これ以降、押さえ込んでいた傲慢ごうまんな面が、顔をだしはじめる。

 自己制御に陰りが生じたからだ。

 実力ではない……タダのコネで出世したことが、モルガンのストレスだった。

 運も実力のうち……と考えるには、運の要素が大きすぎた。

 運で夢をつかめば、不運が夢を奪い去る。

 これはモルガンの信条だ。


 ただし大多数に恨まれるような、愚かな行為はしない。

 傲慢ごうまんになるのは、振る舞って問題ない相手に対してだ。


 ギャスパルはモルガンに恩を売った、と思っていたが……。

 モルガンは個人的恩義を感じていなかった。

 積極的な悪意がないだけである。


 だからギャスパルを裏切り、ヴィルジールにつく。


 ここまでは問題なかった。

 ところが世界の情勢は大きく変わる。

 それに伴いモルガンの境遇も変化した。


 トマ・クララックの利用価値が大きくなったので、監視役につく。

 トマを監視する立場は、大変不愉快なものだった。


 モルガンは、トマを嫌悪さえしていたのだ。

 トマは無能故に、モルガンが軽視する運を最大限評価し、運が一生自分を守ってくれる……と無邪気に信じていた。

 好きになるはずもない。


 新たに監視対象に加わったカールラは、多少マシとは言え、己を利口と考える破滅願望の持ち主。

 老衰で死ぬことが夢のモルガンには、到底理解出来ない人間だった。

 それでもトマより遙かにマシだったが……。

 モルガンはつくづく運がないと、己の運命に唾を吐きかける。


 しかもアルカディアの失敗は、モルガンの責任とされた。

 一種の生贄である。

 これ自体にモルガンは腹を立てなかった。

 運でつかんだ夢だから、不運が回収しただけ。

 そう考えていたのだ。


 かくしてヴィルジールから、クレシダに取り入ったはずのボドワン・バローの内偵を命じられる。

 ボドワンはアッビアーティ商会に潜り込んで、現在活動中だ。

 その手助けという名目で、モルガンも赴任することになる。


 クレシダの力を探るのは、名目上のことだった。

 ヴィルジールは、アッビアーティ商会を探っていた素振りがないのだ。

 ボドワンへの問い合わせもない。

 定例の報告のみでよしとしていたからだ。


 となるとヴィルジールの指示はひとつ。

 これはモルガンにとって、難しい役目だ。

 世界主義は疑いを持たれた時点で終わり。

 つまり処断せよと、言外に命じられたのだ。


 そもそもボドワンは、尻尾をだすようなヘマなどしない。

 これを処断するとなれば、かなり無理をする必要がある。

 クレシダの不興を買えば、自分が処断される。

 これは、見捨てられたことを意味した。


 ヴィルジールは猜疑心だけが、無二の親友だ。

 信じるのは己自身だけ。

 口外こそしないが、言葉の端々に現れている。


 だからこそ誠心誠意ヴィルジールに仕え、恐懼きょうくする姿も見せてきた。

 自分を恐れる相手には、疑いを持たないからだ。

 いままでは、それで問題なかった。

 無二の親友は微睡まどろんでおり、ヴィルジールも信頼する素振りを変えていない。

 

 ヴィルジールが、アルフレードに議論で敗れるまでは……。

 はじめて議論に負けたショックのあまり、無二の親友が飛び起きたらしい。


 ヴィルジールの態度が変化したのだ。

 モルガンには、大袈裟なくらい信頼しているような素振りを見せる。

 それでいてボドワンに対する懸念をモルガンに漏らす。

 モルガンは危険を察知する。

 

 ボドワンが疑われたなら、次は自分なのだ。

 1度裏切ったなら次も裏切る……と思うのは、自然なことだろう。


 そこでモルガンは、生き残るための知恵を巡らせる。


 昔なら、逃げても必ず失敗する、と諦めたろう。

 いまは違う。

 ヴィルジールから感じていた絶対性は失われていた。

 それほど議論で負けた影響が大きいのだ。


 無敵の論客というイメージが、ヴィルジールの権威を支えていた。

 いままでは、議論で太刀打ち出来る者はいなかった。

 それがアルフレードと戦った瞬間、無様に敗れたのだ。


 判定負けではない。

 完膚なきまでに叩き潰された。

 しかもいつもなら相手を激昂させ、勝者であることを衆院にも印象づける。

 今度はヴィルジールが激昂してしまったのだ。

 名前をエベール・プレヴァンと偽り、サロモンの顧問としての議論だったが……。


 絶対的強者に見えたのは、箱庭の勇者だったからだ……と気が付かされる。

 さらには世界主義の掲げる未来の実現性が薄いことまで指摘された。


 ヴィルジールを信奉する者たちは、競ってヴィルジールを擁護するが……。

 モルガンは、非常に醒めた人間だ。

 アルフレードとの力の差は歴然だと考えた。


 思えば、アルフレードに敵意を持った相手は、悉く破滅している。

 ヴィルジールも、その列に並ぶ予感があった。

 その予感は確信に近づいていく。


 ヴィルジールが、アルフレードを罵ることに耽溺たんできしたからだ。

 信奉者たちは、競ってヴィルジールを褒めたたえる。

 モルガンには大変おぞましい光景に見えた。


 ヴィルジールは間違っていない、と連呼する様は、幼子が不快なものを拒絶し、揺籃ようらんに戻りたがるかのように……。

 信奉者とヴィルジールが、精神の揺籃ようらんに引きこもっているかのようであった。


 これは破滅した連中に共通している。

 アルフレードは、正確な判断を放棄して勝てる相手ではない。

 魔王の呼び名は冗談にならないのだ。


 モルガンは、乗る馬を変えるには潮時だ……と考える。


 そうなれば誰かに従う必要がある。

 モルガンは自力で生き延びられる……と思うほど楽天的ではない。


 まず考えたのはクレシダだ。

 クレシダの力量は不気味なほどつかみどころがない。

 だがカールラの監視をしていた経験上、なにか相通じするものを感じていた。

 つまり破滅願望である。

 支離滅裂な行動も、そう考えれば辻褄が合う。

 そうなれば従うには不適格だ。

 能力に見合った出世をして、老衰で死ぬのがモルガンの夢なのだから。


 世界主義から自分を守るほどの力がある存在は多くない。

 ひとつは新教皇ジャンヌに寝返って、世界主義を壊滅させること。

 これには問題がある。

 所詮は裏切り者だ。

 最後は、悲惨な末路を辿るのが、目に見えている。

 ジャンヌにその意図はなくても高齢なのだ。

 後継者が、手っ取り早く権威固めをしたいなら、裏切り者を処断すればいい。

 かくして教会は、選択肢から外れる。


 ランゴバルド王国も考えた。

 ジャン=ポールが消されないのは、消すことが困難だからだ。

 現時点の世界主義に、権力者を消す手段はない。

 普通なら可能ではあるが……。

 手口を知り尽くす権力者相手には手も足もでない。

 

 だが……手ぶらで寝返っても受け入れられない。

 土産がないのだ。

 それにジャン=ポールが望まないだろう。

 自分の商品価値が落ちるのだから。


 シケリア王国には、コネがない。

 そもそもクレシダではなく、シケリア王国を選んで生き残れる保証がない。


 最後に残ったのはラヴェンナだ。

 アルフレードは、世界主義の存在を知り、敵視していると考えた。

 現実主義者であるアルフレードになら提供出来る土産はある。

 利用価値さえ提供出来るなら、好悪の感情抜きで判断するだろう。

 問題はどのように、渡りをつけるかだ。

 

 なにぶん、アルフレードのガードは堅い。

 会うことすら出来ないだろう。


 だが細い糸はあった。

 ゼウクシス・ガヴラスの部下が接触してきていたのだ。

 アッビアーティ商会の情報を探るためらしいが……。

 あえて判断を保留していたのだ。


 教皇庁でなにか動きがあると察した以上、自分の価値が高い期間は限られる。

 モルガンは細い糸に賭けることにした。

 交換条件をだした上で、ゼウクシスとの面会を要求したのだ。


 部下は判断を保留したが、数日後受諾の返事を持ってきた。

 そこでモルガンは、急な呼びだしがあったとして職場を辞する。


 ボドワンは意味深な沈黙を挟んで、モルガンに労いと激励の言葉をかけた。


 ボドワンは、モルガンが自分を粛正するためにやって来たことを知っている。

 それをせずにいたことで、モルガンが世界主義の忠実なる同士でないと悟った。

 だからこそ、誰かに寝返るつもりだと考える。

 それをヴィルジールに知らせる気はない。

 クレシダにも伝える気はなかった。

 これは『もしモルガンがシケリア王国に通じても放置しろ』と指示を受けていたからだ。

 伝えるまでもなく知っているだろう、と考えた。


 モルガンが辞することを告げたのは、追っ手をだされては困るからだ。

 現時点ではヴィルジールがボドワンに問い合わせをしないだろう。

 モルガンの逃亡を知るのは、次の定例報告のときだ。

 十分時間が稼げる。



 かくしてモルガンは、ゼウクシスとの面会にこぎつける。

 

 当然対面ではない。

 ゼウクシス側は数名の護衛がついている。

 ただ……ひとり護衛と思えない人物がいた。

 普通の護衛を装っているが、立ち振る舞いが上品すぎるのだ。

 モルガンは貴人の戯れかと思い、知らんぷりをする。

 今回の目的とは関係ないのだ。


 正面のゼウクシスは、厳しい表情をしている。


「我々の要請に応えてくれたことを、嬉しく思う。

君の安全は、私が保証しよう。

だが……その前に条件の確認をしようか。

私に直接要望を訴えることが、協力の条件だったろう」


 モルガンは丁寧に一礼する。


「こちらこそ、無理なお願いをお聞き届けくださり、感謝の念に堪えません。

私の要望はひとつです。

ラヴェンナ卿への取り次ぎをお願いしたく」


 ゼウクシスの目が鋭くなる。


「なにか勘違いしていないか?

私は他国の要人に取り次ぐ権利を持っていないぞ。

そこまで身分が高くない」


「表向きは。

ですが……ガヴラス卿はラヴェンナ卿と個人的な文通をされています。

正式ではありませんが、要請は可能でしょう。

しかもとある貴人を連れて、直接訪問されたではありませんか。

ある程度の信頼関係があると思います」


 ゼウクシスの表情が消える。


「文通は事実だが……。

直接訪問などしたことはない。

君のだろう」


 モルガンもゼウクシスが、簡単に認めると思わない。

 

「左様ですか……。

たしかに公的にはないでしょう。

ですがには、周知の事実です」


 ゼウクシスは唇の端を釣り上げる。


「ほう……我々だと?」


 モルガンは、わざとらしく肩をすくめる。


「ああ……。

アッビアーティ商会ではありません。

あしからず」


 直接訪問を知っているのは、馬車を手配する王家御用達の業者だからだ。

 世界主義は跡継ぎの息子をシンパにしている。

 家庭教師として、思想を刷り込んだのだ。

 だからこそ情報が手に入った。


「やはりそうか。

宮廷とアッビアーティ商会に悟られていないはずだ。

ざといようだが……


 モルガンが別の組織を示唆したことは驚いていない。

 どの組織かまではわからなかったが……。


 ゼウクシスの諜報ちょうほう組織は、モルガンの存在を把握していた。

 モルガンがただの教会関係者なら、いきなり商会に潜り込めるはずはない。

 アルカディアで教会との連絡役を務めていたのだ。

 この抜擢は謎が多かった。


 今度はいきなり商会に赴任したのだ。

 教会に所属しているが、本当の所属は違うと考えた。

 これは左遷の疑いが強い。


 諜報ちょうほう組織の見解は、『アルカディアの崩壊で、責任を取らされた可能性あり』だった。

 だからこそ接触を試みた。

 忠誠心が揺らいでいれば取引可能と考えたのだ。


 ゼウクシスはどこから情報が漏れたか、あたりをつけていた。

 ディミトゥラ王女の押しかけ訪問を知っている人間は限られる。

 そこで漏れるとすれば、業者の親族だろうと。

 当然業者の親族に至るまで、交友関係は調べていた。

それでも注意したのは宮廷かアッビアーティ商会とのつながりだ。

 それ以外の関係までは手が及んでいない。


 ゼウクシスは、モルガンがここまで話したのは、本気で取引をする気がある……と考えた。

 だからと直接訪問を認めるわけにはいかない。

 モルガンもそれは承知している。

 これで、取引の第1段階はクリアしたのだ。

 ムキになって主張する必要はない。


 モルガンは軽く頭をさげた。


「これは失礼。

だったようです」


 ゼウクシスはうなずいて、腕組みをする。

 別の組織が出てきた以上、確認する必要がある。

 組織次第では、考えが必要になるからだ。


「結構だ。

ところで君の仲間は、なのかね?」


 モルガンは意味深な笑みを浮かべる。


「それは交換条件にありませんので……平にご容赦を。

ですが……それだけで、取り次ぎをお願い出来ません。

ラヴェンナ卿が敵視されている集団ですよ」


 ゼウクシスは厳しい顔をする。

 これは問題だ。

 取り次いでアルフレードになにかあれば、ゼウクシスの責任となる。

 そうなったとき、あの魔王がどのような要求を突きつけてくるか……。

 最近増えた白髪が爆増する程度では済まない。

 はいそうですか……と取り次ぐわけにはいかないのだ。


 だが……。

 ここで『裏切り者を会わせるわけにはいかない』とも言えない。

 その裏切りで、情報を得ようとしているのだから。

 指摘しても、なんら益がないのだ。


「ラヴェンナ卿に会いたいのは、ではないのかね?」


 モルガンは苦笑する。

 アルフレードを害しても、得なことはない。

 だがゼウクシスの疑問は、当然のことだ。

 誤解を解く必要は、モルガンにある。


「悲しいかな……。

私程度の凡人が貴人を害そうとすれば、瞬間にこの世からいなくなるでしょう。

取り次ぎを希望するのは、私の持つ商品を買ってほしいからです」


 ゼウクシスは、厳しい顔で腕組みをする。

 商品の価値が低ければ、ゼウクシスの信用に関わる。

 だからと商品を明かすようなことはないだろう。


「私が頼んでも、ラヴェンナ卿が断るかもしれないぞ」


「そうでしょうか?

利用価値がある、と判断いただければですが……。

お会いくださるかと」


 モルガンは価値のある商品だと言っている。

 ゼウクシスは、どのような価値があるのか探らなくてはいけない。


「それで商品の売値はいかほどなのかね?」


 これは取り次ぎとして伝える情報の範囲内だ。

 求める対価によって、ある程度の重要度は測れる。

 モルガンは真顔でうなずく。


「望むのはラヴェンナの市民権です。

私は小心者で、我が身が可愛い。

それでいて人並み程度には、虚栄心も持ち合わせております。

あそこなら身分にとらわれない。

実力さえあれば栄達が望めますから」


 これは本心である。

 一見すると、ささやかな見返りだ。

 だが……アルフレードは、市民権の大盤振る舞いをしない。

 コネで認めることはあるが、基本ラヴェンナに利益をもたらすことが、最低条件となる。

 しかも敵対する組織の人間だ。

 ささやかな望みではない。


 ゼウクシスは取り次いでも問題ない、と判断する。

 毒蜘蛛が護衛としてついているのだ。

 万が一もありえないだろう。

 それでも『なぜ取り次いだのか?』と聞かれたときいい加減な返事は出来ない。

 ここまで聞きだせば十分だろう。


 本来ならより詳細に聞きだす必要がある。

 だがゼウクシスの主目的にとって不都合だ。

 このモルガンに『ゼウクシスはまったく自分を信用していない』と思わせてはマズい。

 口を閉ざしかねない。

 信じたフリだけでもしなくてはいけないのだった。


「それだけ商品に、自信があるのだろう。

その前に、最初の商品が売れないと、次の商品は売れないぞ」


 モルガンは目を細めてもみ手する。


 ゼウクシスが望むのは、アッビアーティ商会の情報だ。

 最優先は要人との関係。

 アッビアーティ商会を潰そうとすれば、誰が敵になるか知らなければいけないからだ。


 モルガンの組織を軽視したわけではない。

 アルフレードから情報共有があると考えた。

 だから任せてしまうつもりだ。

 正直に言えば対処する余裕がない。


「それはもう。

きっと満足いただけますよ。

高潔なガヴラス卿なら、よもや平民からタダで買い叩くことはないでしょう」


 ゼウクシスは苦笑する。

 モルガンのわざとらしいもみ手の意味を理解したからだ。

 代価を払えと釘を刺しつつ……。

警戒されすぎないように、自分を低く見せた。


 外見は無個性そのものだが、極めて癖者だ。

 この癖者をアルフレードに回送すれば、面白いことになると思った。

 精々困惑してくれ……がゼウクシスの本心である。

 

「わかった。

最初の商品次第だが……。

取り次ごう」


 怪しい護衛が天を仰ぐ。

 モルガンはあえて見ないフリをした。

 なぜ天を仰いだか、まったく理解出来なかったからだ。

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