350話 閑話 ニキアス・ユウ・ラリス 邂逅編

 両親はいたが、他人にしか思えなかった。

 だが一応育ててくれた義理はあるので、偉くなってからそれに報いることにしよう。


 金と権力があれば、あとは勝手にするだろう。

 しかし僕が、使徒だと知ってからのヘコヘコした態度が鼻につく。


 人の立場で、態度を変えるのは気に入らない。

 もしかしたら全員ヘコヘコするのか。

 それもうんざりだ。

 本音で語り合える友人が欲しい。


 そして翌日に、教会から使いが来た。

 丁寧に対応されるのは、悪い気がしない。

 でも礼儀作法なんて知らないから落ち着かない。


 そのまま豪華な馬車に揺られていたところ、突如馬車が止まる。

 外はなんかざわついている。

 


 暇だったので、顔を出して護衛の騎士らしき男をつかまえる。

 確か、使徒騎士団から派遣されてきたはずだ。

 名前は、最初に名乗られたが忘れた。


 別に、騎士Aで良いだろう。

 必要になったら、ステータスを見れば良いんだし。


「なにか騒ぎがあるようだけど…どうしたんだい?」


「は…はい、遠くに生息しているはずのワイバーンが、こちらに向かってきています」


 お、なんかテンプレ的展開かな。

 ここで、派手に魔物を倒せってやつか。

 やれやれ、力を自慢したくはないんだけどなぁ。


 でも騎士たちに任せていても、時間が掛かる。

 姉妹も気になるし、ここは早々と片付けようか。

 きっとチュートリアルイベントってやつだな。


 遠くの空を見ると、確かにワイバーンの大軍が見える。

 騎士Aは緊張した面持ちになっていた。


「結構な数ですね…」


 遠くからでも、ステータスは見えるかな?

 注視してステータスオープンと念じてみる。


 すると、拡大画像が目の前に浮かぶ。

 ぼそっと読み上げる


「ワイバーン×47 LV34」


 騎士Aが驚いた顔になる。


「数が分かるのですか!?」


「なに、大したことじゃないよ。

初歩みたいなモノさ。

ああ、全員下がらせてよ」


 騎士Aは僕に一礼した。


「承知しました!」


 話が早くて助かるね。

 くだらない問答で、時間をつぶすのは無駄だから。


 ワイバーンの大軍に意識をあわせる。

 知らないはずの魔法が、なぜか記憶にある。

 コレがチート能力ってやつか。


 派手にいこう。

 僕の力を試してみたい。



「吹っ飛べ! エクスプロージョン!」


 そう叫ぶと、ワイバーンの大軍の中心が爆発した。


「残り17。

ちょっと甘かったか…だが残念。

エクスプロージョン・チェイン!」


 そう叫ぶと爆発した周囲も、連鎖的に爆発。

 奇麗に消し飛んだ。

 なかなか良い演出効果だね。


「やれやれ、肩慣らしにもならなかったよ」


 振り返ると騎士たちはぼうぜんとしていた。

 見えを張った割には、ちょっと地味だったか?

 メテオにすれば良かった。

 恥ずかしくなって頭をかく。


「あれ? 僕の魔法…弱かったかな?」


 騎士Aが我に返った。


「い、いえ! とんでもありません。

すさまじい力です!」


 この程度で仰天するとは…。

 精鋭と言われる使徒騎士団も、大したことはないなぁ。

 ともかく、姉妹には良い土産話ができた。

 僕は、あくびをして馬車に戻ることにした。



 教皇庁のお膝元に到着したが、ごちゃごちゃした町だった。

 僕だけの、奇麗な町が欲しくなる。


 そこで着替えることを提案された。

 確かに、村民服だと格好を悪いな。

 承諾すると、豪華な仕立屋に向かうことになった。


 いろいろな種類の服があるので、僕に似合うモノを考えた。

 前身黒ってのも…ダサイなぁ。

 色的に映える、白のボアコートと黒のスラックス。

 動きやすいシューズ。

 

 武器はあとで考えよう。

 選んだ服に着替えて、村民服は捨てることにした。

 まあ、こんなモノだろう。



 そうして教皇庁に案内される。

 くっそ派手な建物だなぁ。

 別に良いけどさ。



 そして豪華な別室に通されたけど、とても落ち着かない。

 もともと、アウェーは苦手なんだよ。


 そして、10分ほど待たされたろうか。

 遅いから帰ってやろうかと思ったときに、扉が開いた。


 オッサンだが豪華な衣装。

 キリスト教の法王みたいな衣装だ。

 ここのトップかな。


 オッサンが、帽子を脱いで深々とお辞儀をした。


「お待たせしてしまって、大変申し訳ありません。

私が教皇のアレクサンドル・ルグランです」


 現状世界のトップに、頭を下げられるのは落ち着かない。

 だが、ここは大人の対応をしよう。


「ああ、いいよ。

教皇さんも忙しいだろうから」


 それより、姉妹はどこだ?

 別にがっつくわけじゃないけど、その話を聞いたんだし…多少はね。

 僕の様子に、教皇がニッコリ笑った。

 オッサンのほほ笑みはキモイ。

 

「姪たちはすぐに、こちらに来ます。

使徒さまにお会いできると聞いて、身支度の確認をしていまして…」


 それなら許してやるか。


「いや…別に、それが目的ってわけじゃないよ。

そこまで急がせてはいないから」



 そのあとの世間話は上の空だった。

 ワイバーン討伐を称賛されてもどうでも良いことだ。

 はよ! 姉妹はよ!


 そうすると扉がノックされて、声がした。


聖下せいか、お二人をお連れしました」


 キタコレ。

 あ、僕の格好変じゃないよな。

 急に不安になった。

 

 扉が開いて入ってきた姉妹は、予想以上にすごかった。

 SSRキタコレ!


 小柄なほうが妹だ。

 マリー=アンジュと名乗った。

 いかにもお姫様ってかんじの…ほんわかした美少女。

 なにより、胸元が開いた服と短いスカートがけしからん。

 前世はお姫様キャラは、そこまで好きじゃ無かったけど、これは別格だ。

 こんな美少女が、僕のモノになるのか? 思わず生唾を飲み込んでしまった。

 そして声がイイ! 前世でファンだった声優の声に似ている。



 背が高いのは、やはり姉だ。

 オフェリーと名乗った。

 衝撃だったのが、前世の愛用したSSRキャラによく似ていた!

 さらに、声もSSRキャラに近い。

 コレは運命だろうか。

 愛で使い続けた僕へのご褒美か。

 わび転生万歳!

 そして…キャラ設定どおりだと、無口なハズだ。


 僕の予想どおり、姉は無口だった。

 なので妹のほうが、積極的に僕に話しかけてきた。


 しかも好きだった声優の声で、僕だけに話しかける。

 コレはたまらない…転生して良かった!


 そしてどちらかを選べと言われて、心底困ってしまった…。

 声優愛か、キャラ愛か…。

 両方ゲットできれば、言うことないのにな。

 神様からチート能力で、「言いくるめ」でももらえば良かった。


 そうしたら悩まずに、両方ゲットできて皆ハッピーなのに。

 決まりなんてくだらない。



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