179話 閑話 童貞博士探検隊 3

 1時間程度待っていると役人が俺たちを呼びにきた。


 さっきとは別のやつだな。

 ローブで役職が決まっているのかもしれん。


「お待たせいたしました。

首領がお会いになるそうです」


 俺たちはうなずいて、役人について行く。


 多分謁見の間だろう。

 その部屋の前で俺たちは武装の点検をされる。


 なぜか真っ白い壁の前に立たされる。

 別の役人が何か詠唱していた。

 何かを検知する魔法なのだろう。

 白い壁が何か鍵なのだろうか。


 武装は一人ずつチェックされ、全員の確認が終わると謁見の間に通された。


 結構大きくて豪華な部屋だった。

 まるで国王の謁見の間みたいだ。


 左右に、衛兵と役人がずらっと40名くらい待機している。


 奥が1段上になっており、そこの椅子にふんぞり返っている男が首領なのだろう。

 俺と同い年くらいか。


 首領の近くに白いローブの人間が5人。

 2人ずつ左後ろと右後ろに、王の左に老人が立っている。


 ローブが白に近づくほど偉いように見えた。

 ここに来るまで段々と色が薄くなっていたからだ。

 老人が首領に耳打ちすると、首領がうなずく。


 灰色のローブを着た男が声を張り上げた。


「首領ドリエウスさまが、ラヴェンナの使節と謁見!」


 首領の名前はドリエウスか。


 ドリエウスが口を開いた。

 低くよく通る声でマッチョタイプか


「よく来た。

ラヴェンナの使者よ」


 坊主じゃないが、相手がわからないなら慎重にいくか。


「ラヴェンナ領主、アルフレード・デッラ・スカラよりの使節。

博士ファビオ・ヴィスコンティです」


 正式な役職も加えておくか。

 ドリエウスの目が細くなった。


「博士……とは、ラヴェンナとは教会の土地なのか?」


 教会のことは知っているか。


「公認はされていますが、教会の土地ではありません。

デッラ・スカラ家の土地であります」


 ドリエウスはさして興味がないような顔になった。


「聞いたことがないな」


 国までは興味がないのか。


「デッラ・スカラ家は王国で三大貴族の一角です」


 ドリエウスの目が再び細くなった。


「ほう、力はあるわけだな」


 変に張り合っても面倒だしな。

 坊主も面倒な役目を押し付けやがる。


「無力や形ばかりの存在ではありません」


「よかろう。

イノシシを駆除するのに、我が力に頼り切るわけではないのであれば構わぬ」


「頼り切るつもりはありません。

イノシシを駆除する力として見ていただいても問題ありません」


 ドリエウスが重々しくうなずいた。


「よかろう。

駆除については後ほど将軍と打ち合わせるがよい」


「承知いたしました」


 ドリエウスが隣の老人に目をやると、老人がうなずく。

 下に控えていた役人が、俺たちの持ってきた贈り物をドリエウスに差し出す。

 ドリエウスは贈り物を手に取って、俺をニヤリと見た。


「アルフレード殿と言ったか、そちらの誠意はよく分かった。

後ほど歓迎の宴を催す。

そこで語り合おうではないか」


 それで謁見は終わったようだ。

 ドリエウスとそれに続いて白ローブ5人が退出する。

 俺たちも退出を促される。


 その後で俺たちは宿泊用の別室に通された。

 それぞれ個室のようだ。

 派手ではないが、豪華な調度品がそろっている。

 ますます謎が深まる。


 椅子に座ると一息ついた。

 とはいえ、油断ならないところのようだ。

 気が休まらないな。


                  ◆◇◆◇◆


 その後の宴でドリエウスといろいろ話ができた。

 これは坊主と真剣に話し合わないといかんな。


 そして将軍と呼ばれる男も紹介された。


 ギュリッポスと名乗った隻眼の中年だ。

 世間話と駆除作戦についての大まかな打ち合わせを行う。

 明快な受け答え、完璧な兵士の把握。

 これまた油断ならない人物だな。

 ロッシ卿とどちらが上か、容易に判断が付かない。


 答礼の使者は後ほど送るとのことだ。

 そのためこちらの町の位置を答えておいた。


 食事は比較的質素のようだ。

 俺たちを軽く見ているのではなく、彼らの豪華な接待でこの内容らしい。


 滞在期間を問われたので、丁重に翌日辞去すると答える。

 同行していた獣人たちが気になっていたからだ。

 それと数日間ここにいたら、ボロが出そうだったのもある。

 特に気分を害したわけではないようだ。

 むしろ自分たちを恐れて、早く主君に伝えようと焦っていると思われているようだ。

 愉快そうな顔をしていたからな。


 翌日、獣人たちと合流して帰路につく。

 危害は加えられていなかったので一安心だ。

 帰路は俺と猫人が会った川までの案内が付いてきた。


 内輪の話はうかつにできないので黙ってついて行く。

 この沈黙は疲れるのだがな……。


 川に戻って俺たちは案内と別れ、帰路につく。

 皆同時に疲れた……と言わんばかりのため息をついた。

 早く帰りてぇ……。

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