249話 祭りのあと

 筋肉祭りに巻き込まれたら面倒なので、2人を強引に連れて服屋に駆け込んだ。

 筋肉祭りは外から見ているのが楽しいのだ。

 

 俺の立場では絶対に巻き込まれる。

 許可を出した手前、ミルとキアラはバツの悪い顔をしていた。

 ミルが珍しく頭をかきながら困った顔をしていた。


「えーっと…来年からやめさせる?」


 キアラもひきつった顔を浮かべていた。


「仕事に追われて、祭りの出し物の中身なんてノーマークでしたわ」


 思わず苦笑してしまった。


「いえ、皆が楽しんでいるのを、無理に止めさせるのはやぼってものですよ。

誰に迷惑を掛けてるわけでもないですし、女性陣のストレス発散になるなら良いでしょう。

死傷者がでるものは許可できませんが。

それより、服を買ってしまいましょう」


 ミルとキアラは安心した顔になって、すぐに気分を切り替えたのか店の中に進んでいった。


 前門の服選び、後門の筋肉。


 脳内で平家物語を暗唱するつもりが、上海パワースラムの曲に合わせての暗唱になった。

 転生前に一通りやっていたのが仇になった…。


 祇園精舎の鐘の声(ハイ!ハイ!ハイ!)

 諸行無常の響きあり(ハイ!ハイ!)



 そんな中、謝肉祭は終わった。

 翌日は祭りの最終日。

 執務室に俺は引きこもると決めた。

 だが、領主となれば来客は来る。


 工房に引きこもっているはずのオニーシムがやってきた。

 レベッカともめでもしたのか?


「アレンスキー殿、どうかされましたか?」


「ああ、一つ要望があるのだ」


 わざわざ聞きに来る要望…規模が大きい話か。


「なんでしょう、可能な限り受け入れたいと思います」


 オニーシムが髭をいじりながらニヤリとした。


「石鹸の話で、ワシに発破を掛けたことを覚えているだろう」


 俺もニヤリと笑い返す。


「ええ、勿論」


「そこで、今まで使徒がやってきたものをわれわれの手で実現できるか。

そう考えた。

ちょうど、マジカル顧問が使徒学の博士だからな。

酒瓶一つでペラペラしゃべってくれたわい」


 マジカル…ああ、俺がそんな名前をつけたな。


「それで、なにを再現しようと思ったのですか」


 オニーシムが胸を張った。


「男の浪漫、爆発だ」


 爆薬…だと。


「実現の見込みはあるのですか?」


 オニーシムがあきれた顔をした。


「そんなものやってみないと分からん。

御領主がいっているだろう。

失敗を恐れるなと」


 いきなりそこに飛躍するか。

 でも、否定する理由を俺は持ち合わせていない。


「では町の外に安全を重視した施設を造りたいのですね」


「話が早いな。

さすがに子供たちには危なすぎるからな」


 確かになぁ。


「分かりました。

危険物研究所の建設を許可します。

ところで、レベッカさんはどうです?」


 オニーシムがあきれた顔をした。


「1日かそこらで分かるわけないだろう。

少なくともけんか腰でなかった。

なんとでもなるだろう」


 ああ、そうか結論を急ぎすぎた。


「おっしゃる通りですね。

では、そのまま計画を進めてください」


 爆薬か、工事用になって行き着く先は軍事利用か。

 自分たちで歩き出したなら、無理に止めることもない。

 人体実験までいったらさすがに止めるが…。

 しばらくは経過を注視すれば良いだろう。

 そんなすぐに実用化はできないしな。


 オニーシムが退出したあと、キアラに俺は用件を頼むことにした。


「キアラ、耳目が忙しくなります。

新領土を含めた、全領土の情報を精査してください。

あと、総督であるオラシオ殿にも耳目を数名派遣してください。

彼も情報が必要でしょう。

そこで指示を受けるようにと。

私との直接的なパイプでもあります」


 キアラはうれしそうに強くうなずいた。


「分かりましたわ、祭りも終わりますし、ちょうど良いですわね。

あと、騎士団長の叙任方式も本家からきましたの。

こちらで、式典については決めますので裁可だけ下さいね」


 式典にたいする俺の無関心を知っているからだろう。

 有り難い話だ。


「そちらは任せますよ。

それより祭りが終わってから、統治体制の変更に着手します。

その話を前もって説明しておきます。」


 ミルとキアラの顔が真面目モードになる。

 補佐官たちもかなり緊張しているようだ。


「まず、現在の代表者会議の業務と人員を変更します。

ラヴェンナ地方全体を見渡した部署は私の直轄です。

これは、各省庁の大臣と数名のオブサーバーから構成します」


 ミルはちょっと考え込んだ。


「アルが不在のときに、私たちがやっていたことを切り離すの?」


「そうですね、大体そんなイメージですね。

日常の都市の運営は、市長を選任して任せます。

そこに従来のように代表者をいれて、市の運営に当たってもらいます。

省庁からの人員も派遣する形ですね。

細かい話は明日の代表者会議で説明します」

 

 キアラが首をかしげて、俺を悪戯っぽい目で見た。


「お兄さまがそのような言い方をされるときは、あくまで基礎なのですね」


「ええ、あまりに明確にしすぎると皆パンクしますよ。

慣れてきたら手直しをしていく形です」


 キアラはうなずきつつ、ミルに悪戯っぽい視線を向けた。


「その市長さん、大変ですわ。

経験から考えたらお姉さまが適任でしょうけど」


 ミルの顔から表情が消えた。


「はい? キアラも適任よね? 私はアルの妻として他にもやることがあるのよ」


 またもめる前に制止しないと駄目だな。


「いえ、2人ではありません。

初代は決めていて、当面は4年努めてもらいます。

任期は手直しが必要だと思いますが…。

2代目以降は、市の代表者たちの中から互選してもらいます。

祭りのあとに私からの贈り物ですよ」


 ミルにジト目で見られた。


「アル、実は謝肉祭のこと根に持っている?」


 いや、全く関係ないよ。

 俺が巻き込まれない限り、あれは好きにして良いよ…。

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