778話 閑話 粘着性軟体ゴーレム
マウリツィオ・ヴィガーノという男がいる。
彼は、冒険者ギルドの重鎮の一家に生まれていた。
ヴィガーノ家は代々ギルドの決まりに詳しい。
問題が起これば、先例と規約から裁定を下している。
そんなヴィガーノ家は、ギルド規約の原本を自宅で保管する栄誉に浴していた。
そんな家に生まれたマウリツィオは、当然ながら将来を嘱望されて育つ。
成人後はギルドの事務に携わり、順調にキャリアを駆け上がっていた。
ところが好事魔多し。
後見人でもある父親が若くして病死する。
マウリツィオ19歳の頃であった。
いかなマウリツィオでも、いきなり父の代わりは務まらない。
裁定役は叔父に任される。
そして傍流だったものが、権力を握るとどうなるか。
嫡流にとって変わろうとする。
かくしてマウリツィオは、出世コースから脱落した。
各地の支部を、たらい回しにされる。
これが約15年に亘った。
そこでも腐らずに、真面目に職務に精励したマウリツィオ。
運命の女神がほほ笑んだのか、転機が訪れた。
叔父がギルドマスターの椅子を狙い、権力闘争に敗れ去ったのだ。
かくしてマウリツィオが呼び戻され、裁定役の座につく。
各支部での裁定の公平さから、高評価を得ていたのだ。
叔父が焦ったのは、着実に実績を積み上げるマウリツィオに焦った部分が大きい。
焦るとは自信のなさの表れである。
叔父は凡庸だったからだ。
裁定役の凡庸とは、基準があやふやなことに帰結する。
人なので、当然ブレはあるが……。
それが大きすぎるのだ。
特定の勢力を贔屓するわけでもなく、その場の空気でフラフラしてしまう。
つまり方々から恨まれるのだ。
このままでは、自分の地位が危うい。
そう思った叔父は、裁定を支持基盤の拡充に使った。
今更そんな振る舞いをしても手遅れ。
そのような浅知恵が通るわけもない。
あえなく失職してしまったのだ。
追放では角が立つので、下部組織の幹部として出向させる形での決着と相成った。
ではなぜ地方勤務のマウリツィオに、白羽の矢が立ったのか。
当然、裏がある。
規約に忠実で公平な態度なのだが、それが行きすぎるのだ。
情実などは一切考慮しない。
支部のお偉いさんにも、平気でかみつくのだ。
規約を盾に私心がないので、皆が手を焼いた。
賄賂など以ての外。
泣き落としなど無意味。
『マウリツィオには人の心がない』
そう噂されるに至る。
この度を超した堅物さにある渾名がつく。
ゴーレム。
こんな硬くて厄介なゴーレムは、敬して遠ざけるべき。
これが各支部の一致した思いであった。
珍しく各支部の呼吸がピタリと合う。
各支部からの強い推薦で、裁定役に返り咲いたのである。
家が代々の裁定役というのも、大義名分としては便利であった。
かくしてマウリツィオは、本部に返り咲く。
45歳であった。
返り咲いてからも、ゴーレムぶりは遺憾なく発揮される。
これに悲鳴をあげたのはギルド本部。
先任の叔父は融通を利かせすぎて、ギルドの規律が緩んでいたことも大きい。
15年緩むとどうなるか。
ぬるま湯体質が標準になる。
ぬるま湯からいきなり、冷水を浴びせられたのだ。
しかもその冷や水は氷混じりで、その氷は先端が
幹部たちの心は傷だらけ。
その上精神は心臓麻痺寸前だった。
だが引きずり下ろす大義名分はない。
支部からの強い推薦も、ここではマウリツィオの盾となる。
支部からすれば、ゴーレムの
だが……いないと困る。
理不尽な裁定がない。
これはある意味で有り難いからだ。
支部同士でもトラブルは起こる。
前任者のときは理不尽な裁定が横行して、各支部は不満を溜め込んでいた。
ゴーレムであれば理不尽な裁定は、絶対にしない。
規約と先例がすべてなのだ。
かくして面倒なゴーレムを本部に封印する形で、各支部は心の安寧を手にしたのであった。
マウリツィオの今までの行動から……ある特徴が見られる。
空気をまったく読まないのだ。
読めないのかもしれない。
かくして本部の綱紀は引き締められた。
幹部連中は『早く引退してくれ』の一心である。
息子はいるのだが……。
ご子息を後任にして、マウリツィオ殿が後見しては、との言葉に耳を貸さない。
『そんなもの規約にも先例にもない』
かくして息子も、慣習どおりに下積みをする日々であった。
一事が万事この調子だ。
息子に取り入ろうとした不心得者もいた。
息子はまだ若いので、ついそれを聞き入れようとする。
ところがこのマウリツィオ。
息子を鞭で打ち据え、図った便宜を撤回させたのだ。
この程度で引責辞任させるには、便宜が些細すぎた。
それにこの基準を適用したが最後、政争の具として万能になってしまう。
全員がパンドラの箱を見て、
これだけ峻厳では、陰口を叩くことしか出来ない。
かくして引退まで安泰と思われたが、再び下り坂がやってくる。
むしろ崖から落ちる、と表現したほうが適切か。
使徒降臨である。
使徒ユウは片手間に、冒険者をしていたが……。
規約など気にしない。
それをこのマウリツィオ。
正面から諫言したのだ。
周囲は仰天する。
表向きユウは諫言に感謝した様子を見せた。
裏では拗ねてしまう。
依頼を受けなくなったのだ。
かくしてギルドは、対策を迫られる。
元凶であるマウリツィオを強制的に引退させることにした。
それでもユウの機嫌は収まらない。
仕方なく息子も解雇する。
若干ユウの機嫌は直ったが、まだ不機嫌なままだ。
強制引退や息子の解雇で、マウリツィオがさほど大きな反応を見せなかった。
これがユウをムキにさせたのである。
マウリツィオが大きく反応しなかったのは理由があった。
息子の解雇に関しては、不問に処した件を再び持ちだされる。
ギルドはムリ筋と知りながら、使徒ユウの機嫌を取るために持ちだした。
パンドラの箱でも、使徒の機嫌を取るためなら開けるしかないのだ。
マウリツィオにすれば、なぜ今更と思った。
だが処分とあれば飲むしかなかったのである。
規約には処分の時効などなかったからだ。
ここまでやって、ユウの機嫌を損ねたままではいけない。
首脳陣の進退問題へと発展するだろう。
困り果てた幹部は、正妻であるマリー=アンジュに相談した。
「ユウさまは屈辱を受けたとお思いです。
衆人観衆の前で諫言されましたから。
子供扱いされた、と思っていますわ。
あとは……わかりますね?」
かくしてギルドは、マウリツィオに屈辱を与えることにした。
名誉であるギルド規約の原本を没収したのだ。
マウリツィオはこれに激しく激怒した。
これを聞いたユウは、機嫌を直したのである。
そのときユウは『ザマア』とか『土下座しても……もう遅い』と言ったとか言わなかったとか。
かくしてマウリツィオは、使徒と冒険者ギルドに絶望して故郷に引き籠もった。
ギルドは、マウリツィオに対してかなり不当な扱いをした罪悪感がある。
年金という形で、親子が生活に困らない額を支給することにした。
これは先例と規約があるので、マウリツィオは素直に受けたのである。
当然使徒ユウには内緒である。
使徒ユウはマウリツィオのことなど忘れたので、バレずに済んだ。
きっとどこかで野垂れ死んでいる、と思い込んで記憶から抹消したらしい。
マウリツィオ53歳の転落であった。
そして再び転機が訪れる。
発端はギルドのサボタージュ騒動であった。
これを不服に思う者たちはいた。
だが表だってこの空気に逆らうと、社会的に抹殺される。
この情報をゴーレムに流すことにしたのだ。
引退したが意見する権利はある。
マウリツィオは長々とした文章を、ギルドに送りつけた。
非の打ち所のない正論である。
その努力も空しく、首脳陣はゴミ箱に直行させた。
だが空気を読まないマウリツィオの手紙爆撃は続く。
首脳陣は、いい加減にしてくれと思う。
だが無視するしかない。
年金を停止する嫌がらせなどしたら『そんな規約はない』と言って怒鳴り込んでくるのが、目に見えているからだ。
ところがある日を境に、手紙がピタリと止まる。
アルフレード主導で、新ギルドの設立の計画が動き出してからだ。
当初新ギルドの首脳陣は、ゴーレムを召喚するつもりなど毛頭なかった。
煙たいのと、旧ギルドの規約を押しつけられては、敵わないからだ。
だが新ギルドの首脳陣に熱意はあれど、頭脳が追いつかない。
組織作りで行き詰まってしまった。
全体図をかける人材がいない。
かけるであろうアルフレードは、自分たちで考えろと突き放している。
この程度が出来ないようでは不適格とも付け加えてだ。
かくして首脳陣は思い悩んで、ゴーレムを召喚した。
魔王よりゴーレムのほうがマシである。
マウリツィオは、手紙を受け取るや新ギルドに乗り込む。
ここで新ギルド首脳は、予想外の事態に仰天した。
旧ギルドの体制を図入りで、丁寧に解説してくれたことではない。
規約を含めて問題点を列挙して、決定を押しつけなかったからである。
さらに教え方も懇切丁寧で、教え魔とでもいうべきものであった。
その場にいた全員が、こう思った。
『引退させられたショックで、気でも触れたか?』
不気味に思いつつ、首脳陣はマウリツィオの息子も雇用したい旨を告げた。
どことなく後ろめたかったからである。
ところがマウリツィオは首を横にふった。
「縁故で愚息を採用するのであれば断る。
無能な職員を採用して、迷惑がかかるのは依頼主と冒険者じゃ。
依頼主と冒険者あってのギルドぞ。
お主ら……旧ギルドの堕落と腐敗に対する義憤から立ち上がったのであろう。
新ギルドの精神を忘れたのか?」
こう言われては、逆に引っ込みがつかない。
そもそも息子の過失は、他人ならよくやっていることだった。
マウリツィオだから罰しただけのことだ。
それに特別に無能というわけでもない。
なにより実務経験がある人材は、ひとりでも欲しかったからだ。
かくして新首脳陣の説得で、息子の雇用を承諾した。
そこでも注文をつけることは忘れない。
「あれには下働きからやらせてやってくれ。
昇進はあくまで、本人の実力でな。
あれは甘やかされると、調子に乗る悪癖があるからのぅ」
ここで首脳陣は痛感する。
気は触れていないし、ゴーレムはゴーレム。
そう気がついたのであった。
このときから正式に顧問の肩書を得ることになる。
渾名がゴーレムから、フレッシュゴーレムに変わった瞬間でもあった。
思ったより柔軟だからである。
かくして新ギルドの組織作りが急ピッチで進む。
どうせ出来やしない、と高をくくっていた旧ギルド首脳陣は仰天した。
しかも組織体制は理にかなっている。
これはプロの仕業でしかない。
だれか内通者がいるのか、と犯人捜しがはじまった。
犯人はマウリツィオと知った旧ギルド首脳陣は激怒する。
裏切り行為と認識したためだ。
なんのために年金を与えてやっているのだと怒る。
旧ギルドは恩を売ったつもりなのだろう。
マウリツィオは自分の働きの代価と思っている。
恩などサラサラ感じていなかった。
旧ギルドから数度の警告文がくる。
マウリツィオから返事はくれども、サボタージュの非難ばかり。
かくして旧ギルドは強硬手段に訴えた。
年金の停止である。
そこでマウリツィオは、ゴーレムの面目躍如と言える行動にでた。
支部に怒鳴り込んだのだ。
「年金の停止は、受給者の死にかぎる。
そう規約にあるだろうが!
ワシは生きておるぞ!!」
正論と規約を盾にされては、支部では太刀打ちできない。
しかも本部からは厳命されていることがある。
『説得しろ。
本部に突入される事態だけは避けるように』
仕方なく支部が独断で年金を支払うことになった。
これでマウリツィオは、満足して引き下がる。
ところがギルドの混乱は増す一方。
支部の予算がつきはじめた。
恐る恐る職員が、これ以上の年金支給は出来ないと、告げにいく。
いきなり停止すると怒鳴り込んでくるからだ。
くじで負けた職員は、泣く泣くゴーレムに怒鳴られる役を押しつけられたのである。
ここで予想外にも、マウリツィオはあっさり承諾した。
「金がないなら、仕方がないのう。
余裕が出来たときにもらうとしよう。
ワシがそのときまで生きていればだかのぅ」
周囲はマウリツィオを計りかねる。
マウリツィオ本人には明確な基準があるだけなのだが。
そして周囲を仰天させる事態は続く。
新ギルドの設立を計画したアルフレードへの対応である。
自ら挨拶にいくと言い張ったのだ。
だがゴーレムっぷりを発揮されては敵わない。
アルフレードを怒らせるなど、百害あって一利なしなのだ。
周囲は必死に止めたが、本人は頑として聞かない。
「ラヴェンナ卿はギルドにとって最大のスポンサーであろう。
つまりラヴェンナ卿の機嫌ひとつで、このギルドの存続が決まるのだ。
礼は尽くさねばならん。
ワシに任せておけ」
ギルドマスターは決めるべきことが多く、アルフレードからも挨拶は不要と言われている。
仕方なくマウリツィオの挨拶を認めたのであった。
ラヴェンナについてからも驚愕の事態は起こり続ける。
清々しいほどの
アルフレードですら面食らってしまったほどだ。
歯の浮くようなお世辞がいくらでもでてくる。
誰ひとり聞いたことがないゴーレムのお世辞であった。
アルフレードから賛辞は不要、と言われてもお構いなし。
マウリツィオは、涼しい顔だ。
相変わらず空気を読まないのであった。
「小生は事実を述べているだけです」
アルフレードの周囲も、目が点であった。
シルヴァーナが陰でマウリツィオ劇場と命名したのである。
そんなマウリツィオ劇場は絶賛開幕中。
以前原本没収を示唆したマリー=アンジュが過去の謝罪に訪れた。
どうしても過去の謝罪がしたいと渋るオフェリーを押し切ったのだ。
マウリツィオは、心底意外そうな顔をして謝罪は無用と言い切った。
「人には立場というものがありますからな。
ルグラン嬢は、当時使徒さまのことを考えただけのこと。
謝罪は無用です。
それより新ギルドをよろしくお願いしますぞ」
かくしてマリー=アンジュは困惑しきりであった。
このような美辞麗句を聞き慣れていたからだ。
本心がわからない。
でもこのように言われては支持せざるを得ない。
隣にいたオフェリーは単純に感動してしまったが。
なんにせよ新ギルドは、困惑する支持者と熱烈な支持者を獲得することに成功した。
マウリツィオ劇場は続く。
こあるごとに『新ギルドとラヴェンナは一心同体だ』と吹聴して回る。
そしてアルフレードたちへの賛辞が続くのだ。
この徹底した
粘着性軟体ゴーレム。
渾名が変わった瞬間であった。
アルフレードに張り付いて離れないところから、渾名が変化したのである。
この一行で矛盾するかのような奇っ怪極まる渾名。
これは周囲の困惑を如実に表していた。
この
徹底しており、裏表などなかった。
あまりの
「ラヴェンナ卿が、靴の裏を舐めろと言ったら……。
舐めそうですね」
これはマウリツィオが、使徒ユウに『僕の靴の裏を舐めたら許してやる』と言われたことに由来する。
回答は『使徒さまとは思えない品のなさですな』だった。
これでユウはますます態度を硬化させてしまう。
ある意味ユウが転生してから、唯一歯向かった人物だ。
もし老人でなければ殺されていたろう。
殺されない代わりとして、原本を没収されたのだが……。
これを踏まえての発言である。
マウリツィオは怒りもせず、真顔でこう言い放った。
「ワシが靴の裏を舐めて……。
新ギルドの繁栄が約束されるなら、喜んで舐めるぞ」
揶揄った人物は、言葉を失う。
怒り出すと思っていたからだ。
マウリツィオはそんな発言者を一瞥する。
「お主ら
お主らは、そのプライドで新ギルドになにが出来る?
そもそも恥なんて、あと10年程度背負えばいいだけよ。
それで……ラヴェンナ卿は、本当にそう
本当ならワシは、喜んで靴の裏を舐めにいくぞ」
黙り込んだ発言者に、マウリツィオは珍しく苦笑する。
「ワシらは実績のない弱小ギルドよ。
ラヴェンナ卿が、任務不適格と判断したら、あっさり切り捨てられるぞ。
実績を積んでいれば、それが誠意になる。
多少は判断も変わろう。
それがない今は、こうすることでしか誠意を示せないではないか」
マウリツィオの実績を積むは徹底している。
どんな嫌な仕事でも受けろと指示しているからだ。
反対の声はあがるが、このゴーレムには通じない。
半端な攻撃ではゴーレムの表皮にはじき返されるのだ。
「たわけが!
信用ないギルドに、格好のいい仕事を持ち込む依頼主などおらんわ!!
プライドとかほざくなら、汚れ仕事でも積み上げてからにせんか!!!
実績があっても、依頼をサボタージュする組織に勝つチャンスなのぢゃ。
どんな仕事でも受ける。
当然報酬はもらうがな。
プロなら代価を要求して当然だろう。
それがプライドというものぢゃ。
そうやって信頼とプライドは積み上がるものと知れぃ!
仕事もロクにせんヤツのプライドなどただの我が儘じゃ!!
我が儘が許されるのは赤子までぞ!!!」
恥も外聞もない
椅子にふんぞり返っているだけの上層部の指示なら、冒険者は反発したろう。
使徒に膝を屈しなかったマウリツィオの言動は、説得力が違った。
あのゴーレムですら……。
これが、冒険者の認識だ。
仕事も減って困窮していたこともあるが……。
マウリツィオの態度が冒険者の背中を押した最大の要因であった。
かくして旧ギルドが受けなかった、卑賤な仕事でも文句を言わずこなす。
当然ながら徐々に周囲の見る目が変わってきた。
依頼の内容も良くなっていく。
それでも違法でないかぎり、依頼は絶対に断らないように徹底されている。
マウリツィオがここまで情熱を傾けるのは、個人的な動機によるものだ。
引退させられてから……ある日記をかきはじめた。
題名は『理想の冒険者ギルド』。
いわゆるぼくのかんがえたさいこうのぎるど。
50過ぎの日記としては、痛いことこの上ない。
内容はゴーレムと揶揄されるだけの、公正な組織である。
権力者にも媚びない独立性を持ったもの。
不当な人事などが起こらないなど妄想全開だった。
この強烈に痛い妄想実現のために、プライドをかなぐり捨て、新ギルド設立のために奔走しているのである。
今は権力者に媚びないなど、夢また夢だが……。
仕事の内容では媚びていない。
どんな仕事でも全力を尽くすのは、当然のことと考えていたからだ。
だからこそ報酬はしっかり要求する。
タダ働きを示唆されても、絶対に首を縦にふらない。
逆にこう言い放つ。
「ただで冒険者を使おうなど、思い上がりも甚だしい。
王ですら冒険者には報酬を払うのですぞ。
私はたとえ神さまに依頼されても報酬を求めますからな」
不信心だ、と問い詰められても平然としている。
「なら依頼がないような世界にすればよろしい。
神の怠慢を仕事で解決するのです。
ならば料金はお幾らに?
それだけのことですぞ」
神の御心など計れるわけがない、と言われてもこれまた平然としている。
「教えていただかなくては……わかりませんなぁ。
教えていただけるまでは、報酬はいただきます。
それに神さまも、信者をタダ働きさせた揚げ句、飢え死にさせては元も子もないでしょう」
こんな調子であった。
このような態度だからこそ、多くの人には矛盾と映る。
媚びないと言っているが、新ギルドはアルフレードに媚び
それはまったく気にしていない。
そもそもギルドではなく、マウリツィオ個人がラヴェンナ卿のご機嫌を取っているだけ。
マウリツィオの中で、なんら矛盾はしていなかったのである。
ある意味で私心
アルフレードをして『あの爺さん苦手だ……』と、ミルヴァに愚痴るほどである。
その後のアルフレードの愚痴には、ミルヴァさえ曖昧に笑うだけだった。
『なんで俺に寄ってくる老人は、こうも変なヤツばっかりなんだよ……』
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