706話 神なき宗教

 リカイオス卿との戦いに専念したいのだが……。

 使徒ユウの世界へのアピールが激しい。


 無視するにしても、俺の見解は知らせておく必要があるな。

 閣議でキアラに報告を頼んだ。


 使徒ユウの新しい思いつき。

 それはジャーナリズムの誕生だ。

 大々的に他国にまで知らせてきた。


 キアラの報告を聞いた全員が、首を傾げている。

 それもそうだよなぁ。


 そして全員の視線が、俺に説明を求めている。


「まあ……。

選挙をするための前提ですかね。

投票をする民衆が正しく判断し、責任を持って行動するために必要な……。

真実の情報を提供する役割です」


 真実と口にするときに笑いそうになった。

 なんとか堪えたぞ。

 アーデルヘイトがビシっと、手をあげた。


「旦那さま。

ウチでやっている情報公開とは違うのですか?」


 俺たちがやっている情報公開は、考える力を養ってもらうのと、デマ防止の意味合いが強いからな。

 使徒ユウが企図するものとは大きく違う。


「ラヴェンナの情報公開は、我々が行います。

ジャーナリズムは、民間人が情報を集めて公開するといった違いですね。

社会のあらゆる問題に、光を当てて問題提起する。

などと言いましたが……。

平たく言えば、人の怒りや不安を売る商人です。

それだとあまりにもいかがわしいので、ジャーナリズムやジャーナリストと名前がつくのでしょう」


 喋っているうちに、不思議と皮肉な気分になった。

 このジャーナリズムってやつは……。

 生理的に忌避してしまうようだ。

 どんな理由かは、転生前の話なので忘れたな。


 アーデルヘイトは今ひとつ納得していない顔だ。


「逆の意味合いですけど……。

医者も広義では労働者だけど、医者と呼ぶのと一緒なんですかね。

そのほうが患者さんは安心します。

それと監視と聞くと不思議なんですけど……。

情報をどうやって入手するのですか?

不都合な情報は出さない、とか言われたら困りますよね?」


 なかなか鋭いな。

 それは、社会上認められた権利とするしかない。


「それは権利として認められると思います。

報告にありましたよね。

知る権利って。

多分それです。

だから情報を差し出すしかないでしょうね」


 商務大臣のパヴラが、しきりに首をひねっている。


「領主さま。

根本的な質問をしてもよろしいでしょうか?」


 俺も、なんとなくでしかわからないぞ。

 ユートピアで議会を開いたときの質問に答えたから、それ関係の記憶は残っているけど……。


「どうぞ。

私もどこまで、正確に答えられるかわかりませんけど」


「商売をする上で、情報が大事なのは周知の事実です。

でもそれは、価値を知っているからですよね。

商人なら……お金を払っても、手に入れる価値を見いだします。

それを知らないか知っても活用できない民衆に、情報を売れるのですか?

市民に情報を知らせるのが建前なら、村にも情報を伝えなくてはいけませんよね。

とても採算がとれるとは思えないのですが」


 なるほど。

 採算の面で疑問に感じたのか。

 実際、どう運用させるつもりかはわからない。

 トマに考えさせるのだろう。

 実際は役人だろうけど。

 識字率などの問題も、どうクリアする気なのか。

 お手並み拝見といこうか。

 時間はないだろうがな。


「使徒がどこまで考えているかわかりませんが……。

ジャーナリズムの事業自体は、赤字になるでしょう。

代わりに別の特権を与えて、収益を保証する形になりますかね」


 パヴラは、なんとなくわかったような顔になる。

 立場上、利益に関わる特権には敏感だからな。


「やっぱり特権ですか?」


 広告などで収益を伸ばせるほど、流通は強くない。

 だから別の方法で利益を得る必要がある。


「商会に専売権を与える対価に、報道をさせる。

もしくは規制などの情報を先に教えて、商売のチャンスにさせるか……。

各商会に合同で出資させる手もあります。

パッと思いつくのはそれくらいですね」


 パヴラは真顔でうなずく。


「なるほど。

せっかく丁寧に教えてもらったのですが……。

ジャーナリズム自体が想像しにくいですね」


 ちょっとバツが悪そうだ。

 未知の業種を、いきなりポンと出されたのだ。

 克明に想像できるほうがおかしいだろう。


「当然ですよ。

そんな仕組みは、今までなかったのですからね。

わかっているとしたら、言い出した使徒ユウだけでしょう。

だからといって本質を知っているかは不明ですけどね。

役割的にはそうですねぇ……。

主君に諫言をする臣下がいるでしょう。

あれを商売でやるような感じです。

主君は民衆ですけどね」


 クリームヒルトは珍しく真剣に、メモをとっていた。

 学校で質問されたときの回答用かな。

 俺の視線に気がつくと、照れ笑いを浮かべた。


「商売で諫言って聞くと、すごく胡散臭いですね。

金にならない諫言はしなさそうですし……。

それに諫言が、いつも正しいとは限りません。

権力者に睨まれる可能性もありますよね。

どう考えても、上手くいくようには思えないのですが……」


 人は、そんな器用な生き物じゃないからな。

 過去から続いた道の先を歩くだけだ。

 いきなり意味不明な方向に飛んでも、普通転ぶだろう。

 だがなぁ。


「そんな慣習も文化もありませんからね。

ただ使徒存命中は、曲がりなりにも形は保たれるでしょう。

その間に、どれだけ実績を積んで慣習化できるか。

それが成否の分かれ目ですかね」


 使徒の力が、どこまで健在かわからない。

 だが、ある程度の精神的影響は及ぼせるだろう。

 それならギリギリ形になる。

 死後は知らんがな。

 それも、クレシダの攻撃を凌ぎ切れればだが。


 シルヴァーナは興味なさそうに、自分の髪をいじっていた。

 まるで興味なしか。


「それで……。

アルはなんで、こんな話をしたの?」


 いきなり根本的な問いが飛んできた。

 結構油断ならない。


「ウチでもやらないのかと、質問がでたときの回答用です。

じきに市民たちも知るところになりますからね。

ラヴェンナは世界で一番先進的だ、と思っている人はいます。

それならウチでも出来るんじゃないか、と思うかもしれません。

言っておきますが……。

ラヴェンナでやる気はありませんよ」


 シルヴァーナは、小さく肩をすくめた。


「まあ、そんな気はしていたわ。

それでいつものように、理由の説明タイムよね」


 なにげに詳しく聞くあたり、将来のための勉強をしているのかもしれないな。

 ペルサキス夫人になったら社会的地位がさらにあがる。


「そうですね。

もしやるなら……。

経済が発展して、構造が変化してからですね。

今の経済構造では難しいでしょう。

かなり頑張ればやれますが……。

他の問題が発生したときの対処が厳しくなります」


「頭っから否定しないんだ」


 思わず、苦笑が漏れた。

 否定的な話ばかりしていたか。


「善意からでたもので、意図自体は悪くありませんからね。

ただ実現できない善意は、悪意より悪い結果を生みかねません。

利益を得る側と、不利益を被る側、どちらからも不満を持たれます。

結果として分断を生むだけですよ」


 シルヴァーナはアッサリうなずいた。


「それもそっか」


 下手な善意ではじめて、中途半端に終わるとろくなことにならない。

 それはシルヴァーナも熟知しているだろう。


 突然、オフェリーが挙手する。


「あのぅ。

経済が発展して、構造が変化とはなんでしょうか?

発展は景気がいいと一緒、と思っていたのですが……」


 経済なんて普通知らないからな。

 俺も知っているわけではないが、まだ経済がシンプルだから、なんとか通じている。

 歴代使徒は全員経済について語っていなかった。

 はじめて経済に首を突っ込んだのは使徒ユウだ。

 それであの結果だよ。


「ある意味で似ていますが……。

それで終わらせると、話がわからなくなります。

貨幣についての話をする必要がありますね。

生活水準が向上すると売るものが増えます。

ラヴェンナを見れば明らかでしょう?」


「はい。

涙を飲んで見送る食べ物が、ずいぶん増えました……」


 オフェリーは項垂うなだれたが、シルヴァーナをチラ見している。

 節操なく食べていそうだからな。

 多分、オフェリーに自慢しているかもしれない。

 胸の差で、毎回返り討ちに遭っていそうだが。

 それでも食い物の恨みは恐ろしい。


「そうすると取引される貨幣の量も、自然と増えますよね。

使う機会が増えていますから」


「あ……。

そうですね。

私が来て間もない頃のラヴェンナは、給料はいい。

でも使い道が少なかった、と聞きました。

最近は聞かないですね」


 同僚の先生から聞いた話だろうか、あとは補佐官か。


「ただ金銀は、無尽蔵に採掘できるものではありません

でも貨幣の必要量は増えていきます」


「どうするのでしょうか?」


「実質価値と表記額面が一致する貨幣だから、いずれ不足します。

そこで違う通貨が生み出されますよ。

ラヴェンナ特別貨幣があるじゃないですか。

あれは実質価値と表記額面が一致しない貨幣です。

今は限定的ですが、将来的にこのような貨幣が流通するでしょう。

これが構造の変化です。

将来はもっと変わっていくでしょうが、現時点では予測できません」


 オフェリーは真顔でうなずく。


「貨幣が変わるのですね。

なにかまったく新しい仕組みに変わるかとてっきり」


「そんなことしたら大混乱を招きます。

結果として経済が死にますよ。

どんなに合理的なアイデアだとしてもね。

子供の最適解が、大人にとっての最適解でないのと一緒です。

出来る範囲で、徐々に成長するべきですよ」


「それでお金が増えるのとジャーナリズムは、どう関係するのですか」


「では貨幣の話の続きをしましょう。

きっちり必要量を計算なんて不可能ですからね。

新しい貨幣はやや大目に発行します。

多すぎてはダメです。

使徒貨幣の二の舞になりますからね。

緩やかに増える限りは混乱しません。

むしろ増やさないと、大変なことになります」


 シルヴァーナは目が点になる。


「まるでチンプンカンプンだわ。

もうちょっとわかり易く!」


「売買したくても、通貨がなくては売買できません。

そうすると通貨が強くなりすぎて、物価が下がります。

希少性が高いほうの価値は上昇しますよね。

ここで貨幣特有の問題が発生します」


 シルヴァーナは首を傾げる。


「貨幣特有?

モノが安く買えるならいいと思うけどね。

モノを作る人が、大変になるってこと?」


「それもあります。

もうひとつ物価が下がり続けると、高い商品ほど売れなくなります。

とても乱暴で雑なたとえをしますよ。

金貨1枚で、高級酒が1本買えたとします。

来年はさらに物価が下がって……。

金貨1枚で、高級酒が2本買える。

普通の人はどうします?

現実的にはあり得ませんが……。

わかり易くするため、とても大袈裟にしました」


 シルヴァーナさんは、口を大きく開けた。


「ああ~。

お金を貯めるわね。

今は適当な安酒で我慢するかな。

余計なモノを買わなくなるのね。

お金がさらに回らなくなるのかぁ。

なんか面倒くさい仕組みよね」


 なんか冴えているな。

 ちょっとビックリだよ。


「消費の冷え込みを誘発する一因ですから。

人の社会は、それだけ複雑なのですよ。

物価が下がると、金持ちと多くの年配者が得をします。

年配者であれば給料は高いでしょうし、貯金もしているでしょう。

一方若者は、割を食いますね。

結果的に、貧富の差がさらに広がるでしょう。

そうなると治安の面からもよろしくありません。

そして商取引での税の比重が大きいラヴェンナにとって、致命傷になり得ます。

まだ増税が出来るタイミングではありません。

まあ、増税したら景気が冷え込むから……。

悪循環でしかありませんが」


 多民族で平定から数年しか経っていない。

 そこで税率を上げると、一気に社会情勢が不安になる。

 少なくともあと10年は、据え置きにせざる得ない。



「そっか。

持っている金が多いから、どんどん差が開くのかぁ……」


 かなりビックリだよ。

 皆も、目を丸くしているし。

 実は裏で、こっそり勉強しているのか?


「逆に緩やかな物価上昇なら、金回りは良くなります。

貯めるだけ損ですからね。

だから緩やかに物価が上昇することは、社会の安定に寄与します」


「なるほど~。

なんかすごい世界で、アタシたち生きているんだね。

領主って皆、こんなこと勉強するの?」


 キアラは小さく苦笑した。

 いつの間にか、メモをとっているし。


「普通はしませんわ。

家宰に任せっきりですもの。

スカラ家はかなりたたき込まれますけど、ここまでの原理は教えられません。

学ぶのは徴税で、経済を殺さないかくらいですわ。

だからお兄さまが異常なだけですの」


 パヴラもコクコクとうなずいている。


「私も初耳です。

これイザボーさんが聞きたがるなぁ……。

教えてもいいですか?」

 

 止めても話すだろう。


「お好きにどうぞ。

丁度いいので話を戻しますか。

将来的に経済活動が、大規模になります。

そして金回りが良くなると、人々は使い道を探すでしょう。

次は今まで商品になりにくかったものが、取引の対象になるでしょうね」


 シルヴァーナは、白い目で俺を睨む。


「また難しいこと言いはじめるし……」


「経済活動が大規模になるとは、社会が豊かになることです。

一般市民たちも、それなりのお金を持てるようになることですよ。

お金を持っていたら、趣味か子供のために使うでしょう」


 シルヴァーナはあごに指を当てて考え込む。


「多少は趣味に使うだろうけど……。

普通ならもっと増やそうと思わない?」


 人によると思うがね。


「増やそうとする人は、当然います。

楽して安全に儲けたいと思うでしょうね。

でも楽して、安全に出来る儲けは存在しません。

誰でも出来るものには、価値がないですからね。

その心を利用した詐欺が盛んになるでしょうねぇ」


 シルヴァーナは微妙な表情で、肩をすくめた。


「アルって無類のお人好しなのか、病的な人間不信なのか……。

たまにわからなくなるわ。

騙される人が増えるから儲けようとしないの?」


 多分後者だと思うよ。

 自己認識が合っているならな。

 もうちょっとわかり易くいくか。


「ではシルヴァーナさん。

まとまったお金が、定期的に入るならどうします?」


「ん?

冒険者として、装備を調えるでしょ。

いつでも出動できるようにね。

誰かさんのせいで、ダンジョンにいけないけどさ。

あと……お洒落もしたいわね。

それと……豊胸が可能ならいくらでも払うわ!

あとは、美味しいお酒を飲むに決まっているじゃん」


 このあたり見栄を張らないから、話が早くて助かる。


「シルヴァーナさんが答えを出しましたね。

多くの人は、ある程度の収入が得られたら、人生を楽しむほうに使うでしょう?

少数はさらに財産を殖やすことに、人生を捧げると思いますけどね。

それは蓄財が楽しみだからでしょう」


 シルヴァーナは妙に感心した顔でうなずいた。


「なるほど~。

妙に納得できたわ。

それで情報に、お金を払うようになるのね」


 惜しいな。

 といっても、民主主義なんて理念を理解するほうが難しい。

 封建社会しか知らないのだからな。


「基本的にその手の情報はタダです。

そうでなくては収入の多寡で、情報の差が生まれますからね。

取材して精査した上で公表する。

これ結構お金がかかります。

純粋に体力の問題ですよ」


 シルヴァーナはいぶかしげな顔をする。


「今でも、超大手の商会なら出来るんじゃないかな?」


 それでは困るんだよな。


「もうひとつ、大事な要素が組織の数です。

情報を伝えるもの同士、相互監視できるくらい数がないとダメですね。

社会の問題を暴き出すのに、その当人が腐敗していたらダメでしょう。

つまり超までいかなくても大手がやれる程度に、経済規模が大きくならないとね」


「ああ。

監視役がひとりだと危険よね。

自分に都合の悪いことは隠蔽いんぺいするんでしょ。

もしくはライバルの足を引っ張ることも出来るわねぇ。

なるほどぉ~」


「それで合っています。

監視役を誰が監視するのか、という話ですから。

どんなに数があっても雷同していたらダメです。

お互いの過ちをかばい合うのも論外ですよ。

一見するとそれが楽ですからね」


 ミルが俺にほほ笑みかけた。


「アルは、そういう人たちが大嫌いよね」


「自分がクズだと公言していて、そんなことをするのは気になりませんよ。

用いる人の問題ですから。

良識人の顔をして、そんなことをする輩が大嫌いなだけです。

だからマンリオ殿のほうが、クララック氏より万倍も好ましいし誠実だ、と思っていますよ」


 ふとクリームヒルトを見ると、メモの量が増えてゲンナリしている。

 オフェリーが再び、ビシっと挙手した。

 がっくりと項垂うなだれるクリームヒルトがほほ笑ましい。


「アルさま。

質問です」


「遠慮せずどうぞ」


「報道は公平中立を守るって謳っていますよね。

あの人が自慢気に書かせたのが、目に浮かぶようです。

でもこれって守られる話ですよね。

それでも監視がいるのでしょうか?」


 俺が内心鼻で笑った項目か。

 オフェリーは真に受けてしまったようだな。

 それがオフェリーのいいところだ。

 危なっかしくて、つい守ってあげたくなる。


「ああ……。

この世に公平中立な、組織や思想なんて存在しないからですよ。

下種げすに守る盾を与えるだけの、無意味な宣言です」


 自然と不機嫌な口調になってしまった。

 オフェリーは目に見えて、シュンとする。


「すみません……」


 しまった。

 俺の機嫌を損ねたと感じてしまったようだ。

 そんなことで落ち込まれると申し訳なくなる。

 守ってあげたくなる、と思った直後にこれだ。

 俺もまだまだ未熟だな……。


「お願いなので謝らないでください。

オフェリーに腹を立てたわけじゃありません。

自分でもよくわからないのですが、無性に腹が立ったのです。

人には個性が必ずある以上、人の集団にも個性があります。

公平中立なんて聞こえはいいですがね。

私に言わせれば……感情や欲がまったくない、と言っているようなものですよ。

存在したら、それは人ですらないでしょう。

もし自分は公正中立だという人がいたら……。

それは詐欺師か、頭がお花畑だと思って間違いないです。

相手にするだけ損ですよ」


 きっと転生前から公平中立って言葉が大嫌いだったのだろう。

 どんな理由で嫌いになったかは思い出せないが……。

 ミルは驚いた顔をしている。


「珍しいわね。

アルがそんなに、嫌悪感をむき出しにするのって」


「なんででしょうかね。

ともかく公平中立は言葉でしか存在しない以上、監視は絶対に必要なのですよ。

断言してもいいですが……。

使徒の推進するジャーナリズムは、この言葉で腐敗を約束されたと思います。

自分たちは絶対に正しい、と思わせることになりますからね。

神なき宗教になりますよ。

自分たちの行動は神の教えだ、というかのようにね」


 シルヴァーナが、ヒューと口笛を吹いた。


「アルにも、踏んだら危険なスイッチがあったことに驚きよ。

いつにも増して闇が深いわ。

今日は大判餡子熊王ね。

なんか意図自体は悪くないと言っているけど……。

条件を細かくつけまくるし、いい制度じゃないと思っていそうね」


「それだけ危険な力を持った存在だから、注意が必要なだけです。

使徒がやろうとする民主主義を設立させたいなら、絶対に必要なんですけどね。

責任を問われずに、民衆を誘導できる立場です。

真面目な人を利用して、組織内の立ち回りが上手い人ばかり出世します。

だから建前を、都合良く利用する組織になるでしょう。

人そのものが成熟しないことには扱えませんよ。

どちらにしても今の人が扱うには早すぎると思います」


 いかんな。

 嫌いな感情が滲み出て、いつもより皮肉がキツくなっている。

 しばらくこの話題はしたくないなぁ。

 不幸中の幸いで、今夜はオフェリーの部屋だから、頑張ってフォローしよう。

 まだ落ち込んでいるからな。

 代わりに寝られそうにないけど。

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