157話 効果的な爆弾投下

 会議を終えてミルと部屋に戻るまで、俺は無言だった。

 当然と言わんばかりにキアラも部屋に入ってきた。

 俺はベッドにどさっと座った。

 疲労感がすごい。


「あー、すまん……。

格好悪い所を見せた」


 感情の激発なんて、下手をうってしまった。

 やっぱり、俺はまだまだ甘いらしい。

 俺の左右にそっとミルとキアラが座った。


 ミルは静かに首を横に振った。


「全然悪くないよ。

むしろ……かなり我慢したんでしょ」


 キアラも静かにうなずいた。


「ええ、お兄さまとても辛そうでした」


 力なく笑う。


「本当に2人がいてくれて良かったよ。

1人だったらとっくに駄目になってた」


 2人は黙って、俺の左右の手を握った。

 キアラは俺を労るような、心配そうな表情している。


「お兄さまのうった手で、被害は抑えられますの?」


 皮肉な笑いが出てしまった。


「ちゃんと守ってくれれば……な」


 ミルが怪訝な顔になる。

 あれだけ俺が強く言って守らない。

 そんなことは信じられない、そんな表情だった。


「守らないの?」


「彼らは守るさ、でも参加した人全てがそうとは言わない」


 今一理解できていないようだ。

 ミルが首をかしげる。


「でも、参加する人にも守るように言うでしょ」


「ああ、でもはできないさ」


 ミルがしばし考え込んだ。


「どこかで守らなくなる……と」


 キアラもお手上げといった表情になる。


「確かに、毎日順調に続けていけばつい……ってやつですね。

お兄さまの手順って面倒でしょうし」


 流石によく分かってるな。


「そう。

面倒になってさ、多分大丈夫だろう。

今まで大丈夫だったから。

でも、死神はそんな隙に入り込むのさ」


 ミルが俺の唐突な発言の意図が読めなかったようだ。


「死神?」


「そう、死神は生きている人をいつも遠巻きに見ている。

そして、隙を見せたり不注意に寄ってきた人を刈り取る。

普段は遠い所にいる、でも今は少し手を伸ばせば届く所に佇んでいるのさ。

でも皆はそれに気が付いてない」


 キアラが苦笑した。


「だからこそ、お兄さまは徹底的な対策を指示したのですわね。

一見冷たいように見えても、それが皆を守る道でしたのにね」


 俺は自然と苦虫をかみつぶしたような顔になる。


「あの極悪婆がぶち壊した。

孫のような娘のためなのだろうが。

最後の説得も、お前が問題を起こしたのだろうと……正直腹が立った」


 キアラが怖い笑顔になる。


「ある日、そのまま起きないかもしれませんね」


 流石にそれはマズい。

 俺は強く否定する。


「それは絶対に駄目だ。

極悪婆は今後のために酷使する」


 キアラが肩をすくめる。


「あら、残念」


 キアラは俺のためなら、なんの躊躇いもなく殺るだろう。

 ブレーキを掛けないといかん。

 俺の疲れたような顔に、ミルは心配そうだ。


「被害が出ないように警告を続ける?」


 話はそう簡単ではない。


「いや、何度も言うとかえって駄目だ。

『また言ってる』と言って聞かなくなる。

だから待つしかないのさ、その失敗を」


 ミルがものすごく不機嫌な顔になる。


「どうしようもないのが腹立つわね……。

そのあとアルはすごく辛くなるの分かってるし」


 2人と話していると大分落ち着いてきた。

 ほんと2人には助けられっぱなしだ。

 やっとの思いで苦笑する。


「だからさ……やりたくなかったのさ」


 キアラも俺に合わせるように苦笑した。


「でも、あそこまでやる気を出されると……。

もう手の施しようがないですわ」


 ああ、治療の話と勘違いさせたか。

 俺は笑って肩をすくめた。


「そのことじゃないさ。

俺が前々からやりたくなかったと言ってたことだよ。

因果応報ってやつだ」


 ミルが思案顔になって、はっと気が付いた。


「イノシシの大量繁殖?」


 大変、よくできました。


「そう、疫病の蔓延までは予想していた。

だからやりたくなかったんだ。

そもそも俺が選択した結果、巻き起こった火事だよ。

そして極悪婆にも腹は立つが……。

油を足しただけだからな」


 実際は油よりニトログリセリンだが…この世界にはないからな。

 最近癖になっているため息をつく。


「そのあとでちょっとだけ水を掛けた。

やっぱり腹立つけど……そこまで責められない」


 キアラが突如話題を変えた。


「お兄さまを慰めるために、今日は3人一緒に寝ません?」


 は? 何言いだすのこの子。


「おい……」


 ミルは驚く。


「キアラちょっと何を言ってるの!」


「たまには良いじゃないですの。

ただ寝るだけですし。

お姉さまの領分には入りませんよ」


 ミルはジト目になって、キアラを睨む。


「いや、キアラなし崩し的に何か狙ってない?」


「心配し過ぎですわ。

小さい頃はよくお兄さまのベッドに潜り込んでいましたの」


「小さいときと今は違うでしょ!」


 キアラは小悪魔のような微笑を浮かべた


「ああ。

でもお兄さまから求められたら……喜んで捧げますわ。

それはもう……奪ってくださいとお願いしたいくらいですわ。

子供、素敵ですわね……」


 おい待て、さらっとレッドラインを踏み越えてくるんじゃねぇ!

 ミルの顔が真っ赤になった。


「ちょっと、嬉しそうに危険なこと言わないでよ!」


 それがどうした、と言わんばかりに平然としているキアラ。


「ただの独り言ですわ。

それにベッドには1年ほど前にも一度潜り込みましたし。

あれは夢のような一時でしたわ」


 なんで効果的に爆弾投下してくる!!!!!

 ミルのジト目が痛い。


「ア~ル~。

詳しく説明してくれるかしら?」


 キアラは善意で雰囲気を変えようとしている。

 いや、善意だよな、本当に善意だよな?

 何か自信が無くなってきた。

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