623話 やぶ蛇

 ちょっと予想外だった。

 モデストが途中で戻ってくるとは。

 なにか重大事件が発生したのか。


 執務室で会うことになる。

 カルメンも同席したいと申し出てきた。

 やっぱり心配らしい。

 断る理由がないので許可した。

 ラヴェンナの人間ではないが、ほとんどそんな扱いだ。


 周りからカルメンは、とてもドライな人だと思われている。

 俺個人のカルメン評は、とても情が深い人物だ。

 いや深すぎるのだろう。

 だからこそ深入りを避けていると思っている。


 そんなカルメンがエテルニタを拾った理由はわからないが……。

 なにかあるのだろうな。

 詮索する気はないが。


 そのことをキアラに話したから驚かれた。

 予想外なのではなく、なぜわかったのか……。

 そんな驚きだった。


 執務室にやってきたモデストは、いつものようにエールを一杯飲む。

 飲み終わったので、俺から切り出すことにした。


「なにか緊急事態が発生したようですね。

おそらく依頼した件とは無関係でしょう。

そうでもないと、シャロン卿が戻ってくるはずはありませんから」


 モデストはわずかに、目を細めた。


「もつべきものは、理解のある雇い主ですね。

説明の手間が省けますよ。

では緊急事態についてお話しします」


 そこからは、完全にノーマークだったクレシダ・リカイオスの話が出てきた。

 意外としか言いようがない。

 話を聞き終えて、頭をかく。


「なるほど、それは予想外のプレーヤー出現ですね」


「私もシケリア王国についてから、いささか拍子抜けしておりました。

リカイオス卿があまりに杜撰ずさんで安直なのです。

私が来てから、しばらく動けなかったのですから。

もっと頭のいい人物だと思っていました。

なんの確証もありませんが、クレシダが入れ知恵をしていたのではないかと。

少なくとも一番難しい初期段階ですね。今は勢力が拡大して、リカイオス卿は自分の力でやっているのでしょう。

燃え尽きでもしないかぎり、なんらかの対処はできたはずです」


 たしかにそうだな。

 燃え尽きるにしては野心満々だ。

 より大胆で大ざっぱになりこそすれ、動けないなど想像がつかない。


「なるほど。

たしかに拍子抜けするくらい、疑心暗鬼になっているようですね。

少なくとも小勢力からのし上がったわりに、力量が追いついていなくて不審に思っていました。

ですが裏付けは難しいでしょう。リカイオス卿本人が言わないかぎりは。本人ですら自覚がないかもしれません」


 モデストはわずかに眉を寄せ、首を振った。


「自覚していても、決して認めないでしょうね。

別方面から探っても、なにも出てこないと思います。

少なくとも確証にたる情報は。

リカイオス卿とちがって、クレシダがそんなヘマをすると思えないのです」


 随分、評価が高いな。

 長年の経験からくるカンのようなものだろうが。

 少なくとも危険に対する嗅覚が鈍ければ、モデストはとっくに死んでいる。


「それだけシャロン卿に評価されるわけですね。

しかし殺人や麻薬をやっている。

貴族令嬢とは思えませんよ。

火遊びにしては、あまりに熟達しすぎではありませんか?

つまりはずっと前からやっている。そう考えるのが自然でしょう。

何歳頃からやっていたのか想像もつきませんが。

クレシダ嬢が30代後半なら、なんとか理解できますけどね。

16歳でしょう……。

年齢不詳ですね」


 キアラは大げさに、ため息をつく。


「お兄さま……。

人のことは言えないと思いますわ。

見苦しいですよ。

自分だけは一般人という顔をするのは、止めた方がいいですわ」


 俺以外、全員うなずきやがった。

 ひとりオフェリーだけがちょっと首をかしげる。

 ちがう認識なんだな。

 今度一緒に喫茶店に連れていこう。

 食べたいデザートがあったはずだ。


「年齢不詳同士の対決……。

どっちの実年齢が上なのでしょうか?」


 もっとひどかった。

 さようなら喫茶店。

 これは話を戻さないと議論が始まってしまう。


「ま、まあ……。

私のことはおいておきましょう。

要警戒ですね。

他になにかつかんでいますか?

確証なしでもいいです。

今はどんな情報でも欲しいのですから」


 モデストは珍しく渋い顔になる。


「確証なしならかわいいものですよ。

ラヴェンナ卿に鼻で笑われそうな話ならあります」


「それはなんですか?

市井の噂話程度でも、鼻で笑ったりしませんよ。

真実の一端を捉えているでしょうし」


 モデストは珍しく煮え切らない苦笑顔になる。


「噂ならかわいげがあるのですけどね」


 それでも言いにくいのか。

 言えば、自分の信用を落とすような情報源なのか。

 ちがうな。

 まったく見当がつかない。

 ともかくなにか、呼び水が必要だな。


「シャロン卿としてはどうなのですか?」


「私は信じるにたると思っています。

ですがラヴェンナ卿は私ではないですからね」


 つまり、強固な反論を打ち破れないと。

 論理ではないな。

 それなら信じるにたるなど言わない。


「とにかく聞きましょう。

否定しては始まりませんから」


「私が師事した人物でしてね。

占い師です。

その結果が、私にとっても納得できる内容だったのです」


 これは予想外だ。


「う、占い師……?

それでよく当たるのですか?」


 モデストは苦笑して、肩をすくめる。


「どうでしょうね。

『占いはされる側が、どれだけ無心になれるかで結果が変わる』という人です。

あまりに願望が強いと、占いの結果が引っ張られると。

ですから百発百中ではありません。

それを外れたときの言い訳だという人もいます。

当たり外れより、占いを介しての相談役として重宝されている人ですね。

名誉のため言い添えますが……。

相手が無心になったとき、すべて当てています」


 まあ、占いは予言者じゃないからな。

 俺は的中率など問題にしない。


「では聞きましょう。

考えの一つとして聞いても、損はありません。

シャロン卿が得心行ったのであれば、一つの指針にもなります」


 モデストは観念した顔で、占いの結果を話はじめた。


 そこで聞いた人物鑑定は、実に筋がとおっている。

 モデストが信じたのも当然か。

 大志らしきものは『世界を壊したい』か。

 今まで疑問だったことに合点がゆく。

 モデストは、難しい顔をしている俺に嘆息する。


「やはり信用なりませんか」


 俺は小さく首を振った。

 逆に辻褄が合ったからだ。


「いえ。

後先考えずに悪評を積み重ねている。

手段を選ばないにしても、頭が良ければあとを考えます。

これが不自然だったのです。

もし世界の崩壊を狙っているなら納得できるなと。

崩壊であれば、あとのことはなにも考えていないのでしょう」


「意外ですね。

占いと聞けば、鼻で笑われると思いましたよ」


 仮説としては筋がとおっている。

 だから一つの考えとして認めるだけなのだが。


「少なくともシャロン卿は、クレシダ嬢と直接会っています。

私は一度も会っていません。

それでシャロン卿が説得力を感じるなら、それを尊重しますよ。

多くの人を見てきた経験の蓄積もあるのですから」


「どうでしょうね。

私にとって頭のあがらない人に言われたことなので……。

なんの前提条件もなく受け入れたのか……と言われても、反論は難しいかと」


 モデストが頭のあがらない人なんているんだなぁ。

 あまりに珍しい話なので、つい笑ってしまった。


「シャロン卿が頭のあがらない人なんて……いるんですねぇ」


 モデストは黙って懐から手鏡を取り出し、俺に向ける。

 周囲はなぜか大爆笑した。


「私もそのひとりだと?」


 モデストは涼しい顔で、手鏡をしまう。


「皆さんの反応が答えです」


 カルメンは笑いすぎて涙目になっている。

 笑いすぎじゃないかね。


「モデストさん、昔はユーモアのかけらもなかったのに……。

笑えないブラックジョークしか言わなかったですよ。

変わりましたね」


 モデストは、小さく肩をすくめる。


「それはラヴェンナ卿の影響を受けたのでしょう。

影響力と言いますか、その汚染力はすさまじいものです」


 俺のせいかよ。

 最近、俺はどこでも玩具にされている。

 気のせいじゃないぞ。


「と、ともかく……。

厄介な人物だとはわかります。

占いですべてを決めるわけではありませんが、参考程度に心に留めておきましょう。

クレシダ・リカイオスですか……。

完全にノーマークでしたね」


 キアラが今一納得していない顔で、首をかしげている。


「お兄さま。

ちょっと疑問がありますの」


「遠慮なくどうぞ」


「クレシダは恵まれている環境と言ってもいいでしょう。

それでそこまで、世界を恨むのですか?

よほど強い動機が必要だと思います。

カールラでも、世界の崩壊までは望んでいないでしょう?

動機がわかりませんわ」


 モデストが腕組みをして、わずかに眉をひそめる。


「私もそこが引っかかるのです。

ですので自信をもって、占いが当たっていると言いにくいのですよ。

そこを突っ込まれると、自分で満足できる回答がありませんから」


 たしかにそうだな……。

 恵まれたゆえに余裕がある。

 暇を持て余しての危険思想に走ることもあり得る。

 それにしては徹底しすぎているな。

 恵まれた人の場合は、どこか甘い部分が見受けられる。

 目指しているのは、革命もどきではないだろう。


「クレシダ嬢の過去ですか……。

それは調べてみる価値がありそうですね。

彼女は固有の武力を持っていないでしょう。

情報収集する配下ならいそうですが……。

わからないことだらけです。

クレシダ嬢の噂は、山ほどありますが……。

多すぎて……ほぼ短慮のワガママ娘という噂だけですからね」


 ミルは小さくため息をついて、天を仰ぐ。


「悪評があまりに多すぎて、真実が見えないのね。

アルとは真逆だわ。

アルは隠して、相手に悟らせないけど……。

真逆でも効果はあるのね」


「もし意図して徹底的にやっているなら、大したものですよ。

さて……。

この話は、ここまでとしましょう」


 キアラが不思議そうな顔になる。


「ここまでとは?」


 これ以上は、推測に推測を重ねるだけ。

 虚像が強固になってしまう。

 議論を重ねただけ、俺たちの中での信憑性が高くなる。

 それが事実となるのは危険だ。

 他に補完する情報がない以上、一度足を止めるべきだろう。


「わからないことだらけですからね。

これ以上考えても……。

霧の中、やみくもに前進するようなものです。

なのでわかっている部分から考えましょう。

アラン王国を思い出してください。

ロマン王子や王妃に、世界主義が肩入れしている可能性は大きいと思います。

つまり操りやすい相手を見定めて接近するでしょう。

噂だけ聞けば、クレシダ嬢にも接近しませんかね」


 オフェリーは納得顔でうなずく。


「アルさまのいうとおりですね。

シケリア王国にだって教会はあります。

潜り込むことは可能ですね。

たしかボドワンが出没しているのですから……。

していないとはちょっと考えられません」


 していないと考える方が難しい。

 奴等はラヴェンナ以外なら、どこにでもいるような錯覚さえするからだ。


「もし接近して操るつもりならどうでしょうか。

あくまで外部から見ての判断ですが……。

クレシダ嬢が、力を最も欲するときに接近すると思いませんか?」


 オフェリーは、小さく首をかしげる。


「前々から接触はしていないのですか?」


 端折はしょりすぎたかな。

 ちゃんと説明しないとダメだな。


「めぼしい人すべてに、コネだけはつくっているでしょう。

発覚しても問題ない程度ですが。

いきなりいっても門前払いされますからね。

ターゲットに本腰を入れるかは、慎重に見定めていると思いますよ。

リカイオス卿が迷ったときこそ、1番の好機でしょう。

クレシダ嬢はペルサキス卿を狙っているとの噂です。

そんなときに、婚約を破談に追い込むための協力をしたい。

そんな名目で近づくことは考えられませんか?」


 ミルがなぜかジト目で、俺をにらむ。

 なにか変なことを言ったかな。


「ええと……。

アルが仕掛けた悪戯のせいで、世界主義がクレシダに接近したの?」


 やぶ蛇になったことは否定しない。

 やぶに蛇どころか魔物が潜んでいたわけだ。


「ま、まあ……。

そうなりますか。

私がなにもしなくても、接近したと思いますけどね。

クレシダ嬢と世界主義は、もうつながったと考えていいでしょう。

接触すらしていないなら、その程度の相手です。

対応は楽になりますよ」


「つながった前提よね。

そうすると力を、手に入れることになるわね。

直接的な武力はないでしょうけど……」


 たしかに、今まで直接的な武力での介入はしていない。

 だが、内乱が終わった。

 だからこそ、武力を持っている可能性があるのだ。


「どうでしょうね。

そう決めつけるのは早計かもしれません」


「だって陰謀を企むしかやってなかったよ?」


 今までは持てなかった。

 だがそろそろ、固有の武力をもつべきと判断するだろう。

 それが、可能な状況でもあるのだ。


「シケリア王国の内戦が終わってしまいました。

かなりの数の傭兵が戦死したでしょう。

ですが全滅してはいません。

残党でめぼしいものを、世界主義が雇い入れることだって考えられます。

傭兵にしてみれば雇ってくれるなら、どこでもいいのですから。

もちろん大規模な勢力ではありませんが……。

中規模の町一つ程度なら……つぶせる程度の戦力をもっていると思います。

100人以上の戦力は持っているかと」


 ミルは納得したようにうなずいたが、すぐに首をかしげた。


「いくら頭が良くても、その戦力で世界の崩壊はムリよね。

アルでもムリでしょ?」


「理論上は可能です」


 俺の即答に、ほとんどの人はあきれ顔。

 カルメンだけは楽しそうに笑っている。


「やっぱりアルフレードさまの推理は面白いですね。

どうやるのですか?」


「どこかの要所を襲えばいいのです。

荒らすだけでいいですよ。

もちろん所属を偽装してね。

そうすれば、勝手に領主同士が争い合ってくれますよ。

お互い無罪なのですから、引っ込みがつかないですよね。

そこから争いが国同士に発展するのは、時間の問題でしょう。

どこも政情が安定していない以上、弱腰では国を保てません」


 キアラが大きなため息をついて、称賛まじりのあきれ顔になる。


「お兄さま。

発想がえげつないですわ。

最初にちょっと火をつければ、勝手に燃え広がるって話ですわね。

今は不満という油が、あちこちにありますもの。

もしクレシダがお兄さまと同じことを思いついたら、とんでもなく危険ではありません?」


 正直この手は、防ぎようがない。

 内乱を早期に終結させたことは、一つのデメリットがある。

 内乱はもうコリゴリといった意識が浸透していない。

 まだ、ワンチャンあると感じる人が多いのだ。

 詩的な表現をすると、血を流したりないというのだろうか。


「止めようがありません。

ラヴェンナでは不可能にしていますけどね。

よそはちがいます。

どこにいるかわからない集団が、どこかをいきなり襲う。

シケリア王国で計画と準備をされると……止めるのはほぼ不可能でしょうね」


「クレシダが、お兄さまほど悪賢くないことを祈るしかないのですね」


 祈るしかないが、祈っても無意味だろう。


「そうなります。

クレシダ嬢に対してできることは現時点ではないですね。

ただ、一つ確定したことがあります」


「こんな状況でも、ハッキリしたことがあるのですか?」


 一つ大事な問題があるのだ。


「クレシダ嬢が危険人物なのは確定しています。

さらに世界主義とつながっているかもしれない。

そのような場所に、シルヴァーナさんを送りだせません。

それを狙って、クレシダ嬢は故意にシャロン卿に近づいたのかもしれません」


 モデストは腕組みをして嘆息する。

 クレシダがわざわざ寄ってきた理由として納得できるものだったのだろう。


「なるほど……。

もし狙ってやったのであれば、まんまと一杯食わされたというべきでしょうか」


 それが断言できない。

 可能性の一つなだけ。

 モデストの嗅覚を知っていることが前提になる。

 そこまで知っているのか? それも保留だろう。


「いえ。

むしろ早めにわかったので、こちらにとって悪い話ではありません。

送りだしてから害されるのはゴメンですからね。

適当に理由をひねりだして引き延ばしましょう。

少なくとも身の安全の言質をとるまでは。

そしてクレシダ嬢のアクションを見守りましょう」


 ミルは少し厳しい顔でうなずいた。


「そうね。

そんな危ないところに、ヴァーナを送りだせないわ」


 クレシダにしては、どっちでもいいのだろう。

 来たら害すれば、両国関係が最悪なまでに悪化する。

 反リカイオス派を首謀者にでも仕立て上げればいい。

 ついでにアントニスを始末すれば、リカイオスにとって大きなプラスだ。

 対外的には、大きなマイナスにはなるが……。

 それを取り返すなら戦争だろう。

 こっちがシルヴァーナを送りださなければ、戦争に突入しやすくなる。


 ただちょっと気になるのだよな。

 俺は腕組みをして、自然と渋い顔になる。


「ちょっと話が飛びますけど……。

クレシダ嬢はシャロン卿の言葉では、かなり人格が破綻していると思えます。

使用人に裏切ったりするものはいないのですかね?」


 キアラが、急に生き生きした顔になる。

 陰謀で生き生きするのはどうかと思うが……。


「あら……手を突っ込みますの?」


 現時点では厳しいだろう。

 下地が必要だ。


「いえ、いきなりは危険です。

なんらかの魅力があって、周囲が心酔している可能性もあるのですから。

使用人が頻繁に変わるとは聞いていませんね。

ロマン王子の使用人が精神を病むという話は、腐るほどありますから。

なのでクレシダ嬢周辺の結束は固いと思います」


 キアラは納得した顔でうなずく。

 使用人が心酔していては、手が出せないからだ。


「そうですわね。

近くにいるとわかる魅力があるのかもしれませんね」


 カルメンが苦笑しながら、なぜか俺をチラ見する。


「もしそうなら、アルフレードさまと似ている気がしますね。

アルフレードさまが、なぜモテるのか……他の人は不思議がりますよ。

地位権力を女性のために使わない人ですからね。

ある意味、アルフレードさまに取り入るメリットは少ないですから。

あげくに政務ができないとダメだと思われていますよ」


 それは俺の役目は税金を効率よく分配して、子孫への選択肢を残すためだ。

 それ以上でも以下でもない。

 周囲に贅沢をさせるためのものじゃないからな。


 政務については……。

 ミルたちは仕事ができるから、そう勘違いされるのか。

 俺に喜んでもらおうと、ミルたちが頑張っている。

 これが一番大きい、と思っているのだがな。


「別に政務ができないと、ダメってことはないですよ。

ただ籠の中の鳥よろしく閉じ込めたくないだけです。

お互い別の人格なのですから。

それにずっと閉じ込めたら、会話の内容が代わり映えしなくなりますよ。

さすがにそれはね」


 キアラが片側の頰を引きつらせながら、身を乗り出してきた。

 キアラの前でのろけ話をすると……わりとこうなる。


「話が思いっきりそれましたわ。

ではシルヴァーナさんの婚姻は、一度止めるのですね?」


「ええ。

本人にも説明しないといけませんね」


 ミルが強くうなずいて、身を乗り出してきた。


「それは私に任せて」


 それがいいだろうな。

 現時点でとれるアクションはこれくらいか。


「じゃあミルにお願いします。

あとはリカイオス卿からの要望は、商務省にこちらの要望をまとめてもらいましょう。

シャロン卿はそれまでどうしましょうかね」


「そうですね。

ラヴェンナの町を、あまり回る機会がないので見て回りますか。

シケリア王国に再び向かうのは、しばらくあとでしょうからね」


 クレシダ・リカイオスか……。

 よりにもよって転生前の記憶が薄れているときに出てくるとは。

 俺の平穏な生活は、永遠にやってこないような気がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る