167話 アルフレードとキアラの子供達?

 アデライダとの面会を終えて、執務室に帰ってきた。

 ようやく一息つける。

 次は何をすべきかを思案していると、キアラが俺の隣にやってきた。


「お兄さま、兎人さんは移住するのですか?」


 今の段階ではなぁ、俺は軽く肩をすくめた。


「どうでしょうね、まだ何とも言えませんが……」


「お兄さまはどちらが望ましいのですか?」


 どちらに転んでも、問題はないと思う。

 陰謀を巡らせるタイプにも見えない。

 とても無害な感じがする。

 俺がだまされていたらお手上げだが。


「別に戻っても、われわれに敵対することはないし、どちらでも構わないですよ」


 ミルが俺の気前の良さを、疑問に思ったようだ。


「でも、それだと私たちの損じゃないの?」


 確かに、損得だけを考えるのならね。


「短期的にはそうですね。

最低条件はクリアしているから……別にいいかなと」


 ミルは俺が、口にした最低条件を知りたがった。


「最低条件って敵対しないこと?」


「ええ、欲を言えば好意的中立ですけどね。

こちらが移住すると思い込んでいて、あとで認識が違うと問題が起こるでしょう」


 ミルが問題について考え込んでしまった。

 それを見たキアラが、フンスと胸を張る。


「他の部族への影響ですわね」


 この2人、結構張り合っている。

 それで考えることが、習慣になった。

 まあ……いがみ合っていないからいいか。

 2人のコミュニケーションみたいなものだろう。


「ご名答。

この地方の全てを、自分の領地にする必要はないですからね。

われわれに敵対しなければいいのですよ。

しかし強引に、攻撃を仕掛けたり、弱みに付け込んで無理に移住させようとすると……」


 ミルが張り合ってか、強く頷く。


「警戒されて……最悪敵対されるってことね」


 キアラは、少しムッとした顔になる。

 落ち着け……しかし、最近は妙に張り合うな……。

 膝枕の1件のせいか?


「あとは魔族が、どう出るかわからないのです。

なので疑念を招く行為は控えるべきでしょうね」


 ミルが納得したようだ、そして現状は慌ただしいことも理解している。


「そうね。

今は急に人が増えているから、落ち着く時間が欲しいわね」


 俺の近くで全体を見る機会が多いから、視野が広がってきたようだ。

 実に頼もしい。

 ついうれしくなって、笑顔でうなずく。


「そう、よく理解してくれているね」


 キアラが、さらに頰を膨らませる。


 そこに、オラシオが入ってきた


「ご領主、移住してきた猫人の代表から、頼みがあるそうだ」


 大事な話か……。


「オラシオ殿の権限で処理できないもの……と」


「ああ、何かご領主のために働きたいと」


「わかりました。

ここに通してください」


 オラシオが出て言ったところで、俺は腕組みをして考え込んだ。

 キアラが、膨れっ面から思案顔になった。


「何を考えているのですか?」


「うーん、猫人は、一体何が得意なのかなと……」


「本人に聞けば済む話ではありません?」


 本人直接聞く。 

 それで済むほど話は簡単ではない。


「自己申告と実態が同一ではありませんよ。

それと……」


「それと?」


「既に彼らは市民ですが、ここに来た経緯があります。

胸を張って、市民とは言いにくいでしょう。

それこそ早く功績を立てたい、そう思っていても不思議ではありません。

そのために危険な任務を引き受けて、貢献をアピールしたいとなりかねません。

結果として無駄に、犠牲を出すのは避けたいのです」


 キアラは思案顔から普通の顔に戻ったが、頰は少し膨れたままだった。 

 少し御機嫌な斜めか。


「では、どうするつもりですか?」


 俺は、肩をすくめた。


「話を聞いてみないことには何とも」


 オラシオが一人の猫人の男性を連れて来て紹介した。


「猫人の代表のアダルベルト・ルニェニチュカ殿です」


 茶色の髪に緑の目、やや褐色かがった肌で小柄。

 動作はしなやか。

 まあ、体の硬い猫なんてそうはおらんだろう。

 猫人の男性は一礼した。


「お目通りをお許しいただき、ありがとうございます」


 さて……どんなものかな。


「何か働きたいとのことですが……。

あなたたちの得意とするものは何でしょうか」


 アダルベルトがビシっと、背を伸ばして答えた。

 やはり、早く手柄が欲しいのだろうな。


「何でも……と言いたいところですが。

御領主には具体的に答えるように、そう言われております。

野良猫を使い魔とした情報収集。

あとは音を立てずに、建物を移動できます」


 アダルベルトは道中で、想定問答を用意していたのだろう。

 スラスラと答えたな。

 種族的長所を、明確に答えてきたか。

 想定問答を事前に考えたか。

 それだけでも最低限はクリアしているな。

 あとは、彼らを信じられるか否か。


「なるほど、その情報収集を、あなたたちの故郷に対して行えと言ったら?」


 当然、想定するだろう。

 むしろ、してもらわないと困る。


 アダルベルトが静かに、俺を見つめていた。

 しばらくして、口を開く。


「御命令とあれば、ここに迎え入れられた経緯があります。

われわれは相応の態度を示さないといけません」


 模範的だな。

 本心はともかく……。

 即答だとかえって疑念を招くことを知っているようだ。

 頭は悪くないな。

 と言っても、俺自身そんな大したものではない。

 誰も考えていないところを突き進んでいるから、すごく見えているだけだ……。


 もう少し聞いてみるべきだな。

 さて、次の反応を探るか。


「私が情報を重視していることは御存じですよね。

それを任せるとは、われわれの命運を委ねる。

そこは理解していますか?」


「その情報は、われわれのみから得なければ……と思います」


 前にきた使者スザナよりずっと優秀だな。

 一つ任せてみるか。

 欲しい組織であるし、疑ってばかりでは何もできない。


「キアラ、一つお願いがあります」


 キアラは唐突に、話を振られて驚いたようだ。


「前置きは要りませんわ。

お兄さまの頼みであれば、どんなことでも聞きますので」


「彼を預けます。

他の種族からも、適正のある者たちを集めて、私の直属になる諜報部隊を作成してください。

そこの統括を任せたいのです」


 キアラは、少し不安そうになった。


「は……はい。喜んでやりますわ……。

でも、しっかりやれるでしょうか……」


 俺たちの命運をいきなり委ねる、そう言われて不安になったようだ。

 にっこり笑って安心させる。


「キアラにしか頼めないのですよ。

私はいろいろやることが多くて、手が回らないので」


 ばっと立ち上がって張り切りだした。


「わかりましたわむ! やり遂げて見せますわ! あ……組織名はどうしましょう」


 ん? ああ必要か


「キアラに任せますよ」


 キアラは笑顔になる。


「では、『アルフレードとキアラの子供たち』で」


 おいぃぃぃぃぃぃぃ!

 ミルは顔を真っ赤にして立ち上がる。


「ちょ、ちょっと! まぎらわしい名前をつけないでよ! 反対よ! 反対!」


 その名前は駄目だって……。

 諜報機関が余り格好をつけても仕方ない。

 俺は大きくため息をついた。


「仕方ない……。

ラヴェンナの耳目でお願いします」


 余り、名前が属人的になると、後々が厄介だ。

 できれば町に対しての忠誠が望ましい。


 キアラは一瞬膨れっ面になったが、すぐほほ笑んだ。


「仕方ありませんわ、ではそのようにします」


 アダルベルトはさすがにあきれた表情をしていた。

 そりゃあね……。

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