245話 マジックアイテムの原理

 祭りは予想どおり、らんちき騒ぎになっている。

 羽目を外すのも良いけどさ、どうも話の中心にいるのが落ち着かない。


 ミルに引きずられて、あちこちを回る羽目になった。

 あれだけ苦労を掛けたし、こんなことで喜んでもらえるなら良いか。


 そんな中、ちょうどクリームヒルトと鉢合わせた。

 デスピナと2人だ。


 アルシノエはマノラにひっついているのかな。

 2人は俺に挨拶をしてきたので、俺とミルも挨拶を返す。


「クリームヒルトさん、ちょうど良かった。

お伺いしたいことがあるのですよ」


 クリームヒルトはからかうような顔になる。


「領主さま、奥さまがいるときに女性に声を掛けて良いのですか?」


 ナンパじゃねぇよ!


「私の愛する女性はミルだけですので、ナンパは必要ありませんよ」


 ミルが赤くなって慌てだした。


「ア… アル! 信じているから疑ってないわ。

それにわざわざ人前でいわなくても良いわよ!」


 クリームヒルトとデスピナが顔を見合わせて笑いだした。

 デスピナも悪戯っぽい顔をした。


「ジラルドもたまには、これくらいキザな台詞をいってくれても良いのですけどね」


 イメージに合わないぞ。


「よろしければ、そこの茶店でお話を聞かせてもらえますか?

デスピナさんもよろしければ一緒にどうですか?」

 

 クリームヒルトとデスピナがうなずいた。

 


 近くの茶店に座って、適当な飲み物を頼む。


「お聞きしたかったのは、魔族はマジックアイテムの生成とかは得意なのかなと」


 ミルが天を仰いだ。


「ナンパかと思ったら、仕事の話題に代わったのね。

相変わらず慌ただしいわよ…」


 信じてるって、いったじゃねぇか。

 ナンパじゃないし。

 クリームヒルトに笑われてしまった。


「ええ、得意ですよ。

何か作りたいものでも、あるのですか?」


「ええ、原理が分かれば方向性を指し示せるかなと」

 

「どんなものですか?」


 ちょうど飲み物が運ばれてきたので、まずは一口つけた。


「特定の人と遠距離でも話せる道具です。

それか遠くの音声や映像を送ることができればなお素晴らしいですね」


 クリームヒルトは少し考え込んだ。


「それだと、原理を説明して方法を考えてもらうほうが良いですね。

使い魔の役割をものに持たせるイメージですよね」


「ええ、そうです。

ぜひ、マジックアイテムの原理を教えてください」


 思わず身を乗り出してしまう。

 ミルが俺を見て苦笑した。


「知りたがりが始まったわね…アルが楽しいなら良いわよ。

私も付き合うわ」


 クリームヒルトがほほ笑んだ。


「本当に仲の良い夫婦ですね。

では、マジックアイテムは使用者の魔力を媒介して魔法を発現する。

まずこの認識はご存じですか」


「それは知っています。

使用者の魔力を減衰させずに通せるから、水晶が高価ですね」


「それとは別に、制作者のイメージを封じ込める触媒が必要になります。

水晶と組み合わせが悪いと、触媒に魔力が通らなくて使い物になりません」


 触媒は付与する魔法によって、適切なものが変わるんだったな。


「その程度までは知っています。

基本一方通行なんですよね」


 クリームヒルトは満足げにほほ笑んだ。


「その通りです。

一つのアイテムで、双方向の効果を持つものはありません。

使い魔から情報を得ているのも、実は一方通行なのですよ」


 ほう、それは初耳だ。


「使い魔から発信されていると思いましたよ」


「いえ、耳と目から入ってくる情報を使い魔の目と耳につなげてしまいます。

だから得られる情報は使い魔のそれになるのですよ」


 ミルの索敵とは違うようだな。

 あれは植物が勝手に教えてくれるからな。


 俺の視線を感じて、ミルがいわんとすることに気がついたようだ。


「そうね、エルフの植物とつながるのとはちょっと違うわね。

変な言い方だけど、植物は猫が鳴いて教えてくれる感じよ」


 情報のやりとりは一種類じゃないのだろうな。


「生き物とはそうやって情報のやりとりが可能なのですよね。

問題は生きていないアイテムに、どうやって情報を受け取らせるかですね」



 黙っていたデスピナが身を乗り出した。


「あの…私の知っていることを話しても良いでしょうか」


 違う視点の考えは大歓迎だよ。

 それが突破口になるケースも多い。


「ええ、ぜひ聞かせてください」


「冒険者時代のことですけど、普通と違うものを見たことがあります。

普通とは使用者が魔力を流し込んで、魔法を発現させるアイテムです」


 俺の好奇心アンテナがピンと立った。

 思わず前のめりになる。


「それでそれで?」


 デスピナは少し驚いてから苦笑した。


「勝手に使用者の魔力を吸い取って、効果を発現させるものです。

身体強化系ですけど身につけている限り、魔力を吸い取り続けるので呪いのアイテム扱いでした」


 それだ! 気がつくと、俺はデスピナの手を取っていた。


「それですよ! それ! いけそうですよ!」


 バシッ! 後ろから頭をたたかれた。

 ミルがジト目で俺を見ていた。


「アル、人妻の手を勝手に取ってるんじゃないわよ。

デスピナさんも驚いているでしょ。

しかも私の目の前で」


 あ、しまった…思わず頭をかいてしまった。

 デスピナの目が点になっていた。


「あ、すみません…うれしくなってつい。」


 デスピナは堪えきれずに笑いだしてしまった。


「いえ、お役に立てたならうれしいです。

それに、領主さまが興奮して私の手を取ってくれた、と自慢できます」


 頼むから止めてくれ。

 絶対ロクなことが起きない。


 クリームヒルトが意味ありげな笑みを浮かべた。


「これは一夜にして町に広がりますね。

面白いものを見せてもらったお礼…ではありませんけど、マジックアイテム作製が得意なものがいます。

後日アルフレードさまのところに向かわせます」


 最悪だ…。



 そうだよ! 翌日には『人妻ハンター』って名前が増えてたよ!

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