165話 毎日よ! エブリデイ!
疫病の対策がようやく終息した。
最後の重篤者は残念ながら亡くなった。
猫人が204名、完治120名、死亡84名。
治療従事市民 死亡1名。
完治者全員が移住を希望したので、従来の方針通り受け入れることになる。
あと1週間、陣営地での経過観察をする。
無事であれば、全員町に入って良いと通達した。
懲りずにアーデルヘイトの父が来たが、俺に一睨みされると逃げていった。
そこまで親馬鹿なのに……。
どうして見ず知らずの男に、娘を差し出すんだよ。
疑問に思った。
◆◇◆◇◆
久々に顔を合わせた
権力者の女になれば、裕福な生活が保証される……だそうだ。
つまり不吉な予感しかしない。
ひとしきり笑った後に
「アル! アンタに頼みがあるのよ!」
断言してもいい。
絶対ろくなことじゃない。
「何ですか?」
「デルのことよ! 最近惚気話だけじゃなくてさ。
不安だって愚痴り始めて大変なのよ!」
不安? 何かそんな要素があったかな?
「メルキオルリ卿は絶対に、浮気や彼女を捨てるなんてしないでしょう」
「ちっがぁぁぁぁう!
疫病で人が簡単に死ぬのを見てさ
『ロベルトが突然死んだら、私生きていけない』
とか言って泣きだすのよ!!!」
あー、そっちかぁ。
そっちは盲点だった……。
「それは……それは……」
「惚気と不安、コンボよコンボ!
惚気たと思ったら、不安がって泣きだすし、と思ったら惚気だすし!!!
どうしろってのよ!!!!!」
「お、落ち着いてください……」
「毎日よ! エブリデイ!
アンタにこの地獄が分かる?????」
「それで、私にどうしろと……」
「領主命令でさっさと結婚させて!!!!!」
「いえ、結婚は命令されてするものでは……」
「い・い・か・ら・な・ん・と・か・し・て・!」
「話だけはしてみましょう……」
「頼んだわよ! さっさと解決しないと、毎日ここに来るからね!!!」
勘弁してくれ……。
あれか、昔日本であった強訴ってやつか。
ミルは必死に笑いを堪えていた。
キアラは珍しく呆然としていた。
「キアラ。
メルキオルリ卿とデルフィーヌさんを呼んでください……」
「は……はい……。
分かりましたわ」
ミルの笑いがようやく収まったらしい。
涙目になっていた。
「ヴァーナがあんなになるなんて。
想像したらおかしくって。
人にはあれだけ食いついてたのにねぇ」
そういえば巡礼の旅で散々食いつかれて、酷い目にあってたな。
俺は遠い目をした。
「やるのはいいけど、やられたらたまらない。
人の業ですね」
ミルがようやく落ち着いたようだ。
「あと一カ月くらい放置してもいいけど、その前にアルがヴァーナに殺されたら嫌だからね。
何とかしましょ」
◆◇◆◇◆
ロベルトとデルフィーヌが、チラチラお互いを見ながら執務室に入ってきた。
ロベルトが俺に一礼したが、表情は怪訝そのもの。
「ご主君、一体何事でしょうか。
何やら髪が乱れているようですが」
「ちょっとした自然災害にあっただけです。
それより、デルフィーヌさんとの交際は順調ですか?」
ロベルトは俺の質問の意図がまるで分からないようだ。
「え、ええ……。
最近は忙しいですが、2人で会う時間は欠かさないようにしています」
俺はデルフィーヌを見る。
デルフィーヌは何となく察したらしい。
「は……はい。
ロベルトはちゃんと私に会いに来てくれてます。
確かに会える時間が減りましたけど、今が大変な時期ですので……」
奥手の2人だから強引にいかないと駄目だな。
俺は2人に言う。
「メルキオルリ卿、デルフィーヌさんが不安で日々泣いている。
そのことは御存じですか?」
ロベルトが驚く。
まさに驚天動地といった顔。
「えええっ! デル、そ、そうなのか?」
デルフィーヌが慌てて否定する。
「い、いえ、そんなことはないわ……」
話を進めないと強訴が続けられる……。
それだけは避けたい。
「疫病で簡単に人が死ぬ。
そんな時期だからこそです。
メルキオルリ卿が突然死んでしまうのでないか、そう不安になっているのですよ」
ロベルトが硬直する。
「い、いえ……。
私はデルを置いて死ぬなど……」
突然暴露されてデルフィーヌがオロオロしだす。
「あ、いえ、あの……」
俺は重々しく告げる。
「そこで提案です。
近いうち、そうですね……2週間後にでも結婚してはどうですか?」
ロベルトがさらに驚く。
「したいのは山々ですが……。
今は非常事態ではありませんか」
まあ、結果的に見ればいい機会かな。
「平時への切り替わりの象徴として、お二人の結婚式が相応しいかと。
暗い話から、目出度い話になるのです。
結構なことではありませんか。
それとデルフィーヌさんは一刻も早く結婚を望んでいる。
そう見えます。
違いますか?」
デルフィーヌが顔を真っ赤にして、モジモジしだした。
だがロベルトを見る目は狩人のそれだった。
「あ、はい。
私はもう若くはないので……。
日がたつにつれてロベルトに申し訳ない気がして……」
16とか17で結婚する世界だしなぁ……。
ロベルトが目に見えて取り乱す
「いや、申し訳ないなんて有り得ない!
だが、いい時期を探していてなかなか……」
こりゃ完璧なタイミングを狙いすぎて、失敗するタイプだ。
「では、お互い結婚には異存はないのですね」
2人はうなずいた。
「では……正式な収束宣言とともに、お二人の結婚式をあげましょう。
い・い・で・す・ね?」
俺に気押されたのか、2人はうなずいた。
「用件はそれだけです。
メルキオルリ卿はロッシ卿に報告を。
あとはお二人で結婚の準備をしてください」
最後まで2人はオモチャのようにうなずいた。
「さ、ことは一刻を争います。
急いでください」
慌ただしく2人は出て言った。
俺は何でこんなことまでしないといけないんだ……。
◆◇◆◇◆
翌日、また
「アルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
「今度は何ですか……」
しまいにゃ塩まくぞ!
「結婚式のプランを延々相談されるのよ! 助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
知らんがな。
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