758話 特別編 続・新年の抱負

 少しばかり未来の話。


 ラヴェンナ領主のアルフレードが不在でも、新年はやって来る。

 新年の抱負は、去年にも増しておかしくなるようだ。


 やはり、注目はシルヴァーナ。


 演台にシルヴァーナがあがってくると、盛り上がりは増すばかり。


 シルヴァーナは去年同様の満面の笑みで、周囲に手を振っている。

 そして偉そうにない胸を張った。

 

「今年はイケメンと結婚して独身卒業よぉぉぉぉぉぉぉ!」


 周囲は盛り上がり、拍手喝采。

 去年同様に、歓声があがる。


「姉御、頑張ってください!」


「期待しています!」


 昨年と同じ光景が展開された。

 シルヴァーナは上機嫌で、手を振っている。

 声援が一段落して、一瞬の静けさが訪れた。


 直後狙っていたかのように、あちこちから声があがる。


「来年も同じ抱負期待していますよ!!」


 お約束のように大爆笑。

 シルヴァーナは、これまた去年と同じように……。

 ひきつった笑い顔になる。


「実現しなかったらアルのせいよ!!

アタシのせいじゃない!!

そうだわ……。

来年も独身だったら……。

独身の家に片っ端から呪いを掛けてやるわ! 

独身でモテなくなる呪いよ!!

仲間を増やしてやるわ!!!

お前たちも非モテにしてやろうかぁぁぁ!!!!」


 聴衆から『やめてくれぇ!!』と悲痛な叫びが飛び交う。

 そんな混沌とした状況の中、新たな展開を迎える。

 新しい人物が演台に呼ばれた。

 周囲に押し出させるように出てきたのは……。

 ヤン・ロンデックスその人。


 照れ笑いをしながら、演台にあがる。

 満更でもないようだ。


「参ったなぁ……。

来年の目標かよ」


 腕組みをして考え込む。

 皆が沈黙して、ヤンがなにを言い出すか待っている。

 少女のひとりが、声をあげた。


「ヤンおじちゃん頑張って!!」


 ロマン一行に絡まれた少女だ。

 助けられて以来、ヤンになついていた。


 ヤンは子供を傷つけることは決してしない。

 その点での信用は確固たるものだ。

 親が心配するのは、下品な言葉遣いが伝染することくらい。

 ヤンは照れたように、頭をかく。


「ゾエと一緒になったからなぁ……。

目標かぁ。

幸せな家庭にしても、もう出来ているしなぁ……」


 話題のゾエはミルヴァたちに挨拶していた。

 婦人会に入ったので、挨拶は欠かせないのだ。


 そのゾエが目を離した隙に、ヤンが演台に引きずり出された。

 演台の下から、ハラハラしながら見ている。


 ヤンはゾエの存在に気がつかずに、頭をかく。


「そうだなぁ……。

まあ結婚って、イイもんだよ。

起きたときに、野郎のいびきが聞こえないんだぜ。

可愛い寝顔で寝ていてさぁ……。

普段はきっちり身だしなみを整えているけど……。

整える前の自然な顔ってのがイイんだ。

なんか一緒になったんだ、と実感するわけよ」


 ヤンはニヤニヤ笑ったが、ペロと舌を出す。


「いけねぇ。

ゾエに喋るなって言われたんだった。

悪いな! 忘れてくれ!

そうだなぁ……。

ゾエが風呂にはいっているときに、興味があって乱入したこともあったなぁ……。

女の風呂って長いだろ?

何をしているのか、気になったんだよ」


 抱負もへったくれもない。

 ヤンは普段からおしゃべりだ。


 ラヴェンナ市民はしゃべり魔の惚気のろけ話を、延々聞かされる羽目になった。

 あまりの事態にゾエは硬直していたが、我に返ると顔が真っ赤になる。

 

 群衆をかき分けて、演台に駆け上がった。


「ヤン! なにを話しているのよ!」


 ヤンは悪びれずに、満面の笑みになる。

 本人は、まったく悪いことをしたと思っていないようだ。


「お! ゾエじゃないか。

改めて紹介するぜ。

俺の嫁さんのゾエだよ」


 呆気にとられていた聴衆は、我に返って拍手をする。

 ヤンは照れ笑いをしながら、頭をかく。


「結婚式はラヴェンナさまが戻ってからだけどな。

しっかしさぁ……。

男のイチモツって、小便をする以外の使い道があったんだなぁ……イテテっ!!」


 ゾエは真っ赤な顔をしてヤンの耳を引っ張り、演台から引きずり下ろす。

 観衆から冷やかしを受けながら、ヤンは退場させられた。


 そこから状況は、一気にカオスになる。

 思い思いに演壇にあがってなにかを叫ぶ者。

 ムキムキのマッチョ軍団が、演台で踊り出すなど……。


 それを見ていたミルヴァが、大きなため息をつく。


「アルって、なんでこんな規格外の人たちを使いこなせるのよ……」


 隣で護衛をしていたジュールが苦笑した。


「我々も使い込なされているクチですよ。

ロンデックス殿ほど奔放ではありませんが……」


 ミルヴァは額に手を当てて、天を仰ぐ。


「考えてみれば……。

普通なら使いこなせない人を使うの得意よねぇ……。

外の人たちって、すごくお堅いわ。

それが普通なんでしょうけどね」


 ジュールは真顔でうなずく。


「そうですね。

ところで奥さま。

この状況……。

どう収拾しましょうか?」


「知らないわ。

私に聞かないで。

アルに聞いてよ……」

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