180話 契約社員はファンタジー世界の冒険者
耳目がいったん戻ってきたので、休養のために待機させる。
発足直後の組織でつい張り切ろうとする。
そして人員も少ない。
交代や休養せずに、諜報活動をずっと続けさせるのは無理がある。
待機中に人員の増員と訓練、収集した情報の整理、運用の改善があるのか確認を指示しておいた。
別件だが代表者会議メンバー増加は議論を見守るにとどめている。
俺が完璧に沈黙を守っているので、皆も腹を決めて真剣な議論になっている。
イノシシ討伐の件は、先生が戻ってくるまで多少かかるだろう。
少しだけ落ち着いてきたかな。
俺の周囲以外は……だが。
いつもの、ミル、キアラ、アーデルヘイトとのつばぜり合い。
よく飽きないな……。
見ていると本気のつばぜり合いでない。
これもコミュニケーションの一環のようだ。
余計な口は出さないでおこう。
と思っていると扉が開いて、
「アル~、ギルドから催促が来たんだけど」
あ、忘れていた。
他の優先事項が多すぎて……重要でないギルドの支部話は頭からポーイしていた。
話が出るたびに引き伸ばしすればいいやと。
事実を口走ると絶対ロクなことがないので知っていたフリをする。
「ああ、そろそろかとは思っていました」
「本当なの?」
絡まれると
「いろいろなことがあったので、そちらを優先していたのですよ」
「まあいいわ。
それでどうしたらいいのよ」
日々の行いって大事よね。
「冒険者を受け入れること自体は可能なんですよ」
「お、マジ?」
む……実は結構突っぱねてくれていたのか。
何か悪い気がしてきたし、解決を試みるか。
「ただ……冒険者としてのスタイルを受け入れる余裕がないのですよ」
「どうして?」
「冒険者は好きな依頼を好きなときに選ぶじゃないですか。
ギルド指定の依頼もありますが」
冒険者は福利厚生なんてない。
自己責任の代わりに、依頼と時期を自由に選べる。
それでは待てないケースは、緊急代金をギルドに支払えば、ギルドから強制的な指名をしてもらえる。
あくまで緊急。
至急メールを日常的に出していては、その人の発信は馬鹿にされて本当に至急でも相手にされなくなる。
狼少年だな。
それに緊急だらけでは冒険者としてのメリットが失われる。
メリットを有名無実化されて、彼らは満足するのか。
不満を持たれるくらいなら来ないでくれた方がいい。
「うーん、確かに……。
冒険者を使うような話って、代表者に訴えて解決だもんね」
と言ってピタっと止まった。
「これって、冒険者不要な世界じゃ?」
まあ、そうなるがね。
「今は人口が少ないので行政の目が細かいところまで届きますから」
「逆じゃ?」
「今なら、問題は代表者に訴えればいいでしょう。
今のところ一人の代表者で面倒見ている人の数って最大で300人くらいでしょう」
オーバーフロー気味なので代表者を増やすように話したのもある。
「ああ、それで1000人とかだとそりゃ無理ね……」
ま、それを見越して課題を出すつもりだけどね。
「とはいえ、突っぱねてばかりでも仕方ないでしょうね」
「でも冒険者の気質に合った仕事ってないのでしょ?」
「一つ提案を、一定期間はこちらの指示を受けてもらいます。
選択と時期の自由はないですが……休暇と福利厚生は保障します」
「つまり、冒険者のデメリットを消すから、メリットも消すと。
治療とかはタダでしてくれるのと食事も出ると」
「ええ、基本的に3カ月単位で契約の更新、非更新を交渉。
ってのでどうでしょう」
転生前の契約社員だな。思い出すと世知辛い話になってしまうが ……。
「なるほどねー、それだと話をする余地があるかな。
その場合、家とか作ってあげるの?
アタシの場合はアル友だから心配していなかったけど」
アル友って何だよ……。
それに君、契約期間決まっていないけどその形態で働いているのよ。
「冒険者の支部と宿舎を立てましょう。
宿賃無料として基本的な食事は出します。
贅沢したければ金を出すって感じで」
「結構、おいしいね」
「最初に建設はしますが、メンテナンスはギルドにやってもらいます」
「分かったわ。
それでギルドと話してみるわ」
というが早いか走りだしていった。
転生してまで契約社員の話をするとか、夢が無さすぎるだろ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます