749話 閑話 クレシダの実験

 クレシダ・リカイオスは馬車の中にいた。

 人類連合の会合に出席するためだ

 アルカディアの残党も、数十名随行している。


 馬車の中でクレシダは外を見ながら、陽気に鼻歌を歌っている。

 クレシダは、基本的に使徒由来の文化は使わない。

 これは例外。


 葬送行進曲。

 

 なぜか気に入ったようだ。


 対面で座っているアルファは無表情だが、いささか辟易したオーラを漂わせている。

 なにせこの鼻歌を、1時間ほど延々と聞かされ続けているからだ。

 何週目か数えることをやめたアルファがため息をつく。


「クレシダさま……。

ご機嫌ですね」


 クレシダは吹き出す。

 アルファの辟易した様子が面白かったからだ。


「あらゴメンネ。

つい楽しくなったのよ」


「ラヴェンナ卿と会えることですか?」


 クレシダは苦笑して、煙管に火をつける。


「それは複雑よ。

殺したい衝動を抑えないといけないもの。

ここまで踊って途中退場なんて興醒めも甚だしいわ。

それじゃあ……愛しい人アルフレードに失礼よ。

楽しいのはね。

アルカディアからの難民たち。

とてもいい使い道が見つかって楽しかったのよ。

こんな武器をプレゼントしてくれた使徒に、つい感謝したくなるわ」


 クレシダは嘲りながら感謝と口にする。

 そもそも難民を引き受けたのは、人類連合を中から掻き回すためだけだ。

 廃品を再利用する認識にすぎなかった。


 ところが難民は、日々シケリア王国民との軋轢を増していく。

 これに可能性を見いだしたのだ。


 今回アルカディアからの難民を同行させているのだが……。

 難民たちは、各地で傍若無人な振る舞いを重ねて、シケリア王国民から嫌悪されていた。

 なぜ嫌悪されているのか、難民たちは理解できない。


 それを聞いたクレシダは、道中で実験しようと考えた。


 難民たちはクレシダの領内に向かうときに、施しを受けて生きながらえた過去がある。

 普通の感覚であれば、道中で感謝の意を伝えるばすだった。


 ところが難民たちは恩を仇で返す行為に出る。

 不当な暴行を受けたなどと言い出して、謝罪を要求しだしたのだ。


 クレシダはこの報告を受けたとき笑いだす。

 この報告をしたアルファは……。

 表情こそ変えなかったが、辟易感が全身から滲み出ていた。


 クレシダは公衆面前での厳重注意にとどめる。

 見せしめのつもりで、注意は一部のみにした。


 これも実験の一環。

 まるで効果がない。

 そして難民の捏造ねつぞうは、どんどんエスカレートしていく。


 周囲は辟易するが、クレシダは薄く笑っただけ。


 難民たちは誰が一番の被害者かを競うかのようだった。

 一番被害の大きい者が、集団の中で序列上位に位置する。

 これが捏造ねつぞうしてでも被害者になりたがる動機だろう。

 そもそも本人たちは、捏造ねつぞうしたと思っていない……と判明する。

 周囲は困惑したが、クレシダは笑っただけだった。


 クレシダは、実験を次の段階に進める。

 虚偽申告は厳罰に処すと、警告を発した。

 守らせるより、どんな考えをするか見たかったのだ。


 それでも虚偽申告は、とどまるところを知らない。


 それらが積み重なり、難民たちにとってシケリア王国内で不当に虐げられたことがとなった。

 真実の核は不当に虐げられた認識。

 これを難民たちは誰も否定しない。

 核を補完する形で、多くの真実願望が存在するのだ。

 不都合な事実は、妄言扱い。


 その真実願望が多いほど、真実の歴史は強固になると信じているように見えた。

 そうでなければ真実願望を生み出し続けないだろう。


 クレシダは学者のように、実験を続ける。

 まず真実の核を否定させる。

 不当に虐げられた事実はないという指摘だ。

 これに難民たちは狂ったように反発した。

 周囲が恐怖を感じるほどの強さだ。


 そこで個々の真実願望を否定させる。

 するとそれに対して別の真実願望を被せてきた。

 この指摘に対する反発はさほどない。


 この真実願望はさらなる飛躍を遂げる。


 ある女性は金を得るために、身体を売ったのだが……。

 脅されて性的暴行を受けたとの話にすり替わる。

 それを訴える女性たちが、続々と現れる始末だ。


 これは虚偽だと、クレシダの随行員たちは苦々しく思った。


 そう判断されたのは、理由がある。

 難民たちの信用は地に落ちていた。

 そもそも証言が日によってコロコロ変わり、まるで一貫性がない。


 調査を続けると、別の事実が発覚する。

 女性の親が、金欲しさに娘を売っていたのだ。

 それにつけ込んで、女性を斡旋する業者まで難民の中に現れた事実も把握済み。

 だがその業者はクレシダ領内に到着する前に、難民たちに殺されていた。

 周囲と違う服を着て目立ち、自慢までするので妬まれたらしい。

 これらはクレシダ領に到着したとき、恥ずべき過去として難民たちから封印されていた。


 道中でこの過去が、新たな真実願望として転生したのだ。

 被害自慢の中では最強のカード。


 残念ながら客観的説得力は皆無だった。

 

 難民の中にも少数だが常識人は存在する。

 これらは虚偽だと客観的事実を元に指摘した。


 ところが難民たちほぼ全員から非難を浴びる。

 指摘に対する矛盾ではない。


『女性の気持ちに寄り添え!』

捏造ねつぞうまでして女性を傷つけるなど、なんて情がないのだ!』


 など感情的な反発だけだった。

 さらに暴行を受け、女性たちの前で謝罪と土下座を強要される事件にまで発展する。

 

 さすがのクレシダも目が点になった程だ。

 さらに実験は進む。


 ここでクレシダは、虚偽申告した女性のひとりを厳罰に処する。

 その女性は別人に唆されたと、責任転嫁をはじめた。


 かくして両者を処罰すると決めたが、難民の間に彼女たちをかばう者はいなかった。


 『我々の名誉を穢した重罪人だ。

これを野放しにしては我々が不道徳だと思われる。

絶対に処刑してくれ』


 と言い出す始末である。


 付随して奇妙な現象が起こった。

 気の毒な常識人を暴行し、土下座まで強要した者たちが、自分たちは彼女たちに騙されていた被害者だと大合唱する。

 なにがなんでも被害者になろうとするのだ。


 クレシダは大爆笑したい気持ちを抑えて、試験的に処刑を許可した。


 気の毒な常識人への暴行はなかったことにされる。

 その常識人の結末は、難民たちに別の罪をでっち上げられ、殺されることであった。

 事故を装っていたが、工作が余りに下手ですぐ殺人と判明した。

 犯人まで判明したのだ。


 クレシダはこの報告を受けて、ついに大爆笑してしまう。

 あえて不問に処するように指示した。


 そのあとも虚偽の申し立ては止まらない。

 どうも自分だけは大丈夫と思っている節がある。


 クレシダはこの結果から、難民たちはとても使えると判断した。

 望外の効果が期待できるので、とても上機嫌になったのだ。


 それとは逆に、アルファは珍しくため息をつく。

 随行員の苦情を取り次ぐのが役目なので、難民たちの行動を目の当たりにしているからだ。

 感情表現に乏しくても、決して無感情ではない。

 乏しさを超えるほどの疲労感であった。


「正直……。

彼らのことは考えたくありません」


 クレシダはアルファのボヤキが面白かったのだろう。

 大爆笑し、むせてしまう。

 こんなアルファは、はじめて見たからだ。

 クレシダの笑いのツボは独特なのもある。


「不意打ちで笑わせるのはやめてよ。

アルファですら辟易する性質だからこそ役に立つの」


「攪乱以外でですか?」


 クレシダは煙管をくわえる。

 煙を吸い込もうとして、再びむせた。

 また懲りずに、煙を吸い込む。

 ある意味で喫煙者の見本であった。


「最初はそれが主眼だったわ。

でもそれはオマケになったの。

難民たちは一見同じ人間に見える。

でも内実は違う。

ムリに共存させようとすると、大きな破綻が待っているわ。

無責任な第三者ほど善意で、友好を強制するわね。

話せばわかるってね」


 アルファは力なく首をふった。


「彼らと接していない人はそうですね」


 クレシダは妖しい笑みを浮かべる。


「接した上でそう強制する連中も出てくる。

断言してもいいわ」


「そんな狂人がいるのですか?」


 クレシダは楽しそうにウインクする。


「ええ。

まず少数派。

自尊心を満たすためと、自分たちの発言力を高めるためね。

大義名分としては誰も反対できないわ」


 アルファはウンザリした顔で頭をふる。


「それは周囲に友好を強制するのですね」


「よくできました。

それと知識層ね。

かくあるべき論で、愚かな民を教化しようとする連中よ」


 アルファは額に手を当てる。


「熱が出てきました……。

人類連合に熱狂的な支持をしていたのが知識階級でしたね……」


 クレシダがまた大爆笑する。


「そう。

連中にとって権益を世界に広めるチャンスだからね。

もちろん自尊心の充足もあるでしょう。

そんな連中が、最も自分たちに賛同しない者を敵とみなして排除するのよ。

最も排他的な集団が融和を唱えるの。

ある意味、難民たちと親和性が高いと思うわ」


「絶対うまくいかないと思いますけどね……」


 クレシダはフンと鼻を鳴らす。


「そうね。

でもそうなると友好が足りないと、より多数に譲歩を強要するわ。

かくして憎悪を育てる苗床になる。

アルファだって、友好を強要されたくないでしょ。

難民たちとの友好って、私たちが難民に隷属して全肯定することだからね」


 アルファはため息をつく。

 表情こそ変えないが、ため息の重さが心情を如実に表していた。


「私は1日目で違和感があって、2日目で違う生き物だと思うことにしました……」


 クレシダは吹き出しそうになったのを、辛うじてこらえた。


「それはアルファが、私のような枠外の人間と親しいからよ。

同じ常識を持った人間がすべてだ、という前提がないおかげね。

使徒と教会によって、ひとつの価値観と言葉が強制されて1000年よ。

自分の常識が他人の常識でも、支障はないでしょ?

だから普通に考えると、難民たちは狂っているとしか考えられないわ。

でも理性で集団が狂うのはおかしいと思う。

そのギャップで消耗するのよ。

もし彼らが全員幼児だったら……。

疲れても、消耗はしないでしょ。

だからこそ有効な兵器になり得るの」


「ただの嫌がらせだけじゃない、とおっしゃるのですね。

クレシダさまが、彼らの話を聞いても平気なのは……。

違いを認識していたからですか」


 クレシダは小さく肩をすくめる。


「違うわ。

私は彼らを、道具としか見ていないもの。

魔物と難民。

私にとって扱いは同じよ」


「それなら早く言ってほしかったです」


 クレシダは無邪気な顔でウインクする。


「ゴメンネ。

でもアルファの感じ方が、重要な測りだったのよ。

おかげでハッキリとわかったの。

人は見た目や服装……話す言葉が違えば、本能的に違いを感じて一歩引くわ。

ところがアルカディアの民たちには、それがない。

それどころか、共通認識だった使徒の正しさを信奉しているのよ。

これで違う生き物だと考えるほうがおかしいでしょ。

さらに反対できない正しさが便利なのよ。

少数が多数を侵食して支配する最高の武器ってわけ」


 アルファは力なく、首をふった。


「それが有効な使い道ですか」


 クレシダは上機嫌でうなずく。


「ええ。

少数派が、誰も反対できない理由を掲げて騒ぎだす。どうなると思う?

多数派は譲歩するか……。

関係ないと思って傍観するわ。

でも少数派にとってそれは終わりじゃないの。

さらに要求をエスカレートさせる。

多数を支配して、自分が基準にならないといけないのよ。

歩みを止めたら、また少数派に戻されるからね。

主張が賛同を得られず、常識にならないからの少数派よ。

だから誰も反対できない常識に、自分の主張を潜り込ませて同一視させるしかないでしょ」


「乗っ取らせて自滅ではないですよね?」


 クレシダは唇の端をつり上げる。


「当然よ。

この少数派は腫瘍みたいなものよ。

多数派にとって耐えがたい痛みになると、必死に切り落とそうとするわ。

腕の一本でも覚悟するでしょうね。

最悪の場合、死ぬわ。

仮に除去できても、無事ではすまないでしょうね」


「それがクレシダさまの目的に合致するのですね?」


 クレシダは悪戯っぽく笑う。


「そうよ。

道中で実験をして、彼らの反応を調べたわ。

その結果、種族的には人間よ。

精神は違う生き物に変わったと結論づけたわ。

2年程度でここまで変わるなんて……人間って面白いわね。

使徒の正しさしか依存するものがないからだとしてもね。

おかげでただの道具から、危険な腫瘍に昇格したのよ。

この腫瘍は、宿主を食い殺す可能性が高いの」


「随分寛大な措置をしていたのは、実験のためだったのですか」


 クレシダは満足気にうなずく。

 元々古代人の気質を受け継いでいるのだ。

 倫理感などなく、知識欲を満たすためならどんな実験もする。

 アイオーンの子のトップだけに、その気質は強い。


「ええ。

そして随行員や民衆の反応も、測定として役に立つわ。

アルカディアの民たちは、相当嫌われているでしょ。

周囲はこのままではすまないわよね」


 アルファは、力強くうなずいた。


「絶対に排除しようとしますね。

私も協力したくなります」


 クレシダは再び吹き出してむせ返る。

 涙目になって、煙管をくわえた。


「さらに厄介なのが……。

使徒からメディアだっけ。

情報を自由に拡散できる役割を与えられたでしょ。

より危険度は高いと、誰でも思うでしょうね。

ところが簡単に排除とはいかない。

私がそうさせないけどね」


 情報の拡散を、このような真実願望を信奉する者たちに握られる。

 結果どうなるかは火を見るより明らか。

 使徒のお墨付きなので、力ずくで排除できない。

 それほどに使徒の権威とは厄介なのだ。


「残念です。

それでも排除するなら、強い大義名分が必要になりますね」


 クレシダは楽しそうに笑った。


「排除したくても、使徒の遺民だから難しい。

拱手傍観きょうしゅぼうかんするしかないわ。

ところがね。

一見すると便利な大義名分が転がっていることに気がつくわ。

使

これなら排除の大義名分として妥当よね。

当然……示唆して教えてあげるつもりよ」


 アルファは今ひとつピンとこないようだ。

 首を傾げる。


「それが破滅の鍵ですか?」


 クレシダは真顔でうなずく。

 アルカディアの住民は、2年で変わった。

 だからこそ伝染力があると考えられるのだ。


「そうよ。

これって敵を排除する武器になるって、皆気がつくの。

そうなるとより正しさを主張できたほうが、優位に立つわ。

つまりね……。

腫瘍を除去したつもりで、自分が腫瘍になっているのよ。

腫瘍になると、もうあとには戻れない。

突き進むしかないの。

そうすれば、簡単に人類の秩序は崩壊するわ。

使徒の正当性が崩れていくでしょ。

乱用するほど、権威は失墜していくものだからね」


 一度、声高に正義を振りかざすと、あとに引き返せない。

 先鋭化するしか生き残る道はないのだ。

 そうしなければ敵が両側に現れる。

 振りかざされた側と同じ正義を共有した側に。


 一度使ってから捨てる勇気があるものはいないだろう。

 仮に蛮勇を奮って捨てたとしても、孤立無援で破滅するしかない。


 捨てても、外部から同類とみなされる。

 捨てた側からは裏切り者だ。


 思想の矛盾に人間は耐えられない。

 それを解消するにはアルカディア住人のようになるしかない。

 穏健にしたくても、周囲は色眼鏡で見る。

 難民の言行は既に広がりはじめていた。

 噂になりやすい行動なのだから。


 アルファは無表情に首を傾げた。


「使徒の正義ですか……。

よく今まで崩れませんでしたね」


 クレシダの口元に、皮肉な笑みが漂っている。


「それを利用した教会は熟知していると思うわ。

この危険性をね。

だから概念的な正しさにして、実際に武器として使わせなかったのよ。

幸い歴代の使徒は、政治に関わろうとしなかったわ。

そのほうが好都合だったしね。

関わらせないように、より汚く見せたと思うわ。

ところが使徒ユウは、ダメな方向に別格だったのよ」


 使徒は政治を敬遠する傾向があった。

 それに信じやすい証拠を見せれば、簡単に遠ざけられる。

 第6までは、それでよかったのだ。


「善意でやったことが、すべて逆効果でしたね。

あれは逆にすごいと思いました」


 クレシダはフンと鼻を鳴らす。


「そうよ。

無知は罪だと言わないけど……。

無知な行動は罪ね。

使徒は知らないうちに秩序を保っている縄に、切れ目を入れていたのよ。

それをカールラは見抜けなかった。

自分で気がつけないほど、妄執に囚われていたのでしょうね。

残念だわ。

友達になれそうな素質はあったんだけどね」


 カールラの死を聞いたクレシダは、無言でうなずいただけだった。

 アルファは、クレシダがその最後をそれなりに評価しているのだと気がつく。


 他者から見れば、無関心だと思えたろう。

 だがそうではない。

 クレシダは無関心な話題をふられると、悪趣味な冗談の種にするからだ。


「自分の命と引き換えに救った民から恨まれるのは、少し酷だと思いますけどね」


 クレシダは皮肉な笑みを浮かべる。

 それはカールラに向けられたものか、アルファに確信がなかった。

 多分違うと思うが、クレシダの発想はアルファでも把握し切れていない。


「感謝されたくてやったわけじゃないでしょ。

それに救った民は、難民たちより思想的濃度がずっと高いのよ。

感謝なんてしないわ」


 アルファは力なく頭をふる。


「ああ……。

そうでした。

まだ頭では割り切れていないようです」


「ムリもないわ。

だからこそ有効性はお墨付きなのよ。

話を戻すけど……。

教会は使徒の正しさを喧伝するけど、使徒に統治をさせない。

その矛盾が、偽善的に映るでしょ。

だから世界主義のようなおめでたい思想が生まれたと思うわ。

あれも出発点は使徒の正義よ。

気がついていないでしょうけど。

これも人間は思考の矛盾を我慢できない証左ね。

それは難民たちですら一緒よ。

周囲が見たら破綻していても、難民の中では正しいの。

そして難民がしがみついている使徒の正しさとは、世界秩序の核でもあるわ。

だからしがみつきやすいのよ」


 アルファは首を傾げる。

 使徒の正しさを信じていない。

 だからこそそれが、秩序の核と言われて理解できなかった。


「なんとなく否定されないイメージしかないですね……」


 クレシダは苦笑して灰吹きに煙管の灰を落とす。


「だからこそ人面獣心のような連中が使っても、効果がある。

汚物ロマンやそれに集るハエトマですら、形だけでも統治できたのだからね。

あれがなければ統治なんて不可能だったわ。

結果が求められるのだからね。

それだけ人々の心に染みついているの。

この虚構の核を客観視したのは、愛しい人アルフレードだけよ。

私ですら壊せると思えなかったもの」


 アルファにとって、もっと大きな悩みの種の話題になってしまった。

 小さなため息をつく。


「ラヴェンナ卿はどう対処してくるのでしょうか」


 クレシダは頰を上気させて、妖艶な笑みを浮かべる。


「わからないわ。

この危険性は、即座に察知するでしょ。

それをどう対処するか。

…………たまらなく楽しみだわ」

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