347話 後始末

 使徒襲来後に住民へのおわび行脚を始める。

 周囲からは止められたが、俺が許可を出した結果なので、後始末は俺の責任だ。

 訓練に関してはひどすぎたので、使徒が来たときは、急きょ中止にすると通達した。


 皆は、ほっとした顔をしていたので、最低限のケアはできたろうか。

 そんな中で、直接お祝いをする機会がなかったので、ロベルト家を訪問する。


 使用人がでてきて、俺を通してくれた。

 デスピナも一緒にきているとのことだった。


 2人の赤ん坊は、新婚旅行に出掛ける前に一度見せてもらった。

 赤ん坊を抱いているデルフィーヌは、俺に一礼した。


「領主さま、わざわざお越しいただいて…感謝致します」


 同じように、赤ん坊を抱いているデスピナも俺に一礼した。


「すみません、子育て仲間なので、最近一緒にいるケースがおおくて…」


「いえいえ、デスピナさんのところにも顔を出そうとしていたのです。

ちょうど良かったですよ」


 子育てで経験者がいると、デルフィーヌも心強いだろう。

 デスピナも仲間がいると、気持ちも楽だろう。

 俺は子育ての母親の苦労をしらないからな。

 適切な対処ができる自信がない。


 子育てが落ち着いたら、2人には別途相談しよう。

 子供の様子などを尋ねて、特に困ったこともないと聞いたので、安心して2人の元を辞した。

 単に、赤ん坊が泣き出してしまったので退散したわけだが。

 授乳の時間なら部外者がいるべきではないからな。


 そして大問題の使徒が、次にいつやってくるか。

 予想はつかない。

 

 個人だけならまだしも、オフェリーの妹が癖者だ。

 けしかけられてやってくる可能性が高い。

 


 辺境で困っている妻の姉を助ける。

 使徒が大好きそうなシチュエーション。


 この場合、俺はテンプレ的な悪徳領主なわけだ。

 そして、解放された領民は感謝して、ついでにキアラまで、ハーレムにいれる。

 暴虐な夫から解放されたミルは感謝する。

 そしてエルフからも、一人ハーレムに加入させる。

 そのあたりを、勝手に想像しているだろうな。


 頭が痛くなる。

 力のない一般人の妄想なら、キモいだけで済む話だけど。

 こいつは力を持っている。


 打てる手は打たないといけない。

 と言っても、ほぼ打ち終わっている。

 あとは微調整だけだ。


 微調整の一環として、マガリ性悪婆の元に向かう。

 市長の顧問なので、市庁舎の顧問室にいた。


「おや、坊や。

珍しいじゃないか」


 マガリ性悪婆のウインクは、悪巧みを感じる。


「ええ、ちょっとお話がありましてね」


「何だい、この前のことかい」


「ええ、どうせまた来るのは、目に見えています。

それは私が対処するから良いのですが…」


 マガリ性悪婆があきれ顔になった。


「しつこいお偉いさんだねぇ。

遠くから見ていたけど、隣についてる嬢ちゃんがネックだね」


 さすがに気がつくか。

 あれに操られていると。


「そうですね。

本人だけならここまで来ないと思いますけど」


「しかし、はぐらかすにも限界があるよ。

限度を超えたことをしでかすかもしれない。

そのときは、どうするんだい?」


 まあ、当然の疑問だよね…。


「ええ、それまでになんとかします。

それでお願いがあるのですよ」


「何だい。

悪巧みの片棒かい?」


「いいえ、後始末のほうです」


 マガリ性悪婆が、俺をいつになく真剣な目で見ていた。

 やがて諦めた様に、ため息をつく。


「危険物に対処は、一人でするのかい。

まあ仕方ないね。

それで、どうしろって言うんだい」



 俺のお願いを聞いた、マガリ性悪婆が、深いため息をついた。


「なるほど…分かったよ。

とんでもなく面倒くさい話を押しつけてくれるもんだ。

ところでさ…坊やの刃は、どこまで伸ばすつもりなんだね?」


「事態は思ったより深刻でしてね。

ちょっと見えないところまで、プスっとやろうと思っています」


「そこは内緒ってわけかい?」


 説明するわけにはいかないのだよ。

 こればっかりはね。

 俺一人で、墓場に持って行く話だ。


「たまにはミステリーがあっても良いでしょう」


 マガリ性悪婆は、フンと鼻を鳴らした。


「ヒントもない謎は、ミステリーとは言わないよ。

ただの怪現象さ。

しかし思い切ったことをする気だね。

世の中を揺らす気かい?」


 俺は、その言葉に肩をすくめた。


「虚構の枠組みで、世界は安定していました。

でもその虚構が、それ以外を認めないなら、虚構だったと知らしめるだけです。

放置してくれればこちらは、何もする気はなかったのですけどね」


 当初の想定から、大きく計算式が変わってしまった。

 それでも、使徒を信じる人たちを排除する気はない。

 排除しにくるなら、相応の対処をするだけだ。


「今は冗談のような話になってるけど…。

ドラゴンと交渉したなんて、話にもなってるしね。

坊やなら何をしでかしても、驚きはしないよ」


 表向きはドラゴンの話は隠してある。

 山の主のような精霊と話したとか、そんな話題もでている。

 なにせ姿を見たモノは、俺とミル以外いないからな。


「何にせよ、すぐにやってくることはないでしょう」


「ほう…。

その根拠は何だね」


「彼は見えっ張りなんですよ。

妹の姉に執着しているなんて、思われたくないのです。

3人の嫁がいるけど、女を欲しがっていると思われたくはない。

女性が勝手に言い寄ってくるから、仕方なくと言いたいのです

ここにくるには、大義名分が必要になります」


 マガリ性悪婆は、天を仰いだ。


「面倒くさいねぇ。

でも、その大義名分をお膳立てしたがるのがいるんだろ」


「ええ、それはもちろん」


「しかし…、そんな執着しているモノを入手させたら、自分たちへの愛着が減るんじゃないかね?」


 普通の感性では理解できないだろう。

 理解はできる俺も…ある意味同類かもしれんが。


「自分のモノと思っている人が離れると、執着するんですよ。

ただ…手に入れたら、すぐ飽きます。

損をした気分になっているだけですから。

でも他人には取られたくないから、キープだけしておきます。

そして所有心を満足させないかぎり、自分たちへの寵愛が減るのです。

他のハーレム予備軍から見ればつけいる隙になるのですよ」


 マガリ性悪婆は、渋い顔になった。


「まちなよ、珍しく説明が飛んだね。

所有心を満足させないかぎり、なんで元の連中への寵愛が減るんだい?」


 しまったな。

 ついはしょってしまった。


「ああ、それはですね。

自分のモノになりたがらない。

その原因が、自分にあるとは思わないのです。

つまり、ハーレムメンバーが、妨害をして嫌がっていると思い込むのですよ」


「聞くんじゃなかったよ。

しつけのなってない子供の話なんて、不愉快なことこの上ないさね」

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