756話 公平感

 クレシダは呆れた顔をしていたが、すぐに表情を改めた。


「ラヴェンナ卿がお認めになった……。

最も実行力のある派閥を参加させるべき。

そうお考えなのですね?」


 迂闊に首を縦にふると危険だな。

 飽きもせずに、罠を仕掛けてくる。


「私だけが認めても無意味ですけどね。

少なくとも私の賛意は得られると思います」


 クレシダは突然目を細める。

 嫌な予感がするな。


「そこが問題ですね」


 いよいよ反撃してきたな。

 地味な戦いだが……。

 これに負けると、剣を交えた戦いより出血が激しくなる。

 評価されない戦いってヤツだな……。


「問題ですか?」


 クレシダはやや芝居かがった様子で、ため息をつく。


「これではラヴェンナ卿の人類連合になる。

そんな印象を持たれてしまいます。

ラヴェンナ卿が実力を、冷徹に見定めてのご判断とわかるのは……」


 そっちを攻めてきたか。

 やはり簡単に終わってくれないな。


「ごく少数だと?」


 クレシダは皮肉な笑みを浮かべる。


「ええ。

これが一般的ですわ。

経過ではなく結果が偏らなければ、不満は大きくなりません。

人類の結束という観点から、軽視できないでしょう?

ラヴェンナ卿のおっしゃった価値観という表現をお借りしますとね……。

ここ1000年の間に培われた価値観と言えるでしょう」


 嫌な部分をついてきたな。

 意固地な原理原則を振りかざす相手には、これが最も効果的だろう。


「足を引っ張るような者も入れて、公平感を演出せよと?」


「ラヴェンナ卿の価値観は、人が感情を乗り越えた先のものです。

私心より、実現に重きを置く。

口にするのは簡単です。

実行するのは大変難しい。

それは素晴らしいものですわ。

でも……多くの者はそこに至っていない。

だからこそ、私心での選択と決め付けるのです。

その現実を忘れてはいけません」


 クレシダの言っていることは正しい。

 俺を説得するなら、情ではなく理論でないとダメ。

 それを即座に悟ったわけだ。


「たしかに道理ですね」


 クレシダは苦笑して肩をすくめる。


「どれだけ客観的な判断基準を積み重ねてもムダですわ。

真摯しんしな説得も意味をなしません。

最初に疑わしいと思えば……。

人は偏見という殻で事実を覆い隠しますもの。

そして自分の信じたい材料だけにとびつきます。

偏見をより強固なものにするでしょう。

それが人という獣の本性ですもの。

言葉と知恵なき獣の合理性に劣る。

そう申し上げてよろしいかと」


 珍しく本音を見せてきたか。

 計算ずくなのだろうな。

 それに乗ってやる必要はないが。


「獣関係以外は返す言葉もありません。

詐欺に引っかかるのは、人だけの特権ですからね。

ですが……。

人と獣は違う生き物ですよ。

その比較に意味があるとは思えません。

この体で獣になっては生きていけないでしょう。

人は大勢で群れないと生存が不可能な生き物なのですから。

例外はありますけどね。

例外を凡例と意図的に混同するのは詭弁きべんの技術です。

だから議論はしませんよ」


 クレシダの目が細くなる。

 どんな感情が渦巻いているかはわからない。

 だが……。

 楽しみつつも辟易していると言ったところか。

 クレシダが論理を展開できないようにつぶしたからな。

 感情が基点になれば、詭弁きべんに頼らざる得ない。


「ラヴェンナ卿は詭弁きべんに引っかからないでしょう。

でも多くの者は引っかかりますよ。

だからこそ脈々と生きながらえる技術なのですから。

話がれましたね。

私が申し上げたいのは……。

仮に足手まといが明白だとしても加える必要があります。

人は痛みを実際に体験するまで、理屈で制止されても、自制など出来ませんもの」


 お邪魔虫を内部に入れたいわけだ。

 それを拒否することは難しい。

 拒否した場合、ラヴェンナの軍が前面にでざる得ない。

 その場合、兵站の問題などリスクが大きすぎる。

 他家に兵站を依存して安心できるほど俺は楽観的じゃない。


 だからとラヴェンナ軍を助っ人のような形にするのもマズい。

 辺境だから比較的安全。

 そんなところで、自分の勢力だけは温存している。

 そんな不満がたまるだろう。

 そうなっては手遅れだ。


 人類連合の建前を維持すれば、それは避けられる。

 厄介な問題を持ちだしてきたな。


「足手まといを入れたとします。

犠牲がでてからなら排除できると?」


 クレシダは楽しそうに笑った。

 俺に選択を迫ることが楽しくて仕方ないようだ。


「ええ。

ラヴェンナ卿が無益な犠牲を嫌っている件は、重々承知しています。

ですが……。

足手まといが生み出す犠牲は必要。

そう申し上げますわ。

むしろそれが、普通の考え方ではありませんこと?

ラヴェンナでの特殊性は理解しております。

ここは一部引っ込める必要があると思いませんか。

それがラヴェンナ卿の考える共存の在り方でしょう?」


 俺のことをよく調べているよ。

 辟易するほどにな。

 こうやって犠牲を強いて、俺の心を削っていく作戦か。

 実に正しいやり方だな。

 俺はこみ上げる苦笑を抑え、ため息をつく。


「救いがたい普通ですね」


 クレシダは気持ち身を乗り出した。


「ラヴェンナ卿が『そんな理屈など、死んだ者と残された者には関係ない』とおっしゃっていることも存じていますよ。

でも正しい理屈だけが通るほど世の中単純ではありません。

これは失礼。

ラヴェンナ卿なら嫌というほどご存じでしたね。

大義の前には、小事を犠牲にする冷徹さも必要かと思います。

それを賢明に行うために、統治者がいるのですからね。

小事のみを固守したせいで、大事を失う者は枚挙に暇がありませんわ」


 すべてを撥ね付けることは出来ない。

 ならば……俺に残された選択肢はひとつだな。


「クレシダ嬢のおっしゃることは、よくわかりました。

ですが冒険者ギルドに関しては譲れませんね。

代わりに教会は、私に敵対的な派閥を選んでいただいても構いませんよ」


 このケースでは、旧ギルドが足を引っ張る。

 新ギルドだけでも死守するべきだ。

 俺が後ろ盾になって新設させたからだけじゃない。

 教会は建前が重要視される以上、敵対的でも程度は限られるからだ。


 クレシダの目が細くなる。


「冒険者ギルドのほうが、より公平感を出せると思いますよ。

違いますか?」


 やはり主目的はそこだな。

 公平感を演出するのであれば、クレシダの言葉は全面的に正しい。

 だが公平感は手段にすぎない。

 目的ではないよ。

 クレシダは故意に目的にしているが……。


「それは公平感を通り越して、彼らの怠慢と不実を、不問に処すことになりますね。

公平感にしてもあからさますぎます。

確実に足元を見られるでしょう。

それに彼らを入れると……。

崩壊しかかっている組織の立て直しまで手伝わされますよ。

そんな時間的余裕などないと思いますがね」


 クレシダは意外そうに首をかしげた。


「あら? どうしてですの?」


「不思議なことに、

そろそろ動きはじめてもおかしくないでしょう。

人は待ってくれるでしょうが、魔物にそんな義理はありませんからね。

時機を狙っていると思いますよ。

それこそ……今なんかどうでしょうかね。

急いで人類連合を結成せざるを得ないタイミングとしては絶好でしょう?」


 俺の予想だと、魔物は既に行動を開始しているはずだ。

 クレシダはタイミングを計っていたろう。


「そういえば、不思議と魔物は大人しいですわ。

満足したのでしょうかね」


 クレシダらしくない反応だな。


「それはないでしょう。

クレシダ嬢はご存じかと思いますよ」


「高く評価していただいて恐縮ですけど……。

さっぱりですわ」


 下手に尻尾を出さないようにしているのか。

 この場で魔物の話題がでたことに驚いたわけでもないだろう。


「ご謙遜を」


 クレシダは笑って肩をすくめる。

 攻めていたところに、いきなり反撃されたからな。

 切り返すタイミングを窺っているのかもしれない。


「御免なさい。

本当にわかりませんわ」


「人類連合の発案と、その結成への速度。

そして締結を急いでいますよね。

だから満足しているなど思っていないでしょう。

必ず来ると確信されているのでは?」


 クレシダは口を手で隠して笑う。


「あのときは……。

大変なことが起こったと驚いただけですよ。

確信はありません。

でも……備えは急ぐべきでしょう?

火事になってから、防火をしても無意味ですもの。

火災にならなければ、その手間はムダになりますけどね」


「火事の備えは、ムダになったら損をした……ではありません。

ムダになったことを喜ぶべきですよ。

損をしたと考えるのは愚かしいでしょう。

それの考えを各国が共有したからこその参加ではありませんか?」


 クレシダは眉をひそめた。


「備えについては、ラヴェンナ卿のおっしゃる通りですわ。

でも攻めてくる確信の説明にはなりません。

そう思う根拠を伺っても?」


「プルージュの包囲戦ですよ。

まるで人が統率しているかのようです。

ただプルージュを包囲するだけのために、そんなことをしますか?」


 クレシダは俺のしつこさに呆れたかもしれないな。

 小さくため息をついた。


「思えませんわ」


「それを知っているからこそ、急いでいたのでは?

あれだけの大事件のあと、史上初の試みを発案されて、実現までこぎつけたのです。

当初の動機は、つい忘れてしまうかもしれませんがね」


 クレシダは笑顔で肩をすくめた。

 俺が退路を用意したことが不思議だったのか。

 そもそも論破する目的などない。

 あくまで下地作りだ。


「言われてみれば、そう思ったかもしれませんわ。

気が動転していて忘れていました。

惚けたわけではありませんよ。

私にとってもこの大役は初のことで、余裕がありませんの。

ところで……。

ラヴェンナ卿は、魔物が沈黙している理由。

おわかりになりますか?」


「さすがにそこまでは。

ただ魔物には十分なほど、知恵があります。

だから狙っているでしょうね。

人類連合が不完全な組織になったところを攻撃すれば、泥沼に引き込めます。

中途半端に組織が出来たタイミングだと、決定は曖昧になるでしょう。

目の前の問題への対処が最優先になりますからね。

当面の危機が去れば……。

内紛間違いなしですよ。

別の部分での出血は、相当なものになるでしょう」


 クレシダは真顔に戻った。

 押し切ることに失敗したと悟ったか。


「ひとつの見識ですわね。

実際に攻めて来るか……。

わかりませんけど」


「来ないと断言できない以上、旧ギルドの参加は承諾できませんね。

私としては……。

魔物が満足して奥に引っ込んでくれれば、楽でいいのですがね。

そう確信できるなら……。

権力闘争ゴッコとして旧ギルドを入れても構いません。

安心して時間を浪費できますからね」


 クレシダはため息をついた。

 本心からのようだな。


「本当に頑固で食えないお方ですわね。

仕方ありません。

教会の誰を呼ぶか……。

考えることにしましょう」


                 ◆◇◆◇◆


 帰りの馬車に乗り込んで、思わずため息が漏れた。

 そんな俺にモデストは小さく苦笑する。


「興味深い戦いでしたね。

まさかクレシダ嬢が公平感を口にするとは、思いもよりませんでしたよ。

ラヴェンナ卿が負けない戦い方をされていたので、やむなく使ったところでしょうかね」


 合理に徹した俺につけ込むなら、非合理しかない。

 それもかき回すつもりで、故意に使ってきたから悪質極まりないよ。

 

「恐らくはそうでしょう。

クレシダ嬢が嫌っている言葉だと思いますがね。

本来なら理屈だけで、私の譲歩を引き出したかったと思いますよ。

使えばある程度の譲歩は、引き出せる切り札ですからね」


「この手を使ってくると予測されていたので?」


 俺は思わず軽く手をふってしまう。


「まさか。

その手があったかと驚きましたよ。

考えてみれば、便利なカードだったのですよ」


「まったく驚いているように見えませんね。

そういえばカルメンがボヤいていましたよ。

『ラヴェンナ卿は、表情から心を読み取りにくい』」


 なんだ……その不穏な言葉は。


「私の内心を読んで、どうする気なのですかね。

ちょっと怖いような気がしますよ」


 モデストは声を立てずに笑いだした。


「カルメンの癖ですよ。

人を見ると、表情から内心を読み取るのです。

わかれば面倒が少なくて済むとね。

父親から気味悪がられた件から習得したそうです。

不憫な切っ掛けですけどね。

ひとつ付け加えますと……。

『ラヴェンナ卿は内心を読まなくても面倒臭くない。

だから楽でいい。

でも読めないのはしゃくだから挑戦している。

今のところ成果がない』

そんな感じで嘆いていましたね」


 俺の周りは物騒な連中だらけだなぁ……。

 唯一の常識人枠だったミルも最近過激になってきた。


「それなら結構ですよ」


 屋敷に戻ると、眠りの世界の住人以外が出迎えてくれた。

 プリュタニスがなにか言いたそうだな。

 サロモン殿下との交渉で報告したいことがあるのかな。


 プリュタニスに目で合図する。

 俺だけで話を聞くことにするか。

 あまり人には聞かれたくない話をする顔だったからな。


 別室でプリュタニスと向き合う。


「さて……。

なにか話したいことがありそうですね」


 プリュタニスは珍しく頭をかく。


「あると言えばあります。

ないと言えばありません」


 珍しく歯切れが悪いな。


「つまりあるのでしょう。

遠慮なくどうぞ」


「なんと言いますか……。

明確な根拠がないのです。

思いつきかと言われればそうでもないし……。

漠然とした不安です。

妙に落ち着かないのですよね」


 明確な根拠がないから口にしにくいか。

 それでも黙っている気にもなないと。

 たしかにプリュタニスの性格だと、こんな歯切れが悪いところは、他人に見られたくないだろう。

 おどけたりするが、基本プライドが高いのだ。

 露骨に態度には出さないがな。

 そのあたりの背伸びしつつも、ちょっと不器用な感じが、アミルカレ兄さんに気に入られる要因だろう。

 俺は世界一可愛げがないらしい。

 酷い偏見だ。


 アミルカレ兄さんは卑屈な相手を気に入ることはない。

 傲慢ごうまんな相手も好きにならないからな。

 だから結婚相手探しも難航するわけだが……。

 スカラ家の伝統は、当人同士の相性が悪いとわかっている政略結婚はしない……だ。


「構いません。

普段なら根拠なしで、プリュタニスが報告をすることはないですからね。

それを揺さぶるほどのものがあったのでしょう。

たまには直感を大事にするのもいいですよ」


 プリュタニスは複雑な表情になる。


「直感と言われると……。

ロンデックス殿を思い出して、モヤモヤしますよ。

嫌いではありませんが、余りに肌合いが違いすぎますから」


 どう考えてもウマが合うようには見えないな。

 ヤンの実力は認めているから、仮に使う立場になったら重用するだろうが……。

 当のヤンは意気に感じるタイプだからな。

 プリュタニスの複雑な感情を敏感に感じて、やる気をそがれる。

 割り切るタイプじゃないからな。

 優秀な同志を組み合わせても、うまくとは限らない。


「ロンデックス殿は別格です。

あれだけ直感に全ふりして、功績を立てる人は……。

普通の測り方をするべきではないでしょう。

それに直感だってバカに出来ません。

経験則からくる予兆めいたものかもしれませんしね」


 プリュタニスは大きなため息をついた。


「わかりました。

どうも非合理の扱い方は苦手です。

アルフレードさまの真似が出来るとは思えません。

それでですね。

サロモン殿下のところにお邪魔して、お話をさせていただいていますが……。

顧問をご存じでしょうか?」


 恐らく……初会談で来ていた人物だな。

 ちょっと神経質そうな学者タイプだったな。


「初日の会合に来ていた人ですかね?」


「ええ。

エベール・プレヴァンと名乗っていました」


 はじめて聞く名前だな。


「そのプレヴァン殿がなにか?」


「元々は教会に所属していたそうです。

スカラ家が公開質問状を出したあたりで教会を辞めたと。

学識があって、殿下の元家庭教師を勤めていたそうです。

それで辞めてから、殿下に声をかけてもらって顧問に納まっている。

そう聞きました」


 真相は違うな。

 サロモン殿下が先に動いたはずだ。


 未曾有みぞうの事態に知恵袋を欲したろう。

 そこでエベールに声をかけた。

 だからこそ……。

 辞めてすんなり顧問になったはずだ。

 主君への礼儀として拾ってもらった、と言っているだけ。


 それにしても教会の家庭教師ってのが引っかかる。

 世界主義関係者か?

 現時点で弱いな。

 これだけだと、プリュタニスが迷うと思えない。

 軽い報告ついでに話せばいいだけだ。


「それだけ聞くと……。

危なくなった教会から逃げ出したと思えますね」


「ええ。

それならちょっと引っかかる程度です。

ところが教会の関係者が、頻繁に訪ねてきますね。

司祭より下の階級ばかりですけど」


 疑うに足るな。

 そうやって簡単に決められるのは、俺がトップだからだが……。

 俺が部下であれば、もっと確証がほしいから探すかな。

 上司次第だが……。


 プリュタニスは真面目すぎる。

 適度に上にぶん投げるいい加減さが、まだ足りない。

 これは自分で気がつかないと、加減がわからないからな。

 気長に待つとするか。

 迷っても報告しただけ、大きな進歩だ。


「世界主義の可能性がありますね。

ただアルカディアに留まらずに、サロモン殿下の元に走ったのか謎ですが……。

利用価値としては低いと思います」


 プリュタニスは再び頭をかく。


「そこもわかりません。

聞くのは非礼ですからね」


 難しいな……。

 対クレシダに注力したいが、無視も出来ない。


「なにかアルカディアのことは言っていましたか?」


「私とサロモン殿下のお話し合いなので、自分のことは語りませんね。

殿下に必要な情報を伝える役目に徹しています。

ただ……」


 プリュタニスが警戒したもうひとつの原因を聞けそうだな。

 不安にさせる決定打か。


「なにか気になることでも?」


「私を護衛してくれている親衛隊員が妙なことを言っていましてね」


 親衛隊か。

 殿下との会談では同席できないだろうから、部屋の外で待っているだろう。

 その時間になにか見たのかな。


「それは一体?」


「僧服の男が訪ねてきたそうです。

とても印象に残ったと聞きました」


 親衛隊の視点で気になるのか。

 結構大事な情報だと思うが……。


「そんな個性的だったのですか?」


 プリュタニスは首をふった。


「逆です。

そうです。

逆に目を引いた、と言っていました」


 親衛隊は護衛の任務が多い。

 だからこそ警戒を怠らない。

 一見して人を見分けるのも大事な技術、と言っていた。

 危険な人物は、見た目が平凡であっても、個性は存在するらしい。

 立ち振る舞いや挙動に現れる、と親睦会のときに聞いたな。

 だからこそ完璧に近い無個性は目立つわけだ。

 護衛ならではの俯瞰ふかん的な視点だな。

 個性がひしめく色とりどりの世界で、完全に近い無色か……。


「親衛隊が気になったですか。

それならただ者ではないでしょう。

聖職者は服装などが同じなので、その中で個性を主張します。

そうでなくては埋没しますからね。

出世を望まないにしても、個性はでるものです。

なにか特殊な任務についている、と考えるべきでしょうかね。

断定は出来ませんが……」


 プリュタニスは曖昧な顔でうなずいた。


「やはり世界主義関係では? と疑いました。

たしかすべてはひとつのような思想でしたよね。

ならば無個性は合致するかなと。

それだけだと弱いんです。

なんか歯切れの悪い話で済みません」


 説得力のある話だな。

 その視点で見ていたのか。


 迷っても報告してくれたのは立派だと思う。

 悩みながらも成長しているな。

 将来が、本当に楽しみだ。

 船酔いの件も、いい切っ掛けになったかな。


 …………。


 一瞬、折居のドヤ顔が浮かんだ。

 そもそも魚のドヤ顔ってなんだよ。

 自分で思いついたけど、わけがわからねぇ。


 クレシダとの対面で疲れたのだろう。

 きっとそうだ。

 うん。

 そうに違いない。


 なんにせよ……。

 プリュタニスに、感謝の意は伝えないといけない。


「いえ。

よく話してくれました。

大事な情報だと思います。

キアラにも頼んで探ってもらいましょう」

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