213話 第三子騒動

 亡命希望者を捕虜に会わせると、まるで知らない人のようだったと。

 

 亡命希望者はマンドロクレイダスと名乗っていた。

 認知されていない三男なので、一般には知られていないと主張している。


 苦笑ぎみのチャールズに、俺も苦笑を返した。


「これは…亡命を受け入れるメリットはなさそうですね。」


「自称の域を出ませんからな。

どうも、好待遇を予想していたらしく文句を散々言ってましたな」


「うまいことだまして、贅沢な生活でも期待していたのですかね。

ここはリゾート地ではないのですが…ちなみに獣人に対してはどうでした?」


 チャールズの笑みが深くなった。


「高貴な身分に獣人を近寄せるのか…と。

まさに観光に来ているような感じですな」


 俺はうんざりした表情だが、キッパリした口調で口を開く。


「この御仁と関わっている人が、ストレスではげ上がる前にお引き取り願いましょうか。」


「よろしいのですかな?」


 疑問形だが、完全に同意をしている顔だった。

 俺もあきれた表情を隠せずにうなずく。


「亡命にしても、必ず受け入れる。

そんな決まりもないですし…彼を受け入れるメリットはないですね。

せめて獣人たちと対等に接することができるなら、一市民としての受け入れを考えられますが。

ここにドリエウスの理論を持ち込まれてもね…。

戦った意味がなくなりますよ」


 チャールズが肩をすくめたあと、うなずいて出て行った。


 ミルが何とも微妙な顔になった。


「有名になるのも考え物ね」


 正直勘弁してほしい。

 疲れた声が自然と出てしまう。


「有名税ですかね」


 キアラが憤慨していた。


「こっちは忙しいのに、遊び感覚で亡命されても迷惑ですわ」


「度胸があるのか、ただの短慮かは知りませんが…ま、忘れましょうか。

亡命受け入れのルールも決めないといけませんね」


 と話しているとまたチャールズが戻ってきた。

 今まで見たことがない、さじを投げたような顔だった。


「どうしましたか? 忘れ物ですか?」


 チャールズがせきばらいした。


「御主君…、ドリエウスの第3子を名乗る男が亡命を求めてきています」


 思わず吹き出してしまった。

 タチの悪いギャグかよ。

 なんとか平常心に戻してチャールズを見た。


「勿論…最初の人とは別人ですよね」


 チャールズが黙ってうなずいた。

 あまりのバカバカしさに無表情になっているようだ。


「その人は一人ですか?」


「いえ、2人ほど連れています」


「身の証しを立てるものは持っているのでしょうかね…」


「持ってはいるが、見せても判断できないと言っていますな」


 俺は真顔になった。


「最初の人よりはマシですね。

まずは捕虜に会わせますか。

あ、あと最初の第3子と対面させてみてください。

どうなるかは知りませんが…」


 チャールズもそうしようと思っていたようだ。

 即座にうなずいた。

 そして皮肉めいた笑みを浮かべた。


「では、そのようにしてみます。

どっちかが本物なら良いのですがね…」


「それ以外の可能性は…正直勘弁してほしいです。

いずれにせよ、ドリエウスの領地が揺れているのは間違いないでしょう。

そうなると内部を安定させるために、攻撃を仕掛けてくる可能性があります。

次の想定戦場は多分…あそこでしょうね」


 チャールズも真顔に戻った。


「でしょうな…季節もいい感じですなぁ。

しかし…良くもまあ新手の手段を考えつくものですな」


「相手はイデオロギー絶対ですからね…。

普通の戦争の概念で戦うと、こちらの被害ばかり増しますよ。

とはいえ…私の思い通りに動いてくれるかは何とも」


 チャールズは小さく苦笑した。


「確かに…皆殺しにするか、されるかでしょうな。

思い通りに動かないなら、どうせ動かすのでしょうな…実に人が悪い。

しかし、この手段に1枚かんでいる奥方は大丈夫なのですかな?」


 チャールズに視線を向けられたミルはため息まじりに苦笑した。


「あの人たちと関わらずに生きていけるなら、私は反対したけどね。

私たちの存在自体を対等でないと否定されてる人たちとの戦いだと…反対できないわよ。

あの手段を初めて聞いたときは驚いたけど…そんな使い方考えた人、エルフでもいないわよ」


 ミルも一蓮托生だからな…。

 この手段をとっておいて、無関係などと言ったらかえってミルを傷つけてしまう。


「これは1度きりですよ。

使いたくても二度と使えないですが」


 チャールズが遠い目をした。


「私でも最初は引っかかる自信がありますよ…。

2度目はさすがに馬鹿でもないと引っかかりませんが。

そもそも2度目があるとは思えませんがね。」


「話し合いだけで共存できると思うほど、夢を見てはいませんから。

しかし…この辺境でそんなイデオロギーと遭遇するとは思いませんでした。

先生の台詞ではありませんが、この地方の実態を私はつかみかねてますよ」


「ま、悩むのは勝ってからですな。

ドリエウスの息子が新しい首領になれば、いろいろと状況も変わってくるでしょう。

過激な方向にでしょうが…」


「そうですね。

第3子騒動が落ち着く頃には、ある程度状況は見えるかもしれません」



チャールズが嫌なことを思い出したと言わんばかりの顔になる。


「では、その騒動を片付けにいきますか…しかしですな」


「なんですか?」


チャールズが面白がる顔になった。


「第3子はあと何人くるのでしょうかな?」


 ミルとキアラがたまらずに吹き出した。

 やめてくれ…。


「打ち止めであることを祈りますよ…。

それに隠し子とか第4以降だってあり得る話です…」


 自分で言っていて嫌になってきた。

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