742話 閑話 悪魔と魔王

 リカイオス邸の応接室で、ゼウクシス・ガヴラスとアントニス・ミツォタキスが対面している。

 ゼウクシスには、いくつか確認したいことがあった。

 素直に喋ってくれるかわからないが……。


「ミツォタキス卿は、このたびの我々の動きを、当然お知りでしたよね?」


 アントニスは柔和な笑みを浮かべている。


「その件についてはイエスだ。

ただ知りたいのはそれではないだろう?

それを話すためには、知人の許可がいるのでね」


 当然協力者だろう。

 ゼウクシスに、まったく、心当たりがない。


「それにしても、ミツォタキス卿は軟禁状態だったと思われますが……」


「ああ……。

長いこと、私の屋敷の警護をしてくれていたねぇ。

当然顔を合わせる機会も多くなる。

そこから親しくなるのは、おかしなことかね?」


 ゼウクシスは内心舌打ちをする。

 なんとも捉えどころがない会話だ。

 示唆はするが、決定的な言質は絶対に与えない。


 つまりクリスティアスが、劣勢に陥ると……。

 監視している者は、将来が不安になるわけだ。

 アントニスを通じ、ラヴェンナとよしみを結ぼうと考えたのか。


 これ以上具体的な話を聞いても、絶対まともな回答は返ってこない。

 ふたりの間に表面上は穏やかだが、内実は気まずい沈黙が漂う。


 やがて知人が到着したとの報告があった。

 兵士に案内されてやってきた人物は、ゼウクシスが知らない人間だった。

 小太りで愛想のよさそうな中年男性。

 身なりはとてもよい。


 アントニスが立ち上がったので、ゼウクシスも会わせて立ち上がる。


 アントニスが起立したので、知人の身分は高いのだろう。

 そうなると王宮の人間だ。

 ゼウクシスの身分では、王宮に出入りできない。

 つまり顔を知らないのだ。


 アントニスが柔和な笑顔で、知人に着席を促す。

 場所はアントニスの隣だ。


「デュカキス卿。

ご足労感謝しますよ。

こちらにどうぞ」


 デュカキスと呼ばれた男は、爽やかにほほ笑む。


「いえいえ。

ガヴラス卿もここを離れるのは、不適当とお考えだったのでしょう。

お初にお目にかかる。

小生は、国王陛下の侍従を拝命しているヴァイロン・デュカキスと申します。

以後よしなに」


 ヴァイロンは優雅に一礼する。

 ゼウクシスも一礼した。

 侍従がやって来たとなれば……。

 この件に国王が1枚かんでいるのか。

 懸案だった国王の事後承諾も問題なく得られるだろう。

 だが……あまりに出来すぎた話に、ゼウクシスは警戒していた。


「こちらこそはじめまして。

ペルサキス卿の部下で、ゼウクシス・ガヴラスと申します」


 アントニスとヴァイロンが着席して、ゼウクシスに着席を促す。

 ゼウクシスは一礼して着席する。


 アントニスの顔が真剣になった。


「さて……。

今回の件、ガヴラス卿は不自然さを感じなかったかな?」


 いきなり本題に入られて、ゼウクシスは内心驚く。

 先ほどまでの会話はなんだったのか、と思えるほどだ。


「はい。

あまりに手際が良すぎます。

そこまでリカイオス卿は見限られていたのですか?」


 アントニスが苦笑しながらうなずいた。


「そうだね。

陸でラヴェンナの侵攻を止められなかった。

しかも強引な徴発で飢え死にする民がでるほどだ。

頼みの海戦も、ラヴェンナに負けた。

主要港が占拠されているよ」


 ゼウクシスは驚くと同時に、疑念を持った。

 そこまで情報に通じているのはなぜか、と思ったからだ。


「そこまで状況が悪化していたのですか……。

それで王宮のリカイオス派も心変わりしたと?」


 アントニスは静かにうなずいた。


「王宮についての詳細は、デュカキス卿が知っている。

恐らくガヴラス卿は、不審に思っているのだろう。

情報に通じすぎていると」


「はい」


 アントニスは、楽しそうに笑う。


「正直で結構だ。

腹の探り合いは楽しいが、今は状況が悪い。

ここは率直さを、美徳とすべきだろう。

私が自由に動けるようになったときだが……。

見計らったかのように、別の人物から接触があったのだよ」


 ゼウクシスは、思わず緊張する。


「まだ関係者がいるのですか?」


「ああ。

クレシダ・リカイオス嬢だよ。

リカイオス卿の暴走を止めるために、力を貸してほしいとね」


 ゼウクシスにとって、衝撃の名前がでてきた。


「それを信じたのですか?」


 アントニスは笑って手をふる。


「まさか。

彼女が国を思う心があるなど、聞いたことがない。

彼女は自分の目的のために動くだろう。

どんな目的か……皆目見当がつかない」


 ゼウクシスは厳しい表情になる。


「目的も知らずに助力したと?」


 ゼウクシスの詰問するような口調に、アントニスは真顔でうなずく。


「ガヴラス卿の懸念は尤もだ。

私とて安易に飛びついたわけではない。

そこでデュカキス卿に、連絡を取った。

相談した結果、取りあえず話に乗ろうと決めたのだよ」


 ゼウクシスは、軽く頭をふった。

 クレシダへの認識が甘いのではないか、と思えたからだ。


「クレシダさまを甘く見ないほうがいいかと思いますが……」


 アントニスは皮肉な笑みを浮かべて、手をふった。


「甘くなどみていない。

アンフィポリスの総督に就任してからの手腕。

これには目を見張るものがある。

そして民衆の支持を得るためには、両親すら処刑。

もう旧ドゥーカス卿の領地を、完全に掌握しているのだよ。

そして恐ろしいまでの情報網を持っている。

ラヴェンナ卿に匹敵するのではないかね」


 対比としてアルフレードの名前を出した。

 それは軽視していないことの現れとなる。

 なぜそんな相手の提案に乗ったのか?

 疑問は深まるばかりだ。


「そこまで認識されているのに助力したと。

理由はなんでしょうか?」


 アントニスが気持ち前かがみになる。


「クレシダ嬢から衝撃的な情報が届けられたのだよ。

使徒さまが亡くなったらしい。

そしてアルカディアの王都プルージュは、魔物に包囲されている。

人同士が争っている場合ではないだろう。

魔物が押し寄せてきたら、妥協も話し合いも出来ない。

やるかやられるか……だ。

リカイオス卿が存命なら、そう知っていても矛を収められるかね?」


 戦場に張り付いていたゼウクシスにとって知らない話だ。

 どれもこれも大ニュースだろう。

 そしてそんな状況だからと……。

 クリスティアスが、大人しく降参するとは思えなかった。


「難しいですね……」


 アントニスは眉をひそめつつ、ため息をつく。


「それにラヴェンナ卿の意向も不明だ。

構わず戦争を続ける可能性だってある。

リカイオス卿を敵とした布告文をだしたろう。

矛を収める条件として、リカイオス卿の首を要求するだろうな」


 こんな話を聞かされると、クリスティアスの存在は邪魔でしかない。

 それにしても……クレシダの情報網は、ゼウクシスの想像を超えていた。


「そこまで事態は切迫しているのですか。

しかしいつの間に、そんな情報網を……」


 アントニスは自嘲気味な笑みを浮かべた。

 クレシダに大事な情報を渡されたのだ。

 自分たちの情報網など比較にもならない。

 それを突きつけられたのだ。


「あの若さで、どんなコネがあるのか……わからないよ。

念のため、こちらでも確認した。

プルージュが包囲されていることは事実だ。

それは使徒さまが死んだ情報の裏付けにもなるだろう。

魔物の脅威も、事実になると思わないかね?」


 そこまで聞いて、ゼウクシスは納得せざる得なかった。

 クレシダの思惑は不気味だが、そんな危険な人物を野放しに出来ない。

 こちら側に置いて監視するしかないだろう。


「やむを得ないとおっしゃるのですね」


「そうだな……。

それでも私も躊躇した。

正体がわからないのだ。

だがあるお方が、クレシダ嬢の提案を容れるべきだ、とおっしゃってな。

デュカキス卿、そうでしたな?」


 ヴァイロンは、穏やかな表情でうなずいた。


「左様です。

ディミトゥラ王女殿下の進言を、陛下がお容れになりました」


 ゼウクシスは驚きを隠せずにいた。

 ディミトゥラ王女は、その美貌と慈悲深さで有名だ。

 だが頭脳明晰めいせきだとは聞いていなかった。


「王女殿下ですか? 政治への見識がおありとは知りませんでした」


 ヴァイロンは、重々しくうなずいた。


「これは陛下と私だけが知っていることでね。

とても聡明そうめいであらせられる。

才女で有名なラヴェンナのキアラ嬢に匹敵するだろう」

 

 ゼウクシスはキアラと、書状の交換をしていたことがある。

 頭のよさに驚いたほどだ。


「キアラ嬢は私も知っています。

もしラヴェンナ以外で活動されていたら……。

女性にしておくには、勿体ないほどの才能です」


 ラヴェンナでは性別ではなく、能力が絶対の判断基準となる。

 ゼウクシスは、ラヴェンナだからこそ、キアラは才能を発揮していると考えていた。

 これも旧来の常識から大きく離れたこと。

 アルフレードが貴族たちに嫌われる要因のひとつ。

 女性は閨房けいぼうやパーティーなどが主戦場。

 非公式な場面で、力を発揮するのが常識だったからだ。


 ヴァイロンは、爽やかにほほ笑んだ。


「私もキアラ嬢とお会いしたときに驚いたね。

ともかく王女殿下の指示によって、王宮にいるリカイオス派を切り崩すことに成功した。

切り崩すに当たって、クレシダ嬢から詳細な情報が提供されてね。

大変役に立ったよ。

それとクレシダ嬢がいるからこそ、リカイオス派は寝返る気になった。

クレシダ嬢の庇護を受ければ安全だろう。

ちなみに王女殿下とクレシダ嬢の接点はない。

むしろ警戒しておられる。

それでも魔物への対処が優先されるとのお考えだ」


 全員から警戒されても、手を結ばなければいけない。

 それほど、状況は切迫しているのか。

 ゼウクシスは自分の視野の狭さに、内心歯がみしたい思だった。


「つまり魔物の危機は、間近に迫っていると」


「魔物が軍隊のように動いて、プルージュを兵糧攻めにしている。

そこで終わると断言できるかね?

魔物に対する認識も変える必要があるだろう。

次の標的は、シケリア王国か……ランゴバルド王国。

両方同時に攻撃を受ける可能性すらありえる。

そこで早急に、ランゴバルド王国と協力体制を築きたい。

王女殿下は『必要ならランゴバルド王に嫁いでもよい』とまでおっしゃったよ」


 アントニスが苦笑して、肩をすくめる。


「さすがにそれは、王位継承権の問題がでるから難しいだろう。

こちらに介入の余地を残すからね。

ともかく王女殿下は、戦争を、早く終わらせることを望まれている。

たとえクレシダ嬢の思惑に乗ったとしてもね」


 ゼウクシスは納得しつつも、心中の不安を捨て去ることが出来なかった。


「私もクレシダさまには、違和感を抱いておりました。

思惑に乗るのは、危険な気がします。

たとえ当面は、こちらの利になるとしてもです」


 ヴァイロンは、暫し思案顔になってから真顔に戻る。


「我々は決して、クレシダ嬢を甘くなどみていない。

これは極秘だがね。

前に王女殿下の寝所に忍び込もうとした、不埒な賊がいたのだよ」


 ゼウクシスの目が鋭くなった。


「初耳ですね……」


「当然だ。

このようなことは口外していない。

賊は小柄な女だが、抜群の体術を持っていた。

その体術も、かなり特殊でね。

みたこともない技の持ち主だったよ。

残念ながら取り逃がしてしまった」


 ゼウクシスはヴァイロンの技量を知らない。

 警備兵たちが束になってもダメだったと考える。


 つまりヴァイロンが、賊の姿をハッキリ見ておらず……着地したあとの音や感覚で、小柄な女性と見抜いたことを知らなかった。

 ヴァイロンも、わざわざ説明する必要を感じていない。ヴァイロンの技量は王家の秘密にあたるのだ。


 ゼウクシスは、小さくため息をつく。


「王宮の警備はザルではありませんよね」


 ヴァイロンは、禿げた頭を手で撫でる。


「顔は隠していたが、正体はわからずじまいだ。

賊の行方を追ったが、足取りはつかめない。

それでも消去法だが……。

私はクレシダ嬢のメイドだろう、と睨んでいる」


 ゼウクシスは妙に納得してしまった。

 アルファにたいして疑念を持っていたからだ。


「アルファと言いましたね。

たしかにあの身のこなしは只者ではないかと。

それにしても王女殿下を襲撃ですか……。

なにを狙っているのか、まったく読めないのが不気味ですね……。

そこまで怪しい相手とすら、手を握るわけですか」


 ゼウクシスは視線を床に落とす。

 普通なら絶対に近づけない。

 だが……。

 クレシダは強固な支持基盤をつくっている。

 そして人類全体が魔物の危険にさらされては、選択肢はない。

 むしろ放置する方が危険だ。

 排除も難しいだろう。


 アントニスとヴァイロンは、苦渋の決断を下したと理解した。

 アントニスは穏やかにうなずく。


「それを理解してもらえれば……なによりだ。

話は変わるが……。

ガヴラス卿は、占い師のライサ・アハマニエミを知っているかね」


 ゼウクシスはうなずく。

 一度会ったことがあるのだ。

 人を食った感じで、なんとなく自分とは相性が合わないと感じたが……。

 そのときは、フォブスの女性問題の尻拭いをしていた。

 相性など気にしている余裕などなく、頼らざる得なかったのだ。


「一度会ったことがあります。

人を食った女性でしたね……。

上流階級に顔が利くのは不思議でした。

突然店じまいして、ラヴェンナに移住したと聞きましたが……」


 その話を聞いたとき……。

 ゼウクシスは、ラヴェンナに苦手な人が集まるものだと苦笑した。

 そしてライサが、モデスト・シャロンと親しいと聞いて、大いに納得したのだ。


 アントニスは、表情を改めた。


「なら話が早い。

彼女はとても義理堅い人でね。

いきなり店じまいをして、ラヴェンナに移住なんておかしいのだよ。

調べたところ、最後に会ったのがクレシダ嬢だ。

クレシダ嬢は変事の節目節目に、顔を出すのだよ。

ラヴェンナの大使としてやってきたシャロン卿の動向。

これにも影響があったと考えている。

急遽帰国したのは、クレシダ嬢と会った直後だよ。

証拠はないが、とてつもなく危険な人物だろう。

だからこそ、クレシダ嬢を自由にさせてはいけない、と考えたのだ」


 ゼウクシスの目が鋭くなる。

 たしかにそうだ。

 節目節目でクレシダは、顔を出すのだ。


「第5拠点の襲撃時もそうでしたね。

皆さんも気付いておられたのですか」


 アントニスが重々しくうなずく。


「我らとてラヴェンナ卿に及ばずとも、目と耳は持っている。

それでだ。このような極めて危険な人物と相対するにあたって……。

立場が明確な仲間を欲している。

個人では及びもつかないが、切り崩されない集団ならばどうだ?

対処する余地はあるだろう。

今は王女殿下、デュカキス卿、そして私だ。

そこに君たちも入ってもらいたい」


 ゼウクシスは覚悟を決める。

 それにしても……。

 リカイオス卿の猜疑心と、フォブスの迂闊さに胃を痛めた。

 それが去ったあとで、より酷い悩みの種がやってきた。

 胃に穴が空きそうだ。

 ついに諦念に至る。


「状況は理解できました。

協力させて頂きます」


 アントニスは満足気にうなずく。


「彼女と手を組むのは、目的がある。

彼女をアンフィポリスに置いておくほうが危険だ。

魔物との対処中に、よからぬ動きをされてはお手上げだよ」


 ゼウクシスの目が鋭くなった。


「つまり誘い出して無力化するのですか?」


 殺すという選択肢だ。

 可能とは思えないのだが……。


 アントニスが首をふった。


「下手なことをすれば、アンフィポリスで反乱が起きる。

それは困るのだよ。

どちらにしても、我々に選択肢はない。

クレシダ嬢を手元に置いて監視する。

これしかないだろう。

その上で軍隊を、ペルサキス卿に掌握してもらいたい。

これも私の予想だが……。

リカイオス卿の軍が暴走したろう。

これにクレシダ嬢が、1枚かんでいると思っている」


 ゼウクシスは、思わずため息を漏らす。


 クレシダは証拠を残さないが、状況的に疑われていた。

 クリスティアスの排除に加担したことは、大きなリスクだ。

 それまでは漠然とした疑念だった。

 今は確信にまで至っている。

 それを承知で接触してきた。

 別の目的があるはずだろう。


 魔物に対応するため、とは思えない。


「これも証拠はないのですよね」


 アントニスは苦笑して、肩をすくめる。

 証拠はないと言っているに等しい。


「これも消去法だ。

彼女ほどの情報網があれば可能だろう。

情報に通じているだけではない。

人を操る術にもけている、とみるべきだろうな。

リカイオス卿の側近たちを寝返らせたのも彼女だ。

あとは教会の人間とも接触している。

それも新任のファビオ枢機卿派と見なされているがね」


 ゼウクシスは、目の前が暗くなった。

 アルフレードがふたりもいたらたまらない。

 そうフォブスと冗談を言っていたが……。

 こんな手の広さはアルフレード並だ。

 冗談抜きに……アルフレードがふたりいるのでは、と思えてきた。


「教会までもですか……」


 アントニスは腕組みをして、渋い顔になった。


「ファビオ枢機卿派と便宜上呼んでいるが……。

枢機卿がなにかの派閥に属しているようだ。

あの御仁に、組織をまとめられるほどの才覚はないだろう。

困ったことにその枢機卿は、ランゴバルド王国の警察大臣とも関係があるようだ」


 ゼウクシスは反射的に笑いだしたくなる。

 アントニスを化け物と思ったが、それを超える悪魔が同じ国にいた。

 どうしろというのだ。


「他国となると、手がでませんね……。

そんな状況で、ランゴバルド王国と協力体制を築けるのでしょうか?

敵が二方面になりかねません」


 アントニスはため息を漏らして、頭をふった。


「その通りだ。

普通ならな。

だが……状況が悪すぎるのだ」


 ゼウクシスは、がっくりと肩を落とす。


「つまり選択肢がない状況で、選択を迫られたと。

悪魔じみていますよ。

まるでシケリア王国版ラヴェンナ卿のようですね」


 アントニスが、大声で笑いだした。

 よほど笑いのツボに入ったらしい。


「言い得て妙だな。

まず軍をペルサキス卿に把握してもらえば、暴走などしまい。

その上で対処を考えるべきだろう。

そしてランゴバルド王国と協力体制を築けるなら、ラヴェンナ卿の助力も期待できる。

使徒さまがいないなら、神は不在なのだ。

神なき世界で、悪魔に対抗するには……。

もう魔王を呼び出すしかないだろう?

魔王のほうが、話は通じるからね」


 ゼウクシスもつられて笑いだす。

 正確には笑わないとやっていられなかった。


「それしかないですね……。

魔物がアルカディアで留まっていてくれればよいのですが」


 ヴァイロンは真顔で首をふった。


「それについてだが……。

クレシダ嬢が不気味なことを言っていた。

魔物は人を食いにやってくる。

魔物に国境などないとね」


 アントニスは、小さくため息をつく。


「冗談か噓かわからないがね。

可能性は否定できない以上、対処する必要があるだろう?」

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