867話 生きた数値 死んだ数値

 力の均衡についての説明か……。

 この概念は、転生前でも理解されにくい。

 それどころか忌避されていた考えだな。

 どのような忌避だったかは忘れたが。


「睨み合いみたいなものです。

ただ2国と幾つかの小国になるので、見極めが難しいと思いますがね」


 プリュタニスは首をひねる。

 漠然としすぎてわかりにくいか。


「具体的にはどのような方法で実現しますか?」


「ひとつの勢力が強くなりすぎないよう、均衡を保つこと。

同盟を駆使するなり、極秘に干渉するとか……。

手段は様々です。

他国を力で従わせようとしても、他から一斉攻撃を受けて窮地に立たされる。

だから大規模な武力行使が出来ない。

出来たとしても小競り合いまで。

そのようなところですね。

無秩序状態でも秩序が生まれるのは、力が均衡したときだけでしょう」


 プリュタニスは納得した顔でうなずいた。


「なるほど。

それでは状況次第で、彼らに手を貸すこともあり得るわけですか」


「そうなります。

無秩序状態で、内輪の論理を持ち出しても無意味でしょう?

自国を優先するのは、人の常です。

自分が損をしても他人の利益を計るのは、個人なら聖人と呼ばれるでしょう。

でも家族以上の集団になると、狂人と呼ばれます。

聖人でも狂人でも希少だからそう呼ばれる。

集団が大きくなるにつれて成立する確率が小さくなるでしょう」


 まあ……使徒教徒は自分が損をしても、他人の損を望む衝動が強い。

 そこだけは注意が必要だな。

 この悪しき平等主義のおかげで、俺は嫌われているわけだが。


 プリュタニスが皮肉な笑みを浮かべる。


「そうですね。

そのような集団は、聞いたことがありません」


「つまり国は自国の利益を、最優先に考える。

それを安易に他国へ求められない関係が、最も安定すると思いますよ。

すべてが自由に出来るのに、勝手に自制する人はまずいません。

なんらかの制約で自制するでしょう。

国であれば自制出来ない人は、法という強制力で押さえつけられます。

それが存在しない国家間では?

国家間で非難は、制約にならない。

だから攻撃される恐怖で自制させるしかないでしょう」


 身内の論理や正義などを、他国との関係で持ち出しても無意味だ。

 衝突が増すだけになる。

 そうなると力で、すべてを従わせるしかない。


 プリュタニスは突然笑いだした。


「まさに魔王の論理ですね。

それでも小競り合い程度は許容しますか。

ならば流血は止まらないでしょう。

それでもいいのですか?」


 それは仕方ない。

 痛い目を見ないとわからない人は存在する。

 だからこそ優秀な軍人は、不必要に戦うことを避ける。

 戦いたがる軍人は、例外はあれど基本的に無能だ。


 痛い目を見なくて済む第三者ほど好戦的になりがちだ。

 もしくは非暴力主義を押しつける。

 戦う人や攻撃される土地の住人に、ツケを払わせてな。

 当の住人が寝ぼけたことをほざくなら、もう知らん。

 小競り合いを誘発させて、あえて痛い目を見せたくなる。

 積極的にやらないが、機会があれば逃がさない。

 逃げるなんて許さないぞ。

 他人に強制するなら、その覚悟は負うべきだろう。

 

 それが、俺にとっての現実だ。


「でしょうね。

国家間の協調や理性を否定して、利己的な国家関係を目指した。

その結果として数千人を死なせた……と非難されるかもしれません。

でも正義や大義を掲げて、数百万人を殺すよりはマシです。

まあ……。

『人命を数で計るな』と言われるでしょうけど。

それ以外でどう考えるのでしょうかね」


 プリュタニスは唇の端をつり上げた。


「そう言われると、数値以外で良し悪しはわかりませんね。

相対的な比較が出来るなら……ですけど」


「正義や大義にしろ……。

特定集団内の主観でしかありませんよ。

数値は共通的なものなので冷たく無機質でしょう。

でも共通的だからこそ無機質なのですよ。

だからと……数値ならなんでもよし、となりません。

大事なのは生きた数値を扱うことです。

死んだ数値を扱うべきではありません」


 キアラが大きなため息をついた。


「また難しいことをおっしゃいますわね。

数字に生き死になんてありますの?」


「生きている数値は、現状の把握に役立ちます。

批判も検証も出来る。

死んでいる数値は、都合のいい結論を導き出す為に使われる数値です。

そして批判そのものを許さないでしょう」


「これも具体的にお願いしますわ」


 そうだなぁ……。

 今後死んだ数値を悪用する輩は増える。

 知っておいて、損はないだろう。


「もし人口1000人の町があったとします。

去年の病死者はひとりでした。

今年は3人だとします。

生きている数値は、ふたり増えたとなります。

明確にするなら、1000人中ひとりだったのが、3人になったというでしょう。

死んでいる数値は、去年に比べて三倍の病死者がでた。

この違いはわかりますか?」


 キアラは納得顔でうなずいた。


「ふたりだと偶然か、原因があるのかわかりませんわね。

三倍だと不安に駆られると思いますわ」


「生きている数値は、それを元に考えることが出来ます。

死んでいる数値は検証を許さない。

だからこそ誘導したい目的の為に利用されます。

生きている人より死んだ人の方が感情により訴えるでしょう?

生きている人は、長所も欠点も把握出来る。

欠点の改善も可能でしょう」


「生きていると批判の対象にもなりますわね。

だから生きている……ですのね」


「死んだ人は、いい面ばかり思い起こされますからね。

そもそも改善のしようがありません。

ただ感情に訴えるだけです。

だから検証を拒むでしょう。

死んだ人を悪くいうなと。

先ほどの例だと……。

『死者が三倍なんて大問題だ。

人命は何より大切だろう。

問題を矮小わいしょう化して無視するのか』

とでも叫ぶでしょうか。

つまり死んだ数値を見て、望んだ感情以外を持つことは否定されます」


 カルメンは皮肉な笑みを浮かべる。


「完全な噓を言っていないだけ、タチが悪いですね」


 だからこそ悪質だ。

 自分の逃げ道を用意して、相手を誘導しようとする。

 俺が嫌いな手合いだよ。


「これは相手を、特定の目的に誘導する為に悪用されることが多いでしょう。

不都合な事実を誤魔化すときとかね。

だから『数値は、噓をつかない』と公言する人は、注意した方がいいですよ。

生きた数値を使う人なら、数値に真摯しんしだから、相手にして問題ありません。

ですが死んだ数値を使う人と関わると、ろくなことがありませんよ。

たしかに数値は噓をつきません。

でも扱う人間は噓をつくわけですから」


 キアラは頰に、両手を宛てて吐息を漏らす。

 なんで興奮するのだ……。


「数値ひとつで、そのような違いがあるのですわね。

これだから……。

お兄さま学はやめられませんわ」


 カルメンはキアラを見て苦笑する。


「アレはいつものことなので放置していいですよ。

そこまで割り切れる人は少ないですね。

正しさや大義などの情緒で、国家関係を決めそうです。

人類連合などその最たる例だと思いませんか?

これからどのような秩序を目指すのか……。

サッパリ見えませんけど」


 人類連合が企図する秩序か。

 多くの人が反対出来ないような、抽象的な事柄を掲げるだろう。


「情緒に重きを置くなら、情緒的にわかりやすい歯止めが必要でしょう。

これが実現すれば、世界から戦争はなくなりますね。

そのような風習でもつくるのでは?

実際にクレシダ嬢が示唆して、サロモン殿下が賛同していました。

提唱するのは、ほぼ確実でしょうね」


 プリュタニスは首をかしげる。


「自制を促すわけですか?

そう悪くないように聞こえますがね。

クレシダ嬢が関わっていなければ……ですが」


 安易な暴力は悪い……という使い方なら問題ない。

 ただ奪ってしまっては、逆に不公平になるだろう。


「これは紳士協定を守れる人たちの間でこそ有効ですよ。

秩序ある世界でこそ有効なのです。

この場合、執拗しつようかつ悪質な挑発をした側が悪いとされますから。

だから武力行使は軽率だ……と非難出来る。

そのような前提もなく、ただ武力行使を悪とする。

これはより深刻な矛盾を抱え込みます」


「矛盾ですか?」


「暴力でしか解決出来ないほどの挑発行為をされた場合ですよ。

それでも暴力は振るった方が悪い……とされるでしょう。

そうですね。

娘を持つ親と娘を狙う男がいるとします。

男は娘に付き纏って、娘は身の危険を感じる程だった。

男にいくら警告しても聞く耳を持たない。

ある日、男が明らかにおかしな様子で、娘に迫っていたら?」


 プリュタニスの表情が厳しくなる。


「殴ってでも止めるか……。

最悪は殺してでも、娘を守るでしょうね。

普通の親なら」


「そのときに、親が男を殺してしまったら?

どのような理由があっても殺しはよくない。

怪我をさせても同じですね。

どのような理由があっても暴力はよく……ですから。

そのような風潮では、親が処罰されるでしょう」


 プリュタニスは呆れ顔で頭をふる。


「馬鹿な……」


「なりますよ。

同情はするけど、罪は罪だと。

後付けで、もっと他の方法があったはず……とかいうでしょう。

ラヴェンナでそのようなことになったら?」


 プリュタニスは頭をかく。


「周囲が男を止められないなら、親は無罪ですね。

アルフレードさまなら、周囲の無作為を両親に謝罪しそうです。

法を守って、娘を不幸にするのはお門違いでしょう。

娘が男を誘惑していたら話は変わってきますけどね」


 これが辺境の常識だ。

 ラヴェンナで法律をつくるときは、実際の慣習を持ち寄ってつくっている。

 だから現実と乖離かいりした理想を押しつけない。


「これが男は周囲に止められて、娘に危険はない。

たまたま親が、男と出会ったときに殺せば有罪です。

つまり暴力を制限するときは、それが抑制出来る条件を社会が用意出来ること。

これが最低条件ですね」


 これは他所でも常識だ。

 ただ言外の法としてだが……。


 だから内乱のとき村が武装しても、領主の多くは黙認した。

 これで禁じたら、領主が殺されたろう。

 言外の法だから、奇麗事で無効化しても反論が難しい。

 ただ……確実に不満は溜まるだろうな。


 プリュタニスは納得した顔でうなずいた。

 ラヴェンナでの常識を語ったからな。


「ラヴェンナではそうですね。

だから法律として決まっても、皆が受け入れられた。

当たり前を禁じるだけですからね。

他所からは野蛮だと言われますが……。

アルフレードさまは意に介していませんね。

ラヴェンナでは当然のことだからと」


 言外の法を明文化した反発だろうな。

 明文化しなければ効果がないような野蛮な土地。

 そんな認識だろう。

 ラヴェンナは多民族だから、言外の法など存在出来ないだけなのだが……。


「他所から上品だと認められたくて、市民に尻拭いをさせる気はありません。

法はあくまで生きる為の道具にすぎないのですから。

話がれましたね。

暴力を否定することが先行して……。

不幸な人を増やすのは矛盾ではありませんか?

不幸を減らす為に、暴力を抑制するのでしょう」


 プリュタニスは腕組みをして考え込む。


「それが国と国の関係でも起こりえると?

飛躍しすぎだと思いますが」


「わざと飛躍させました。

深刻な状況ですら、非常手段としての暴力が否定される。

そして深刻な状況を回避する協力は誰もしない。

ただ暴力はダメというだけ。

ただの矛盾でしかないでしょう。

これを知ってもらいたかったのです」


「なるほど。

でも国と国ですか?

商品の代金を払わない……でしょうか」


 すぐに思いつくのはそれか。

 例としては少々弱いな。


「それもありますね。

払うことを強制出来る存在がいない限りね。

ただそれは例外でしょう。

今後のそこと取引する国は現れません。

自殺行為ですよ。

それでも代金を踏み倒した国が取引出来るなら、それは異常な世界です」


「それもそうですね。

ではどのような事態が考えられますか?」


「約束を破って、他国の財産を奪う。

奪った側が多数派なら?

武力行使が禁じられているなら……奪った者勝ちでしょう。

直近の話で言えば、今は平等ブームです。

裏返ればまた亜人差別が再発しますよ。

そして迫害へとエスカレートします。

それだけなら他国の問題なので干渉出来ません。

もしその亜人が、ラヴェンナにいる人たちの親類だとしたら?」


 プリュタニスは渋い顔で腕組みをする。


「放置は難しいでしょうね。

迫害を止めさせるか、此方こちらに移住させるか……」


「干渉するな……と拒まれたら?

他国のことだからと座視しては、ラヴェンナ内で不信感が高まります。

つまりは体制の維持が困難になるでしょう」


 プリュタニスは降参のポーズでため息をつく。


「干渉せざるを得ませんね」


「このように武力行使を禁じられて、それを守れば我が身の破滅となれば……。

守りますかね?

迫害を止める……と言いながら裏では続ける。

これもあり得るでしょう。

此方こちらの要求を拒否する側は『禁じられているから、武力介入はしてこない』と思い込んでいます。

つまり何も出来ないと考える」


「それでは禁止している大義すら……否定せざるを得ません。

野心家の口実としても、格好のネタですけど」


「その通りですよ。

もし禁じられていなければ……。

武力介入を恐れて、迫害の手を緩めるのでは?

危険を認識するからこそ、人は自制します。

なにをやっても、文句しか言われないなら……。

容易に堕落して、醜悪な行為に平然と手を染めるでしょう。

他人には自制心を求めながら……ね」


 アーデルヘイトが遠慮がちに挙手をした。


「旦那さま。

それって……さすがに考えすぎではありませんか?」


 そこまでする醜さが想像出来ないようだ。

 それは、いい面でもあるが……。

 冷徹な判断には向かないな。


「だといいのですがね。

やっている側の立場ではどうなりますか?

同じようなことをする人たちが増えては困ります。

のですから。

利益の為になんでもする人にとって、最大の価値基準は利益ですよ。

それは他人が守ってこそ……最大限に得られる。

それで自らを省みますか?」


 アーデルヘイトは大きなため息をついた。


「魔王モードの旦那さまには勝てません……。

ベッドの上でも負けっぱなしです。

あっ!! 忘れてください!!」


 キアラが凄い目で、アーデルヘイトを睨んでいた。

 アーデルヘイトが身震いしたので、殺気を飛ばした可能性まである。

 困ったものだ……。


「そもそも無秩序の世界に、そのような幻想を持ち込まれても……。

悪用するものばかりが得をします。

被害を受けた側が訴えても『話し合って決めろ』と諭されるのがオチです。

騙したことを正す強制力は、人類連合にありませんから。

このような矛盾がまかり通る未来は、杞憂きゆうではありません

メディアの出現で、その危険性はより高まったと思いますね」


 カルメンが皮肉な笑みを浮かべる。


「でしょうね。

止むなく武力介入しても、それを非難する報道に終始する。

それかすぐに破滅するだろう……と願望を垂れ流すでしょうね。

あとは迫害している側のいい部分だけ報道して、正義と悪で白黒つければ簡単です。

世界はそれを信じるしかないですから」


 プリュタニスが苦笑して手をふった。


「つまり武力を否定して、理想を押しつけるサロモン殿下は、大流血を招くわけですね。

善と悪の戦いになったら歯止めが利きません。

白黒つけずに、武力を容認するアルフレードさまの方が、流血が少ない。

皮肉なものですよ」


 現実で一番多くの問題を解決するのは武力なのだ。

 それは、暗黙の常識だろう。


「暴力は人の1面でしかありません。

嫌だからと目を背けたら、暴力は最も残酷な方法で、我々に復讐ふくしゅうしてきます。

人は話し合いだけで、すべてを解決出来る生き物ではありません。

暴力を嫌うからこそ、正しく飼い慣らすべきだと思いますね」


 プリュタニスはしきりに首をひねっている。


「暴力が復讐ふくしゅうしてくる……ですか?

また詩的な表現ですね」


 表現が抽象的になりすぎたか……。


使

これが常識になると、ひとつの弊害を生み出します。

『武力に訴えると、激しい非難を受けて孤立するだろう。

誰だって損はしたくない。

だから戦争は起きない』

そのような幻想に、多くの人が陥るでしょう」


「偽使徒が提唱していましたね。

経済的な結びつきが強まれば、武力行使を自制するって」


「ある意味で間違っていません。

他国との商売は断たれ、経済的にも困難を来しますから。

でも怒りや恐怖は、損得を飛び越えます。

そのときに最小限の流血でとどめることが出来ますかね。

無視された暴力は、最大限の流血で報いてくると思います。

飼い慣らせていませんからね。

解き放たれたときが大変です。

武力行使する側も……。

どうせやるなら、最大限の成果を求めるでしょう?」


 プリュタニスが皮肉な笑みを浮かべる。


「そうですね。

途中で手打ちにすることも出来ませんからね。

自分が悪とされては、交渉など出来ません」


「そうなります。

そのとき多数派は、自分の損を考えて動けない。

精々武力行使した側を、悪者に仕立て上げるのが精一杯。

もしくは他の国に損を押しつけようとするでしょう」


 カルメンが皮肉な笑みを浮かべる。


「身も蓋もない話ですけど、アルフレードさまがいうと説得力があります。

ラヴェンナ平定までは、武力を有効な手段として使っていましたよね。

平定後は一転して、可能な限り争いを避ける。

これも飼い慣らす行為でしょうか」


「ええ。

ラヴェンナにとっての戦争は、もう必要ないと思っています。

相手から挑まれたら対応せざるを得ませんが……。

勘違いされますけど、私本来の性格で、流血を嫌っているわけではありません。

不要だから忌避するだけのことです。

絶対に避けるべき禁忌だとは思っていませんからね」


「人類連合がそのような幻想を掲げたら、どうしますか?」


 それは既に手を打っている。

 これが目的ではなかったが、流用は出来るからな。


「積極的に無視しません。

でも悪用してくる相手がいれば容赦しない。

従う義理はないのですから。

既に手は打ってあります。

穀物などの食糧輸出。

これが武器です」


「ああ……。

此方こちらに敵対すると輸出しないぞ……と脅すわけですか」


 思わず笑みが漏れた。


「カルメンさんは、まだまだピュアですね。

減らすだけです。

それも大きくね。

ただ輸出は続けます」


 カルメンは引きった笑みを浮かべる。


「うわぁ……。

そこまでしますか。

それって内部対立が起こりますよね。

理想の為に腹が減っても構わない人はいないでしょう。

理想はあえなく内部崩壊するわけですか。

やっぱり魔王です」


 なぜか皆が笑いやがった。

 人の考えることだよ。

 ただの定石さ。

 キアラは笑ったあとで真顔に戻る。


「人類連合はそれでいいとして……。

マルティーグに対して、どうされますの?」


「積極的にマルティーグを承認する必要はありません。

メディアを通じての支援要請なので、今後噓でも過激な情報を流すと思います。

それを口実にさらなる支援を求めるでしょう。

最初から深く関わると、ただの金蔓にされますよ」


「噓なんて発覚したら……。

大変じゃありませんの?」


 それは噓だとバレるからだ。

 バレなければいい。


「その噓を、誰が指摘して広めるのですか?

指摘した瞬間に、こいつは魔物の手先だ、とか非難の大合唱が待っています。

ある意味でやりたい放題ですよ」


 キアラは大きなため息をつく。


「それは厄介ですわね」


「深入りをすべきではありません。

まずは噓をつかせるとしましょう。

噓は噓を呼ぶ。

そうして破綻させればいいと思っています。

それまでは、必要な支援だけをすればいいでしょう。

支援したとして、どう使われるのかわからないのです。

黙って支援する気はありませんよ

そもそも狂犬と、あの男は違いますからね」


「それは私も疑問に思いましたわ。

狂犬は学がないけど、頭の切れる人物と聞いています。

それに噓を嫌うとも。

こんな馬鹿げたことに荷担するでしょうか?」


 それは、もっともな疑問だな。

 だが黙認はするだろう。

 狂犬の情報を調べてもらった上で、大まかな性向は読めた。


「そこは狂犬の性格次第ですよ。

彼も極端な思考の持ち主ですからね。

悲しいことに、理性が感情に勝つことは難しいのです。

バランス感覚と自信を欠いた彼にとって……より困難でしょう」

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