722話 閑話 触らぬアルに祟りなし

 ランゴバルド王国の王都ノヴァス・ジュリア・コンコルディアでは、ちょっとした騒ぎが起こっている。

 ラヴェンナ卿アルフレードの暗殺が、未遂に終わった。

 それだけなら、そこまで騒ぎにならない。


 問題はアルフレードの声明の一部だ。


『複数の関与が判明している。

これは計画が失敗すると悟ったものが、こちらに内通して計画を明かしたからだ。

不届きながら、その者の罪は不問に処す。

それ以外の者たちは、相応の報いを受けると覚悟しておくように。

ただし関係者の告発をしたものは、相応の配慮をする』


 この声明で、黒幕たちからの視線が集中するのはただひとり。

 警察大臣ジャン=ポール・モローである。

 いきなり自分が舞台に引きずり出されたジャン=ポールは大慌てで、事態の収拾に走る羽目になった。

 なにせこの声明は事実なのだ。


 ジャン=ポールはこの声明の意味を考える。

 アルフレードは単純な仕返しのためだけに、こんなことをしない。

 熟考した結果、これが主目的でないことを悟った。

 黒幕たちに、同士打ちをさせろとの指令。

 それが失敗したら、ジャン=ポールの身が危うい。

 かくして必死に、工作に乗り出すのであった。


 今までは、趣味で陰謀に加担していたが、今回は違う。

 世界で最も危険な魔王からの圧力である。

 

 それ以外の者たちは、誰が陰謀に加担したのか噂し合う。

 そのような騒乱を、他人事のように眺めているのが宰相ティベリオ・ディ・ロッリだ。


 今回の話は、ニコデモ王とジャン=ポールのみで進められた話である。

 ティベリオは蚊帳の外だったが、それが幸いした。

 ジャン=ポールの慌てぶりに、内心ほくそ笑んでいる。


 そんなティベリオは1日の執務を終え、自宅で食事を済ませていた。

 最近は食事が一層美味く感じる。

 他人の不幸は蜜の味。

 気に入らない相手なら尚更だった。

 この美味さは、どんな美食でも及ばないだろうと思っている。


 そして優雅に読書をしようと書斎に向かったときだ。

 王宮からの使いがやって来た。

 ニコデモ王から至急の呼び出しを受ける。

 

 ティベリオは急ぎ着替え、参内する。

 ジャン=ポールの後始末の手伝いだったら、どう断ろうか……。

 それとも手助けをして、恩を売りつけるのも悪くない。

 そんなことを、馬車の仲で考えていた。


 ニコデモはアルフレードの声明に、リアクションを起こしていない。

 首謀者を許さない、と言ってはいるが……。

 それだけだ。


 程なくして王宮につくと、ニコデモの私室に通された。

 ティベリオが着席すると、ニコデモは意地の悪い笑みを浮かべる。


「夜分遅く、よく来てくれた。

ところで宰相は、警察大臣の悪巧みに関与していないが……。

正直不満だったかね?」


 ティベリオは、蚊帳の外だったのは有り難い、とすら思っていた。


「臣はラヴェンナ卿相手に、火遊びをする度胸はありません。

誘われても迷惑だったでしょう」


 ニコデモは皮肉な笑みを浮かべた。


「宰相の機嫌を損ねていないのは……なによりだ。

まず我が友に、様子伺の書状を出してくれ。

この程度のことで、機嫌を損ねるとは思えなかったがな。

なにやら大変ご立腹のようだ」


 ティベリオは書状のやりとりをしている関係で、アルフレードの性格をそれなりに把握している。

 この件を、愉快に思わないことは明白なのだ。

 それがわからないニコデモ王ではないとも思っていた。

 ジャン=ポールとて知っているはず。

 だが悪戯をしたくなる自身の悪癖に屈したのだろうと思っていた。


「ご自身が狙われても怒らないでしょう。

おそらく妻たちが狙われたこと。

これが逆鱗げきりんに触れたと愚考致します。

これはある程度予測できたと思われますが?」


 ニコデモは小さく肩をすくめた。

 ティベリオは蚊帳の外だったので、詳しい暗殺計画を知らないのだ。

 面倒だが説明しなくてはいけない。

 そんな思いが態度に表れたのだ。


「そこなんだが……。

警察大臣は、奥方の暗殺計画はただの陽動だ、と思っていたのだ。

我が友の性格上、妻たちへの警護は万全を期すだろう。

代わりに自分を狙わせる。

それでも暗殺は失敗するとの認識だったな。

アテが外れたのは、本当に妻たちへの襲撃が計画されたことだ。

余も意外に思っている。

そもそも妻を狙って何になるのかね。

嫌がらせにしかならないぞ。

嫌がらせや憂さ晴らしは、やる側が生き残らないと無意味であろう?」


 ティベリオは、思わず納得してしまった。

 たしかに妻たちを狙うのは、益がない。

 報告を受けたとき、成功する見込みのない計画を実行した愚かさに呆れたが……。

 冷静に考えると、おかしな計画だと思った。


「おそらくですが……。

ラヴェンナ卿に異種族の奥さまがいる。

これが無視できない要因でしょう。

ラヴェンナでの平等が、建前だけで終わらないのです。

これ以上ないほど、明確に現れているでしょう。

普通であれば、正妻はルグラン嬢に変更されるかと。

それと……これ以上絶対に側室は増やさない、と言外に匂わせておられます。

だからこそ欠員がでたときは大変でしょう。

後釜を狙って、種族間の争いが起こりかねません」


 ニコデモはアゴに手を当てて、小さくうなずいた。


「宰相の言には、聞くべき点がある。

だがな。

奥方の殺害を計画したものたちには、深謀遠慮があるようには思えない。

動機は人種的優越性だろう?

気に入らないからと、この世で最も危険な相手に喧嘩を売るものか?

陰口までが常識的な対応だと思うがね。

内乱前ならともかく、内乱を生き延びてきたのだ。

ある程度は現実的だろう」


「多数が関わっているとのことですが……。

統一した動きなのでしょうか?」


 ニコデモは渋い顔で首をふった。


「いや。

どうも複数のグループが思い思いに、我が友や奥方たちを狙ったようだ。

それでも奥方たちを狙ったのはひとりではない。

ひとりだけなら馬鹿が運で生き延びた、と片付けてもよい。

馬鹿ひとりなら笑い話だ。

群れとなれば、なにか問題が隠れていると思わないかね?」


 不平貴族や大商人は、自分の命をかけて暗殺など企まない。

 なにより世界中にアルフレードの耳と目がある、と噂されるほどの諜報能力を持っている。

 知らぬ存ぜぬで逃げ切れる相手ではない。

 ティベリオが思いつく可能性は、残りひとつだが……。


「御意にございます。

この動機は建前ではないかと。

考えられる可能性は別にありますが……。

陛下のお耳に入れるほどの根拠がありません。

それこそ真剣に考えているものがいたら、休養を勧めるようなものです」


 ニコデモは、楽しそうな顔をした。

 突拍子もない話だと悟ったのだ。

 それにどんなことでも起こりえるのが、今の時代。

 過去の常識で切り捨てるべきではないと判断したのだ。


「構わぬ。

申してみよ」


「臣には商売上の便宜を望んで、多くの者が訪ねてきます。

そこで世間話の最中に、奥方の話が持ち上がりました」


 ニコデモは目を細める。

 面白い話になりそうな予感がしたのだ。

 アルフレードの妻たちは、滅多に社交界にでて来ない。

 だからこそ、まず妻に取り入って、妻から夫に紹介してもらう、という鉄板ルートが存在しないのだ。


「ほう?

取り入るためかね?」


 ティベリオは小さく首をふった。


「いえ。

醜聞に類する話です。

ミルヴァ夫人の父は、第5使徒のパーティーにいたらしいと。

姓が同じだけなのでこじつけの可能性もありますが……。

ラヴェンナ卿はただの偶然とおっしゃっていましたね。

ただこれは、認めるわけにはいかない側面もあります」


 ニコデモは首を傾げて記憶を探る。


「普通なら栄誉なはずだがな。

いや待てよ……。

逸話が極端に少ない第5使徒か。

曰く付きだったな。

多くを語らないのは、裏を返せば語れないことが多いのであろう」


 第5使徒の逸話が少ないのは、有名な話である。

 今までなら、誰も口に出来なかった話だが。


「第5使徒没後になりますが……。

ミルカ・ラヤラの消息がしれません。

歴代使徒パーティーに在籍していたエルフは数名います。

その後の消息がしれないのは彼だけでした。

何者かに消されたのではないかとの噂でして……。

それを実行したのが、導き手の会。

表向きは存在しないとされる狂信的異端審問官です。

狙った相手は逃がさない。

その子孫すら、存在を許さないとの噂です」


 ニコデモも噂だけは聞いたことがある。

 教会から殺人の許可を受けた異端審問官だ。

 そんなもの必要ない存在だと思っていた。

 ただの妄想だろう、と片付けていたのだ。

 だが社会の常識は変わってしまった。


 ニコデモは小さくため息をつく。

 過去の話でも簡単に切り捨てるのは愚かだ。

 そう思ったのだ。


「抹殺が事実なら実在したろうなぁ。

そんな異端など存在しないのが、教会の建前だからな。

決して認められないだろうが」


 ティベリオはニコデモが頭から否定しなかったので、内心安堵あんどした。


「もし導き手の会が、ミルヴァ夫人を殺したラヤラの娘と認定すれば……」


 ニコデモはうなずくが、すぐに首を傾げた。


「当然……狙うだろうな。

もしその組織が健在ならばだが。

それにしてもやり方が杜撰だぞ」


 絶対に殺すという意思はあるかもしれないが、やり方は杜撰である。

 ニコデモのいうとおりだが……。

 ティベリオはその理由を想像できたのだ。


「昔であれば杜撰で問題ありませんでした。

対象に権力者を狙ったことはないと思います。

平民しか狙っていないでしょう。

もし貴族階級であれば、排除は別の手になるでしょうから」


 ニコデモは腕組みして考え込む。


 標的が貴族階級なら、毒殺や陰謀で失脚させるのが常識だろう。

 もし狙いが平民相手であれば、杜撰でも問題ない。

 教会が圧力をかければ、殺人など揉み消せる。

 親族の訴えがない限り、町の真ん中に死体が転がっていても何もしない。

 それが社会の常識なのだ。


 さらには功臣を讃える式典となれば狙いやすい。

 それ以外では襲撃が困難なのだ。

 数少ないチャンスである。


 より確率が高い方にかけざる得なかったと理解した。


 やがてニコデモは冷ややかに苦笑する。


「つまり昔のやり方を、そのまま踏襲したわけだ。

教会は徹底した先例主義だが、暗殺すら先例主義だとすれば笑える話だな。

だがそこまで、愚かなものかな?

牛のように……赤い旗に興奮したわけでもあるまい」


「もしくは動かざる得ない。

そんな状況に追い込まれた可能性もあります」


 ニコデモの目が鋭くなった。


「今をおいて好機がないと?」


 ティベリオは、小さくうなずく。


「他の暗殺計画を知ったときに、これが失敗するとより暗殺が困難になります。

さらには教会の力も低下する一方。

今が最高の力なのです。

そしてミルヴァ夫人の出自を知ってしまえば……。

導き手の会として動かざる得ないでしょう」


「例外が存在しては、組織としての存在意義に関わるな。

しかも教会組織は弱体化している。

だから好機を待つ余裕がなかったのか」


 ティベリオは、なんとなく思いついた理由を話している。

 こうやって話していくうちに、色々な動機が浮かび上がってきた。


「それともうひとつ。

教会のトップは、現在アレクサンドル・ルグラン特別司祭でしょう。

特別司祭はラヴェンナとの融和派です。

それをよしとしない場合……。

ラヴェンナと敵対せざる得ない状況に追い込むのが最良かと。

暗殺が失敗しても、教会がラヴェンナと敵対すればいいのです。

もしこのことが、明るみにでたとき……。

教会にとって受け入れ難い現実が待っています。

ただでさえ瀕死ひんしの正当性に、この一撃は致命傷となりましょう。

そうなれば教会はバラバラになってしまいます」


 ニコデモは苦笑している。

 なかなかどうして、他の動機より真っ当に聞こえるからだ。

 教会内部にもラヴェンナとの融和姿勢を示すアレクサンドルに、不満をもつものが少なくない。

 原理主義や急進派の類いだ。

 他の上層部は、内心反対でも中立を保っている。


「敵対させるには攻撃を仕掛けるのが一番確実だな。

冒険者を装ったものの中に、教会関係者が紛れ込んでいるというのかね?」


「そうなっては導き手の会だけを切り捨てる大義名分になりましょう。

冒険者くずれを利用しているだけかと。

矢面に立たされるのは、冒険者ギルドになりましょう」


 ニコデモは皮肉な笑みを浮かべる。

 アルフレードは声明文で、冒険者ギルドについても触れていた。

 暗殺者は冒険者をかたっていた。

 これは由々しき問題で、冒険者ギルドも無関係ではない。

 以後問題の改善が見られない場合、関係を見直すとも。


 これは冒険者ギルドにとって受け入れられない話だ。

 元々出自や過去を問わないのが冒険者。

 それを以後確認しろ、と言われても難しい。

 技術的にも困難なのだ。


 だが未遂でも暗殺計画が企図されたのは事実。

 身分を偽装する手段として、冒険者ギルドが使われた。

 理はアルフレードにあるのは明白で、表だって反発できないのだ。


 それでも過去に、犯罪についての交渉が難航したこともあった。

 だからアルフレードに反発をもつギルド幹部は少なくない。

 今回の要求で、その反発がより激しく炎上する可能性は高いだろう。


「我が友は、冒険者ギルドの責任も問うていたな。

冒険者ギルドが反発したところで、ラヴェンナでは弱い。

最悪なくても支障ないだろう。

ないと困る各領主も、冒険者ギルドとは距離をおくだろうな。

今まで優遇されてきた措置の取り消しなどもありえる。

それをギルドは受け入れるしかない。

だが……これでは冒険者ギルドも存続の危機だな。

我が友への反発もかなりのものになろう。

教会にとっては、そんな冒険者ギルドを味方に引き込む価値はある。

冒険者ギルド単体では不可能だが……。

教会をバックにつければ敵対は可能だな」


 冒険者ギルドは機能不全に陥っている、とは一般の認識。

 それは統一した動きが取れないだけだ。

 それぞれの支部は、いつもどおりの活動を続けていた。

 冒険者ギルドの協力が得られなくなると、各領主たちは自分で処理すべき問題が増えてしまう。

 ないと困る領主が大多数なのだ。


 だから教会と冒険者ギルドが手を組めば、アルフレードに抵抗は出来るだろう。

 それでもティベリオは、教会が冒険者ギルドを巻き込むとは思っていない。


「教会と冒険者ギルドが、手を組めばそれなりの勢力にはなり得ましょう。

一時的になら対抗可能かと。

ただ固有の地盤がないので、ラヴェンナ卿には勝てないでしょう。

それを教会と冒険者ギルドの上層部は重々承知している。

ただ下の者は違うでしょうが……。

反発すると余計立場が悪くなります。

役に立たないなら新しい冒険者ギルドを作らせる。

ラヴェンナ卿ならやりかねないかと。

ついでとばかりに、新しい教会を設立させても臣は驚きません」


 ニコデモは笑いだす。

 容易にその未来が想像できたからだ。


「たしかにそうだな。

我が友ならやるだろう。

つまり冒険者ギルドは、ただの盾なのだな」


「そのように愚考致します」


 ニコデモは満足気にうなずく。

 別に、真相を探り当てるつもりは毛頭なかった。

 現時点でそんなことは不可能なのだ。


 宰相の能力を試したにすぎない。

 通常での能力は知っている。

 知りたかったのは、変事への対応能力だ。


 ただ言を左右にして、自己の考えを述べないのであれば……役に立たないからだ。

 このような事態でも、柔軟な思考を持っていると確信した。

 だがこれだけでは、完全に合格とならない。


「謎だった妻への暗殺も、これなら筋はとおる。

だが……動機として弱いのではないかね?

正確には自分たちの存在をかけてまでやるのかだ」


「恐れながら……。

彼らに共通する認識があります。

それは自分たちの組織はなくならない。

太陽の如くこの世に存在する。

その固定観念を捨て切れていないのです。

陛下はそのような固定観念を……ただの思い込み、とお考えでしょう」


 ニコデモは一瞬目を丸くした。

 すぐに笑って、頭をかく。


「ふむ……。

それは盲点だった。

余は固定観念にしがみついていたら、とっくに命を落としていたな。

生命の危機が迫らない限りは、固定観念を捨てることは出来なかった。

そのような機会に恵まれないと、自分たちの組織は不滅と思うわけか……。

これだけ教会が揺らげば不滅ではない、と普通なら思うがね。

教会しか知らないと、無意識にしがみつくのかもな」


 ティベリオは、皮肉な笑みを浮かべてうなずく。

 そんな連中が大多数だったからこそ、自分はこの地位につけたのだ。

 世界の常識が変わったと認識するものは多い。

 だが認識するのと受け入れるのは、大きな隔たりがある。

 受け入れられたものは、まだ少数派なのだ。


「御意。

いまだに昔の常識を捨て切れていない者たちは多いのです。

これは一時的でいずれ元に戻る。

生き馬の目を抜くと言われる商人たちですら……

そう思い込んでいる者は、結構おりますから」


 ニコデモもティベリオのような、皮肉な笑みを浮かべた。


「成る程。

色々宰相の意見を聞いたが……。

様々な要素が入り組んで、未来予測は困難だな。

我がランゴバルド王国としては、どうすべきかね?」


「警察大臣に後始末をさせるだけでよろしいかと。

アルカディア国境周辺がとても不安定です。

優先課題に注力すべきかと愚考致します」


 ニコデモは腕組みをして嘆息した。

 触らぬアルに祟りなし、とはよく言ったものだ。


「つまり我が友の好きにさせよというわけだな。

それが良さそうだ。

しかし……だ。

こうも暗殺計画が同時に発生するものかね?」


 ニコデモの疑問に、ティベリオは眉をひそめる。

 時を空けての暗殺計画ならわかる。

 ここまで集中するのは不自然なのだ。


「たしかに不思議と集中しています。

臣は最初ラヴェンナ卿が、敵を一掃するために仕掛けた、と思っておりましたが……。

それはないと、考えを変えました。

奥方たちを標的になどしない人ですから」


 ニコデモは、肩をふるわせて笑いだす。


「そうだな。

自分を駒のように配慮なく使うが、近しい者はそのようにしない。

変わった統治者だ。

いや……個人でも変わっているな」


 ティベリオはこの疑問に対する答えは持っていなかった。

 時間がないのもある。

 それより手持ちのカードでは、どう考えてもゴールにたどり着かないからだ。


「別の誰かの陰謀にしても、この結果はラヴェンナ卿の敵が減るだけです。

損害など与えられないでしょう。

そして陛下の王権も強化されます。

王家がそれを狙ったと思わせることもありえますが……。

陛下とラヴェンナ卿の仲を裂こうとしても無意味かと。

感情ではなく、利益で結ばれた関係ですので。

つまり我々に利するだけなのです」


 ニコデモは目を細める。

 このような浅はかな策は、懐かしい感じがしたからだ。


「そのような妙計に見えて、浅はかな計略は、亡き兄上ならやりかねないがな。

発覚時のリスクと得られるメリットが釣り合わない。

やはりただの偶然が重なった、と考えるべきか」


 ティベリオは、小さくため息をつく。

 答えがでないとわかるや……ティベリオは推測することをやめたのだ。

 ものぐさ宰相がティベリオという男である。

 これは、アルフレードが考えてくれるだろうと。


「我らの知らない動機で、これらを仕掛けた黒幕がいるやもしれませんが……。

考えていてもキリがありません。

ラヴェンナ卿なら結論にたどり着けるかもしれませんが」


「そうだな。

頭の痛くなる問題は、我が友に任せるとしよう」

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