188話 男たちの欲望

 予想外に早く、イザボーがこちらにやって来た。

 要望をまとめてもらっていたので、イザボーに渡す。

 キアラは渋い顔をしたが、男たちの欲望には勝てずに娼館の設立も認めた。

 娼婦の健康のチェックなどはアーデルヘイトに頼んでいる。

 そのアーデルヘイトが執務室を訪ねてきた。


「容色が衰えたり、仕事を続けられなくなった女性たちのことです。

自立した生活ができるように手助けできませんか?」


 予想外の希望を出してきた。

 思わず考え込んでしまう。

 もともとアーデルヘイトも体を使う任務だったな。

 人ごとに思えないのか。


「あくまで本人の意思が最優先ですけどね。

読み書きを覚えてもらうなりして、生活の手段を見つけるように……手伝いをしますか」


 アーデルヘイトがぱっとうれしそうな顔をした。


「はい! ありがとうございます!」


「ただ娼婦の所有権はあくまで娼館にあります。

引退時に身請けするにしても予算が必要です」


 アーデルヘイトが考え込んだ。

 俺はさらに続けた。


「そのあたりを女性陣で考えてあげてくれませんか。

こちらから身請けのお金を出しても構いませんが……。

自由になってハイサヨナラされても困るのですよね」


「そうなのですか?」


「娼婦としての仕事を終えるときに……この町に定住するならいいのです。

今まで市民のために仕事をしてくれた人が定住する。

そのための手助けをする名目ですから。

職業に貴賎はありません。

需要があったのなら、市民のための仕事でしょう。

娼婦にそんなことを……と考えることは私は許容できませんね」


 アーデルヘイトがうなずいた。


「よかった……。

娼婦でも働きを認めて頂けるのですね。

市民のためになることが条件。

その人のためでなく」


「ええ、税金は市民のために使う。

それが徴集する目的ですから。

市民のために働いた人のために使ってもいいと思います」


「アルフレードさまの考えで、皆と話してみます。

たまにアルフレードさまに相談してもいいですか?」


「構いませんよ」


 アーデルヘイトがうれしそうに一礼した。


「ありがとうございます!」


 アーデルヘイトが出ていったのを見て考え込んだ。

 彼女は体を差し出す女性にしては余りに善良すぎる。

 もし有力者の女になったら、最後は不幸な目に遭うのではないだろうか。

 ここに来たのは幸運だったのかは……わからないままだ。


                  ◆◇◆◇◆


 など考えていると、チャールズが戻ってきた。


「ご苦労さま。

聞くのもやぼですが結果はどうでした?」


 チャールズがニヤリと笑った。


「当然、駆除は成功しました。

これでだいぶん落ち着くと思います」


「そうですね、定期的に間引いていけば安定するでしょう」


 生態系が正常に戻るのは数年かかるだろうが……。

 俺が黙っていたのでチャールズが続けた。


「で、主目的のパートナーさんの様子ですがね

隻眼の将軍さんはなかなかいい腕をしていますな。

騎兵の使い方は巧みでした。

槍主体で弓はほぼなかったですね」


「やはりそうですか。

騎兵以外はどうでした?」


「獣人のみで歩兵は構成されていましたね。

使い捨ての駒でしたよ」


 そうなるよね。


「歩兵の指揮は誰がしていましたか?」


「魔族の女性でしたな。

結構いい女でしたよ」


 奥地の魔族とも連携しているのか……。


「やれやれ、次は魔族ですか……。

歩兵の中に魔族はいましたか?」


 チャールズがあきれたようにいった。


「いえ、獣人のみで防具すらなくて武器のみでしたな。

ひどいものですよ」


「騎兵は当然重装備ですよね」


「ええ、馬も軽く装備はしていましたな」


 余り重装備だと機動力が落ちるからな。


「騎兵の数はどうでした?」


「500騎ほどですな。

結構な数をそろえていますなぁ。

といってもイノシシ駆除なので総力を繰り出したとも思えませんがね」


「そこはある程度本気でしょう。

6~7割は出してきていると思いますよ」


 チャールズは少し鋭くなった目で俺を見る。


「その根拠は何ですか?」


 命がかっている現場に立つのだからな。

 言葉の根拠を求めるのは当然だろう。


「われわれを危険視していますが、戦力としては騎士団の数しか見ていないでしょう。

なので力を示して、われわれを脅す意図があると思います。

圧倒的に数が勝っていれば、弱気になる人がでてくる。

内部分裂も期待できますからね」


 余計なちょっかいを出すなって警告さ。

 チャールズは納得したようにうなずいた。


「なるほど、獣人は戦力としては計算していないとお考えですか」


「獣人は獣人にぶつけますよ。

なので数でしか見ません」


 チャールズが意味ありげにウインクした。


「で、どう戦うのですか?

またとんでもない作戦を期待していますよ」


 俺は想定している作戦を説明した。

 さて、軍事のプロから見てどうか。

 チャールズが腕組みしながらいう。


「戦場の設定次第でハマりますな。

相手が気の毒といいましょうか」


「向こうも伐採を進めて平地を広げてくるでしょう。

こちらも砦の建築など準備を進めてください」


 チャールズはうなずいた。

 そしてどうしても知りたいことがあるようで身を乗り出してきた。


「で、どれくらいで喧嘩を売ってきますかね」


 大まかな計算だが……。


「今日明日ではないですが、恐らく1年以内ですよ」

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