349話 閑話 ニキアス・ユウ・ラリス 自覚編

 気がつくと、いきなり激しい頭痛にへたり込んでしまった。

 村の中で歩いている途中だったようだ。

 

 少しの間頭痛に苦しんでいたが、すぐに治まった。

 そして、この体が17年間生きてきた、記憶が流れ込んできた。

 不思議だが、17年間生きてきた感覚は全くない。

 

 今一なじまない。

 だがニキアス・ラリスという名前と、ニキアスとして生きてきた記憶は分かる。

 細かいことは良いか。

 

 力があるか、確認をしたい。

 手頃のターゲットでも転がってないかな。


 そう思って、村を見渡したら良いモノがあった。

 村で3人の乱暴者が、村人の一人をいじめている。


 力があるのは実感できている。

 魔力もにじみ出ている。


 あの悪党なら懲らしめても問題ない。

 咳払いして声を掛ける。


「おい、やめろよ」


 3人組は振り返って、僕をにらみつけた。


 リーダー格はダニエルだったな。

 ダニエルは僕をにらみつける。


「おい、ニキアス! 僕たちに意見するとは、いい度胸だな。

いつもはコソコソ見ないふりをしているのによ!

コイツの代わりに、僕に殴られてくれるのか!」


 小物がイキっているのを見て、ため息がでる。

 ステータスを確認。

 腕力が平均より、ちょっと上。

 この村のレベルも知れているな。

 だがチュートリアルにはちょうど良いか。


「やれやれ…抵抗されない相手でないと殴れないのか?」


 突如ダニエルが、僕に殴りかかる。

 ゆっくりとスローモーションに見える。

 この低レベル相手なら加減してやるか。

 パンチを余裕でよけて、力を抑えたパンチを顔面にお見舞いする。


 グシャっと変な感覚があった。

 ダニエルが、そのまま10メートルくらい吹っ飛んでいった。


 手が痛い。

 殴り方を調整しないと、僕自身が痛いのか。

 痛み止めに少し、手を振った。

 

 取り巻きの2人は、ぼうぜんとしている。

 僕が一瞥すると逃げだそうとした。


 おっと…そうはいかない。

 魔法を使ってみる。

 相手の動きを止めるように念じただけで、ピタリと止まった。


 後で料理しよう。

 吹っ飛ばしたダニエルのところにゆっくり歩く。

 鼻と口から、血が大量にでていた。

 しまった、顔面を骨折させてしまったか。

 殺すと面倒だな。

 顔が治癒するようにイメージして、手をかざす。

 あっという間に顔が治っていく。


 ステータスのHP表示色が、赤から緑に戻った。

 これで一安心。

 便利な力だ。

 気に入ったよ。


 元気になったダニエルが、僕を見て逃げようとしたので、魔法で拘束する。

 便利だなぁ。

 いじめられている男を見たが、腰を抜かしていた。


「大丈夫かい? ここは、僕に任せて逃げると良いよ」


 男は僕に深く頭を下げて逃げていった。

 良いことをすると、気持ちが良い。

 大いなる力には、大いなる責任が宿るってやつだな。

 悪者はこれからも懲らしめていこう。


 これで放置すると、ヤツらはまたやるな。

 でも殴ると、手が痛くなる…。


 そこでひらめいた。

 3人に、手をかざして命令してみる。

 

「互いに殴り合え」

 

 そうすると、3人が泣きながらお互いを殴り合い始めた。

 そして3人のHPが減ると、回復してやる。


 エンドレスの拷問だな。

 だが、弱いモノいじめをするヤツらは、徹底的に怖さをたたき込まないと…またやるだろう。


 騒ぎを聞きつけて、村人が集まってきた。

 村長が3人を見て叫ぶ。


「3人ともやめんか!」


 そうすると、3人は泣きながら口々に叫ぶ。


「僕じゃない!」

「体が勝手に動くんだよ!」

「助けてくれよぉ!」


 DQNが泣きわめく姿は、実に爽快だ。

 僕の満足した顔を見て、村長が不審げな顔になる。


「ニキアス、お前がやらせているのか?」


 ニキアス? ああ、僕の名前だったか。

 さえない名前だなぁ。

 僕は、肩をすくめた。


「そんなところだよ。

馬鹿は体に覚えさせないと学習しないからね」


 おっと一人のHPが赤い。

 再び治癒する。

 腫れ上がった顔が元に戻る。


 その様子を見た村人たちがどよめく。

 村長が恐怖に満ちた目で、僕を見ていた。


「そろそろ、勘弁してやってくれないか。

これは拷問だろう」


 コイツは何を言っているんだ。

 今まで見て見ぬふりをして、今度は僕に指図しようと言うのか?


「いやだね。

後1時間は、罰を与える。

何もしない村長の代わりに…躾をしているんだ。

感謝してよね」


「まるで別人。

も…もしかして、使徒さまなのか?」


 使徒…? ああ、そんな記憶があったな。

 神から認められた、特別な人間が人知を超えた力を発揮する。


「多分…あっているよ。

別に欲しくて、手に入れたわけじゃないけどね」

 

 3人が泣きながら殴り合って、血が飛び散るのは、最初面白かったけど…。

 飽きたな。

 まるで弱いモノいじめだ。

 僕は、指をパチっとならす。

 

 3人の体が自由になってへたり込んだ。

 気がつけば、ズボンがぬれている。

 汚いなぁ。

 僕は、村長を一瞥した。


「止めたよ。

これでいいでしょ」


 村長が地面にダイブする勢いで、土下座した。

 村民全員もならって土下座した。

 村長が、肩をふるわせている。


「し、使徒さま。

ご無礼をお許しください」


 なんか僕が脅しているみたいで格好悪いなぁ。


「いいさ。

ただ、あんないじめを見て見ぬふりをするのは…とても感心しないね」


「ははーっ。

以後は必ず取り締まります。

平にご容赦を!」


 土下座までしているなら許してやるか。


「いいさ。

ところでいつまで土下座しているのさ」


 村人が慌てて起立した。

 村長が手もみしながら、僕に笑顔を向ける。


「寛大なご処置有り難うございます。

ニキアスさまのことは、教会に知らせてよろしいでしょうか」


 ああ、確か教会が認定すると、いろいろと特典があったなぁ。

 でも偉いところと関わると面倒なんだよな。

 僕の渋い顔に、村長が慌て始める。


「教会は力があります。

なにかとお役に立てるでしょう。

それと、教皇の姪は、とても美人な姉妹です」


 美人姉妹…。

 会うだけ会ってみるか。

 でも多分会った瞬間からほれられるんだろうなぁ。

 参ったなぁ。

 

 会った後で教会に利用されそうなら…逃げても良いか。

 この力があれば、何だってできる。


 僕の人生始まったな!

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