842話 独り言と妄想
次のことを考える必要はあるが、足元も無視出来ないな。
外にでないから、どんな状況かわからない。
なので……よく外出するモデストとカルメンに、話を聞こう。
ふたりを自室に呼ぶことにした。
問題の兆候があれば、自発的に報告してくるが……。
現時点での見解を聞いておきたい。
ふたりはすぐやって来たので、早々に本題に入ろう。
「シャロン卿。
カルメンさん。
町の様子はどうですか?」
カルメンがモデストに、アイコンタクトをする。
モデストが黙ってうなずいた。
「まだラヴェンナ卿の威を恐れて、亜人に危害を加える者はいません。
ただ露骨に避けられてはいます」
やはりなぁ……。
ただこれを、クレシダが放置していること。
これこそが問題だ。
「状況によっては、ここを引き払う必要がでますね。
クレシダ嬢は、それを承知しているはずです」
「クレシダ嬢ですか……。
ラヴェンナ卿を人類連合に、深く食い込ませるつもりだったのでは?
これでは離脱する格好の口実になりますよ」
当然の疑問だな。
「ふたつ可能性があります。
ひとつは私が離脱しても構わない状況になった」
カルメンが意外そうな顔をする。
「アルフレードさまに執着しているクレシダが?」
クレシダにとって、ベストの選択肢ではないだろう。
あくまで、保険のプランだが……。
「ラヴェンナ対世界の構図が作れると確信したときです」
「さすがにそれは難しいと思います。
世界はそこまで
魔物の件がありますから。
人間だけで対処は難しいでしょう」
実はそうでもない。
信じたいことを信じさせればいいだけだ。
魔物の侵攻は、クレシダのさじ加減ひとつで決まるからな。
たた積極的に、それを選ばない。
クレシダの狙いは、世界の破壊だ。
世界対ラヴェンナになったとして、ラヴェンナが負けるのか。
戦うのは最悪のケースだが…。
勝てるとは思わないが、負けるとは思っていない。
これでは旧世界の常識を壊すにしても徹底的ではない。
クレシダもそれは知っているはずだ。
だからこそ保険としてのカードだと思う。
「そこでもうひとつ。
これが最も有力でしょうか。
今までの活動から……。
これをずっと狙っていたと思います」
「勿体ぶらずに教えてください」
「私がラヴェンナの民を守るのに、最もいい方法はなにか。
人類連合を掌握することです。
その切っ掛けとして、今回の亜人排斥事件を利用するのでしょう」
カルメンの目が鋭くなった。
「つまりクレシダ嬢が、質の悪い手駒を使っているのは……。
わざと負けさせるためと」
察しがいいな。
しかも権力闘争であれば、完全に排除することは出来ない。
敗者は復権を狙って、隙あらば足を引っ張りに掛かるだろう。
ゴミと違って、人は簡単に処理出来ない。
遠ざけるまでが限界だろう。
粛正しまくれば処理出来るが……。
それは将来の選択肢を狭めてしまう。
「ええ。
しかも質の悪い手駒を、完全に排除は難しい。
それを私に押しつけて、心身をすり減らそうと考えているでしょう」
モデストが小さなため息をつく。
モデストですらクレシダは捉えどころがないようだ。
「しかも内側から、クレシダ嬢がかき回してくると……。
厄介ですねぇ」
それならむしろ対処しやすいだろうな。
きっと、そうはしない。
ではなにをしてくるか?
幾つかの予測はあるが……。
思いついた程度の話だ。
「どうでしょうね。
さらに厄介なことをしてくると思いますよ。
この先は、妄想にもならないです。
今言えるのはそれだけですね」
モデストとカルメンは、顔を見合わせてから、ため息をついた。
このため息の理由はなんだ……。
聞かないでおこう。
◆◇◆◇◆
どことなく緊張を感じる日々のなか、ベンジャミンが訪ねてきた。
なにか問題があったのか?
応接室で待っていたベンジャミンは、いつも通りだった。
とくに焦った様子もない。
「ベンジャミン殿。
お久しぶりです」
ベンジャミンは恭しく一礼する。
「ラヴェンナ卿もお元気そうで何よりです」
やや声に力が入っている。
これは大事かもしれないな。
あるとすれば、志願兵のことか?
戦える若者を集めてくれたのはいいが、使い捨てにするわけにはいかない。
そのため、訓練を施す必要があった。
ラヴェンナに入りたがらないので、ウェネティアで訓練中だ。
ウェネティアに大規模な訓練場があるからな。
そこを使わせてもらっている。
石版の民は志願兵なのか、士気はとても高い。
だが技術が伴っていなかった。
少しでも、生存率を上げるために適当と思われる訓練を指示したが……。
ラヴェンナの訓練は、とてもハードだ。
脱落者が多数でても構わない。
戦場でバタバタ死なれるよりはマシだろう。
ところが過酷な訓練でも脱落者はいない。
同調圧力なのか背負っているものが違うのか……。
派遣した教官が驚く程だ。
将来は精鋭になり得る、との報告を受けている。
これには敵に回ったときを危惧する声もあるが……。
少なくとも石版の民と争うことはない。
選民思想なので、自分たちの仲間を増やすことはしないからな。
それにラヴェンナを呪われた地と認識しているので、過度な干渉は起こらない。
むしろ、傘下の貴族より敵対する可能性は低いのだ。
「それでどうされましたか?。
石版の民で戦える人たちは、ウェネティアで訓練中でしょう。
なにか不都合でも?」
「それとは別件です。
最近は亜人を敬遠する傾向が強くなっているでしょう。
酷いところだと、店が亜人にものを売らないケースまで見受けられるほどです」
思った以上に深刻だ。
店がそんな態度にでるとなれば……。
その町では亜人を排除する空気が強いのだろう。
「そこまで浸透していますか……。
状況は考えられる最悪の一歩手前ですね」
ベンジャミンは苦笑しつつ首をふった。
「人心が荒廃していると、いとも簡単に亀裂が生じるようですね。
1000年以上一緒にやってきたのでしょう。
なぜ一瞬でそう変わるのか……。
我々にとっては不可解です」
変わったのではないだろう。
仮面がずり落ちただけだ。
しかもこれから過激化するだろうな……。
そのうち『亜人が、井戸に毒を入れる』とか……。
そんなデマまで発生しかねないな。
小さな村や町では、これが最も簡単にパニックを起こせるからだ。
井戸が使えなくなったときの衝撃は計り知れない。
恐怖するには十分だろう。
迫害されて実行に移す亜人がでるかもしれないし……。
人間も罪を亜人になすり付けられるなら、日頃の
「人間と亜人の間に横たわる問題が、使徒の平和で押さえ込まれていたからでしょう。
なにも考えなければ、年月など大した問題ではありません。
本来なら自力で解決して、先に進むのが正しい形でした。
それをしないままだから、差別をしない理由がわからない。
天変地異や半魔など不安にさせる要素が多いほど……。
安心を求めて、異なる存在への当たりが強くなると思います」
「なるほど。
ただ年を取るだけでは、人が大人にならないのと同じですね。
ある意味で魔物より悪質かと。
話が逸れました。
今回お時間をいただいた件は、差別問題に関係します。
この度の亜人排斥は、石版の民にとっても他人事ではありません。
全面的にラヴェンナ卿に協力したい。
協力することに変わりありませんが……。
より積極的に協力したいのです。
それをお伝えしに参りました」
なるほど。
以前は発言力を確保するための協力だったが……。
今回は、危機感をもったわけだ。
ただ……。
石版の民は、商売が主だ。
前のめりになっているが……。
大丈夫なのだろうか?
「そのようなことをして大丈夫ですか?
商売に支障がでるでしょう」
「それを恐れて、自分たちは関係ないと傍観するのは、愚の骨頂なのです。
これは過去の苦い教訓から、我々が学んだことでして……。
祖国を失った遠因であると結論づけられています。
故にラッビーイーム会議でも、異論はありませんでした。
亜人の排斥を傍観していると、次は我々です」
ベンジャミンのスイッチが入ったのか、猛烈な勢いで話しはじめた。
亜人の迫害は、使徒降臨前のアラン王国であったらしい。
アラン王国は、最初に金持ちを襲った。
発言力があり、王家にとって目障りだったようだ。
それと当時の王家は貧乏だったらしい。
そのとき石版の民は、やや不安になったが……。
隣国のことだし自分たちは関係なかったので、なにもしなかった。
金持ちは財産と自由を奪われ、奴隷にされたのだ。
次にアラン王国は、国内にいる亜人たちを攻撃した。
亜人たちは農地をもっており、食糧生産を自分たちが掌握したかったらしい。
そのとき石版の民は、さらに不安になったが……。
自分たちは亜人でなかったので、なにもしなかった。
亜人たちは住み
そして自分たちが攻撃される。
金を貸していたので借金を踏み倒すためだ。
そのとき、抵抗したが、すでに手遅れだった。
その結果……石版の民は国を奪われたのだ。
過去のアラン王国が統一を急ぐ余り、わかりやすい敵を作ったのだろう。
他国を敵としては、危険すぎるからな。
安易だがその場では有効だったのだろう。
それが現在は歪みとなって現れた。
こんな話が過去にあれば、敏感に反応するか。
ベンジャミンは一通り、
「そもそもラヴェンナ卿は、亜人の排斥は出来ないお方でしょう。
ラヴェンナの成り立ちから、それは明白です。
そしてあの放送でも明言されておりました。
だからこそ、この時点で、旗幟を鮮明にしておきたいと思ったのです」
それだけではないだろう。
アラン王国の惨状が、もうひとつの夢を刺激したからではないのか。
どちらにしても……。
最初に話したときと、条件が異なる。
契約の更新が必要だな。
「なるほど。
しかし……。
現時点で全面協力となれば、相応の危険を冒すことになります。
石版の民に対して、私はなにをもって報いればよろしいですか?
以前とは条件が異なりますからね」
ベンジャミンの目が細くなった。
俺から見返りの話を切りだすと信じていたようだ。
しなければそれとなく要求したと思うがな。
「ここからは私の独り言ですので……。
聞かなかったことにしていただけると幸いです」
つまり見返りとして望むのは、かなり危険で大きなものか。
言質を取られないための保険だな。
そうなれば明白だが……。
そんな危ない話を、自分から聞きにいくほどバカじゃない。
「独り言なら仕方ありませんね。
きっと私も、独り言を
ベンジャミンは満足気にうなずいた。
「私のみならず……。
同胞たちの悲願は、自分たちの国を再興することです。
契約の山はもうありません。
ですが可能なら、あそこに国を作りたい。
独り言なので、願望が強く漏れてしまいますね」
「私はなにも聞いていませんよ。
ただ石版の民は、国をもちたいのだろう。
ふとそう思いました。
まあ……願望にしては、少々危険な内容ですね。
あそこはアラン王国の領土ですから」
ベンジャミンはほほ笑みを絶やさない。
「アラン王国の実態は、ほぼないに等しいでしょう。
現状で魔物に、大部分が占拠されています。
だからこそサロモン殿下は、人類連合に傾倒して、状況の打開を図ったのでは?
仮にアラン王国の領土を回復したとして……。
なにもしなかったアラン王国に、領地をお返しになるので?
……いけませんね。
独り言なのに問答をしてしまうのは、私の悪い癖のようです」
「私は風の音にでも、つい反応してしまいます。
どうしようもありませんよ。
さて……。
魔物の討伐はせざるを得ません。
だからと……アラン王国を復興する義務はないと思います
ロマン王のやらかしで農地は荒廃しています。
そうでなくても……。
契約の山付近は、そもそも荒野でしょう。
生きていくのがやっとなのでは?
よしんば土地があるかもわかりません。
それでも目指すのですか?
そう妄想してしまいますね」
「妄想ですら現実的なのはラヴェンナ卿らしいと言いましょうか……。
それでも皆が、あそこを望むのです。
少しでも契約の山があったところの近くに。
これは理屈ではありません」
たしかに理屈ではないな。
理屈や損得でないからこそ、強い思いなのだろうが……。
「その感情を、私は理解出来ません。
でも否定も出来ませんね。
ただ建国は難事でしょう。
まず各国が認めるかどうか……」
ベンジャミンの目が細くなる。
その程度は想定しているだろう。
なにかの回答を持ってきているはずだ。
「そこは宰相より、お話がありましてね……。
そもそもですが、魔物の侵攻で安全地帯が大幅に減りました。
ノヴァス・ジュリア・コンコルディアの自治区に、同胞たちが避難してきまして……。
自治区が手狭になってきました」
石版の民の流入か……。
これは、頭の痛い問題だろうな。
ティベリオが厄介払いを考えたわけだ。
このご時世で、異邦人の数が増えれば、誰しも警戒するからな。
ティベリオに多くの苦情が寄せられたのだろう。
だからと……。
強引に追い出せない。
陛下と石版の民の契約を、反故にすることになるからだ。
そして俺との関係悪化も招くだろう。
そのようなマイナスを生じないためには、どうするか。
石版の民が望んで王都からでていくことだ。
「王都での不安要素になっていると。
ただ認めた手前追い出すわけにもいかない。
石版の民は、少数なら飲み下せる。
多数になると不安視されるわけですか」
「ご明察。
珍しく宰相の晩餐会にお招きをいただきました。
そこで石版の民は、世界中にどれだけいるのか、と聞かれまして……。
正確な数はお答えしませんでしたが、それでも宰相は笑われました。
そしてこう
『これ以上石版の民が集まっては、自治区から溢れるだろう。
だが増やすことは出来ない。
君たちに自分たちの国があれば最善なのだろうがね。
現状では、どこの土地も空いていない。
残念ながら空想の話止まりだ』
これは示唆だと受け取りました」
これ以上同胞を呼ぶなと、釘を刺したか。
それだけではなく、国の話をするとはなぁ。
随分思い切った手にでたものだ。
「ただ許可などしていないでしょう」
「その通りです。
ただ示唆されただけ。
こうも
『人類連合の取り決めで、国としてはアラン王国を、どうこう出来ない。
そこに冒険者ギルドと教会も含まれるだろう。
ただ石版の民はどうなのだろうか?』
我々は制約の範囲外との見解でした」
ある意味で
後見している以上、石版の民の行動に対して、俺にもある程度の責任が生じる。
ただそこまでの、強い強制は出来ない。
だからこそ煽ったわけだ。
「言外に故国を奪還せよと……。
つまり黙認する。
それを私にも知らせるわけですか」
「はい。
ラヴェンナ卿が我々の後見人であると、わざわざ確認されましたから」
表向きは非難するだろうが、既成事実に出来れば追認する。
失敗すれば、ハシゴは外す。
そんなところだな。
そして俺を、矢面に立たせようと。
まったく食えないヤツだ……。
「なるほど。
普通なら聞いた以上制止せざるを得ません。
とはいえ……。
独り言なら話は別です。
私はなにも聞いていないのですから。
ただ教会が、どのような対応にでるか読めません」
国はなんとでもなる。
問題は教会だ。
聖地のあった場所の付近を、石版の民に取られて黙っているとは思えない。
ベンジャミンは口元に笑みを浮かべる。
「普通ならば認めないでしょうね。
ただ……。
私の臆測に過ぎませんが、アラン王国は消滅すると思います。
不思議なことに、サロモン殿下以外の後継者は急死しているでしょう」
消滅すれば、状況は変わる。
教会は土地を取られたくなければ、自力で確保する必要があるだろう。
現状でそれは不可能。
そしてアラン王国消滅は、かなり現実的な話だ。
だからとその話に乗るつもりはない。
「それは随分乱暴な話ですね」
ベンジャミンはほほ笑んで頭をかく。
「どうも独り言になると、妄想が捗ります。
サロモン殿下があのような様子では、存続は危ういかと。
しかも本来なら、側近たちは急いで子供を作らせるはずでしょう。
それすらしていない。
男系はサロモン殿下ただひとり。
これは王家乗っ取りを企図していないでしょうか?
もし女系でもよしとすれば、正当性はないに等しい。
今まで候補から外れていた人たちが一斉に声を上げるでしょう。
貴種性も薄れ、権威たり得ません。
だから乗っ取る気なのでは……。
これは失礼。
妄想が行きすぎました」
1000年以上続いた継承方式を変えた場合、正当性と権威は大きく失われるな。
変えないことが権威の源泉なのだ。
「そこは同感ですね。
男系なら男系。
女系なら女系。
血だけなら血だけと……。
最初から動かさないことが大事ですからね」
「これも私の妄想なのですが……。
ラヴェンナ卿は、アラン王国を存続させる意志がないのでは?
無論……積極的に潰す気はないでしょう。
ですが、見切りをつけているように思えます」
よくわかったな……。
だが正解だと答えるつもりはない。
「過激な妄想ですね」
「ラヴェンナ卿は悪意を向けられてまで、力を貸すほどお人好しではないでしょう。
そもそもサロモン殿下の存在自体が、ラヴェンナにとってマイナスでは?
世界主義者が、サロモン殿下の屋敷に出入りしているとも聞きます。
彼らはラヴェンナの理念とは相反するでしょう。
それだけではありません。
メディアのラヴェンナ卿に対する攻撃は、目に余ります。
本来ならサロモン殿下は、それを押しとどめないといけませんから」
そこから導き出したか。
それが、直接的な原因ではないが……。
「そもそも私が、アラン王国をどうこうする権利はないですよ。
自壊したなら知りませんが」
ベンジャミンは気持ち身を乗り出した。
「万が一にも自壊したらです。
あの土地は、群雄割拠となるでしょう。
そのとき、ラヴェンナに友好的な国があると好都合。
そう思いませんか?」
それだけ聞くとそうなのだが……。
遠く離れた土地に、軍隊を派遣するつもりはない。
そこを期待されても困るからな。
「その利益と介入して流される血が見合うのか……。
デメリットが大きいと思いますね」
「我々の国は、我々の血で作ります。
そうでなくてはなにも変わりません。
当然覚悟しています。
認めさせるために流される血も含めて」
そこまで、覚悟があるなら止めても無駄だな。
しかも祖国再興の好機だ、と思えば止められはしない。
無理に止めると、逆に厄介だ。
石版の民は、ドゥーカス卿の主要港を焼き払ったテロ攻撃が出来るのだ。
祖国再興とあれば、もっと多くの実行者がでてきかねない。
それなら黙認して話し合う線だけは確保すべきだろう。
「なかなか重たい独り言ですね。
もうそうなれば……。
私が止めることはないでしょう。
ベンジャミン殿の独り言ですからね。
しかも妄想です。
私はなにも聞いていませんよ」
ベンジャミンは楽しそうに目を細める。
「ええ。
きっとお互いに疲れていたのでしょう。
独り言ばかりでしたからね。
それでも……たまには妄想しても楽しいかと」
「妄想だから実現しない、とはならないのが怖いところですけどね」
ベンジャミンは楽しげに顎ひげをしごいた。
「だから妄想は楽しいものだと思います。
まあ……。
ラヴェンナ卿が妄想だと言っても、震えあがる人たちは多いと思いますがね。
井戸水が濁れば、地震が来るのと似たようなものですから」
大きなお世話だよ。
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