781話 使徒教 ー機能絶対主義ー

 マウリツィオとの面会を終えて、ホールに戻った。

 ライサ以外の全員がいる。

 ライサはさっさと寝たのだろう。


 逃げた薄情な面々を睨むと、全員が目をそらしやがった。

 いいけどさ。


 空いているテーブルに座ると、左右をアーデルヘイトとクリームヒルトに固められる。

 会談の内容を聞きたいらしい。


 ピエロとの会談に加えて、マウリツィオの話を要約して伝えた。

 ピエロの話に、ふたりは呆れ顔だったが……。

 マウリツィオの話に、表情が険しくなる。

 

 当然だろう。

 ふたりは大臣として、組織の長を務めている。

 だからこそ部門長の変更が理解できなかったようだ。

 そしてピエロが部下の梯子を外した話なども、理解に苦しむらしい。


 アーデルヘイトは深いため息を漏らした。


「こんな人がギルドマスターですか?」


 クリームヒルトは頭をふった。


「悪い冗談にしか聞こえませんよ。

これじゃあ冒険者ギルドの自壊は不可避ですね」


 あれに違和感を持ってくれることが大事だよ。


「まあ当人たちは、ギルドが不滅だと信じていますがね」


 アーデルヘイトは首を傾げて考えるポーズを取った。

 すぐに大きなため息をつく。

 考えることを諦めたらしい。


「そもそもポンピドゥ一族って、ギルドのことを考えていないのですよね。

なんでそんな人たちが、中枢に食い込めたのですか?」


 当然の疑問だが……。

 簡単に説明することが難しい。


「かなり難しい話になります。

それには使徒教が、この世界を支配している現状の話からしないといけませんね」


 突然キアラが立ち上がった。


「待ってください。

紙を大量に持ってきます! インクも!」


 俺が難しいと言ったから、長話になると悟ったか。

 使用人が大量の紙と、10個ほどのインク壺を持ってきた。


 キアラは大きなテーブルに座って、準備を整える。

 準備が済んだのか、ニッコリほほ笑む。


「お待たせしました。

どうぞ」


 これを人に話すのははじめてだな。

 必要がなかったからだけど。


「まずこの世界を、精神的に支配しているのは教会。

この認識はいいですね?」


 全員がうなずく。

 その精神支配が緩んだ故の混乱だな。


「でも支配する内容は、従来の教義からかけ離れているのです。

先生が教えてくれましたか、元来教会は、正典カノンを教義としていました。

それは神との契約の形を取っていて、死後の救済を主眼としています。

あとは最後の審判が特色ですかね」


 石版の民の戒律と対比させると複雑になりすぎる。

 これはカットだ。

 ベンジャミンがこの場にいたら、絶対に説明させられたろうが……。


 アーデルヘイトがビシっと挙手した。

 オフェリーの癖が伝染したな……。


「旦那さま。

死後の救済と最後の審判ってなんですか?」


正典カノンに従って生を終えれば、最後の審判で救われる。

最後の審判とのき、死者はすべて蘇って神の審判を受ける。

無罪であれば楽園で平和に過ごせると。

老いて死すことがない世界だとか。

もし正典カノンに背いて、無事に逃げ切れたとしても……。

最後の審判で裁かれるってことです。

ラヴェンナで検討している二審制度に近いですね」


「エイブラハムさんが『このままだと、裁判所がパンクする』って悩んでいた話ですよね。

数が増えて、いずれ法務省だけでは処理しきれなくなる。

だから地方で裁判をしよう。

地方の判決に不服な場合は、法務省に上告できるって話でしたね」


 エイブラハムから相談を受けた。

 だから権限の一部委譲という形で、地方にも裁判所をとアドバイスしたな。

 地方裁判所とラヴェンナにある中央裁判所で構成する形になったはずだ。

 中央裁判所は、判決の精査を行って最終判決を下す。

 上告中に新たな証拠が発見されるか、地方の判決が妥当でない場合、地方裁判所に差し戻して再審理させる。


 だが……地方に裁判所をつくるのは大変だ。

 建物だけつくって、OKとはならないからな。

 人材が必要だ。つまり教育もだ。


「そうですよ。

この世が地方裁判所。

最後の審判が中央裁判所といったところです。

違いは最後の審判で、すべての罪が暴き出されるところですね。

単純に言えば……。

逃げられないから悪いことをするな。

そんな意味合いですよ」


 アーデルヘイトは首を傾げた。


「この世で処罰された人は、どうなります?

2回罰せられるなら損ですよね」


 素朴かつ当然の疑問だよな。


「たしかに……もう1回裁かれます。

ただし悔い改めていればゆるされる。

もうひとつ。

罰せられずに死んだ……。

つまり逃げ切った人は、より重い罰が下されるとありましたね。

無限の時間、苦しみを与えられ続けるとか。

なので量刑は不公平にならない形となっていましたね」


「へぇ~。

はじめて聞きました」


 俺も先生から聞くまで知らなかったし。

 先生は、よく古い話を調べたものだよ。

 調べる気になったのは、使徒の世界をどことなく醒めた目で見ていたからだろう。

 使徒の世界が最高なら、昔などあまり気にしないからな。


「当然ですよ。

使徒教は現世の救済のみですから。

まったく異なります」


 カルメンが不思議そうな顔をする。


「それって教会が、宗旨変えをしたってことです?」


「無意識ですけどね。

使徒の奇跡を前面に押し出すうち……。

知らずに変容していったのでしょう。

実感できない最後の審判より……」


 カルメンは苦笑して、肩をすくめた。


「実際にある使徒の奇跡のほうが強いのは当たり前ですね。

でもそれなら、複合形になりません?

現世と死後をフォローしたほうがいいと思いますよ」


 当然の疑問だな。

 俺もそれは疑問に思った。

 先生と議論して、ひとつの結論に到達したのだが……。


「いい視点ですね。

もし融合が可能なら、そうなります。

不可能なら、強いほうに取り込まれるのですよ。

永遠の楽園は、ただ平和なだけです。

刺激なんてありません。

生きることに疲れている人には刺さりますがね。

教会が成立したころは、かなり荒れていたようですから」


「それなら楽園でも楽しいことがある。

そう言いくるめればいいと思いますけど」


「争いがない平和な世界ですよ。

どんな世界かわかりますか?」


 カルメンが露骨に嫌そうな顔をした。


「なんだか……嫌な予感がします」


「感情が揺らがない静寂の世界です。

人を争わせずに平和にさせるのは、これしかないでしょう。

つまり楽しいことなど御法度なのですよ。

楽園にほほ笑みすらありません。

だから怒りもない」


 カルメンは首を、ブンブンふる。

 余程嫌らしい。


「うわぁ。

私にとって牢獄ですよ……」


「教会内でも議論したと思いますよ。

信者にどう説くかと。

これが解消できない。

精神的な平穏と、物質的な豊かさと楽しさが共存する世界です。

神の奇跡でそれは実現する……と、信者を説得できますか?

言われても理解できないでしょう。

使徒によって戦争が起こらなくなっているのです。

明日をも知れぬ日々なら、平穏は刺さるでしょうが……」


「説教が出来なくなると。

楽しいことは、人それぞれですものねぇ」


 今の人たちは楽園と聞けば、なにを想像するだろう。

 働かずに飢えることがない。

 そして楽しい毎日を過ごせる。

 そんなところだろうか。


「そもそも使徒の奇跡は、教会関係者にとっても、理解の外なのです。

議論など出来ないでしょう。

かくして死後の救済を棚上げする形で、使徒の奇跡を前面に押し出した。

ここから使徒教の浸食がはじまりました。

使徒のやったことが、すべて正しいとなれば……。

使徒の行動が、正典カノンになったのです。

そこで質問しましょう。

使徒の価値観は、我々のそれに近いのか?」


 モデストが小さく苦笑した。


「今はそうです。

でも昔は違ったとおっしゃるのですね」


「ええ。

使徒語の影響もありますが……。

社会の基本部分が変質します。

そもそも社会の基礎は、契約が基盤でした。

絶対的1神との契約を元にね。

契約だからこそ範囲は厳密に決まっている。

契約に関係する自由の概念も違ったようです」


「今の常識で自由でとなれば……。

制約を受けないことが自由ですね」


「ええ。

昔は違いました。

契約できることが自由だったのです。

だから奴隷は、契約が出来ません。

今の奴隷は、契約する自由がないからこそ奴隷。

意味は似ていますが、本質は違いますよ」


 モデストがいぶかしげな顔をする。


「契約が自由ですか?」


「シャロン卿が仕事を選んで、それを遂行する。

これが自由です。

自由がないと仕事を選べずに、命令に従うだけですよ」


「断りにくい話もありますがね」


「極端なことを言えば……断って殺される選択権を持っている。

その場合は、殺した側が非難されますけどね。

契約の根幹を踏みにじる行為ですから。

それと不服なら契約なので、条件の交渉も出来るのです。

そんな認識ですね」


 モデストは苦笑しつつ肩をすくめた。


「なんとも窮屈な感じですねぇ……。

昔はそれが普通だったと」


 なぜそう変わったのか。

 それが大事なポイントだ。


「ええ。

窮屈に感じるのは、使徒教徒になってしまったからですよ。

その代わりに、昔は範囲外の責任を追及されませんでした。

今は違うでしょう?」


 キアラがせき払いをして、カルメンにアイコンタクトをした。

 なんだ?

 カルメンは嫌そうな顔をしたが、再度のせき払いで、ため息をついた。


「アルフレードさま。

使徒教徒ってなんですか?

私たちも例外ではないような感じですが……」


 ああ。

 質問する暇がないから、代わりにやってくれってことか。

 友情も大変だな。


「そこの概念を説明すべきでしたね。

では宗教とはなにか。

人の生き様や行動を、内面から規定する様式のようなものです」


「え? 神がいて、それを信仰するのが宗教ではないのですか?」


 実際は、神の存在など不要なんだがな。


「存在しない神を信じ込んでいたら?

だから神の存在は必須条件となりません。

なにかの象徴は必要になりますけどね」


 カルメンはあっさりとうなずく。

 そもそも神を、意識などしたことがないだろうからな。


「存在しなくても、していると思えばいいと……。

そこはわかりました。

ではもうひとつ。

信仰があるから宗教ではありませんか?」


「意味的には一緒ですね。

ただ信仰と言ってしまうと、今の常識から神の存在を連想するでしょう。

そうではないから、あえてこのような表現にしました」


 キアラが突然顔をあげた。


「つまり私は、お兄さま教の信徒!

いえ。

教祖だったと!!」


 その表現はやめなさい。

 カルメンが大きなため息をついた。

 否定してくれるか?


「それ以外のなんなのよ……」


 余計悪かった。

 知っていたけどさ。

 話が暴走しては困る。


「それは置いておきましょう。

つまりは使徒という認識が、行動を規定しているのです。

だから使徒教徒となります」


 カルメンは憮然とした顔で、髪をかき上げた。


「なんか釈然としないですね。

使徒に行動を規定されているって愉快ではありません」


 第5と因縁があるからな。

 そう感じるのは、仕方がない。

 だがここでの使徒は概念だからなぁ。


「ここでの使徒とは、個々の使徒ではなく、概念的なものですよ。

我々が勝手に抱いているイメージですからね。

使徒で連想されるイメージは、どこも大差ありません。

そしてその価値観に沿った行動を取ります。

教会がそれを正しいとしているのですから。

それが使徒教徒です。

かくして生まれたときから、使徒教徒に囲まれている。

自然と使徒教徒になりますよ」


 アーデルヘイトが再び挙手をした。


「あのう……。

明確な教えがなくてもいいのですか?」


「必須ではありません。

習慣は明文化されていないでしょう?

外の世界の人たちが我々を見たら、みんな同じ行動様式だと思います。

宗教と聞けば特別なように思いますが、人である限り宗教と無縁ではありません。

人が感情の生き物で、社会的な動物である限りはですがね。

難しい話でしたが……。

使徒教徒の概念についてはいいですか?」


 社会的な行動をする際に、必要となる規範や認識。

 太古から人は……なにかの存在からそれを導き出した。

 祖霊信仰や、山岳信仰などだ。

 教会が台頭する前は、そんな信仰があったしな。

 ドラゴンへの信仰だって同じだ。

 あれも個体ではなくドラゴンという概念に対する信仰だからな。


「旦那さまの言葉が難しくてチンプンカンプンですけど……。

わかったことにしておきます!」


 今はそれでいいさ。

 将来は意識する必要がでてくるだろうけど。


「外の世界と接触が多くなれば、自然とわかりますよ。

そもそも私の説明が適切である保証はありません。

うまく説明できる自信がないのですよ。

それで契約の概念からして違うことに戻ります。

私たちは細かい契約のような概念を、窮屈に感じるでしょう。

そして自由の概念も異なる。

使徒の考える契約や自由の概念に変わってしまった。

使徒を正典カノンとするが故にね。

その代価として、責任が無限に広がってしまうのです」


 プリュタニスは話についてきているようだが、さすがに限界がきたか。

 珍しく、頭をかいている。


「無限ですか?

なにか具体例を伺っても?」


「使徒教に浸食される前になります。

不祥事があったとしても、責任は契約で定めた範囲まで。

責任とは契約によって、自分に与えられた権限に対しての概念ですからね」


「明確な範囲の責任と聞くと、なんか違和感がありますね。

ある基準を超えると、責任がなくなるのでしょうか?」


 最初は俺も違和感があった。

 だから先生が呆れるくらい、しつこく食い下がったなぁ。


「そこでひとつの例を、先生から聞き出しました。

ある大工が、師匠から独立したあとです。

その弟子が殺人を犯しました。

そこで師匠の責はあるかないか?」


 俺が全員を見渡すと、モデストが苦笑した。


「厳密にはないですね。

ただ実際は違います。

今は師匠が弟子の不始末を謝罪しないと、皆はスッキリしないでしょうね。

冷淡だの……。

理屈はわかるがそれでいいのか?

そんな感じでしょう。

糾弾されずとも、周囲から腫れ物扱いされますね。

昔は師匠の責を問う声はなかったと?」


 教会の記録では、昔の冷たい例として取り上げられていたな。

 そのころには、教会全体が使徒教徒になってしまったわけだ。


「その通りです。

独立してしまったし、そもそも大工の弟子ですよ。

殺しの弟子でもないのに、なぜ非難されるのですか?

つまり弟子のやったことに、師匠は無限の責任を負わされているのです。

それだけではなく、友人にすら責は及ぶでしょう。

弟子との交際を恥じなくては不道徳だとね。

だから友人は、付き合いがあったことを隠すか……なかったことにする。

もしくは熱心にその弟子を非難する。

そうしなくては社会で孤立しますよ」


「たしかに一般的にはそうでしょうね。

言葉にされると面倒くさい社会な気がしますよ。

これが使徒教ですか?」


「一面ですけどね。

使徒に契約の概念がないため、責任の範囲も不明確なのですよ」。

使徒教の本質は、とにかく特殊なんです。

その本質は、融通無碍むげで無原則。

そして機能絶対主義です」


 クリームヒルトが額に手を当てて天を仰ぐ。


「意味がわかりません……」


「理屈や原則なんて、どうでもいいのです。

機能すればそれが正しいってことですよ。

元の正典カノンと食い違おうが、使徒は実在して奇跡は起こる。

だからいいじゃないか……です」


「あ~。

なんかいい加減ですけど……。

私たちも結果がでればよし、と考えがちでした。

アルフレードさまが、根拠を求めるので変わりましたけど。

考えた上での失敗を、考えなしの成功より評価するのは大きかったですね。

それでも皆の意識を変えるのは大変でしたけど」


 多民族故に明確な基準が必要だったからな。

 なんとなく……で済ませると衝突が多くなる。

 そうなれば感情がぶつかって、収拾がつかなくなるからな。


「昔は違ったのですよ。

結果も大事だけど、理念も同じくらい大事ってことです。

このふたつがぶつかると、機能絶対主義が勝ちます。

ねじ伏せるというより……。

取り込んで骨抜きにする形ですけどね。

機能すればいいのですから」


「アルフレードさまは使徒教と言われていますけど……。

これって良くないのでしょうか?」


 使徒に好感情を持っていないから悪いと思いがちだな。

 そう単純な話ではないのだが……。


「善悪ではありません。

在り方なので。

今は使徒教の悪い面が吹き出している、といったところでしょうね。

機能絶対主義には負の側面もあります。

混乱期には極めて脆弱ですよ」


 アーデルヘイトは不思議そうな顔をする。


「あれ?

機能すればいいなら、逆に強いと思いますけど。

なんでもありでしょう?」


 何事もプラスとマイナスの面がある。

 この柔軟性がある局面では致命的なほど足を引っ張るだろう。


「危機に相対したとき……どう対応するか。

過去の積み重ねが大事になります。

言い換えれば……失敗の積み重ねでもある。

そして自信と強さにつながるのです。

自信がないと、危機からは逃げるしか選択肢がありません」


 アーデルヘイトは急にシンミリした顔になる。


「失敗は辛いですけど……。

旦那さまは、私が逃げないように背中を押してくれました。

そのお陰です。

今は危機が訪れても、逃げない自信がありますから」


 あの失敗を糧にしてくれたなら、なにもいうことはない。

 そもそも人生なんて失敗のほうが多いのだ。

 失敗があることを前提にするべきだろう。

 それがこの世界で異質な考えになっている。


「機能絶対主義には、そのような素地そじがない。

機能すればいいとは……機能しなければダメ。

つまり失敗は悪なのです。

失敗の記録は反面教師でしかない。

この部分はよかったなど評価できません。

それでは『反省が足りない』なんて言われますからね。

だから危機的状況では、似たような成功例を無条件に当てはめるでしょう。

成功には前提があることを考えずにね。

それで失敗すると、努力が足りなかった……と決め付けるでしょうね」


 クリームヒルトは驚いた顔をする。


「アルフレードさまが『失敗は悪じゃない』としつこいくらい言っていたのは……」


 ああ。

 これを見越していたわけじゃない。

 結果的に反面教師のように思えるだけだ。


「使徒教を意識したわけではありませんけどね。

失敗が悪では……積み重ねての進歩が出来ないのです。

ただし条件が異なれば、まったく違う展開になる。

成功例。

つまり機能する前例が存在すると、これが逆転します。

恐ろしい速度で順応するでしょう。

他の理屈は不要です。

機能すればいいのですからね」


こだわりがないからこその適応力ですかぁ……。

なんか極端ですね」


 極端だからこそ、メリットもデメリットも大きいのだろう。

 今まではメリットが大きかった。

 使徒による絶対的に固定された世界だ。

 進歩なんて概念は邪魔でしかない。


「だから絶対に先頭を走れません。

2番手を走るなら最高ですよ。

ところが競争する相手はいない。

自分で見つけるしかないのですよ。

世界が固定されていたころは、それでよかったのですがね……」


「そういえば、学校でも2番を取るのが凄く上手な子はいますね。

とても器用な子ですよ。

いいものは即座に採り入れる。

試験なんかは実に手際よく、問題を解くそうです。

でも独創性には欠ける。

類似のケースがないと全然です。

教育省で話題になっていましたね」


 秀才タイプだな。

 ものすごく目立つのだろう。

 それを理想にするのはよくないがな。

 ラヴェンナの影響で、よそも学校をはじめるような話が持ちあがっている。

 こんな秀才ばかりを輩出するように努力するのだろうな。


 ばかりでは、害になるのだが……。

 こんな話をしても理解されないだろう。


「その子は改善や改良なら得意でしょう?」


「ええ。

よくわかりますね。

誰かが成功したアイデアを改善するのはとても得意です。

それだけ出来るなら、新しく考えることだって出来ると思ったのですが……。

違うみたいですね」


 ある意味模倣の天才だろうな。

 観察力は、非常に優れているだろう。

 でなければ模倣など出来ないのだ。


 ここからまた難しい話になる。

 この機能絶対主義を成立させる条件について話すべきだな。

 どう説明したものか……。

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