716話 神々の遺産
ライサが地下都市調査から戻ってきた。
応接室で待っているとのこと。
ミルとキアラを連れて、会いにいった。
入室すると……。
ライサが珍しく
思わず吹き出しそうになった。
露出が高い衣装で妙に色っぽい姿勢で寝ているから、目のやり場に困る。
すぐにミルから、肘鉄を食らった。
「アルってこんな衣装が好きなのかな……」
ボソッと
「いえ。
そんなことはないですよ。
ミルが露出の高い服を着るのはイヤです。
他の男にミルの肌を見られたくはないですから」
ミルは驚いて頰に両手をあてる。
「えっ。
そ、そうなんだ…」
キアラから聞こえるような舌打ちが聞こえた。
いかん。
このままでは面倒だ。
どうしたものかと思ったが……。
すぐにライサが目を覚ました。
大きな欠伸をしてから、伸びをする。
「済まないね。
寝不足で寝てしまったよ。
ここは寝心地がいいんだ。
で、こいつがお土産だよ。
レベッカからの中間報告書だ。
私は内容を知らないからね」
ライサは、妙に厳重な封がされた書状を差し出してきた。
封が気になるな……。
まあ読めばわかるだろう。
「では拝見します」
俺は書状を受け取って、封を開ける。
レベッカの報告だが……。
ライサの捜し物占いを元に、極秘の資料庫を発見したとある。
資料庫はかなり巧妙に隠されていたようだ。
となると……。
アイオーンの子たちは、将来ここに戻ってくるつもりだったのか。
血の神子が、入り口に鎮座していたはずだが……。
倒し方も心得ているのかな。
資料庫には石版が、多数積まれていた。
紙なら朽ち果てるからな。
古代人は、色々な技術に精通しているが……。
長期間、情報を保持できるものは発明できなかったか。
少々残念だ。
ざっと確認したところ、封印された扉の先についても書いてあるようだ。
レベッカは古代文字を勉強して、ある程度解読できるように勉強したらしい。
ホントに恐れ入るよ。
扉の先は、半魔の収容先のようだ。
地下都市から距離がある理由は今のところ不明。
石版は多数で、情報量が多い。
その中に回答があるのかは、現時点で不明。
それよりショッキングな内容を発見したらしい。
誤訳があるかもしれないが、取り急ぎ伝えるべき、と判断したようだ。
この情報を知っているのはレベッカのみ。
その石版は、古代人による創世神話らしいと断っている。
古代人より前にも、高度な文明が存在したらしい。
突如、光の門が現れて、そこから出てきた神々によって、文明をもたらされたとある。
そして神々は、人間から様々な種族を生み出した。
つまり人以外の種族は、創られたものらしい。
自然か人為かはわからないが、納得がいく。
混血が可能なのだ。
大本が人間なら、それも可能だろう。
どうやったのかは知る由もないがな。
神々は文明をもたらしたのち、1000年ほど人々を導いた。
ある日突然、光の門を通って消えてしまったらしい。
そのあと光の門は、跡形もなく消えうせる。
それ以降、神々は戻ってこなかった。
その後は人々が争って、世界が荒廃する。
文明も失われたとのことだ。
自分たちの手に余る武器に手を出して、かなりの数が死に絶えたと。
その後、不可思議な力が世界を七つに分割したらしい。
去った神々の怒りに触れたためとも言われていた。
古代人は、その人間たちの生き残りの
神々の技術は争いによってほとんど失われたが、一部は残った。
それらは神々の遺産と呼ばれたようだ。
それを古代人たちが継承したらしい。
半魔は神々の遺産を元に生み出された。
ホムンクルスも、神々の遺産の断片から生み出されたとのことだ。
その他転生術なども、遺産に含まれるらしい。
これだけだと、なんとなく辻褄の合うお伽噺だ。
古代の創世神話として取り扱えばいいだけの話だろう。
その続きがあった。
思わずガン見してしまう。
「人為的な火山噴火?」
ふと顔を開けると、皆が怪訝な顔をしていた。
事実だとヤバイ話だ。
さらに読み進める。
過去の争いで乱用されたらしい。
幸い……現存するのはひとつとのこと。
過去に、数カ所同時に火山噴火したのか。
自分の周辺じゃなくて、敵対勢力の火山でないと自殺行為だろう。
そんなことが可能なのか、皆目見当がつかない。
だが文明が失われた直接的な原因だと書かれている。
さらに厄介なのは、残った山だ。
「契約の山ですか……。
なんとも難しい場所が残っているものです」
こいつは公表できない。
突然、肩を揺すられる。
ミルだった。
「珍しいわね。
説明せずにひとりで読み進めるの」
「すみません。
なんか色々考え込んでしまいました」
俺は中間報告を、ミルに手渡す。
ミルは書状を読むが、動揺しはじめた。
「……ちょっと待ってよ。
その前に、人間以外の種族は創られたって……。
そこは気にしないの?」
ただの言い伝えだろう。
勝手に想像したかもしれない。
「え?
事実かどうかわかりませんし……。
仮にそうだとしても、なにか変わるわけではないでしょう。
ミルはミルですよ」
なにより……。
それを知ったからなんだ、というのがある。
ライサが腕組みをして、渋い顔をした。
「そんな話が書いてあったのかい……。
別の神がいるってのも衝撃的だよ。
教会もこれは黙っていられないだろ。
そりゃレベッカが、青い顔をするわけだ」
キアラも眉をひそめていた。
「人間優越の思想に、お墨付きを与えそうですね。
ラヴェンナ的にもよろしくないかと」
どうも、俺がズレていたらしい。
「そうですね……。
そう言われると、危ない話でした」
キアラは呆れ顔で、ため息をつく。
「そんな発想がないから、気にしなかったのですね……。
それでも普段なら、気がつきそうなものですけど」
気まずくなって、つい頭をかく。
「なんというか、肩透かしすぎて……。
確認しようがない古代人の神話なんて、ただの噂話ですよ。
なのでこれじゃないだろう、と思い込みました。
しかも次の話が大問題です。
真実ならばですけど」
ミルは微妙な顔で首をかしげた。
「火山の噴火ね。
でも噴火は起こったら仕方ないでしょ?
私は最初の話のほうが、気になったわ。
アルはそんな意識がないから、気にならなかったと思うけど……」
キアラは不審げに、首をひねっている。
まだ、報告書を見ていないからな。
ミルから報告書を受け取って目を通した。
読み終えたあと渋い顔になっている。
キアラが俺をチラ見したのでうなずいた。
何をしたいか明白だ。
キアラはほほ笑んでライサに報告書を差し出す。
ライサは驚いたが、キアラはほほ笑んでからうなずいた。
もともと機密情報にかなりタッチしているからな。
隠す必要はないだろう。
ライサは肩をすくめて、報告書を受け取り読みはじめた。
キアラは俺を見て小さくため息をつく。
「差別意識のないお兄さまにとっては、どうでもいいかもしれませんが……。
子供たちの悪口にもつながりますわ。それが習慣つけば差別へとつながります。
でも……それは一端おいておきましょう。
お兄さまは火山噴火が問題だ、と思ったのですわね」
俺の認識不足だったな。
ともかく火山の問題も話しておこう。
「そのとおりです。
狙って火山噴火を巻き起こせるとなれば……大問題ですよ。
幸いどの山でもいいわけでなく……。
特定の山しか噴火させられないとあります。
それは古代人同士が争ったときに使用されてしまったと。
現存するのはひとつだけ。
それが契約の山だそうで……」
ミルが驚いた顔をする。
「あそこって火山だったのね」
「契約の山が噴火したなどという話は聞いていません。
もし本当なら、無理矢理起こすのでしょうねぇ。
しかも火山なのかどうかすら怪しいですが。
山のように見えて、何かの施設だったのかもしれませんから」
キアラは不思議そうな顔のままだ。
「火山が噴火すると、どうなりますの?
大変だとしか聞いていませんの」
直近の噴火は100年前だったかな。
シケリア王国で噴火があったはずだ。
俺の視線に気がついたライサは、小さく肩をすくめる。
「規模によるけどね。
シケリア王国で火山噴火があったよ。
生き延びた人から聞いた話だけどね。
山の頂上から煙が立ち上って、地面が揺れ出したそうだ。
揺れはすぐにおさまったけど、空からでっかい石がポンポン降ってきた。
中には燃える石まで降ってくるんだ。
そのあとは灰が降り積もって、昼でも夜のように暗くなる。
また地面が揺れ出して、そのうち町は火に包まれたそうだ」
キアラは眉をひそめた。
「そこまでいくと、恐ろしくて住めませんわね……。
たしかに大惨事ですけど」
「まだあるんだ。
翌朝には山から燃えるような土砂が、手のように伸びてきて、すべてを埋め尽くした。
土砂から逃げ切っても死ぬものが多い。
とくに下流に逃げるとダメらしいよ。
突然人が倒れるから毒なんかじゃないかね。
あとは数年凶作に見舞われたらしいよ」
これは影響範囲大だな。
「使徒の罰は局所的ですが、噴火による影響範囲は広いってことでしょう。
問題はありますが、対処は事後でもできます。
ただアルカディアではどうでしょうね。
その火山の場所が最悪です。
教会と石版の民にとっては大変でしょうね。
ただこれが、事実かもわからない」
ライサがお手上げとばかりに、頭をかく。
「連中はあそこを、特別な山と見ているようだけどね。
話をしても信じないと思うし……。
どう止めるかもわからないなら、対策のしようがないね」
神話も火山も、迂闊に話せないな。
火山より種族の成り立ちを、気にするのは意外だったが……。
「どちらにしても、現時点では機密扱いになりますね。
これが解禁できるのは、いつになるやら。
過去の伝承も根拠がない限り、仮定の話にすぎないと理解できるようになってからですね」
キアラは驚いた顔で、口に手をあてる。
「お兄さまはあくまで、ひとつのお話だと思っているのですね」
「検証されない限り、ただのお話にすぎませんよ。
されたとしても……。
種族に優劣は存在しません。
自分たちが作ったのではないですからね。
それに人間が創られたものでない保証はどこにもありません。
優劣を論じるのは馬鹿馬鹿しい限りですよ」
ミルは大きなため息をついた。
「それ語り部の人に言わないでよ……」
そういえば創世神話を
俺の認識がこれだと、士気が下がってしまう。
「わかっています。
間違っても口にしませんよ」
ライサは物珍しそうな目で、俺を見て苦笑する。
「だからこそ問題視しなかったわけだね。
心底から差別意識がないから、ラヴェンナが上手く言っているわけだ。
建前だけだと、民衆に気づかれるからね。
しかし噴火かぁ……。
そんな派手な火遊びができるとしたら、アイオーンの子だろうけど……。
聞いたことがないよ」
これも本当なのか怪しいのだよなぁ。
「古代人の神々の技術かもしれませんね。
さすがに膨大な魔力が必要なようです。
しかも普通の魔力ではダメ。
専用の魔力が必要らしいです。
それをどうやって賄うのか。
仕組みまでは書いていないですね」
ライサは腕組みをして、ため息をつく。
「事実でないことを祈りたいけどね。
否定する根拠もないよ。
事実だとして……。
こんな話を知っているのは、アイオーンの子でもごく一部だろうさ。
クレシダ・リカイオスは当然、その中に入るわけだ」
翻訳かぁ……。
現状作業はカツカツなんだよな。
「こっちの解読も急いでもらう必要がありますね……。
人手が足りないですよ。
これが恨めしい限りです。
資料庫の石版を運び出すのも大変みたいですね」
「そうだねぇ。
一部運んだけど、ティトが卒倒しそうになっていたさ。
余りに気の毒で、総量は言えなかったよ。
あとちょっとだから、とつい言っちまったけどね……」
気持ちはわかるが……。
「実際はどのくらいの量が?」
ライサは突然視線を逸らして、口笛を吹いた。
「石版だからね。
床が抜けるか、心配な数さ」
ミルとキアラは、引き
優先順位の指示をしなおさないとダメだな……。
「ま……まあ。
頑張ってもらいましょう。
あとは増員も考える必要がありますね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます