700話 生存戦略とトマの盾

 アレクサンドル・ルグラン特別司祭から、アラン王国の情報が入ってきた。


 内容はトマが大暴れしていた旧フォーレ国民の梯子を、突如外したこと。


 革命の精神をけがす者たちと断罪したらしい。

 昨日までは肩で風を切っていたのが、突如として罪人となってしまった。


 ギロチンの主演になってしまった旧フォーレ国民の動揺は激しい。

 その存在を誇示しまくったお陰で誤魔化せないのだ。

 

 追い詰められた旧フォーレ国民が、教会に救いを求めた。

 深刻な事情があって、教会は救うことが出来ない。

 そもそも救うつもりがないのだ。


 ただ見捨てれば、教会の権威に傷がつく。

 今の状態では、かすり傷すら致命傷になりえるのだ。

 噂に尾ひれがつくからな。

 事情を説明して、傷をつけないための処置だろうな。


 その内容とは、最初は眉をひそめ……最後には失笑するものだった。


 旧フォーレ国民が、復讐ふくしゅうと血に酔っていたときだ。

 粛正を避けるため、教会に逃げ込んできた人がいた。

 という建前どおり、教会は保護を決定する。

 政治的な対立であれば、亡命などを教会が仲介してきた。


 そんな慣習など意に介さない旧フォーレ国民が、教会に押し寄せる。

 そして『罪人を匿うとは、革命の精神への反逆である』と言い放ち、教会を襲撃。

 男は殺し、財宝は奪い、女は犯す。

 今の慣習では考えられないほどの蛮行を働いたらしい。


 当然、使徒騎士団を動員して旧フォーレ国民を追い払う。

 武器を持った者に、決して戦おうとしないのが旧フォーレ国民であった。

 教会は追い払って終わりにするわけにいかない。

 特別司祭アレクサンドル・ルグランの主導で、トマにこの蛮行を抗議する。


 王として肩で風を切っているはずのトマは平身低頭した。

 面会前は『仕方ないから会ってやる』と豪語していた直後の喜劇であった。

 こんな情報が漏れるほど、トマは動揺していたらしい。

 もしくは世界主義がわざと漏らしたかな。


 元教皇で教会の権威を体現する人物の前には、顔を上げられなかったのだ。

 現時点で世界最高の貴人を前に、新人王は虚勢を張ることすら出来ない。

 しどろもどろで……弁明は聞き取れないほどの早口になる。

 醜態をアレクサンドルにたしなめられる始末だ。

 結果は、蛮行を働いた者たちの責任を明らかにする、と約束させられた。


 そこで慌てたのは旧フォーレ国民だ。

 トマの側近である同胞に、多額の賄賂を贈った。

 それだけでなく教会の訴えは事実無根だ、と泣き叫ぶ者も現れる。


 教会が金欲しさに、罪人を招き入れた。

 理性的に引き渡しを求めたが、相手から攻撃を仕掛けてきたので、やむなく応戦したと。


 厚顔無恥な発言だが……。

 彼らはこのに疑問を呈する者がいれば、容赦なく執拗に攻撃した。

 トマと同族であるという権勢と賄賂の力も強い。

 こうして彼らはを守ることに成功した。


 民衆は、革命と騒いでいた時ですら、教会を攻撃する気にならなかった。

 教会には墓地も隣接しており、先祖が眠る場所でもあったからだ。

 それを踏みにじられた怒りはすさまじい。

 旧フォーレ国民からを押しつけられたとき最高潮に達する。

 その矛先は、好き勝手を許しているトマに向かう。


 まさにそのタイミングでトマが動いた。

 賄賂を受け取った側近を、公開処刑にしたのだ。

 この処刑は旧フォーレ国民にはさせなかった。

 従来の処刑人を復職させて、執行を委ねる。


 側近たちは泣き叫んで慈悲と無実を訴えるが、大観衆の怒号にかき消された。

 首が落ちた瞬間、処刑広場は大歓声で包まれる。

 そんな興奮冷めやらぬ広場に、トマの布告官が現れた。

 トマ以外の旧フォーレ国民はすべて罪人である、と発表する。

 即座に、かなりの旧フォーレ国民が惨殺された。


 当然旧フォーレ国民は、逃亡を図るのだが……。

 誰も匿ってくれない。

 トマが念入りに、多額の懸賞金をかけたからだ。


 旧フォーレ国民は、行き場をなくする。

 だが生きるためなら、なんでもしてきた彼らは諦めない。

 それだけのことをしておいて、教会に逃げ込んだ。

 さらには、という改竄した建前まで持ち出す始末だ。

 先の蛮行も命じられて、仕方なくやったことだといったらしい。


 やむを得ず、教会で保護することになったと。


 この手紙を持ってきたキアラは無言だった。

 俺は苦笑して、書状をミルに手渡す。

 書状を読んだミルから、表情が消えていた。

 ミルはオフェリーに書状を手渡してから、大きなため息をつく。


「正直にいうわね。

アラン王国にいなくて良かったわ」


 実に正直な意見だな。

 俺は苦笑してしまう。


「普通の人は、そう思うでしょうね」


「教会の人たちは、どうしてあんな人たちを助けたの?」


 本音を言えば門前払いしたかったろう。

 だが環境的に、それは難しいのだ。


「建前を守らないと、教会組織が瓦解がかいするからですよ。

それを本能か計算かはわかりませんが……。

旧フォーレ国民は都合よく利用する形になりましたね。

人の善意や建前に寄生する人は、どこまで利用できるかを正確に見極めますから」


 ミルは眉をひそめて、ため息をつく。

 善意を利用するのは、エルフにとって嫌われる行為だ、と教えてもらっている。

 そこは人間でも変わらないだろうがな。


「ものすごくモヤモヤするわね」


 そう簡単に逃げられないだろう。


「でしょうね。

かといって逃がす気はないでしょう。

そもそも亡命先がありません。

クララック氏はあの手この手で引きずり出すと思いますよ。

世界主義も現時点で教会を潰されては困るでしょう。

アラン王国民衆の怒りが、教会に向かっては困るのです。

教会もそれに応じるでしょうね」


「私は教会にいい印象はないけど……。

あっ! オフェリーは別よ!

なんか可愛そうになるわね」


 慌てた顔のミルに、オフェリーはほほ笑んだ。

 気遣いが通じたのだろう。


「私は教会の人間ではありません。

だから心配無用です。

でも有り難うございます。

それにしても……。

教会はそういった建前を利用する人たちと接する機会は多いはずです。

あしらい方も心得ていると思いますが……」


「なんの根拠もありませんが……。

本気ですがったのではないでしょうか。

泣き叫ぶなどされては、さすがに門前払いは出来ないでしょう?

あしらうのは難しいと思いますよ。

足にしがみつく相手を振りほどくのは大変かと」


 オフェリーは無表情に、首をかしげる。

 これは理解が追いつかないときの顔だな。


「でも革命のためとか言って、教会を略奪したのですよね。

それだけじゃありません。

教会が悪いとまで嘘をつきましたよね。

そこまでした教会に、本気で助けを求めるのですか?」


 推測しか出来ないがな。

 ジャン・ポールからの情報と、彼らの所業から見えてくるものがある。


「革命のためと言ったときも本気だったのでしょう。

状況が変われば、そのときの最適解に順応するのではないかと思いますよ。

そうでもない限り、あれだけ残虐なことは出来ないでしょう。

純粋な正義や信念を持つ人は、この世で最も残酷になりますから」


「なんだか想像できません」


 想像できないのは健全なのだが……。

 これから多くの人と関わっていくのだ。

 知識として知っておくべきだろうな。


「彼らは同族で団結してきた過去があります。

そうでなくては生きていけなかったのでしょう。

するとなにより同調圧力が強くなります。

そんな同質性を求める集団にとって、客観性はマイナス要素だったと思いますよ。

客観性が失われると、自分たちが正しいと盲信します。

彼らの行動は無茶苦茶ですが、伝統となっている生存戦略に忠実なのでしょう」


 オフェリーは眉をひそめる。


「生存戦略ですか?」


 個人的に、好きになれる連中ではない。

 だが臭いものに蓋をしても、何も解決しないだろう。

 アラン王国建国時、生け贄をつくって統治を容易にしたツケだ。

 先祖のツケを、子孫が払わされている。

 それがあの惨状だろう。

 同じ国民であれば、そこまで残酷にはなれない。

 だが旧フォーレ国民は差別されてきたのだ。

 違う民族相手ならいくらでも残酷になれる。


「彼らは民族として、一段低く扱われてきました。

いつ根絶やしにされるかわかりません。

根絶やしにされると、ただ損をするだけの歴史になります。

だから生きることが最優先になる。

生き延びて逆転のチャンスを待ち続けたと思いますよ。

いつか復讐してやるとね。

この経緯を無視し、彼らのことを考えても的外れになります。

とはいえ……同情は出来ますが、無罪だと思う気はありません。

やった蛮行のツケは払うべきでしょう」


 オフェリーだけでなくミルまで首をかしげる。


「アルの言いたいことが、ピンとこないけど……。

毛嫌いするだけだとダメってことよね」


「ええ。

彼らはアラン王国の政策によって、生き方を固定されてしまったと思います。

そんな彼らの客観性が欠如するのは、仕方ない事情があるのではと。

客観的に彼らの地位を考えたら、納得できませんよ。

それは不満になり、不満は反乱の母体となるでしょう。

彼らは逆らったら殺される、と考えたでしょうね。

それが裏返ると……逆らったら殺すになります。

結果として、あの蛮行になったのでしょう。

だからこそ団結して、口実を与えないようにしたと思います。

多様な意見や客観性は、邪魔でしかないのです」


 ミルは大きなため息をつく。


「それが1000年以上続くと……。

ああなっちゃうのね」


「ですが生き残らねばなりません。

だから力のあるものに媚びるのは、当然のことです。

それが出来ない人間は、淘汰とうたされて生きていけないでしょう。

全力で媚びますが、主人と深く関わることは嫌います。

深く関わりすぎると、主人が失脚したときに、自分たちが連座してしまいます。

なので主人との関係を可能な限り薄くしたい。

どうします?」


 ミルは引きったような顔になる。


「逃げる選択肢はないのよね……。

まるっきりわからないわ」


「さほど役にたたない、と思わせればいいのです。

突出して優秀になれば妬まれて殺されるか……。

死ぬまで酷使される。

完全に無能であれば邪魔だ、と殺される危険性があります。

さじ加減は難しいですが、彼らはそれをずっとやって来たのでしょう」


 ミルは思わず天を仰ぐ。


「なんか正気がどんどん削られているような……。

凄まじい生への執着ね」


「それだけ過酷な環境だったと思います。

ずっと耐えて生き残った彼らに、革命が日の光を当てました。

革命によって自分たちが偉大な民族となれば、本心からそれを信じます。

そして革命の剣になろうとしましたよね。

ただし生き残るため、危険は犯しません。

そして自分たちが断罪されたとき、生き残るため本気で教会にすがるのです。

哀れみを持たれるように過去を改竄しますが……。

言っていることを、本気で信じ込みます。

だから問いただしても無意味ですよ。

どんなに証拠を並べても、決して認めません。

自分の信じるを裏付ける内容だけが、正しい証拠になりますから」


 ミルはあきれ顔で首をふった。


「それだと生き残ることが難しくなるわよ。

皆に嫌われるでしょ?」


「今まで彼らを利用する人たちはいても、本気で滅ぼそうとする人たちはいませんでした。

それが常識となります。

残念ながら客観性がないので、自分たちは昔と変わらずに生き残れる、と信じていますよ。

生き残ったあとも考えて、記憶や記録の改竄をするのです。

彼らにだって自尊心はありますからね。

それを充足させる必要があるでしょう。

そんな同胞をクララック氏は心底から軽蔑していたと思います。

客観性がないので、似たような行動をしている、と気がつかないでしょうがね」


 オフェリーは無表情のまま、ため息をついた。


「迫害されていた理由がわかりました。

嫌な話ですけど」


 俺だって好きになれない。

 トマは生理的にも嫌いな奴だ。

 だが旧フォーレ国民はあんな民族だから、と片付けてはいけない。

 因果関係があるのだ。


「好き嫌いは個人の自由ですよ。

ですが彼らは、アラン王国建国者の措置によってああなったのも事実です。

迫害される対象をつくって統治すれば、容易に思えるでしょう。

それは自分たちの子孫に、大きなツケを払わせる結果になりました。

だからこそ、一つの事例として覚えておく必要があると思います」


 オフェリーは何度も首をひねっていたが、あきらめ顔でため息をついた。


「建国者が間違ったのはわかりました。

祖先がそんな間違いを犯したときに、子孫だったらどうすればいいのでしょうか」


 状況にもよるから、簡単には言えないのだが……。


「私だったら将来の禍根を断つために、彼らを追放しますね。

どこか土地は与えます。

そして一切の関わりを絶つ、といったところでしょうか。

悪評も甘んじて受け入れます。

誤った政策のお陰で、社会の腫瘍になっているのですよ。

切り落とすしかありません。

だからこそ最初の舵取りは、とても難しいのですよ」


 ドン引きするかと思ったが……。

 オフェリーは、妙に感心した顔でうなずいた。


「さすが魔王さまです……。

あと一つ質問です。

もし旧フォーレ国民が、ラヴェンナに保護を求めてきたらどうします?」


「アラン王国のツケを私たちが払う必要ありません。

追い払いますね。

ラヴェンナの慣習と、彼らの考え方は違いすぎます。

そして同化もしないでしょう。

ひとり受け入れたら他の旧フォーレ国民も必死になって、ラヴェンナに逃げ込んできますよ。

道中で窃盗や略奪をしかねません」


 オフェリーは首をかしげる。


「ラヴェンナで差別はしないなら……。

大丈夫なのではありませんか?」


「アラン王国や教会からも恨まれているでしょう。

実際に蛮行に酔いしれていたのですから。

それを返済しないで迎え入れると、他所との関係が悪化します。

加えて彼らは、記憶を簡単に書き換えるのです。

それはラヴェンナの精神に反しますからね。

仮に受け入れたとします。

アラン王国と教会に迫害されたから、自分たちを優遇してくれ、と言い出しかねません。

それを突っぱねたら『自分たちは、無理矢理ラヴェンナに連れてこられた』と騒ぐでしょう。

そんなリスクを受け入れる必要性を感じませんね」


 俺の憮然とした返事に、ミルは苦笑する。


「その件は理解したわ。

そう言えば……。

トマは旧フォーレ国民に、すべての責任を押しつけて解決するって予想よね。

こんな状況で解決するのかしら?」


 トマの思考を推測すれば、次の手は当然考えているだろう。


「いいところに気がつきましたね。

前々から言っていますが、彼は保身にけた人物ですからね。

クララック氏の流儀は、常に自分を守る使い捨ての盾を用意することです。

今までは旧フォーレ国民が盾でした。

当然次の盾を探すでしょう。

状況の改善は、その後の話ですよ」


 話を聞いていたキアラは、あごに指をあてて考えるポーズをした。


「世界主義を盾にしようとしますの?

難しいと思いますけど」


 可能ならそうしたいだろう。

 だがそれは難しい。


「キアラのいうとおりです。

盾とはイメージしやすいものでなくてはいけません。

イメージしやすいほど、人々の注意はそこに集中しますからね」


「世界主義は隠れていますものね。

イメージにはならないですわね……。

あとは教会でしょうか?

でも失政の責任を教会に押しつけるのは、ムリがありますわ。

今回の事件で、民衆から同情されているでしょうし」


 一つだけ思いついた盾がある。

 だが突飛すぎてなぁ。

 口にするのは躊躇ためらわれる。


「でしょうね……」


「その顔は、思い当たる節がありますの?」


 すぐにバレるのも考えものだ。

 と言っても、それで助かっていることもある。

 言いにくいことだけは察しないでくれ、とは都合が良すぎるな。


「確証はありません。

なんとなくそう思っただけです」


 ミルが突然、身を乗り出してくる。


「そこまで言ったなら教えてよね」


 ミルのスイッチまで入ったか……。

 思わず頭をかいてしまう。


「外れても笑う程度で済ませてくださいよ。

本当に思いついただけですから」


 ミルはほほ笑んでうなずいた。


「笑いもしないわよ」


 キアラはフンスと胸を張った。


「当然ですわ。

お兄さまが外したなら、諦めがつきますもの」


 オフェリーは唐突に、俺の腕をつつきはじめる。


「アルさまが間違えるとは思えません。

仮に外れても、絶対に笑いません」


 思わず大きなため息が漏れる。

 まあ見当違いなら訂正してくれるだろう。


「仕方ありませんね。

盾候補は使徒ユウですよ」


 ミルは驚いた顔で口に手をあてる。


「ええっ?

どうやって盾にするの?」


 実現の可能性は高いと見ている。


「王にすればいいのです。

アクイタニア嬢の意向とも一致しますからね。

助力してくれるでしょう」


「でも使徒って、政治を嫌っていたんじゃない?」


 ここで一つ大事なことがある。

 ユートピアの現状だ。

 マリー=アンジュを追放したことで、機能不全に陥っている。

 使徒ユウに持続する力は皆無だろう。

 つまり順調なときは、なんとなく続ける。

 困難にぶち当たれば、簡単に投げ出してしまう。

 この話は、ユートピアを投げ出すことに、免罪符を与えることになるだろう。


「ユートピアの統治に嫌気が差している、と思いますよ。

マリー=アンジュ嬢を懐かしむ声は、使徒にとっては聞きたくもないでしょう。

でも投げ出すと、悪く思われる。

王になれば……。

投げ出したんじゃない、と言い訳はたちますからね。

そして使徒不介入の原則を破って、状況が悪くなったとも認識しているはずです。

だからと認めては、アクイタニア嬢を非難することになる。

使徒であれば、経緯は無視して……捨てた嫁より手元の嫁を大事にしますよ。

つまり使徒不介入の原則は正しくないと、証明もしたいのです」


 キアラは俺の言葉を、真剣に吟味しているようだ。

 そこで疑問が湧いたのだろうか。

 小さく首をかしげた。


「それはわかりますけど……。

使徒が拠点を捨てますの?

それともユートピアを、王都にするのでしょうか?」


 使徒は嫌なものを見ようとしない。

 つまり、ユートピアに居残る選択肢はない。


「王都プルージュに移るでしょうね。

そして実際の統治には口を挟まない。

実務は大臣たちに一任する形になります」


 ミルは不思議そうに、首をかしげる。


「つまりトマは退位するのね」


 保身がなによりトマにとって優先される。

 自己顕示欲で王になってみたが、責任は取りたくないだろう。

 つまり権力を振るっても、責任を取らなくていい立場が欲しい。

 そして一度王になったのだ。

 誰にも頭を下げたくないだろう。


「今回の騒動の責任を取るといった形ですね。

それで今後罪に問わない、と使徒に署名でもさせれば完璧でしょう。

実務は大臣たちが担うと言えばいいのです。

大臣はすべて、クララック氏の息がかかった人物で占められます。

譲位した王が実権を手放さずに、裏から支配すると思ってください。

まあ……ただの思いつきですよ」


 キアラは妙に感心した顔でうなずいている。

 すぐにまた首をかしげた。


「なんだかしっくりきますわ。

でも世界主義が、それを認めるのでしょうか?」


「世界主義としても王政がダメだと、民衆を扇動する材料が足りないでしょう。

旧フォーレ国民が悪いと、皆思っていますからね。

さらに使徒ユウは失敗しましたが、議会をつくりました。

王になったら、それをやろうとするでしょう。

世界主義にとってもそう悪い話ではないかと思います。

ムリに革命をしなくても、議会を乗っ取ればいいのですから。

つまりクララック氏、アクイタニア嬢、世界主義だけがハッピーになれる内容です。

言っておきますけど、ただの思いつきですからね。

状況を注視しましょう」

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