331話 相性最悪
帰りは特に特筆すべきこともなく、無事ラヴェンナに帰還。
港でわざわざ出迎えが待っていた。
わざわざ待って無くても良いのに…。
予想どおりキアラを筆頭に、一同が待っていた。
その中に見かけない顔があった。
若い女性だな。
つまりは、先生の後任か。
キアラが、満面の笑みで俺に抱きついてきた。
「お兄さま、お帰りなさいませ」
「ああ、ただいまキアラ」
皆にも、帰還の挨拶をしたが、最後に噂の後任と目が合った。
金髪のアップスタイル。
青い目の色白で、切れ長の瞳の美人だ。
町ですれ違えば男が振り向くタイプ。
だが…冷たいと言うか、感情の起伏が少ないと言うか、美人だけどモテないタイプか。
と勝手に失礼な感想を持ってしまった。
その女性が、俺に一礼した。
「アルフレードさま、お初にお目に掛かります。
ビスコンティ博士の後任を拝命しました、オフェリー・ルグランと申します」
声もわりと起伏がなく、事務的な感じがする。
つまり、愛想が全くない。
だが、この任務が嫌だとか…そんな感じはしない。
もしかしたら、これでも精いっぱい愛想を振りまいているのかもしれない。
俺も、一礼を返す。
「これはご丁寧にどうも。
ようこそラヴェンナへ。
私がアルフレード・デッラ・スカラです。
後任の業務につきましては、後ほどお話しましょう」
「承知致しました」
これまた、癖の強い人が流れてきたなぁ。
そう思っていると、オフェリーは、ミルにも一礼した。
「お初にお目に掛かります。
ミルヴァ奥さま。
以後よしなに」
ミルもこのイントネーションの起伏がないことに驚いていたが、すぐ我に返って礼を返した。
ママンに教わって、そのあたりの作法は、ちゃんとマスターしている。
めったに使う機会がないから忘れてたよ。
「こちらこそ、ルグラン殿」
町に戻る時に馬車に乗り込む。
いつものようにミル、キアラと3人になる。
「彼女が後任さんですか」
キアラが珍しく疲れた顔をする。
「はい。
あの人は変に押しが強いんですの…。
しかも表情の変化が乏しいから、相手をして疲れます…」
ミルはそんなキアラに、優しく笑いかける。
「ご苦労さま。
今日からアルが、盾になってくれるから大丈夫よ」
「ええ、お兄さまバリアーの有り難みを思い知りましたの…。
だからお兄さま分の補給をさせてください。
デートしましょう! デート!」
ミルがジト目になった。
「ちょっと! どさくさ紛れに、アルを取ろうとしないの!」
以前はまたか…と思っていた。
でも…こんなやりとりも大事なのだろうな。
「まあ、1カ月頑張ってくれたんです。
1日くらいなら良いですよ」
キアラが、満面の笑みを浮かべた。
「まあ、うれしいですわ!」
ミルは笑いながら、小さくため息をついた。
「ほんとアルはキアラに甘いんだから…。
1日だけよ」
ミルの念押しに、キアラが頰を膨らませる。
「お姉さまは1カ月もお兄さまづくしだったのですから、私にもっとくれても良いじゃないですか」
「だ・め・よ」
そんな、馬鹿な話をしながら屋敷についた。
では、後任問題に着手しますか。
俺に呼ばれたオフェリーが執務室にやってきた。
「ルグラン殿、先生の業務を引き継ぎたいとのことですね」
オフェリーは特に、感情の変化もみせずにうなずいた。
「その件につきまして、2人きりでお話しできないでしょうか?」
2人だと? 何か特別な任務があるのか? こんな所に密命か?
とにかく話を聞くか。
「分かりました、ではこちらに」
オフェリーを応接室に案内する。
お互い着席して、オフェリーの様子を見る。
落ち着き払っている…のか読めない。
「ルグラン殿、内密の話とは何でしょうか?」
オフェリーは無表情のままだが、微妙に視線だけ左右に動いている。
何なのだこの人は。
「オフェリーとお呼びください」
何か話がかみ合わない。
マイペースなのか、実はただの変人なのか?
「あ、はい。
では、オフェリーさん。
理由をお聞かせ願えますか?」
オフェリーは無表情のまま、視線だけ動いている。
この違和感は、アンドロイドのそれか?
「はい、私が来たことを、いぶかしく思われているでしょう」
コミュ障か? どうにも読めない。
「そうですね。
前教皇
オフェリーの姿勢は微動だにせず、視線だけが下を向いた。
めっちゃ落ち着かない…。
これは、キアラが手こずるはずだわ…。
「はい」
いや、そこではいじゃないだろ…。
何でそこで言葉が終わるんだよ!
明日にすれば良かった。
思わず後悔してしまった。
重ねて聞こうとしたが、ちょっとだけ気がついた。
視線だけはよく動くな。
俺の視線に気がついて、オフェリーの目が少し細くなった。
「ここへは私は望んできました。
特に裏の意図はありません」
この独特のテンポは、慣れないと厳しいな。
「それなら内密でしなくても良いと思いますが」
「私は選別落ちです。
既に教会の中心には、居場所がありませんでした。
それならばいっそ、辺境の仕事が空いていましたのでちょうど良いかなと」
理論が飛びすぎているぞ…。
そのアクロバット理論を補完しながら話さないとダメか。
使徒の恋人には選ばれなかったと。
見た目は美人だし、変な子だけど、かえって庇護したくなって選ばれそうなものだが…。
「オフェリーさんが選ばれなかったのですか。
正直意外ですね」
オフェリーは初めて驚いた表情になったが、すぐ無表情に戻った。
「そう言われたのは初めてです。
お世辞や同情でなら、何度も見ましたが、アルフレードさまは本心から思っていそうですね」
そりゃそう思ったからだが。
「本心ですよ。
下手な同情は無益でしょう」
またオフェリーは、視線だけを左右に動かしている。
「妹が選ばれました。
教会から2人は選ばれない決まりとなっています」
妹がいたのか。
決まりといっても使徒がその気になったら、2人でも可能だろう。
「ですが…使徒が、強く望めば何人でも選べるでしょう」
「妹の後で、私もと言われました。
『姉妹をセットで収集したいのであれば、他をお選びください』と答えたら、不興を買ってしまいました」
もしかして、本人は別の意図で言ったけど、言葉の選択を致命的に間違ったのか?
「えーっと、オフェリーさんは選ばれたかったのですか?」
「分かりません」
どこまでもかみ合わない会話…。
何か、原因がありそうだが…。
「妹さんと一緒には選ばれたくなかったのですか?」
「いえ、そんなことはありません」
「ですが先ほどの言葉だと、一緒は嫌だと聞こえますが…」
オフェリーの視線運動が早くなった。
予想外だったのか?
「そうなのですか? 妹を選んだから、ついでに姉も…で選ばれるのは嫌でした」
そっちの理由か…。
致命的に、誤解を受けるタイプだこれ。
しかも使徒なんて、自分の聞きたい言葉しか聞かないだろう。
相性最悪だな。
「ああ…それなら分かりました。
ちゃんと意図は通じたと思いますよ」
「いえ…実はそれでも良いと思っていたのですが、使徒さまが私ももらっておくと言われたときの顔を見て、反射的にあの言葉が出てしまいました」
本心では嫌だけど、役目では仕方ないというやつか?
「どんな顔をしていたのですか?」
初めて声に辟易した感情が交じった。
「オモチャを独り占めして見せびらかしたがる…そんな子供のような顔でした」
この子は、よう分からんな。
鋭いのか抜けているのか…。
もしかしたら、教育や環境が良くないのかもしれんな。
本腰入れて、話を聞かないとダメだなこれは。
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