346話 閑話 オフェリー・ルグラン 6

 町の驚きになれたころ、キアラさまからの使者がきた。

 3日後にアルフレードさまが戻ってくると伝えられた。


 当日になって馬車のお迎えがあったので、それにのって港に向かう。

 

 複数台の馬車が、港に移動するが私の同乗者はいない。

 ここでは、私はまだよそ者だと実感する。


 港についたので、アルフレードさまを待つ。

 しばらくすると船が入港してきた。


 そこから降りてきたのは、とても地味な少年と、エルフの女性だった。

 アルフレードさまと、その奥方のミルヴァさまだろう。


 ミルヴァさまは、エルフの例に漏れずとても美人だ。

 外見だけなら2人は釣り合っていない。

 でも…2人を見ると、ミルヴァさまのほうが熱烈にほれているように見えた。

 

 そして驚いたことに、キアラさまはアルフレードさまに抱きついた。

 周囲は平然としていたので、いつものことなのか。


 そして全員との挨拶が終わったので、私はアルフレードさまとミルヴァさまに、挨拶をする。

 アルフレードさまは、丁寧に対応してくれたが、私のことを観察しているようだった。

 ちょっとだけ落ち着かない。


 とにかくアルフレードさまから、後任の業務についての話をもらえた。

 シルヴァーナさんから、2人きりで話すようにお願いすると良いと言われた。

 別に隠すことはないのだけど…。

 少なくとも、その提案を断る根拠がなかったので、言うとおりにしよう。

 

 シルヴァーナさんから、アルフレードさまと会話するときのポイントは、教えてもらっていた。

 そのあとすぐに、屋敷から使いが来た。

 思ったよりずっと早い。



 アルフレードさまの屋敷に向かい、教えられたとおり2人での会談をお願いすると、あっさりと承諾された。

 別室で改めて対面する。

 アルフレードさまの見た目は地味で、切れ者にも見えない。

 ただ、私を観察する視線には不思議なものを感じた。

 演技や嘘を見抜くような静かな視線。

 マリーの天敵かなと思う。

 嘘をつく気はないけど…うかつな発言は、命取りになるのではないか。

 不安になると視線が動いてしまう。


 さらに居心地が悪くなったのは、その視線の動きまで観察されていると気がついたからだ。

 ともかく、シルヴァーナさんに教わった会話方法で、ペースを取り戻そう。

 まず、名前で呼んでもらう。

 シルヴァーナさんは、そうしないと距離を取られたままになると言っていた。

 距離を詰めないと、礼儀正しく対応されて表面的なもので終わると。

 そしてアルフレードさまが、疑問に思うことは正直に答えるようにとも。

 

 心底驚いたのは、選別落ちの話をしたときだ。

 

「オフェリーさんが選ばれなかったのですか。

正直意外ですね」


 私が選ばれると思っている。

 お世辞ではないのは、すぐに分かった。

 アルフレードさまは、基本的に穏やかで感情が動かない。

 それが、少し驚いた顔をしていたからだ。


 お世辞や演技なら、もうちょっとオーバーだろう。

 そのあとは選ばれない理由を突っ込んで聞かれた。

 いくら、正直に話すにしても、使徒さまをダメだと思ったとは言えない。


 納得してもらえそうな理由を話す。

 とってつけたような理由だけど、それが本心ではなかった。

 だいたいの人は、これで納得してくれる。


 ところがアルフレードさまの追求は止まらなかった。

 一部でも本心を話さないと、追求は止まらないと直感してしまう。

 この人の前で、嘘やごまかしはとても難しい。

 もし、この人が使徒さまだったら、マリーは絶対に選ばれないだろうな。

 そしてものすごく恨むだろう。

 そんな直感はした。


 アルフレードさまに納得してもらうため、ギリギリの言葉を選ぶ。

 だが、あの光景を思い出すと…自然に嫌な感情がわき上がった。

 そしてつい口走ってしまった。


「オモチャを独り占めして見せびらかしたがる…、そんな子供のような顔でした」


 シマッタと思ったが、アルフレードさまは気にした様子もなく…納得したようにうなずいた。

 それでも話は、私の希望どおりには進まなかった。

 顧問は無理だ…との説明に反論できる材料がなかったからだ。


 そのあとの話は、微妙にかみ合わなかった。

 アルフレードさまは、私が無理に働く必要はないと言っている。


 だが、それではダメだ。

 受け入れてもらうには、ここで働かないと。

 それに何もしないで、面倒を見てもらうのは気が引けた。

 アルフレードさまは、私が教会から給料をもらっていると勘違いしていたらしい。


 だが、教会は私に罰を与えるつもり。

 なのでラヴェンナから給料をもらえ…そう言われたと伝える。

 その話をすると、さすがにあきれた顔をしていた。

 私にではなく教会にだろう。


 そのあとで、アルフレードさまが歩み寄ってくれたので、治癒術の先生の仕事をもらえた。

 会談の成果は得られたので、個人的に確認したいことを尋ねる。


「教会にいたときは、何も言われませんでした。

ここに来てから、私が変だと言われたのです」

 


 シルヴァーナさんの名前を出したあとのアルフレードさまの顔は…心底面倒くさそうにしていた。

 友達とは本当なのだろうか…。

 でもそのあとは、本当に丁寧に私のことを聞いてくれた。


 私のことを知ってもらうために、服を脱いだのだが…。

 焦っていたのか、私が本当に変なのだろうか。


 アルフレードさまは、本心から慌てて頭が痛いような顔をしていた。

 私のことを、変だと確信してしまったのだろうか。


 それでも丁寧な質問は変わらなかった。

 こんな形で、私の話を聞かれたこともなかった。

 言われるがままに答えて、疑問をぶつけた。


 そして今まで持っていなかった、自分の価値観を持つようにとも言われた。

 なにより、私の生きる方向性を示してもらえたことは、とてもうれしかった。



 そのあとの学校でも、不慣れで戸惑った部分があったが、子供の一人が私を助けてくれた。

 お礼を言うと、その子はアルフレードさまに頼まれたと笑っていた。


 詳しく聞くと、前も似たようなことを頼まれたとも。

 とても親切な人なのだろうか。


 下心があるとは思わない。

 町で聞いた話でも、奥さま以外の女性を欲しがらないと有名だったからだ。

 


 使徒さまのためでなく、自分のための人生はとても新鮮で充実していた。

 ところが後日届いたマリーからの手紙が、私を夢から現実に引き戻した。


 ユウさまが、それとなく私の話題を出す。

 そして不機嫌な時間が増えている。

 ユウさまの機嫌を直してもらうことが必要になった。

 つまり、私がユウさまに、非礼を謝罪してハーレムに入れてもらうのが良い。

 拒めば、今いるラヴェンナにも迷惑が掛かる。


 頭が真っ白になった。

 でも、私にはどうしようもない。

 アルフレードさまに、報告をすることだけで、頭がいっぱいだった。

 

 

 報告したあとで、アルフレードさまは私の意思を聞いて尊重してくれた。

 ユウさまが、私を差し出せと言っても断ると言われたときには、頭が混乱した。

 そんな危険を冒す人は、この世にいない。

 この町を見れば分かるけど、格好つけるためにリスクを引き受ける人じゃない。

 なぜ…そこまでしてくれるのか、全く理解できない。


 そのあとは、もう自分で、どうなったのか分からなかった。

 気がつけば、ミルヴァさまとキアラさまに付き添われて、別室にいた。

 泣いていたと気がついたのは、そのときが初めてだった。


 とても恥ずかしくなったが、ミルヴァさまが私に言った言葉は分からなかった。


「オフェリーさん、あれで、アルにほれちゃったらダメよ。

いつもの手だからね。

本人は無自覚なんだから」


 キアラさまもあきれ顔だった。


「口説いてないから悪質なのですわ。

本人もその気がないから止めろとも言えませんの」

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