351話 閑話 ニキアス・ユウ・ラリス 籠絡編
どっちを選べと言われても困る。
片方を悲しませるのは、僕の趣味に合わない。
悩みつつマリーのアプローチには、もんもんとしてしまう。
でもオフェリーも捨てがたい…。
夜に、自分の部屋で悩んでいると、ドアがノックされた。
マリーだった。
ネグリジェにガウンを羽織っていて、良い香りがした。
「ユウさま、ちょっとよろしいでしょうか?」
思わず声がうわずってしまう。
「あ、ああ…どうぞ」
マリーはベッドに腰かけて、僕を見つめていた。
しばらくして、少しうつむいた。
「ユウさまが迷っているのは、お姉さまのことですよね」
思わず、ドキっとした。
なんだか、自分がとってもいやらしいことを考えているヤツに思えてしまう。
「あ、うん。
だって選ばれない人は、今までの人生が無駄になるんだろ。
それはとっても悲しいじゃないか」
言い訳がましいけど、本音でもあった。
僕の言葉に、マリーは優しくほほ笑んでくれた。
「ユウさまはとてもお優しいかたですもの。
私ならお力になれますわ」
「だって、両方はダメって決まりなんだろ?」
「ええ、ですが…。
使徒さまが強く望んで、ハーレムの筆頭の女性が認めれば可能ですわ。
前例がありますもの」
そんな話は初耳だぞ。
「ほ、本当かい?」
「はい、ですが…お姉さまは見ての通りとても真面目ですの。
ユウさまのお心より、決まりを守ることを優先します。
ですが…私なら」
「マリーはそれで良いのか?」
マリーは僕に優しくほほ笑んだ。
フラフラと、僕はマリーの隣に腰かける。
良い匂いが強くなって、クラクラしてきた。
「ええ、ユウさまの優しさを独り占めできるほど、私は強くありません。
それに、ユウさまだって、他の女性も救ってあげたくなるでしょう?」
「あ、ああ…勿論だとも。
僕のことを思ってくれる女性が悲しむのは、見ていてつらいよ」
「ですから、ユウさまの笑顔が私にとって一番なのです。
勿論、たまには私のことも見ていただければ…」
そう言って、マリーはうつむいた。
無意識に、手がその細い肩を抱き寄せてしまう。
「そ、それは勿論だよ。
マリーは本当に、僕のことを考えてくれる。
この世界で、一番の味方だよ」
マリーは肩に回した手に、そっと自分の手をそえた。
柔らかくて小さい手だ…。
だんだん頭が溶けてくるようだ。
「とてもうれしいですわ。
ですから、お姉さまもユウさまに愛してもらえると…うれしいのです。
だって大好きな姉ですから。
2人でユウさまのモノにしていただければ…幸せです」
そう言って、顔を向けて目を閉じた。
そこから、もう覚えていない。
朝になって、裸のマリーを抱きしめていた。
その体の柔らかさに、この子を笑顔にしたいと本心から思った。
それ以降のマリーは、僕の隣にいてくれる。
なによりうれしかったのは、僕の知遇を得ようとしてくる教会の人間をせき止めてくれる。
煩わしい社交辞令は疲れてしまうのだ。
皆…僕を利用しようとする魂胆が見え見えだ。
勿論、誰にも会わないわけにはいかない。
でも、マリーができるだけ会わないようにしてくれている。
抑えきれなくて、面会が入ったときは申し訳なさそうにしている。
その顔を見ると、とてもつらい。
「マリーが良いと思った人は、僕が良いと思った人だよ。
だからそんな顔をしないでくれ」
僕の気遣いに、マリーは輝くような笑顔になる。
「ユウさまはやっぱりお優しいのですね。
ですから、その優しさにつけ込むようなことは…」
何も言う気が無くなって、マリーを抱きしめた。
とても充実した生活が始まった。
そんなある日の夜、マリーはいつものように僕のベッドにいる。
「ユウさま、以前お約束した姉のお話があるのです」
どうして、僕の考えることが分かるのだろう。
あの話は、どうなったのかと思っていたのだ。
でも催促するような、小さな男に思われたくない。
「あ、ああ。
すっかり忘れていたよ」
マリーは僕の言葉に驚いた顔をする。
「まあ…。
ですけど、約束は守らないとユウさまを傷つけてしまいます」
「マリーが僕を傷つけるなんてありえないよ」
「有り難うございます。
ユウさまだけではなく…姉も幸せになってほしいのです。
そこで一つ、問題が出てきました」
マリーの邪魔をするヤツがいるのか? 許せないな。
僕の不機嫌な顔を見てマリーが慌て出す。
そんな様子もかわいい。
「マリーを困らせるのは、一体誰だい?」
マリーは少しためらっていた。
やがて意を決したように、僕を見つめた。
「最初にどちらかを選んでくださいと、教皇
「ああ、そうだね」
「ですので、言った手前…撤回もできないのです」
じゃあオフェリーは、僕のモノにならないのか?
あの教皇のせいで!
「なんて頭が固いんだ…。
そんなことで、マリーを困らせるなんて許せないな」
マリーが慌てた顔になる。
「私のためにそこまで怒っていただけるなんて、やっぱりユウさまはお優しいですわ。
でも、そのために教皇
「ま、まあ。
できるなら強引なことはしたくない」
オフェリーが欲しいから、教皇に文句を言うなんて、そんな小さな男として思われたくない。
マリーは僕に、優しくほほ笑んできた。
「ですので、一つ手がありますの」
「どんな手があるんだ」
「今の教皇
承認をしないと言えば、別の枢機卿から選ばれます。
そして、私の父が選ばれるでしょう。
あとはお姉さまがユウさまの手を取るだけで良いのです。
そのことでユウさまが責められることはありません。
私が父を、教皇にしたい一心でユウさまを唆したと言われます」
「ま、待てよ。
それじゃあマリーが傷つくじゃないか?」
僕の顔に、マリーは優しく手をそえる。
「姉の幸せのためですわ。
そのためなら、泥はかぶります。
そしてユウさまを困らせるのは、私にとってもっとつらいのです…」
そこまで、僕のために自分を犠牲にしてくれる。
ならば僕は、マリーを守れば良い。
そうして、教皇は入れ替わった。
あとはオフェリーを、手に入れるだけだ。
マリーの献身を無駄にしないためにも。
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