261話 閑話 賢者の呼称
当事者は悲惨だが、外から見れば喜劇。
あまりのひどさに乾いた笑いがでそうになる。
有り難いことに、賢者さまは物資も置き去りにしてくれたので、装備と兵糧の補充ができた。
賢者さまからのプレゼントだと思うことにしよう。
まずは脱水症状で倒れている魔族の治療をする。
捕虜は武装解除した上で、一カ所に固めないようにして収容することを指示。
魔法を封じるマジックアイテムはあるが、さすがに100人以上の捕虜をカバーする数なんてない。
とはいえ、大将が敵前逃亡というミラクルをやったので捕虜は完全に戦意喪失している。
指揮官クラスだけが逃亡して一般兵は全て取り残されたらしい。
さすがに、気の毒になる。
捕虜の後送に200人ほどを割かざる得ないが、この際仕方ない。
俺はプリュタニスを伴い、残りの600名で救援に向かう。
恐らく、城攻めをしている敵は撤退しているだろうが…籠城組は賢者さまが逃げたことをしらないだろう。
プリュタニスはずっと微妙な顔をしていた。
「まさか、あんなことをするとは…」
「あれは予想外だ。
敵前逃亡は生まれて初めてみたぞ」
「この話を聞いたアルフレードさまの表情を想像しただけで、怖いですよ」
「一体なにを怖がるんだ?
叱責されることはないだろう」
プリュタニスが頭を振った。
「散々、賢者対決とかあおってこのザマですよ。
とんでもない間抜けだと思われかねません。
過去に戻って自分の口をふさぎたい気持ちで一杯ですよ…」
黒歴史ってヤツだな。
「御主君はそう思わないだろう。
プリュタニスのことは評価しているさ」
「それだと良いのですけどね。
せめて表情で分かれば良いのですが…アルフレードさまは基本的に表情を変えないから怖いんですよ」
ついつい笑ってしまう。
「学んで成長することだな。
いい勉強になったろう。
そんなに悩むなら、良い対処法を教えてやるぞ」
プリュタニスの目が輝く。
「なにかあるのですか!?」
俺はニヤリと笑う。
「若者よ、女を抱け」
プリュタニスの唖然とした顔がおかしくなった。
ポンシオが籠もっている城が見えてきた。
魔法を派手にぶち込まれたのか、城壁はボロボロだ。
落城はしていないな。
ひとまず安心か。
ぱっと見で周囲に敵はいない。
念のため、斥候をだして周囲に伏兵がいないかを探る。
敵はいないと報告を受けたので、城に向かう。
念のため斥候をまず城内に送って確認をさせる。
斥候が城門に到達すると、すぐに開門した。
城兵は無事と斥候から報告を受けたので、軍を率いて城に入る。
城に入るとポンシオが出迎えてくれた。
「よう、無事でなによりだ」
籠城で多少疲れが見えるが元気なようだ。
「代わりに城はボロボロですがね。
救援感謝します」
ポンシオに状況を確認したところ、やはり2日ほど前に魔族は退却したそうだ。
「この城の補修をする暇はなさそうだな…いったん放棄すべきか」
ポンシオがうなずいた。
「そうですね、本気で攻撃されたら、もう持たないでしょう」
俺はここを引き払って防衛ラインを引き下げる決断をする。
無理に維持をしようにも、飛び地で無理がある。
それに、戦略上譲れない要地でもない。
「お引っ越しだな。
第2都市の近くに城があったろう。
そこを防衛ラインにする。
ここにまたくるのは態勢を整えてからだ」
道路のインフラも未整備で兵站の維持も困難。
捨てるのも勿体ないからと、部隊を駐屯させたが失敗だったか。
「ロッシ卿、親父に無事を伝えてよろしいですか?」
「ああ、早く伝えてやれ」
ポンシオが指示をだすと、伝令が出て行った。
プリュタニスはちょっと考え込んでいた。
「この城は周囲から完全に孤立していますね。
周囲との連携が容易にならないと、簡単に攻略されそうです」
「ああ、別の場所に築城したほうが良さそうだな。
しかし、籠城の指揮は初なのに耐えきったか。
ポンシオに才能があるのかもしれんな」
ポンシオは照れたように頭をかいた。
「敵が本気で攻めてこなかったからですよ」
プリュタニスはポンシオに笑いかけた。
「ですが、城兵の統率ができているなら十分優秀ですよ。
一番大事なのはそこですからね」
この件はこれで済んだと考えるべきか。
賢者さまの行方はしれない。本気で探す気もないのだが。
無理に捜索をする必要はない気がする。
「賢者さまは放置で良いだろう。
普通に考えたら、領地に戻っても敵前逃亡罪で処刑だ。
必死に探す必要もない。
では、明日引き上げるとしよう」
全員がうなずいた。
しかし…俺たちの領内で今後、賢者の呼称は相手を馬鹿にする言葉になるな。
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