263話 世界に広がる親戚の輪

 夜はこの絡まった糸の説明会になる。

 部屋にいるのは3人だけ。


「ここからは使徒関連の話になるから、ちょっと公の場で言えなくてね。

婚姻の糸が絡まった話までは大丈夫かな」


 ミルは俺の問いにうなずいた。


「親戚だらけって面倒ね……」


「その話は、あとでまたでるから、一旦横においてくれ。

今起こっている現象が、社会の硬直化なのさ。

使徒のリセットが怖くて、大規模な改革はできない。

真っ当な改革ですら、使徒の恋人の実家が損をすることがあって、使徒に改革をつぶされたのさ」


 キアラは口の端を歪ませて、小さく肩をすくめる。


「使徒は政治を知ろうとしません。

歴代の使徒は全員『政治は汚いし関わり合いたくない』と言っていたそうですわ。

まったくノータッチならいいのですけど……。

恋人やハーレムの親族に不都合があれば、介入してひっくり返すのですわ。

ただひっくり返すだけで、とくにそのあと利益誘導はしませんけどね」


 これは、転生前の思想に引きずられているのだろう。

 アニメにでてくる政治家や官僚は、私腹を肥やしているか無能なケースが多いからな。

 いなくてもいいような描かれ方をする。

 現実にはいないと今の生活ができないことに気がついているのか。

 いたとしても、馬鹿に政治を任せると、どうなるのか……。


 キアラの話にミルは不快な顔になる。

 

「私も今の仕事していないとわからなかったけど……。

汚いとか関わらないで済む話じゃないわよ。

ちゃんとしないと皆の生活が大変になるわ」


 このあたりは、実際にやらないとわからないよな。


「この親族に不都合があれば介入。

ここでのキーになるのさ」


 ミルが首をかしげた。


「でも使徒のハーレムって、数に限界があるでしょ」


 キアラは苦笑して指を振る。


「介入は直接の親族に限らないのですよ。

ハーレムの親族にも、親戚がいますわ。

親戚が親族を頼って、ハーレムから使徒にお願いが届く仕組みですの」


 ミルはあきれた感じで、ため息をついた。


「それで親戚の網が広がるのね」


 俺は人さし指を立てる。


「もう一つあるのさ。

使徒は過去の問題もひっくり返す話をしたろう。

とはいえ人の世は、ずっと同じ構成のままとはいかない。

当然、いざこざや小競り合いも発生する。

小競り合いでえた成果をリセットされたくない。

どうすると思う?」


 ミルはお手上げ、と言いたげな表情。


「わからないわよ。

使徒に取り入るしかないけど、限界があるし」


「未来の使徒に訴えられないようにする。

つまり、その一族や関係者を根絶やしにするのさ」


 ミルが心底驚いた顔になった。


「そこまでするの?」


「過去にあったのさ。

それで無事に権益を確保できたんだ。

そうなると、いつ自分たち根絶やしにされるかわからない。

身を守る必要がある。

つまり親戚関係を広げて身を守ろうとする。

関係が広がると、根絶やしなんて不可能になるからね」


 ミルは顔をしかめたが、すぐに何かに気がついた顔になった。


「固定化される理由はわかったけど、ここの前の領主って改易されたんでしょ。

子孫が使徒に訴えたらまずいんじゃないの?」


「いいところに気がついたね。

ところがさ……。

とにかく固定すればいいわけじゃないのさ。

明確な怠慢や不手際があっても、現状維持を続けたこともある。

だがその領地の民がハーレムに加入。

すると、どうなるか」


 キアラがミルに人の悪い笑いを向ける。


「使徒が領主と王家に、懲罰を加えましたの。

その使徒は、善意でやったのでしょうけどね。

ここに明確な失政は処断しないとダメという前例が加わりましたの。

話はそれで終わりませんわ。

没落した一族の子孫が、ハーレムに加入しました。

先祖への処断がいきすぎると訴えると、また使徒介入ですわ」


 ミルがあきれた顔になった。


「じゃあ……どうしろっていうの?」


「そこで使徒と関連が深い教会の出番ですの。

改易などの大きな処分は、教会にお伺いを立てるのですわ。

そんな過去の判例を教会は保存しますの。

使徒にそれを見せて、前例をひっくり返さないようにお願いするのです。

使徒はお願いされると鷹揚に認めますわ。

使徒降臨中の裁定は、教会が使徒にお伺いを立てます。

使徒は面倒な話が嫌いだから、教会に任せてしまいますの」


「今度は教会まででてくるのね……。

こんなに世の中おかしいなんて思ってもいなかったわ……」


 俺はミルの憤慨に同意のうなずきを返す。


「俺も領主やることになって、父上からはじめて教えられたのさ。

領主以外に教えても、混乱の元になるからね。

とはいえ、教会の介在はそう悪いことじゃないんだ。

今までは使徒が変わるごとに、状況をひっくり返された。

教会が管理することで一貫するようになるからね」


「アルの顔をみたらそれだけで済まないって、顔をしているわよ……」


「さすがに見抜かれるか。

今度は教会に有利な裁定をしてほしいから、寄進や教会首脳の親族との婚姻が……」


 ウンザリした顔のミルに止められた。


「あ~もういいわ! 親戚まみれじゃない……」


 キアラがミルの様子に笑いだしてしまった。


「ですからお兄さまは、法治を掲げているのですわ。

現状だと親戚の強さと裏工作で、すべてが決まりますもの。

ただ……親戚関係が絡まりすぎて、効果がはっきりしないですけどね。

でも、止めたら危険。

結果としてカオスになりすぎて、お兄さまですら把握するの諦めましたものね」


「ムリなことを考えても仕方ないよ……。

未来に生まれるかもしれない物好きに任せるさ」


 系図を専門に調べる学者でないとムリだ。

 領主と兼任では絶対不可能さ。

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