811話 帰れないふたり

「私に頼みですか?

内容によるとしか言えません。

私は領主ですけど、なんでも出来るわけではありませんから」


 ジャンヌは、楽しそうにほほ笑む。

 ムチャな話をする気はないようだ。


「ラヴェンナ卿の判断で可能だと思いますよ」


 さて……。

 なにがくるやら。


「では……。

お伺いしましょう」


「ラヴェンナでの教会設置。

これをお許しいただきたいのです」


 そう来たか……。

 たしかにこれは俺の判断する領域だな。

 そんな話が持ち上がる前に、使徒襲撃が発生したからなぁ。


「ラヴェンナに教会ですか?」


 ジャンヌが穏やかにほほ笑む。


「ラヴェンナの民に、影響を与えようというのではありません。

残念ではありますが……。

ラヴェンナの民は、教会に信を置いていませんから。

私が気にかけるのは信徒たちです。

信徒たちがラヴェンナに出向いた際に、教会がなくては不便だろうと思ったのですよ。

祈りの場もありませんし……。

困りごとがあっても、司祭に相談すら出来ません。

子供が生まれても、名前をつけることが難しい。

さらには亡くなった場合、葬儀もままならないでしょう。

遺体の搬送が、いつも可能とは限りませんからね」


 いやなところを突いてくるな……。

 ある意味で、当然の願いだ。

 これ単体なら、お茶を濁せる。

 さっきの話と合わせ技だと、回避が難しいな……。

 無理をすれば断れるが、そこまでするメリットがないなぁ。


 だがそう簡単に認める気はない。

 なにかの縛りは必要だろう。


「当然のご要望……と言いたいのはやまやまですが……。

そう簡単には許可出来ないのですよ。

ルグラン特別司祭から、マリー=アンジュ嬢の保護を頼まれました。

それを受けたのですが、彼女を勝手に担ぎ出そうとする教会関係者がいたのですよ。

ルグラン特別司祭に確認しましたが……。

そんなことは指示していない、との回答でした」


 ジャンヌは驚いた顔をする。

 演技なのか本心なのか……。


「なんとも嘆かわしい話ですね。

きっとマリー=アンジュを、傀儡にしようとしたのでしょう」


「止めさせると返事がありましたが……。

どこまで強制出来るのか不明なのです。

今度彼らが接触を試みたら……。

教会関係者のラヴェンナ立ち入りを、一律禁止にするつもりでした。

教会設置を認めては、彼らへの出入り禁止は有名無実となりましょう」


 ジャンヌは小さなため息をついた。


「それは教皇の名において、即刻止めさせましょう。

以後、そのような者たちがいたら……。

捕縛していただいて構いません。

こちらでしかるべき処罰を行います。

それで懸念は解決されるでしょうか?」


 逮捕まで認めたか。

 それだけ設置は重要なのだろう。


「そうですね……」


 俺の歯切れの悪い返事に、ジャンヌがほほ笑んだ。


「教会設置ですが……。

ラヴェンナ卿個人にとっても、メリットがありますよ」


 俺個人にメリットなんてあったかなぁ。


「私にですか?」


「アレクサンドルが回復したら、そこの教会を任せるつもりです。

それならオフェリーは、アレクサンドルと簡単に会えるでしょう。

オフェリーは、アレクサンドルの容体を気にしているかと。

回復しても、健康の心配をするでしょう。

あの子は誤解されやすいですが、とても優しい子なのです。

これは蛇足でした。

ラヴェンナ卿ならとっくにご存じでしたね。

すぐに会えれば、その心配もなくなります。

それはラヴェンナ卿にとって喜ばしいことではありませんか?」


 たしかにオフェリー個人は喜ぶ。

 それは俺にとって大きなメリットだ。


 だが……俺はとても下種げすな人間だよ。

 オフェリーの感情と、ラヴェンナにとってのメリットを、秤にかけてしまう。


 アレクサンドルは教皇庁にいたからこそ、利用価値があった。

 その利用価値がなくなるのは厄介だな……。

 

 そもそも禁じ手だろう。

 元教皇だぞ。

 左遷どころか……。

 見せしめでもやらないだろう。


 アレクサンドルへの風当たりは、思った以上に強いのかもしれない。

 これで反対派の意見を封じるつもりだな。

 ラヴェンナに傾倒するつもりはない。

 そんな意思表示にも見える。

 一向に構わないのだが……。

 教会の内部抗争に巻き込まれるのはゴメンだ。

 問いたださないと厄介だな。


「教皇位にあった人が、いち教会の主になるのですか?

しかも王都ですらない。

辺境の教会ですよ。

かなり異例なことだと思いますが」


 ジャンヌは苦笑した。

 さて……。

 どんな理由が飛びだすのやら。


「ラヴェンナに教会を設置しても、なり手がいないのです。

アレクサンドルなら受けるでしょう。

意味をしっかり理解しているでしょうからね。

ラヴェンナにとっても受け入れやすい人選でしょう?」


 それはそうだが……。

 ジャンヌがアレクサンドルをどう考えているか。

 それが問題だな。

 内部対立のゴタゴタを清算する任命だと……。

 とても厄介なことになる。


「その点は否定しません。

ですが前教皇に対する処遇としては……。

あまりに酷なのではありませんか?

瀕死の教会を支えてきた人ですよね」


 ジャンヌは小さなため息をつく。


「それは承知の上です。

教皇を退位するまでのアレクサンドルは、大した男ではありませんでしたが……。

退位してから、随分変わりました。

よい方向にです。

当然評価していますよ」


 評価と処遇は別物だろう。

 むしろ高評価であるほど生贄としての価値が増す。

 教会内部の闘争なら勝手にしてくれだが……。

 ラヴェンナが巻き込まれると大問題だ。


「それでもそのような扱いになると?」


 ジャンヌはわずかに肩を落とす。

 仕草とは裏腹に表情は楽しげだ。


「ラヴェンナ卿には理解し難いかと思いますが……。

ラヴェンナに教会がないことは、大きな問題となっています。

新体制の象徴としては、これ以上ない成果でしょう?

どんな小さなことでも、成果が必要なのです。

これが教会の置かれている現実。

そして教会が一丸となって、立て直しを図る意思表示でもありますから。

本件は小さな労力で大きな成果が得られる……。

そしてアレクサンドルが、うまく勤めてくれることが肝要なのです。

他の者では疑心暗鬼に囚われ、いらぬ騒動を起こしかねません」


 前教皇ですら特別待遇をする余裕などない。

 そんな脅しだな。

 それにしても……。

 大きな問題と知りつつ、誰も自分がなるとは言えなかったのか。

 話は理解出来た。


 だが引っかかるな。

 アレクサンドル以外では、この任が務まらないと示唆している。


「そこまでラヴェンナは不人気なんですかね」


「ラヴェンナ卿は教会関係者だからと、特別に優遇などしないでしょう。

今までのご厚意も、オフェリーの叔父だから……。

誰しもが思っています。

オフェリーとの血縁がないなら、どんな扱いを受けるのか。

一般人と同じでしょう。

優遇されるのが当然、と思っている者たちにとって……。

それは耐え難い屈辱になるのです。

ラヴェンナ卿からすれば愚かだ、と思うでしょうけどね」


 一定の配慮はするが、特別扱いはしない。

 その認識は正しい。


 それだけではないと思うが……。

 複合的な要素が絡まっての敬遠だろう。

 それを分析する余裕はない。


「愚かだとは思いません。

教会の価値観と、ラヴェンナの価値観は違うと思っていますから」


 ジャンヌが小さく首をふった。


「その違いを認識されている事実こそ、皆が恐れていることなのですよ。

今までは価値観がひとつでした。

それが唯一の正解だったのです。

そうでなくなると……。

元の価値観がすべてと考える者たちは恐怖しますよ。

教会は生まれながらの支配者です。

だからこそ、そこでの出世を望むのでしょう」


 厄介な問題だなぁ。

 別に教会の価値観を否定するつもりはないのだが……。


「異なる価値観があったとして、従来の価値観が低くなることはないでしょう。

否定などしていないのですから」


 ジャンヌが強めに首をふった。

 そう簡単な話ではないようだ。


「その認識がもてないのです。

共存する発想がないのですから。

彼らにとっては、教会の価値観こそ唯一無二のもの。

ラヴェンナの価値観が存在しては、無謬むびゅう性を否定されることになるでしょう」


 思わずため息が漏れる。

 いささか俺の認識が甘かったようだ。

 だからと迂闊なことは言えない。

 相手は教会の利益を最大限求める立場なのだ。


 それでもリスク覚悟で踏み込むべきか。

 ジャンヌが狂信的ではないからな。

 取引は可能だろう。


「私は神の領域に踏み込んだことは一度もありませんよ。

世俗に関しては、その限りではありませんけどね。

教会は過去に、世俗の統治は王侯貴族に任せる、と表明されていたでしょう。

それでも気にするのは、世俗の権威と神の権威が混在しているからですね」


 建前上、教会は世俗に関わらない。

 だが裁判権などで介入して、実際は十分関与している。

 統治側にとっても、教会のお墨付きを得ると楽なのだ。

 双方にメリットがあったからこそ、長く存続してきた仕組みだが……。


 法の支配を目指すラヴェンナにそぐわない。


 人と神の領域を明確にわける視点は、昔なら抹殺されただろうな。

 だからいなくて当然だよ。

 いくら教会が建前で、世俗は権力者に任せる……と言ってもだ。

 教会の権威に対する挑戦と受け取られる。

 口にして許されるのは教会関係者だけ。


 教皇の前でする発言としては際どいが……。

 リスクを覚悟した上で、あえて明言した。

 頼みごとをしてきた今がチャンスだからな。


 ジャンヌは少し驚いた顔になった。

 驚いた顔はすぐ消え、目が鋭くなる。

 俺が踏み込んできたことに驚きつつも警戒したようだ。


「これは意外ですね。

そのように考えるかたが世俗にもいたとは……。

実に面白い」


 どうやら俺の発言を問題にする気はないようだ。

 やはり理性的だな。

 狂信的なら、これで会談は終わりだ。


 もうひとつカードを切るか。

 ジャンヌはこの会談を絶対に成功させたいのだ。

 明確な敵対発言でなければ問題にはしないだろう。


「世俗を支配出来ていたのは、使徒のおかげでしょう。

その前提が崩れたのです。

次の使徒降臨がいつくるのか……。

それまで今の価値観がもつのでしょうかね」


 もう使徒降臨はない。

 俺だけが知っていることだ。

 知らないことにしておかないとな。

 ジャンヌは小さく首をふった。


「それは……まさに私の考えていたことです。

ですが、ほぼ全員がそれを認めることは出来ないでしょう。

かくいう私も、ここに至るまでかなり熟考を要しましたからね」


 世俗にも……とは、自分のことを言っていたのか。

 かなり客観的に、この世界を見ているようだ。


 引退しても、内部から教会を観察出来たろうからな。

 権力の外周から起こる変革は、成功率が高い。

 捨てるものと残すものがわかるからな。

 完全に外部からの変革だと、捨ててはいけないものまで捨ててしまう。

 結果うまくいかないケースが多くなると思う。


「教会の方々の価値観は、現時点でもなんら変わっていないのですね。

だからラヴェンナの存在は、価値観の否定に思えるわけですか。

なんとも難しい問題ですね……」


「否定とまで捉えなくても……。

軽視されたと思うでしょうね。

ラヴェンナ卿にその気はないでしょう。

ですが彼らは違います。

ラヴェンナ卿に蹴落とされる、と思い込んでいますよ」


 現実問題として、世俗の支配など出来ていない。

 それでも蹴落とされると思われるかぁ。


「そんなことをしてもなんら益はないのですかね」


 ジャンヌが苦笑した。

 先ほどまでの警戒した様子はなくなっている。


「もう世俗を支配する力などないのです。

世俗の価値観は、世俗の住人に任せるべきでしょう。

それなら教会が存続する道は残ります」


 ここで明言してきたな。

 俺が教会の権威について踏み込んだが……。

 教会が敵対行為をしない限り、何もする気はないと理解したのだろう。

 従来の慣習では危険な発言だが、ジャンヌの意向とも一致している。

 だから協力しあえるだろう。

 そんなメッセージだな。


猊下げいかがそうお考えでも、それがまだ浸透はしていないわけですね」


「かなり時間がかかるでしょう。

彼らが恐れているのは競争です。

生まれながらの支配者なので、競争という概念がありません。

そんな弱さからくる恐怖に支配されているのですよ。

彼らを導くには、光が必要です。

暗がりで目をこらす勇気がないのですからね。

アレクサンドルのように、一度は社会的に終わった人物は違いますけど。

多くの人は、挫折した人に映る陰を本能的に恐れるでしょう」


 挫折した人に導かれることに対する警戒心か。

 失敗を悪とする社会なら、それは屈辱的なことなのだろうな。

 ジャンヌはそれを恐れと評したわけだ。


 だからこそ、アレクサンドルを中枢から外すわけだ。

 人々を安心させつつ、成功を積み重ね、発言力を確保したい。


 成功の第1歩として、ラヴェンナの教会設置を望むわけだ。

 単にアレクサンドルを遠ざけるのでは、アレクサンドル派が反発する。

 ラヴェンナへの教会設置と、そこの責任者任命は誰も反対出来ない。

 自分たちはやりたくないのだ。


 煮ても焼いても食えない話だよ。

 思わずため息が漏れる。


「私は失敗しない人より……。

挫折しても立ち上がる人を高く評価しますよ」


 ジャンヌは、少し疲れた顔で苦笑する。

 好き好んで、このような処遇を考えたわけではないのか。

 このあたりの奥深さが、人々から頼られる要因かもしれない。


「アレクサンドルは、皆が警戒するラヴェンナ卿の助力を乞うて、成果を出し続けた。

皆は表で感謝しつつも、裏では警戒しているのです。

もしアレクサンドルが、私を頼ってまったく同じことをしたなら……。

人々の印象は正反対になったでしょうね。

成功することが生みだす余裕は……感謝ではありません。

誰の力を借りたかを気にする……それだけです」


 なるほどなぁ。

 アレクサンドルの立場強化に助力したが……。

 逆効果だったのか。


「教会が脆弱では困るので助力したのですが……。

あまり成果はなかったようですね」


 ジャンヌは皮肉な笑みを浮かべた。


「もしこれがラヴェンナ卿の奉仕なら、反発はなかったのです。

奉仕ではなく助力ですからね。

生まれながらの支配者にとっては屈辱なのです。

それを認めることも出来ずにいました。

生まれながらの支配者とは、他を圧倒出来ない限り滅ぶだけでしょう。

それは支配が出来ても……。

戦って勝ち取る精神がないのですから」


 面倒くさいなぁ。

 それを口にしても、決していいことはないが。


「誰しもが戦える人とは限りませんよ。

教会はそもそも戦う組織ではありませんからね」


 ジャンヌはわずかに唇の端をつり上げた。


「戦わなくてもよかったですからね。

今までは使徒の力を意識させ、支配していました。

実力で勝ち取った支配とは違います。

もし教会が生き延びたいなら……。

出来ない支配なら諦めることが肝心でしょう。

今なら多くの人が教会を軽視しません。

ですが将来は違うでしょう。

世俗の権力と衝突したら、簡単に滅ぼされますよ」


 教会の威光は、まだ完全に消えていないからな。

 威光がある間に、社会における立ち位置を変えるつもりなのだろう。


 世俗の支配を諦めたのは、純粋に不可能だからだ。

 現実的な判断だな。

 論理から導き出されたものではないが……。

 仕方ないだろう。

 世俗が醜態をさらせば、また教会が支配する。

 そんな意思表示でもある。

 現時点では、これで満足すべきだろうな。


「そうですね。

このままでは、孫の世代あたりになると……。

教会を尊重する空気は消えているかもしれませんね」


 ジャンヌは唇に手を当てて笑った。

 冷たい嘲笑とでもいうべきか。

 この手の冷たさは、才知にあふれ、失敗を知らない人にありがちだ。


「多くの者は、それがわからない。

きっと過去の栄光は戻ってくる、と信じていますよ。

愚かな努力を続けているのです。

過去は若さと同じ。

過ぎ去って二度とは戻らない。

だから、過去だというのにですよ」


 過去の栄光は取り戻せないな。

 新しい栄光はつかめるだろう。

 それは過去の栄光と似ていたとしても、質の違うものだ。

 違いに気がつかなければ、その栄光は長続きしない。


 ジャンヌの意見には同意するが、同調して嘲笑する気はない。


「私は、結果が伴わなくても……。

懸命に生きる人を嘲笑する言葉は持ち合わせていません」


 嘲笑などしないさ。

 個人であればわからないが。

 俺の立場上そんなことをしては、結果至上主義を招きかねない。

 なにかと不便な立場だよ。

 仕方ないけど。


 まあ……笑いはしないが配慮はしない。

 そうする義務はないからな。

 それだけのことだ。


 ジャンヌは、楽しそうに目を細めた。


「いっそ嘲笑されたほうが、教会としてはやりやすいでしょう。

そんな動機すら奪われたのです。

ラヴェンナ卿の態度は立派ですが……。

多くの者たちは、そう思わなかった。

相手にされていない、と考えていたようです。

もしくは気まぐれで教会に慈悲を施している。

そんな思い込みです。

しかもラヴェンナは、短期間で成功を収めているでしょう。

無視も出来ないのです」


「今のところは……ですね。

油断すれば瞬時に崩れ落ちるような、もろい成功です」


 ジャンヌは感心した顔でうなずく。


「奢らず、溺れず……ですか。

口にするのは簡単です。

これが出来る人はいますが、出来続けた人は、見たことがありませんよ。

さて……。

お世辞はこの位にしておきましょう。

教会設立の件、許可していただけるでしょうか?」


 お世辞なのか本気なのか……。

 半々かな。

 ここまで来たら認めざるを得ない。


「領域を守っていただけるならば」


 細かい条件をつけると、ほころびが生じる。

 ならばあえて曖昧にしておこう。


「領域とは?」


「人のものは人に。

神のものは神にですよ」


 ジャンヌは口に手を当てて笑った。

 どうやら気に入ったらしい。


「そこはお約束しましょう。

ラヴェンナの統治に、口を挟むことはないと。

ただ要望があればお伝えしてもよろしいでしょう?

信徒の生活に関わる範囲ですけど」


「それは勿論です。

陳情を受けるのは、統治の一環ですからね」


「それと個人的な話をしてもよろしいですか?」


 薄い本の話かぁ……。

 出来れば触れたくないのだが。


「なんでしょうか?」


「手配していただいた本は、私のためではないのです。

教え子たちの趣味でして……。

私がその趣味を庇護している形となります。

厳密には、あの手の趣味は教会としてよろしくありません。

ただ……。

趣味として認めたほうが、陰に隠れなくなりますからね。

暴走する前に、手がうてるのです。

私はあれにときめくような年齢ではありませんからね」


 一応、誤解を解いておきたかったのか。

 真実はわからないがな。


「なるほど。

そのような事情があったのですね」


 ジャンヌは満足気にうなずいて、膝に置いていた包みを差し出してきた。


「写しを許可していただいた持ち主に、これをお渡しください」


 いやな予感がする……。

 だが……礼儀上聞かなければいけない。


「これは?」


「秘蔵書の写しです。

『帰れないふたり』と言えば……。

すべておわかりになるかと。

あれの続編ですよ」


 やっぱりかよ……。

 内容には触れないからな!!

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